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なぜソフトバンクG株は年初来30%も下落?「割安」評価は虚構、それでも孫正義の目利きに期待できる理由=栫井駿介

ソフトバンクグループ<9984>の株価がものすごく下がっており、年初来30%も下落しています。なぜこれほど株価が下がっているのでしょうか?その理由と今後の成長性について解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜソフトバンクグループは激しく下がった?

ソフトバンクは持っている株式の時価に対して常に割安だとも言われています。それでも株価が下がる理由を説明します。

端的に言うと、この株価下落の最大の理由は、現在の流動性相場の終焉というところにあると考えます。

まずこの株価の推移です。

ソフトバンクグループ<9984> 日足(SBI証券提供)

今年の始めは調子は良く株価は1万円越えというところでしたが、それをピークに12月13日の終値では5,571円と、年初来から30%弱、ピークからすると半値近くにまで下がっているわけです。

直近で相場が非常に荒れて、日本株は全体的に下がっているというところはありますが、それにしてもソフトバンクグループは大きく下がっていると言わざるを得ない数字ではないかと思います。

原因はチャイナ・リスク

下落している要因として最大のものは、アリババの株価下落です。

中国最大のネット企業、中国におけるアマゾンのような会社ですけれども、ここの株価が下落していることが大きな理由としてまず挙げられると思います。

それから直近で滴滴、中国のUverのような配車サービスの会社が米国の上場廃止に至ったということもあります。

上記の2つからわかることは、中国のハイテク企業に対する政府による締め付けが強まっているということです。

アリババに関しては、創業者のジャック・マーが中国政府を暗に批判するようなことを言ったことが大きな問題となって睨まれることになりました。直近では独占禁止法の違反ということで巨額の罰金を徴収されて、一時は四半期ベースで赤字になったということもありました。

滴滴もアメリカと中国の関係が悪化する中で中国政府に相談無しで米国に上場したことが中国政府の中で問題になり、様々ないじめを受けて結局、諦めて米国の上場を廃止しました。

ソフトバンクグループはこのような中国の会社に投資していますから、これらの事例を見ればわかる通り、「チャイナリスク」を意識しなければならない状況です。

Next: 稼ぎ頭ビジョン・ファンドの利益が低下中。アリババ株の下落が痛手に



ビジョン・ファンドの利益が低下している

それに加えて、直近発表された決算ではビジョン・ファンドの利益も直近のピークからは低下傾向が見られるというところです。

このビジョン・ファンドの利益というと非常に水モノ的なところがあり、普通の利益というと売り上げからコストを引いたものですが、ソフトバンクグループは投資会社の側面が強く、投資会社の利益は、ソフトバンクグループが採用している国際会計基準だと、四半期で持ち株の株価が上がったらそれが利益として計上され、次期に株価が戻ったとしたら戻った分は損失ということになります。

したがって上下動が激しくなる傾向があり、今は低下している状況です。

アリババ株の下落要因は?

アリババの株価はソフトバンクグループ以上に下がっていて、年初来で45%のマイナスというところです。

アリババグループ<BABA> 日足(SBI証券提供)

この要因として最も大きなところは、中国政府から執拗なイジメを受けていることです。

急成長してきた会社ですけれども、基本的にはやはり中国のみで事業を展開する会社ですから、政府に目をつけられてしまったらたまったものではありません。

同時に業績の方も成長の鈍化が見られます。

中国ではネットショッピングが一気に成長し、今やEC化率が45%と、アメリカでも15~20%と言われていますから相当高い水準です。

あっという間にネット先進国となったわけですが、逆に言えば成長余地は小さくなっているということです。それからコストもかかってきていて、利益率の低下も見られます。

もっとも、未だに年率でいうと30%ぐらいの売り上げ成長を見せているので、まだまだ成長株とも言えるわけですが、一方で中国ですから、政府の一存で利益がまた罰金として持って行かれたり、さらには事業そのものを破壊してしまうような政策が行われるということも十分に考えられるわけです。

