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戦争の裏でひっそり警察法改正へ。「サイバー捜査隊」新設で国民監視社会へ突入か=原彰宏

今まさに戦後から続く警察行政に大変革が起きようとしていますが、ウクライナ情勢に埋もれて話題になりません。3月2日、「サイバー特別捜査隊」をつくるための警察法改正案が衆院内閣委員会で可決されました。これは警察の権限強化につながり、国民監視の力を強めることになります。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年3月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

報道されない警察法改正案

東京新聞の社説で、国際サイバー犯罪への必要性から警察庁直轄の警察局が作られることについて気になる記事が書かれていました。
※参考:<社説>サイバー捜査隊 「国家警察」化への懸念 – 東京新聞(2022年2月17日配信)

「サイバー警察局」と、捜査権を持つ「サイバー特別捜査隊」を設けるための警察法改正案が、3月2日に衆院内閣委員会で可決されたのです。

このことに関しては、他紙ではほとんど報道されていません。

重要でないから報道されないのでしょうか…。東京新聞社説では記事になっていたのですが、「中央集権的な警察を否定した戦後の警察行政の大転換」になる出来事なのに、報道されないということです。

なぜか超短期間のスピード審議で衆議院で可決されたこの法案に対して、Twitterでは「反対」を表明する「#警察法改正に反対します」というハッシュタグ・アクティビズム、いゆわる“ハッシュタグ・デモ”のような社会運動が起こっています。

この法案、なぜこんなに世の中を二分する法案となっているのでしょう。

というよりも、ウクライナ・ロシア戦争に隠れて、内閣委員会でたった3時間半の審議だけで通してしまう法案って、いったいどのようなものなのでしょう。

世の中の人がまったく知らない「警察法改正」というものを深堀りしていきます。

ひっそりと迅速に改正案を可決。なぜ報道されず、反対運動が起きている?

何がどう変わるのか。警察法の一部を改正して、電子メール・SNSなどによるコミュニケーションの領域に特化した「サイバー警察局」を新設することになっています。

つまりは、警察庁に「サイバー警察局」をつくる法案です。さらに、警察庁に「サイバー特別捜査隊」をつくる法案です。

「警察庁に」というところがポイントのようです。

一見、時代に合った、社会の変化に合わせた対応にも思えます。デジタル社会において多発していて、しかも複雑化しているネット犯罪に対応することは、社会的にも求められている重要な事案であると言えるでしょう。

そのための法整備であり、警察の関与強化は必要……というのは、一見すると納得がいくようには思えます。

しかし、“全く”と言ってよいほどマスコミで取り上げられず、一部ネットを中心に反対運動が起きているという現実は、何を意味しているのでしょうか。

Next: 戦前の「特別高等警察」を彷彿させる?警察の権限強化に拒否反応



戦前を彷彿させる警察の権限強化への抵抗

この「警察の権限を強化する」ことに対して、かなりの抵抗があるようです。

確かに今でもかなりの権限が付与されている警察です。反対運動を起こしている人たちの意見としては、警察法改正は一般市民や市民団体の情報を個人情報も含めて捜査できるようにするもの、警察庁に都道府県警察を超えて捜査権限をもたせることで、警察の中央集権化を進めようとするものと位置づけています。

戦前の警察の有り様を彷彿させるのでしょう。

この警察の権力強化の延長線上に、時の権力者とのつながり、言論統制、思想統制など、権力側の意のまままに国民を操る世界観をみているようです。

今でも警察は、国民に対してかなり強い権力を持っています。

共謀罪法、共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法が2017年6月15日に国会で成立し、同年7月11日に施行されました。「テロ対策」などの立法事実について疑問があるうえ、市民の人権や自由を侵害するおそれが強い法律として、日本弁護士連合会は強く反対していました。

秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)は、漏えいすると国の安全保障に著しい支障を与えるとされる情報を「特定秘密」に指定し、それを取り扱う人を調査・管理し、それを外部に知らせたり、外部から知ろうとしたりする人などを処罰することによって、「特定秘密」を守ろうとするものと、日弁連ホームページで説明しています。
※参考:秘密保護法とは? – 日本弁護士連合会

