今回は「値上げ」によって株価上昇が見込める企業について分析します。ウクライナ情勢の悪化を受けて、小麦や原油など様々なものが値上がりしています。値上げというと消費者にとっては生活が苦しくなってしまうので嫌がられますが、一方で株式という点に目を向けると値上げによって利益が増え株価が上がる企業が出てきてもおかしくありません。「値上げできる企業は強い」という点について解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
値上げは「強さ」の証明
特に今年に入ってから多くの企業が値上げを発表しています。
いま値上げを発表している企業は先回りをして値上げしている企業だと思われます。こうやって先回りで値上げを発表できる企業は、それだけで強みがあると判断できます。
強みの無い企業は、値上げをするとお客さんが買ってくれなくなるのではないかと不安になり、なかなか自ら進んで値上げできず、大手の後追いで価格を上げることになります。
一方で、強気の値上げをする企業は、少なくとも自信はあると見てよいと思います。値上げ幅は軒並み10%といったところですが、特に高いところは要注目です。
先陣を切って値上げする企業は強いことも確かですが、強い理由として、値上げしても買わざるを得ないという勝算があるということです。
ウォーレン・バフェットの言う「経済の堀」です。バフェットも一般的な消費財の企業に投資をしています。コカ・コーラやハーシーズチョコレート、シーズキャンディーズなどです。誰もが知っている日用品やお菓子などに経済の堀があると考えていて、実際に成果をあげています。
テクニカル的には、原材料費や原油価格、物流費などが上がって、やむなく値上げを行った後に、原材料価格が下がった時に、それに合わせて値下げをする企業はあまりないのではないかと思います。
価格を下げるということは収益を減らすことなので、上げるよりも難しいのです。
ここで値下げをしなくてよいということが企業の強さということになりますが、逆にいち早く値下げを行って価格競争に陥るような企業や業界には投資するべきではないということになります。
その強い企業も株価が下がりがちというチャンスもあります。
値上げするといってもすぐにできるわけではありませんので、原材料の仕入れ値が上がって利益が削られ、目先の業績が悪くなります。
業績の下方修正は悪材料なのでどうしても目先の株価は下がります。
しかし、原材料価格が下がった時に販売価格は据え置きにすることで、利益が大きくなります。
それを考えると、将来の業績に対する割安感がどんどん増している状況であると言えます。
どんな企業が「値上げ」時代に成長するのか?
では、私たちはどのような企業を探せばよいでしょうか。
まずとにかく値上げできる強みを持っていて、これまでもその強みを利用して着実に業績を伸ばしてきたかを見なければなりません。
強みというのは、シェアや独自性、ブランド力などがあります。
しかし、強みを持っていても、ちゃんとそれを利用して継続的に業績を伸ばしている企業じゃないと経営が良くないということになります。
一方で強みを磨き続けて業績に反映してきた企業は今後も期待できると言えるでしょう。
原材料価格が下がった時に販売価格を据え置けるかという点にも注目しなければなりません。
例えば電気料金などは公共料金なので、原燃料費と連動して、原燃料費が下がった時には販売価格も下がり、利益も同じくらいの水準に戻ってしまうという性質があります。
同じ公共料金でも、鉄道料金は一度上げたら下げません。
自分が見ている企業はどのような性質があるかしっかり見定める必要があります。
また、株価が下がりがちと言いましたが、下がったらよいというわけではなく、これまで高く評価されすぎていた企業だと、多少株価が下がっても上昇余地は小さくなってしまいます。
一方で、例えばPERが高い企業は何らかの強みが評価されているとも思われますから、最終的には将来の利益と今の株価のバランスを見て判断する必要があるということになります。
ここからはこの値上げで私が注目している業界を具体的にランキング形式で発表します。
ここで紹介する銘柄を全力でおすすめするというわけではありませんが、見方の参考にしていただきたいと思います。
Next: 「値上げ」で成長する業種トップ3は?注目企業も解説
注目業種 第3位:調味料
第3位は「調味料」です。味の素、キッコーマン、キューピー、カゴメを挙げました。
SBI証券提供
SBI証券提供
まさにシェアが高いところです。味の素、キッコーマン、キューピーはすでに値上げを表明しています。値上げしたからといって買わなくなることはなく、引き続き買われると思われ、強みを持っているということになります。
キッコーマンに関しては右肩上がりに業績を伸ばしています。国内で強いのももちろんですが、海外に進出して業績を伸ばしてきました。PERも45倍と高く評価されています。
ただ、キッコーマンを含め全体に言えることは、株価が必ずしも安くなっていないというところがあります。PERの平均が15倍と言われる中で20~40倍ですから、そこまで下がっていません。
味の素<2802> 日足(SBI証券提供)
キッコーマン<2801> 日足(SBI証券提供)
キユーピー<2809> 日足(SBI証券提供)
カゴメ<2811> 日足(SBI証券提供)
確かな強みは持っていますが株価的にはそれほど安くなっていないというところです。
しかし値上げはプラスに働くので注目したい業界です。
Next: 第2位は「文具」。なかでも成長が期待できる銘柄は?