利益に関しては、2020年上期はコロナショックの反動で1.8兆円というとんでもない利益を出していて、それに比べると大きく減少しました。

出典:ソフトバンクグループ2022年3月期第2四半期決算説明会資料

そういう意味では、目先のピークは越えたという見方ができるわけです。

Next: なぜ株価が大きく下落?根本原因は「流動性相場の終焉」にある



株価低迷の元凶は「流動性相場の終焉」

ただ、私はいま説明したような内容は、ソフトバンクグループの大幅下落の本質では必ずしもないという風に考えています。

なぜかというと、例えばアリババが中国政府に睨まれているだとか、そういった話は今に始まったことではないからです。

では、本当の問題は何なのか。それが「流動性相場の終焉」です。

ソフトバンクグループというと時価純資産(NAV)、持っている株式の時価から負債を引いたもの、つまり財布にいくらお金が入っているかというと20.9兆円あります。

ソフトバンクグループの財布の中に20.9兆円入っているはずなのに、その財布を含めた株式が12月9日午前時点で11.1兆円で売られていて、ディスカウント率47%という割安となっています。

出典:ソフトバンクグループ2022年3月期第2四半期決算説明会資料

株価が下がったのはこの後のことですから、さらに割安となっています。

1つ目の不安要素として挙げられたのはアリババの株価が低下していることですが、持っている株式のうちのアリババの分が7.3兆円で、仮に中国政府にいじめられてこれが無くなったとしても20.9兆円から7.3兆円を引いて13兆円くらいは残るので、それでもまだソフトバンクの時価総額以上の価値があるように見えます。

したがって、これだけがソフトバンクグループのマイナス、あるいはディスカウントの本質ではないと考えられます。

では、何が本質かというと、私はどんどん大きな割合を占めるようになっているビジョン・ファンドが重要だと考えています。

金融相場の影響を受けやすいビジョン・ファンド

このビジョン・ファンドの仕組みというのは実はかなり難しいというか、金融相場の影響を非常に受けやすい仕組みとなっているのです。

アリババやソフトバンクの携帯会社の方などは、上場しているので株価が付いています。 こういった企業の評価はかなり洗練されていて確度の高いものとなり、そう大きくは変動しないことが多いです。

一方で、このビジョン・ファンドに含まれている株式というのは、新興企業やハイテク企業だったりして、評価が非常に曖昧でボラティリティが激しいのです。

例えば、まだ上場していないような企業の取引をしようとしたときに、目安となるものが無く、鉛筆なめなめで決められている状況があります。

Next: ビジョン・ファンドの時価はどうやって決まるのか?



ビジョン・ファンドの時価はどうやって決まる?

では、ソフトバンクのビジョン・ファンドの時価はどうやって評価されているのでしょうか。

上場しているものは市場取引価格で見れば良いということになりますが、他のものについては「取引事例法」というものがあります。未上場の会社には、一般的に「ラウンド」というものがあり、その成長段階に応じてベンチャーキャピタルなどがお金を入れていきます。 基本的にはその企業が成長していくにつれて入れるお金も多くなっていき、その直近の評価額を基準にするのが取引事例法です。

また、その企業と似たような企業のPERやPSR(売上高倍率)、EV/EBITDA倍率などから算出する「マーケットアプローチ」もあります。

最後に「インカムアプローチ」という、いわゆるDCF法で、将来のキャッシュフローをシミュレーションして現在価値に割り引くものがありますが、これは将来のキャッシュフローをある程度正確に予測できないと意味がないので、実際にはそれほど使われていないと思います。

この分類の中で、市場取引価格、取引事例法、マーケットアプローチの3つに関しては、金融環境、すなわち市場にどれだけお金が余っているかということに左右されてくるわけです。

上場企業の株価については、特にソフトバンクが出資しているのは新興企業なので、相場が良い時はPER100倍にもなったりしますが、悪い時は当然それも下がってきます。 そうなるとビジョン・ファンドの持ち株価値も下がってきます。

取引事例法は、ベンチャーキャピタルがどれだけお金を持て余しているかによります。お金を持て余している時はどんなに高い価格であっても、とりあえず突っ込んでおけというような形で評価価格はどんどん上がっていきますが、逆にお金が無い時にはどんどん渋くなります。

マーケットアプローチでは、上場類似企業の株価が下がると、それに伴って低く評価せざるを得ないという部分があります。

これらによってソフトバンクのビジョン・ファンドの評価額というのは変動しやすいというところがあります。

しかも金融環境が今、金融緩和の相場が佳境を迎えていて、FRBがテーパリングを想定より早期に行う動きを見せています。

ビジョン・ファンドの評価に関しては明らかに逆風です。

金融環境とソフトバンググループは運命共同体

評価が下がるといっても一時的なもので、投資している企業が成長しているなら含み損になっても持ち続けていれば、やがて上がるのではないかというようにも見えます。

いまソフトバンクグループに投資している人は、そのNAVに対する時価の割安感で投資していると思いますが、このビジョン・ファンドの時価評価が下がるとNAVも低下します。

