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COP26で露呈「脱炭素=カネ儲け」の構図。合意する海運業界、決裂する自動車業界…各国の思惑は?=江守哲

英国開催のCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が閉幕したが、各国が本当に環境のことを考えているかどうかはかなり疑わしい。温暖化防止・脱炭素という目的はあくまで政治的なきれいごとであり、その裏にお金とビジネスが付いていることがはっきりとした。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2021年11月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

「COP26」はビジネス

英グラスゴーで「COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)」が開催された。様々な報道がなされているが、所詮は政治のイベントである。

政治で世界の仕組みを変えようとしているように見えるが、その裏にはビジネスがついている。これで儲かる企業と、そうでない企業が出てくる。

政治家に資金が回っているかどうかは、このイベントに関わる企業を見ていればわかるだろう。

誰がどのような意図で、この世界の仕組みを変えようとしているのかをよく考えるべきである。本当に脱炭素が目的なのかどうか。

この流れに関しては、明らかにお金のにおいがする。政治に絡むイベントで、きれいごとで終わるようなことはない。所詮はお金である。

自分の懐が膨らむのであれば、企業の働きかけに積極的に動くだろう。そうでなければ催促するか、無視するかだけの話である。

所詮、人はお金でしか動かない。政治はボランティアではない。立派なビジネスである。しかし、日本のように賢い人が政治家にならない国になると、現状のような停滞を生むことになる。困ったものである。

それはともかく、今回のCOP26も同様である。世界の枠組みが大きく転換させられそうになっている。

本当にそれでよいのか、これを機会に個々で真剣に考えるべきであろう。

仲間外れにされる習近平。温室効果ガス“ゼロ”目標で中国混乱

今回のCOP26では、中国・習近平国家主席はビデオ演説をする機会は与えられず、代わりに書面でメッセージを寄せることになった。習主席はCOP26に対面での出席を見送ったが、とんだ赤っ恥である。

英政府の報道官によると、英国は対面での参加を求めているためオンラインでの参加はできず、対面参加でない場合は録音や声明の発表のみに限定した。しかし、それもかなわず、習近平氏の国際社会における存在感の低下は著しい。

そもそも、いまの中国経済の悪化は、習近平氏が対外的に良い顔をして、他国の関心を引き留めるため、温室効果ガスの排出削減で野心的な目標を掲げたことが背景にある。天然ガス・石炭価格の高騰なども様々な要因で起きている。

すべてに中国が絡んでいるのだが、これまでのように「炭素集約型」の事業を行う国有企業にとっては、温室効果ガスの削減に向けた取り組みが重石となっている。

中国政府の政策意図があいまいであり、その他の制約も存在している。習近平氏が掲げる高い目標の達成には相当なコストと時間がかかりそうである。

習近平氏は昨年9月、温室効果ガス排出量を2060年までに実質ゼロにすると表明した。これが中国国内を混乱に陥れたのである。

中国の環境団体「公衆環境中心(IPE)」は鉄鋼や石油化学など、年間の排出量が10億トンを超える各部門の国有企業58社を調査したという。

代表の馬軍氏によると、ほとんどの場合は同じ部門の民間企業より対策が進んでいたが、一部では遅れていたという。鉄鋼部門などでは、エネルギー効率の指標で世界の競合他社に後れを取っていたとされる。

調査対象の58社のうち、91%は気候や排出量に関するデータを公表した。半数以上は排出削減に取り組んでいるものの、これまでに目標を発表したのはわずか16%である。これでは話にならない。

中国の国有企業は、エネルギーや原材料供給の確保のほか、雇用や社会の安定などの「社会的責任」を果たす必要にも迫られている。これもまた難しい。「企業利益」と「国益」は両立しないのである。

Next: ついに気候変動対策で米中協力?利害は一致するのか



石炭依存から抜け出せぬ中国

また、柔軟性のない電力市場や価格システムに起因する中国の構造的な石炭依存によって、企業の再生可能エネルギー調達も難しくなっているという。

地方政府は雇用や経済的な利益の確保を求めており、多くの企業が電力を石炭火力発電所から購入するしかない。馬氏は「再生可能エネルギーを本当に機能させたいのであれば、より多くの支援が必要であり、さらに電力システム全体を変える必要がある」としている。

これまでは国がすべて負担しておけばよかったのだが、それを徐々に民間に卸していった。しかし、構造上の問題が中国には存在する。それが露呈したのが今回の脱炭素の問題なのである。

中国政府は、これらの状況が国民に悪影響を与える事態になるのを異常なまでに恐れている。そのため、需要急増に備えて生活必需品の備蓄を家庭で確保しておくよう促すなど、あらかじめ冬に向けた十分な食料供給確保を勧めている。

また、地方当局にも供給確保や価格安定に向けた対応を求めている。保管できる野菜の購入など準備を行うとともに、円滑で効率的な流通を確実にするため緊急輸送網の強化も検討すべきとしている。

