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外国人労働者「永住」拡大は歓迎すべき。賃金も労働環境も“最低”な日本から働き手が逃げていく=原彰宏

政府は外国人労働者の在留資格「特定技能」のうち熟練者について、事実上、在留期限を撤廃する方針を固めました。しかし、賃金が安く、日本円の価値も下がっており、医療保険制度も利用できないなどの悪条件で労働者が集まるのかなど様々な疑念が生じてきます。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年12月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

外国人労働者の在留期限、事実上「撤廃」へ

政府は先月の18日、人手不足が深刻化する14業種で定める外国人労働者の在留資格「特定技能」のうち熟練者について、事実上、在留期限を撤廃する方針を固めました。

在留資格とは、外国人が日本国内で在留している間に一定の活動ができることや、定められた身分、または地位を有するものとして活動できることを示す資格のことで、33種類ほどの用途のものがあり、それぞれの在留資格によって、期間・就労範囲が決まっているのが現状です。

多くの業種で在留期限が5年とされていて、これまで長期就労が可能だったのは「建設」と「造船・舶用工業」の2分野に限られていました。

外国人労働者の在留期限「5年」から、永住権取得や家族帯同が可能となる形での制度の見直しを進めるというのです。

この在留期限を撤廃することで、農業、製造業、サービスなど幅広い分野で、永住権を取得できる外国人就労者の範囲が拡大されます。

介護士資格の取得を前提に別の長期就労制度で運用されている「介護」を含め、長期就労が可能となります。

政府は、より幅広く外国人労働者に永住の道が開かれる条件が整う可能性があるとしていますが、果たしてそうなるのでしょうか。

この制度について、表面的な部分だけでない部分も掘り下げて考えてみたいと思います。

外国人を「低賃金労働者」として扱う日本社会

日本の人口減少・少子化に伴って、「生産年齢」と言われる15歳以上65歳未満の生産活動の中心にいる人口層が減っていることが大きな社会問題となっています。

日本で特殊技術を学ぶものとなっていますが、実際には、不足している労働力の埋め合わせとして「安い労働力」を海外に求めるのは、いかがなものでしょうか。

海外労働者を、単なる「低賃金労働者」としてしか見ないことによる人権侵害が問題となっています。

これは、世界から日本がどう見られるかという意識の欠如でもあります。

そもそも日本企業は、競争力を高めるために価格競争に陥りやすく、コストカットとして安易に人件費を削る傾向にあります。

付加価値をつける、労働生産性を上げる努力をしてこなかったことが、1人当たりGDPが伸びず、労働者賃金が上がらない要因だと指摘されています。

Next: 労働環境が劣悪で低賃金?外国人労働者からも選ばれない日本



外国人労働者は日本を選ばない

最低賃金といえば、都内一等地のファーストフードでのアルバイト時給は1,500円にも満たない金額で募集していますが、この金額では、海外では絶対に応募者は見つからないでしょうね。

確かに、日本人にとっては低賃金でも、外国の人からすれば高賃金になることもあります。

外国人労働者に依存する労働環境は肉体労働が多く、労働環境がどうなのか非常に心配になってきます。

もし、いま社会問題となっているような、劣悪な外国人労働者の環境であるなら、海外労働者は、日本を働き場所として選択することは、今後なくなるような気がします。

誰が好んで、労働環境が劣悪で低賃金な国に働きに行こうと思うのでしょうか。

一貫して「移民」には反対の政権

 

政府はこれまで、大規模な移民受け入れ、特に単純労働者の受け入れには否定的な姿勢を取ってきました。

イデオロギーというか思想によるものなのでしょうか、ナショナリズムと呼ばれるものなのか、この国は一貫して移民を受け入れないできました。

つまり、実務の問題ではないように思えます。

ナショナリズム、排外主義……自分たちと文化が異なる人達を受け入れない、心の憶測にある排他的、差別的なものが内在しているようにも思えます。

それは保守だからリベラルだからというものではなく、年齢や収入により意見が異なってくるものでもないようです。

ただ近年見られた欧州での移民排斥運動や、米国でのトランプ前大統領誕生による排外的行動は、自国民の労働機会を守るとして、また経済的恩恵は自国民にのみ受けることができるという主張が、全面に出てきたもののように思えます。