注目業種 第2位:文具
第2位は文具です。
SBI証券提供
もうスマホやパソコンの世界なので文字を書いたりしなくなっていると思いますが、一方で業績を見てみると、三菱鉛筆は調子悪いですが、パイロット、コクヨ、キングジムは右肩上がりとなっています。
売上高がそれほど増えていないことから分かるように、文具市場のパイ自体は増えていません。しかし、今から文具に進出してボールペンを作る企業が現れるかというとそれもないと思います。すでに勝ち抜いていて、新規参入が無く価格競争に陥らないという残存者利得がある状態です。一方で、今後まったくボールペンなどが要らなくなるかというとそんなこともないだろうと思われます。
パイロットはフリクションを生み出したりする商品開発力がありますし、コクヨのノートもみなさん使うと思います。キングジムはあの大きなファイルという十八番商品があります。
新規参入する企業が少なくなるほどそれを使う人はこれらの企業のものを買うしかなく、値上げしても売れて、さらに良い商品を開発したらそれが高くても買わざるを得ない、という流れがすでにできているのです。
コクヨはすでに値上げを発表していて、他も値上げを発表してもおかしくないです。値上げすれば、市場自体は縮小していても利幅が大きくなり、利益の成長余地はまだまだ残されています。
一方で株価を見ると、先ほどの調味料と比べてPERは低く抑えられています。やはり市場が拡大しないからでしょう。
SBI証券提供
しかし、ここで「ROIC」に注目です。ROICというのは、投資したお金に対してどれくらいのリターンがあるかを表したものです。ROICの率で企業が成長していくことになるので、ROICが高い企業は複利的に成長できるということです。
一般的な企業のROICは一桁ですが、パイロットは11%という高い数値となっています。それほど大きな強みを持っているということで、今後も同じような流れになるとしたら、成長が続く企業ということになります。
直近の業績が良いこともあって、パイロットの株価は大きく上昇しています。
パイロットコーポレーション<7846> 日足(SBI証券提供)
コクヨ<7984> 日足(SBI証券提供)
三菱鉛筆<7976> 日足(SBI証券提供)
キングジム<7962> 日足(SBI証券提供)
コクヨはずるずると下げていますが、値上げを発表したのでこのあたりで良い流れに転換するかもしれません。
Next: 消費者は悲鳴も、「値上げ」で躍進する業種第1位と注目企業は?
注目業種 第1位:お菓子
第1位は「お菓子」です。業績を見ると、明治ホールディングス、カルビー、江崎グリコ、森永製菓、いずれも右肩上がりです。
SBI証券提供
このうちの3社は、すでに値上げを発表しています。
どの企業も2012~2017年あたりで特に伸びていますが、実はこの時にこれらの会社は、価格は据え置いて中身を減らすという「ステルス値上げ」を行っています。
原価を減らして利益を伸ばしてきました。
しかも、このあと実際の値上げも行いました。
なぜこれができるかというと、コンビニの棚を見れば分かるかと思いますが、これらの企業の商品でほぼ埋まっている状態で、定番商品として決まっているからです。
今は原材料価格が上がって当面は苦しい状況となるかと思われますが、それを抜けた先には、価格を下げることはないでしょうから、利益が増える可能性があると考えています。
目先の見通しが明るくないということもあり、PERはかなり低く抑えられています。
SBI証券提供
森永に関しては特別利益が出ているので実際には13倍ほどとなっています。めちゃくちゃ低いというわけではありませんが、これまで見てきたところと比べると比較的低くなっています。
カルビーが少し高いですが、カルビーは上場してから絶好調で、一時はPER38倍くらいまで上がったので、今はこれくらいに落ち着いてきているという状況です。カルビーの強みは海外に大きく進出していることもあります。
ROICを見ると、目先の業績の良くない江崎グリコを除けば軒並み10%以上という手堅い状況です。もちろん最初はお菓子を作るのに原価がいくらかかるかが重要でしたが、定番商品があふれる今となっては原価そのものよりもブランド力が意味を成してくることになります。
消費者は継続的に買いますから、それによって投資効率を上げていく企業群です。
株価に関してはいずれも右肩下がりで、少なくとももう高すぎるということはないですし、目先は苦しいかもしれませんが、原材料価格分くらい値上げできるのであれば、恐れることは少ないのではないかと思います。
明治ホールディングス<2269> 日足(SBI証券提供)
カルビー<2229> 日足(SBI証券提供)
江崎グリコ<2206> 日足(SBI証券提供)
森永製菓<2201> 日足(SBI証券提供)
将来的にこれらの企業のお菓子を食べなくなるということはないでしょう。
しいて言うなればコンビニやスーパーのプライベートブランドに持っていかれる可能性は捨てきれませんが、今の業績を見る限りそういった状況は起きていません。
Next: 5年後、10年後の未来はどうなっている?ニュースに投資のヒント
ニュースに投資のヒント
今回は「値上げ」をきっかけに調べてみましたが、世の中のニュースを見ていると、調べるきっかけはたくさんあります。
そこから5年後、10年後の未来を考えることによって見えてくるものもありますし、それが株式投資に活かされればこれほど良いことはないのではないでしょうか。
ぜひこれをきっかけに株式投資を始めてみてはいかがでしょうか。
(※編注:割愛した「番外編」ほか、今回の記事は動画にて詳しく解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2022年3月21日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
無料メルマガ好評配信中
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。