中国では異例の大雨で野菜の価格が高騰しており、中国政府は調達が困難になる事態を避けるべきとのスタンスである。それだけ事態は悪化しているということである。

気候変動対策で米中協力?利害は一致するのか

そんな中国の内政だが、一方で驚くべき報道が飛び込んできた。

米中両政府が10日、COP26で、2020年代に気候変動対策で協力関係を強化する共同宣言を発表したのである。

これまで外交的に対立を深めてきた両国の共同宣言は異例といえる。米中は温室効果ガスの世界1位・2位の排出国であり、大詰めを迎えたCOP26の議論で進展機運が高まるとの期待が膨らんだ。

共同宣言では「米中は壊滅的な影響を回避するため、重要な10年間にそれぞれの行動を加速させるとともに、多国間プロセスの協力を通じ、この危機に取り組むと約束する」と表明した。これだけでも驚きである。

さらに、温暖化対策の国際合意「パリ協定」に関して、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える協定の目標に言及し、達成のために30年時点の温室ガス削減目標や、より長期の目標を引き上げる可能性も示唆したのである。

具体的には、再生可能エネルギーの普及や電力部門の脱炭素化、米国が主導する温室ガスの一種であるメタンの排出削減などで協力するという。

さらに共同で作業部会を設置して定期的に会合を開き、今後10年間の具体的な行動に関して意見交換することでも一致したという。これはかなり画期的な内容である。

米中に政治的な結びつきを期待するのは難しいが、こと経済面では可能である。そのあたりまでにらんでの合意であろう。

中国の解振華・気候変動特使は「米中が協力して重要な成果を挙げられれば、両国だけでなく、世界全体にも良い影響をもたらす」としている。なかなか柔軟な発想である。

一方、ケリー米大統領特使も「米中は相違点に事欠かないが、気候変動対策では協力こそが唯一の道だ」としている。米国も気候問題に関しては柔軟である。

とはいえ、今回の共同声明には具体策が書かれていない。したがって、今後の両国の取り組みから目が離せない。

Next: 脱炭素化の進捗は業界次第。自動車の完全EV化は先送りに



海運業界の脱炭素化が加速

一方、日米英を含む19カ国は10日、COP26で二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション」の海上航路の開設で合意した。海運業界の世界的な脱炭素化加速が狙いである。

2025年までに少なくとも6つの排出量ゼロ航路を開設する。そのためにはゼロエミッション燃料の供給や脱炭素化に必要なインフラ、規制の枠組みなどの開発が必要となる。

合意したのは日米英に加え、豪州、ベルギー、カナダ、チリ、コスタリカ、デンマーク、フィジー、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド共和国、マーシャル諸島、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデンである。

この合意のビジネスへの影響も考えておく必要がある。海上航路に関してだが、海運業界の世界的な脱炭素化加速はコストを生み出すだろう。海運業界とどのような話をしていたのか、このあたりを調べてみたいところではある。

日米中独は完全EV化に消極的

一方、COP26では、2040年までにガソリン車の新車販売を停止し、全てをゼロエミッション(排出ゼロ)車とする宣言が行われたが、これに日本や米国、ドイツや中国などの主要国は参加しなかった。合意したのは二十数カ国のみである。

電気自動車(EV)への急速な移行を掲げた議長国・英国の思惑は大きく外れたことになる。

宣言は、先進国は35年までに、途上国も40年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売をやめ、すべて排出ゼロ車にするというものである。

しかし、英政府が10日発表したリストには、世界2大市場の米中に加え、国内に大手自動車メーカーを抱える日本やドイツ、フランス、韓国などの名前もなかった。

自動車産業を基幹産業としている国にとっては、このようなドラスティックな変化は望まなかったということである。

英国「自動車産業の再興」の思惑は外れた

英国は、1950年代に米国に次ぐ自動車生産台数を誇っていたが、その後は競争力を失った。

EVで先行者利益を確保し、ガソリン車廃止の旗を振ることで、自動車産業の再興を目指していたが、出鼻をくじかれたことになる。

Next: 環境問題は「ビジネス目線」で見る必要



環境問題は「ビジネス目線」で見る必要

ジョンソン英首相は「最初に行動を起こし、大胆な取り組みを行うことで決定的な競争力を築く」と強調した。また、日産自動車やフォード・モーターの英工場に多額の補助金を投じ、EV生産を後押ししていた。

しかし、動きが急すぎたといえる。ただし、EV普及のため、充電インフラの整備や車体価格の引き下げなどを目指す取り組みには、日米独などは参加を表明している。

また、航空機の温室効果ガス排出量を削減する宣言には、日本は米英仏などと共に署名した。炭素を排出しない航空燃料の開発・導入を目指す方針であり、これは、船舶など海運の脱炭素化を目指す取り組みと同じ文脈といえる。

このように、脱炭素・温室効果ガスの削減は、結局のところ、ビジネスと結びつくのである。したがって、今後もCOP26は、ビジネス目線で見ていくことが肝要である。

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江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2021年11月12日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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