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JT株急落「ロシア依存」で深刻ダメージ、資産接収なら価値2割減も。配当目的の株主は売るべきか?=栫井駿介

JT(日本たばこ産業)について分析します。実はJTはロシアと強いつながりがあり、ロシアへのウクライナ侵攻に対する経済制裁によって、JTは厳しい環境に置かれることが想定されます。JTの株主や投資家はどうすればよいでしょうか?配当目的でJTの株を持っている方にも影響がある話なので、ぜひご一読ください。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

JTはロシアで稼いでいた

JTは、国内での成長が難しいということでグローバル化を進めてきました。今や国内での売り上げより海外の売り上げの方が大きくなっていて、その1つにロシアがありました。

CIS+というのは旧ソ連邦のことで、ルーマニア等も含まれますが、人口比を考えるとほぼロシアと言えますが、15.4%と高い割合を示しています。

ロシア国内のシェアを見ても、なんと4割という最も高いシェアを持っています。

世界のタバコは、中国を除けば、JT、フィリップモリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、この3社の寡占になりつつあります。

ロシアに接収される可能性も

そんな中でのロシアのウクライナ侵攻で、ルーブルが売られ、昨年末と比べて半値近くになりました。

ロシアルーブル/円 日足(SBI証券提供)

単純に言えば、JTのルーブル建ての売り上げが半分になってしまうこととなり、大きなダメージであることは間違いありません。

さらに、経済制裁の末にロシアでの営業を停止したり撤退する企業はロシアが接収してしまうという脅しをかけられています。

通常なら資本主義の論理に従って株式を取得したりしなければならないのですが、今は戦時ということで平時の常識が通用しない事態となっています。

これはJTも例外ではありません。

JTはまだロシアでの事業を停止したわけではありませんが、すでにロシアでのタバコの生産やマーケティング活動を停止すると宣言しています。

ロシアがますます強硬な立場を示すようになれば、JTのロシアにおける資産も接収される可能性があると想定されます。

ロシアにとっても、接収すればメリットがあります。事業の利益が国に入るのはもちろんですが、そこに税金もかけられるからです。今後ロシアの財政は厳しくなってくると思われますから、タバコ事業の国営化はある意味最も合理的ともいえます。

まだこの接収は現実化はされていませんが、そうなる可能性が低くはないと考えられます。

Next: 海外展開のリスクを思い知らされるJT…価値は?持っていても大丈夫?



海外展開のリスクを思い知らされるJT

今回のことでJTは、海外展開はそう簡単ではないと思い知らされるのではないかと思います。

JTの成長戦略は2つあります。1つは海外進出をすること。もう1つは、世界的に喫煙率は下がってきているので、その中で値上げをして利益を確保するというビジネスモデルです。

しかしこの戦争で、買収して海外に進出していくということが難しくなる、あるいは投資家から懸念を持たれるということになると、今後の成長性は厳しくなると思います。

成長性というものは、株式の価値を左右します。成長性のある企業はPERも高く評価されますが、そうでない企業は低いままで、株価も上がりにくくなります。

実際に接収されるということになると、全体の売り上げの15%がまるまる無くなってしまい、利益もそれだけ減ることになるので、配当にも影響してきます。

JTの実質的な価値は?持っていても大丈夫?

以上のことを踏まえて、JTの価値を見てみます。

日本たばこ産業<2914> 週足(SBI証券提供)

昨年末にかけて株価は上がっていたのですが、このウクライナ情勢を受けて大きく下落しました。

実はロシアでの事業は好調で、最近でもロシアで値上げを行って利益が増え、全体の2割を占めていると言われていました。

仮にロシアでの事業がロシア政府に接収されてこの2割がまるまる無くなったとしましょう。

それに対してのPERを今までの評価に倣って10倍~15倍と仮定します。

成長性が下がったことを踏まえると実際にはもっと低くなるかもしれません。

配当性向は75%とJTが宣言しています。

これらを踏まえて今のJTの価値を計算すると、今期予想EPSが200円と公表していてこれが2割減って160円、それにPERを10倍~15倍とすると株価は1,600円~2,400円というところが妥当なのではないかと思われます。

今のJTの株価は2,000円ですが、1,600円まで下がってもおかしくないということです。

むしろ成長性が下がっていることを考えると、PERが15倍という数字は望みにくく、10倍を下回って株価も1,600円より低くなることも考えられます。

少なくとも株価のアップサイドは難しくなります。

Next: 配当も維持できない?ロシアに接収されたら被害甚大



配当も維持できない?

JTの株価を支えているのが多額の配当です。

今、表面利回りとしては7%以上となっています。配当性向75%ということで、160円の75%の120円となります。

株価が2,000円の今だと利回りは6%ということになり、7%以上と比べると高くはないことになります。

さらに、仮にロシアに接収された場合、ロシアの資産価値は0になってしまい、その期決算では特別損失として計上しなければならなくなります。

そうなると表面的な利益は大きく減少し、財務状況も悪化すると考えられます。

価値「2割減」の覚悟も

以上のことを踏まえて今のJTについて言えることは、ビジネス全体がダメになってしまうというほどではありませんが、売り上げの15%、利益の2割がごっそり無くなってしまう可能性があり、JTのあるべき価値が2割くらい無くなってしまうと思っていた方がいいということです。

そう考えた時に、株価としては1,600円くらいでも妥当であり、今後海外進出が難しくなると株価のアップサイドも取りにくく、足元の業績や財務状況を考えると配当も出しづらくなるという、目先ではだいぶ厳しい環境が続く可能性があるということです。

いま利回りが7%を超えたから買いだと考えているかもしれませんが、ロシアに接収されるリスクを考えると、上手くいって7%というのは割に合わないギャンブルであると忠告します。

もちろん完全にビジネスがダメになってしまうものではありませんし、もし何も起こらなかったとしたら今後も配当銘柄として活躍していくのではないかと思います。

ただ、現時点では合理的に考えてリスクとリターンが合っていないと考えます。もし今JT株を持っているなら、いったん売却することを検討するべきだと思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:madamF / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2022年3月15日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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