となると、ディスカウント率47%というのもあまり意味の無いものとなってしまいます。

それから、エグジット、つまり売却が難しくなるのです。エグジットするにはIPO市場やベンチャーキャピタル間の株式の売買が潤沢になっていないと簡単には売れません。市場が悪化すると、これが難しくなってきます。

ソフトバンクのビジョン・ファンドは外部の投資家からお金を集めています。その外部の投資家には結構高い配当を支払わないといけないことになっています。

持っている株が売れているうちは、そこから支払えばいいのですが、売れなくなると支払いが苦しくなり、借金をして支払わなければならないということになるかもしれません。

そして、ビジョン・ファンドが成果をあげていないということになると、追加の資金集めも当然難しくなります。

資金がないということになると新たな投資先への投資ができなくなるという悪循環に陥ってしまう可能性があるわけです。

これらの一連の流れを見ていますと、ビジョン・ファンドの状況というのは金融環境が悪化すればするほど厳しくなります。

つまり、金融環境とソフトバンクグループは中期的には運命共同体で、しかも外部投資家を入れるというレバレッジをかけていますから、上下動しやすいという環境がソフトバンクグループの中にあるわけです。

相場の混乱があるとソフトバンクグループの株価が大きく下がるということになります。

Next: それでも買い?長期視点の成長株投資なら注目すべき銘柄



長期視点の成長株投資なら買える銘柄

では、ソフトバンクグループはまったく買ってはいけないのかというと、実は長期の観点では私はそこまでは思っていません。

なぜなら、長期的に見るとやはりソフトバンクグループがテキトーに投資しているわけではありませんから、その中に何倍にも成長するような素晴らしい企業、かつてのアリババのような企業が含まれているのではないかという見方もできます。

長期的な視点に立ち、ビジョン・ファンドの上場している分の投資先の投資した金額に対する倍率を見ると、結構順調な成績を収めていて、何倍にもなっている銘柄も少なくありません。一方で、10分の1になってしまった銘柄もあります。

出典:ソフトバンクグループ2022年3月期第2四半期決算説明会資料

これらをトータルして1.8倍になっているというのが、これまでのソフトバンクグループの業績です。

この成長するものが増えたり、どれか1つが100倍になったりすれば、トータルのリターンが長期的に見れば上がってくる可能性も十分にあると考えられます。

これが投資家における成長株投資そのものであると言えます。

「群戦略」でスター銘柄の誕生を待つ

成長株投資というと、事前に確実にこうなると分かっている人はほとんどいません。そんな中でいくつかのものに投資して、成功があれば失敗もある、そういった流れで投資するのが成長株投資のミソということです。

例えば、5銘柄に投資したとして、10年後に1銘柄は10倍になり1銘柄は5倍になり1銘柄2倍になり、そして1つは半分、そして1つは0になったとします。

これにすべて100万円ずつ投資したとすると、500万円が10年で1,750万円となり、年率で13%の成果が出たということになります。

こういう流れが、成長株投資のミソというところになってきます。

しかし、この10年前の時点では、どれが10倍になってどれが0になってしまうのかはわかりません。

それがわかっていないからこそ、いくつもの銘柄に分散する、ソフトバンクグループの言うところの「群戦略」という、多くの銘柄に投資をしてその中からスターの銘柄が出てくればいいという思想でやっているのではないかと思います。

Next: 成長株投資で勝つなら、打率よりも「一発の大きさ」が重要



成長株投資で大切なのは打率ではない

となると、今この時点でビジョン・ファンドが投資している368社から、例えば10倍になるものがどれだけあるのか。もしかしたら100倍になるものもあるかもしれない。ホンモノがどれだけあるか……というのが、長期におけるソフトバンクグループのパフォーマンスの鍵を握ってくるわけです。

出典:ソフトバンクグループ2022年3月期第2四半期決算説明会資料

成長株投資で大事なのは、実は打率ではありません。仮にほかのぜんぶが0になったとしても、1個が100倍になったら最終的に大勝ちなのです。

そういうものだと思ってソフトバンクグループを見ると、また見方が変わってくるのではないかと思います。

成長株を持つ方は、この考え方を理解して投資をすると良い結果につながると思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by: glen photo / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年12月12日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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