この流れで、今回「サイバー警察局」設立にともなって、警察に個人情報の深い部分にまで捜査できる権限を与えるものとなっています。

これらが、国民の安全重視以前に議論されるのは、国民が政府を行政期間を信用していないのと同時に、警察組織を信用していないということにほかなりません。

信用されていない政府と警察がタッグを組めば何でもできる、警察組織が暴走すると思っているのでしょう。

警察組織への不信感

それだけ警察による不祥事が相次いでいて、政治の腐敗、行政機関の隠蔽改ざん体質が重なって、“管理する側”に対して“管理される側”が、無条件にすべてを認めさせることへの拒絶反応を示しているのだと思われます。

「暴力装置」…ジャーナリストの青木理氏は、警察組織をこのように表現しています。ラジオ番組で青木氏は「戦後の日本警察システムの一大転換」だと主張していました。冒頭の東京新聞社説と同じ論調です。

青木氏いわく、戦後日本警察は「自治体警察」、つまり都道府県警察が直接捜査権を持っているものだったと説明しています。

警察庁は国の機関で、今回のサイバー案件に関しては、警察庁が直接捜査権を有することになりました。今までは、自治体警察、都道府県警察の指揮監督、調整を行ってきたのが警察庁でした。つまり、直接の捜査権は持ってこなかったのです。

その背景には、戦前の警察組織が中央集権も国家警察であって、ファシズムの尖兵になるなど、太平洋戦争につながる様々な問題があったと指摘されています。

その反省から、国家警察から自治体警察へと移行していった経緯があります。警察が捜査・逮捕する権利を持ち、武器所持も認められる強力な権力を持っていることから、青木氏は「暴力装置」と表現しているようです。自らの戒めを促す意味でも、こういう表現を使っているのでしょう。

だから警察庁は国家公安委員会が管理することになっているのだ、と青木氏は説明しています。

Next: 権限強化は必要か?サイバー犯罪に限定しても疑念が残る



公安警察と公安委員会との違い

“国家公安”と名がつくので、テレビでもおなじみの反体制的運動や組織を取り締まる公安警察と思われるでしょうが、この国家公安委員会は、国務大臣が委員長に充てられる大臣委員会で、あくまでも「警察の政治的中立性の確保」と「治安に対する内閣の行政責任の明確化」を目的とした組織です。

運転免許証の写真の下に書かれている「○○県公安委員会」がこれです。つまりは、公安警察とは別なのです。

公安警察は、テレビでも馴染みの広域組織犯罪などを手掛けるもので、警察庁、警視庁、検察庁それぞれに置かれています。

それぞれの組織の力関係には優劣があるようですね。アニメ「名探偵コナン」にも公安警察は登場してきますね。あれが公安警察で、警察組織を管理する公安委員会と公安警察は“別物”です。

話を戻しますが、都道府県警察は、都道府県の公安委員会(くどいようですが公安警察とは違います)が管理することになっています。

公安委員会は、トップだけが政治家で、後は全員民間人が選ばれるようになっています。つまり、「民間人が警察を管理する」ことになっているのです。

政治が直接警察を動かすことを、逆に警察組織が直接政治に関与することを避けるために、国家警察ではなく自治体警察にして、その自治体警察を民間人が管理する体制を作ったのです。

青木氏いわく、「実際には、民間人と言えども警察が管理しているのが現状だ」とのことです。

今回の警察法改正では、サイバー案件に限るとは言え、自治体警察ではない国家警察である「警察庁」が直接捜査できるようにするという、まさに戦後警察システムの一大転換になるということです。

そういう背景がある法案が、国会でスピード審議で可決されたことに、反対派は違和感を感じているようです。

サイバー犯罪に限定しても疑念が残る

たしかにサイバー犯罪は、都道府県をまたがる広域で対応しなければならないもので、自治体警察よりも国家ぐるみで対応しなければならないということは理解できます。

それゆえ、今回の法律改正は「サイバー」に特化したことに限るとしていますが、自治体警察の連携強化などの工夫で、あくまでも戦前の反省から、国家警察に捜査権を持たせるという選択以外はなかったのか。また、そのような議論はなされたのかという疑問は残ります。

