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日産「アフターゴーンの大改革」に成功、3つの後遺症をどう克服した?販売台数減も株価上昇が期待できる理由=栫井駿介

日産自動車11月9日発表の2021年度第2四半期決算では、今年度の販売台数を当初見通しよりも14%も下方修正しています。同社の経営は大丈夫なのでしょうか?結論から言うと、中期的には明るい未来が想像できるのではないかと考えています。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

販売台数は減少も、営業利益はアップ

まず、2021年度の販売台数見通しですが、昨年度はコロナショックもあり販売台数は405万台でしたが、これが7月にはそれを上回る440万台販売できるということでした。

ところが、今回の決算発表で示された見通しでは380万台と、当初の予想から14%も減少して、なおかつコロナ禍であった2020年度をも下回るという数字になっているのです。

その原因は半導体不足と言われています。

コロナ禍で半導体の生産が滞ってしまったというのと、需要側ではテレワークとか様々なIT機器の需要が増加したおかげで、半導体の生産が追い付かなくなってしまいました。

これによって自動車各社が減産を余儀なくされているという状況になっています。

日産も生産が間に合わないという状況になっているわけです。

したがって、今期の業績は厳しいものになるのではないかと全体的には思われていたのですが、蓋を開けてみると、今年度業績の見通しでは、営業利益に関しては当初1,500億円の利益と想定していたのですが、これが1,800億円に上方修正を行っているのです。

さらに当期純利益に関しても当初600億円の予想だったものが、1,800億円と3倍もの数字を出しているのです。

「アフターゴーン」の改革は成功か

販売台数は減っているのに、利益はこれだけ伸びるのはどういうことだろう?という疑問が湧きます。

この詳細についてさらに深掘りしていきますが、その前に、日産自動車がどういう状況になっていたのかということについて、まずは振り返ってみたいと思います。

これが過去5年間の株価推移です。

記憶に新しいところではカルロス・ゴーン社長が2018年の11月に有価証券報告書の虚偽記載の容疑をかけられて逮捕されてしまいました。

その後、日産で行ってきた経営というのが、実は必ずしも芳しくなかったというところがあります。

業績を見ると、これは純損益のグラフですが、ゴーン氏がいた時は見かけ上は利益を保っていたのですが、彼が退くやいなや、業績はみるみる下降をたどり、2019年度には6,700億円もの最終赤字、そして2020年はコロナ禍もありましたから、4,400億円もの最終赤字を計上しています。

この様子から見るに、日産はその前からあまり評判が良くなかったのですが、ゴーン氏が行なっていた経営の反動が出ているという状況になっています。これについては過去に別の記事で解説しています。

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要点としては、日産の課題としては3つありました。

Next: ゴーン体制に3つの後遺症。ブランド価値を落とした「新車の値下げ」



後遺症その1:ブランド価値を落とした「新車の値下げ」

1つは、ゴーン氏の過大な目標の反動です。

当時の目標というと、とにかくたくさん台数を売って売上をどんどん伸ばしていこうという戦略をとっていました。

しかしながら、このゴーン氏のやり方というのは、とにかく目先の収益目先の売り上げを追うものでしたから、高い目標を掲げたら、厳しいゴーン氏なので、部下の人たちはそれを達成するために何とかやっていかなければなりません。そうなった時にとりうる手法としては、ひとつ販売奨励金があり、ディーラーに売れたらいくら払いますよというような形で、この販売奨励金を積み増したのです。

販売奨励金は最終的には自動車の販売価格において値下げの原資となりますから、販売奨励金を積み増せば積み増すほど、新車が値下げして売られるということになります。

これを繰り返した結果、日産はすごく値引きすることになってしまって、ブランド価値の低下をもたらしてしまったのです。

また同時に、特にアメリカ市場ではフリート販売といって、レンタカー屋さんに大量に自動車を卸すというようなことをやっていました。

日産もレンタカー屋さんに大量に車を卸して、販売台数の目標を達成したということになっていたのですが、これも当然たくさん出したものは、すぐに中古車市場に流れてしまうというような状況があったのです。