日本においても労働機会の奪い合いで、外国人労働者を差別する動きが出ないとも限らないような気がします。

今回は外国人労働者の在留期限を「5年」から、永住権取得や家族帯同が可能となる形での制度の見直しを進めています。

労働者だけでなく、その家族も日本社会は受け入れることはできるのでしょうか?

Next: 日本の医療保証制度を受けられない外国人労働者



日本の医療保証制度を受けられない外国人労働者

ある有識者は、日本の社会保障制度を外国人労働者に適用することの是非を問うていました。

外国人労働者は、日本の医療制度を利用できません。日本人が払う税で成り立つ社会保障制度を、外国人労働者の家族に適用することの是非を議論しないで、在留資格を見直すのはいかがなものかと指摘する声もあるようです。

日本にずっと住んで納税をしている人には選挙権もないことを、どう考えるべきでしょう。

これは非常に複雑な話ですが、海外の人を受け入れるということは、様々なケースを考えるべきなのかもしれません。

納税者であるのに…という思いもわかりますね。

日本では、日本に暮らす外国人をあくまでも「お客さん」としてみているので、その範囲内では受け入れてもいいけれど、それを超えた権利は与えなくてもいいという感覚が考え方の根底にあるのではないでしょうか…。

Next: 「移民を受け入れると治安が悪化する」は本当か?



「移民を受け入れると治安が悪化する」は根拠のない偏見

永吉希久子東京大学社会学研究所准教授はこう述べておられます。

永吉准教授は、「移民を受け入れると治安は悪化するのか」という問いを立てて「データ上ではそれを証明するものはない」と否定しています。

個人的には、貧困と犯罪に相関関係にあると感じていて、外国人を日本社会が排除するような行動を取る、安い労働者としての扱いしかしないことにより、彼らが犯罪に走ることはあると思いますし、それは外国人に限らず日本人にもあると思います

ただ外国人だから不当な差別を受けやすいということは、残念ながら今の日本社会にはあると感じています。

アメリカの研究では、移民が住民間の結びつきを弱めるという「社会解体論」は否定され、犯罪率に影響を与えない、むしろ減少させるとの結果が出たと。永吉准教授は指摘されています。

移民を受け入れると治安が悪くなるというのは、根拠のない懸念が偏見になっていくのかもしれません。

多様性に関しては日本は後進国かも

多様性という言葉がいろんな場面で使われているにも関わらず、日本社会には、未だに他を受け入れないものがあるように思えます。

排外主義なる、外国人を自分たちの社会で受け入れる姿勢に乏しいように思えてなりません。

名古屋出入国在留管理局の施設で起きた、収容中だったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題もあります。京都ウトロ地区の放火事件もありました。憎むべきヘイトクライムです。

ネット上ではヘイトスピーチがなくなることはありません。

ひょっとしたら、誰の心のなかにも、排他的、差別的な思想はあるのかもしれません。それを意識してゆくのか、それを当然と行動するのかで、社会のあり方は変わるのかもしれませんね。

本当の意味での「グローバル社会」というのは、ひとりひとりの意識が作っていくものなのでしょう。

労働力不足で外国人労働者を迎え入れるという発想で、国の経済を強くすることができるのでしょうか。このままだと、日本に来る外国人も、日本の労働者も、良い環境になるとは思えないのですがね。

人口減少はテクノロジーでカバーすることはできます。日本の産業のあり方を見直すなど、もっと根本的な見直しが必要なのではないでしょうか。

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らぽーる・マガジン』(2021年12月13日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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