この警察庁のある意味暴走を止める民間のチェク機能を、同時並行で議論されることはなかったのかという指摘もあるようです。

Next: 反対派の主張「国民監視国家がつくられようとしている」



反対派の主張「国民監視国家がつくられようとしている」

直近で成立した共謀罪や秘密保護法に加え、重要土地規制法や通信傍受法という、警察と官邸の関係を強化するような法案が可決されている“さなか”でのことです。

重要土地規制法は、自衛隊の基地など日本の安全保障上、重要な地域での土地利用を規制する法律のことで、施設の周囲およそ1キロメートル内や国境近くの離島を「注視区域」に定め、区域内で大きな構造物を立てて電波を妨害したりライフラインを寸断したりといった日本の安保を脅かす土地利用を確認すれば、所有者に中止を勧告・命令できるものです。

つまり、重要区域内の住民のプライバシーなど個人情報を含め、調査する権限を監視側に与えるというものです。

自衛隊基地や原子力発電所の周辺、国境離島などの土地の利用を規制する法(土地規制法)というものです。

通信傍受法は、名前からも想像できる通り、一定の組織的な犯罪を対象として、これら犯罪の実行に関連して行われる電話やメールなど、その伝送路に有線や交換設備を経由する電気通信の傍受を認めた法律です。

ここまで我が国は、監視する側の権限強化促進の法律が、相次いで作られてきたと言えます。

その延長線上に、今回の警察庁法改定があるという問題提議です。

土地規制法(住民監視法)の重要施設機能・国境離島機能を阻害する恐れのある人物を特定するための調査は、こうしたサイバー空間でのコミュニケーションが含まれると考えられます。

土地規制法と改定警察庁法という2つの法律が連動して、国民監視国家が作られようとしていると言わざるを得ないというのが反対派の主張です。

戦後初めて「警察庁が」逮捕・捜査する権限を持つ

東京新聞社説に戻って警察庁法改正の内容を見てみますと、改正案では、サイバー警察局がサイバー事案に関する業務全体を担当し、警察庁関東管区警察局にサイバー特捜隊を設置し、全国を管轄して「重大なサイバー事案」を捜査します。

重大サイバー事案は、国や重要インフラに重大な支障が生じる高度な技術を用いる海外からの不正な活動に関与するものと規定しています。

特捜隊は逮捕や捜索もします。繰り返しますが、「警察庁が」逮捕、捜査の権限を、戦後初めて持つことになるのです。

一方で、国境を越えたサイバー犯罪は増え続けているのも事実。東京新聞では、徳島県の公立病院が、システムのデータを暗号化するランサムウェアの攻撃を受けて、電子カルテが閲覧できなくなった事件を取り上げ、国際的なハッカー集団が金銭を要求する脅迫文を送り付けた「サイバー身代金事件」を例に挙げています。

前述の記事にある「欧米では捜査の国際協力が進んでいるが、日本では都道府県警が捜査主体のため、国際的な情報交換などに手間取ることがある…」という点も、自治体警察だからということもあるのでしょうが、他の業界でも見られる「縄張り意識」に弊害があるとは言えないでしょうかね。

Next: 警察法改正後も私たちが“監視”する必要



警察法改正後も私たちが“監視”する必要

東京新聞の社説では、以下のようにも指摘しています。

捜査対象についても「国や地方公共団体の重要な情報の管理」や「国民生活及び経済活動の基盤」に重大な支障が生じる場合、「対処に高度な技術を要する」ケースなどが挙げられているが、拡大解釈の余地は残る。

※出典:<社説>サイバー捜査隊 「国家警察」化への懸念 – 東京新聞(2022年2月17日配信)

時事通信では、この法案が通った後の警察組織を図解しています。

今後、国家警察である警察庁の捜査・逮捕権険は、サイバー事案以外にも広がることはあるのかどうか、我々は注意深く、それこそ“監視”をしていかなければならないと思います。

それにしても、野党からもこのことに関する発言が一切出てこないのは、なぜでしょうね…。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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