これもまたブランド価値の低下を招いてしまったというです。

後遺症その2:検査体制の不備

2つ目に、社内体制の問題が挙げられます。

検査体制などが不十分で、国土交通省から指摘されるまで不備を放置していました。やはりこれも、ゴーン経営の無理が祟ったということがありました。

後遺症その3:人気車種がない

そして、この3つ目が一番重要な問題で、「売れる車が無い」ということがありました。

人気車種ランキングを見ても、上位に日産の車が来るということは、実はもうほとんどなくなっていたのです。ホンダとトヨタがメインを占めるという状況だったわけです。

これはブランド価値の低下ともリンクしていますし、とにかく台数を売るということばかりに集中していましたから、いい車を作るんだという自動車会社における根本が失われてしまっていたという部分があります。

増益をもたらした「アフターゴーン大改革」

そうして日産はゴーン氏が去ったあと、大改革を行っていたわけです。それが、今回の増益要因と非常に密接にリンクしているのです。

大きな要因として、1つは円安ということがありましたし、純利益という部分に関しては、日産がルノーとともに持っていたダイムラー社の株式を売却したことによる特別利益という部分があったことも確かにあります。

しかし、純利益だけではなく営業利益もある程度伸びているというのは、評価していい、今後も継続性のあるものと考えています。

Next: 新型車が好調。「量から質」への転換で利益率が向上した



新型車が好調。「量から質」への転換で利益率が向上した

なぜかというと、先ほど売れる車がないのが日産の最大の問題だと言いましたけれども、ゴーン氏がいなくなってから、再び良い車を作るということに磨きをかけていまして、2021年度には新型車が比較的好調な推移を遂げているわけです。

各セグメントにおいて、シェアをかなり盛り返してきているというところがあります。

しかも、高くても買ってもらえる良い車を作る方にシフトしていて、これによって利益率の向上が起こるわけです。「量から質へ」ということです。

これも決算説明資料の中にあるものですが、台当たり売上高、つまり1台がどれだけの値段で売れているかということなのですが、これが2021年度今四半期に関しては11%上昇、新車が出回らないという環境要因もあったかもしれませんが、これまで安かろう悪かろうだった日産の車を、高くても買いたいものとしました。かっこよくて高級感のある車を売ってるのではないかと思います。

これでプライシングパワーが11%上昇しましたし、また生産の部分に関してもコスト削減努力を地道に行っていて、これが15%改善したことで、損益分岐点の販売台数が15%改善し、日産のゴーン氏なき後の改革というのは、着実に進んでいると見ていただいていいのではないかと思います。

さらにこの2021年というと、社運を賭けた新型アリアを投入する予定となっています。

これは確かに1つ懸念としては、半導体不足によって生産自体が追いついていなくて、欲しい人に届いていないという状況が続いているわけですけれども、車を買いたい人は待ってでも買うという状況にもなっています。

新しい日産のビジョン「車1台の価値をいかに高めるか」

今回の日産の決算説明会はYouTubeで見ることができます。

アシュワニ・グプタCEOが力を込めて言っていたことは、日産のこれからの経営はバリュー、つまり価値にフォーカスする、車1台の価値をいかに高めるかというのが、これからの日産のビジョンだと言っています。

さらに足元の状況に関していえば、ゴーン氏の時はどう販売するか、値下げをしてでも顧客にねじ込んで、あるいはレンタカー屋さんに買ってもらうなど、いかに販売するかというのが目標だったのですが、今はそういう状況になく、あくまで客が欲しい車を売る、生産がなかなか追いつかなくて迷惑をかけている状況ですけれども、しかしそれは供給側の問題であって事業側にはしっかりとしたものがあるというふうなことを、自信を持ってプレゼンしていました。

ここから日産の自信がうかがえるのではないかと思います。

Next: 株価はピークの3分の1。日産自動車の株は買いか?



株価はピークの3分の1。日産自動車の株は買いか?

さて株価ですが、ピークから一時はおよそ3分の1ぐらいに下がって、今でもおよそ3分の1ぐらいです。けれども、見れば分かる通り、日産の株価もおよそこの業績に従って動いているというところがあります。

今期は純利益2,800億円の予想となっています。特別利益も含んでいるので、一概に正しいとは言えませんが、今後はさらに利益率の改善なども見込んでいます。

そして、2021年には完全電気自動車の新型アリアの販売が予定されています。今は半導体不足で車を売ることができていませんけれども、これが売れるようになった暁には、少なくとも中期的には明るい未来が想像できるのではないかと考えています。

もっとも、自動車業界ではEV化や自動運転化と、競争が激しくなっていますから、それに関してはどこが勝ち抜くかは未知数ですが、少なくとも日産は今やるべきことをやっているのではないかというのが、私の今の見立てです。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:JuliusKielaitis / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年11月12日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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