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ようやく不妊治療「保険適用」も家計と身体の負担が減らないワケ。“混合診療”禁止に落とし穴=原彰宏

少子化対策の一環として「不妊治療の保険適用」が始まりました。不妊に悩む夫婦にとっては一歩前進と言えますが、まだまだ議論の余地が残っています。保険適用の治療と自費の治療を同時に行う「混合診療」が認められていないため、1回(1周期)で行える検査・治療を、2回に渡って行うケースがあるなど、かえって患者の負担増となる懸念があります。また、やむを得ず混合診療を行う場合には、本来は保険適用内の治療についても自費負担となるなど、本当に患者のことを第一に考えた制度なのか、疑問が出てくる部分が多々あります。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年4月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ついに不妊治療に「保険適用」開始

「私が総理大臣の時にお約束した『不妊治療の保険適用』が本日から始まりました――』菅義偉前総理の2022年4月1日ツイートは、この表現で始まっています。

少子化対策の一環として「不妊治療の保険適用」が始まりました。「保険適用」になったということは、今までは、不妊治療は「自由診療」扱いだったのです。

<不妊治療とは>

不妊治療とは、妊娠・出産を希望しているにも関わらず一定期間、妊娠の兆候がないカップルに対して行われる治療のことです。

日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。

ただ、女性に排卵がなかったり、子宮内膜症を合併していたり、過去に骨盤腹膜炎などにかかったことがあったりした場合には、上記の定義を満たさなくても「不妊かもしれない」と考えて検査や治療に踏み切った方が良いこともあると、日本産科婦人科学会は述べています。

主な不妊治療には、以下の3つがあります。
・タイミング法
・人工授精
・体外受精

タイミング法は、排卵のタイミングを見て性交渉を行うもので、そのタイミングを医師が指導することで妊娠を目指す方法です。基礎体温を記録する自己流とは異なります。卵子の寿命は排卵から24時間程度で、そのうち精子と受精できるのは約6~8時間、そのため、タイミング療法はきめ細かい指導と診察が大切になります。

不妊の原因を調べる検査を含めタイミング法においては、これまでも保険適用でした。タイミング法の保険適用範囲内での費用は、1回2,000~3,000円程度となっていますが、排卵日を予測するための超音波検査を月に複数回受けたり、排卵を促すための排卵誘発剤を処方すると、保険適用外となる場合もあり、1~2万円程度かかる場合もあります。

タイミング療法は不妊治療のファーストステップで、女性の年齢などにもよりますが、3~6ヶ月タイミング療法を続けても妊娠しない場合は、不妊治療方法を次のステップ、つまり「人工授精」や「体外受精」の検討に入ることになるようですが、今までは、この両方の治療が「自由診療」となっていて、経済的負担が大きかったのです。

タイミング療法で妊娠すれば、保険適用内治療で済みますが、それでも授からない場合は「自由診療」を選択しなければなりませんでした。

Next: 数百万円の自己負担もざら。ようやく人工授精と体外受精が保険適用に



「やめどき」がわからない高額治療

4月1日から、新たに保険適用となる治療法は、この「人工授精」と「体外受精」になるのです。

人工授精(AIH)とは、受精の場である卵管膨大部に必要十分な精子を届けるため、精製選別した良好精子を子宮腔内に注入する治療法です。

タイミング療法で妊娠しなかった人や、そもそも性交障害がある場合などの方が選択する方法です。

性交障害がある人は、今までは、最初から保険適応の治療を受けられなかったということになりますね。

人工授精では、受精・着床後は、自然妊娠と全く同じです。排卵日の推定は、タイミング療法とほぼ同じであり、基礎体温や超音波検査、ホルモン検査などを参考にしながら排卵日を予測し、AIHの日程を決定します。

費用は、1周期(1回の治療)あたり3万円が平均です。

体外受精は、採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。受精が正常に起こり細胞分裂を順調に繰り返して発育した良好胚を体内に移植すると妊娠率がより高くなることから、一般的には2~5日間の体外培養後胚を選んで腟から子宮内に胚移植します。

※出典:一般社団法人日本生殖医学会|一般のみなさまへ – 生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A):Q12.体外受精とはどんな治療ですか?

ホームページには、体外受精(を含む生殖補助医療)による出生児は全世界で800万人を超えたとも書かれています。

また、一般不妊治療の場合は、もし妊娠しなかった場合の原因究明として、体内で受精が起こっていないからなのか、それとも精子や卵子の力が落ちているからなのかがわからないケースが多く、強く子どもを求める方には、体外受精を希望する割合が増えているとされています。

でも費用が高く、保険適用にならなかった今までは、平均して1回約38万円〜50万円ほどかかったようです。

1回で授かればよいですが、もし体外受精に3回チャレンジするとなると100万円は超えてきます。

一度でも高額出費でチャレンジしたら、授かるまでは何度でもという思いが強くなるようで、1,000万円以上も不妊治療に費やしたご夫婦の例もあります。

後には引けない……という思いのようです。

この「人工授精」や「体外受精」が健康保険適用になると、「人工授精」1回3万円の費用が3割負担で9,000円に、「体外受精」が仮に50万円していたとすると15万円になるということになります。

Next: いまや14人に1人は体外受精。不妊治療の最前線は?



不妊治療最前線は?

・今や14人に1人は体外受精で産まれている
・5.5組に1組が不妊治療をしている

2019年に体外受精で生まれた子どもは過去最多の6万598人だったことが、日本産科婦人科学会のまとめでわかったと、朝日新聞digital「医療サイト朝日アピタル」は伝えています。

※参考:体外受精児、14人に1人 2019年は過去最多6万598人が誕生:朝日新聞デジタル(2021年9月17日配信)

記事によれば、体外受精で産まれた子どもの数は、2019年では前年よりも3,619人増加して86万5,239人になったとのことです。

2019年の体外受精の治療件数は、45万8,101件(前年比3,208件増)で過去最多だったそうです。年齢別では、40歳が3万8,221件で最も多く、39歳、41歳と続いたとあります。

日本産婦人科学会によると、初めて出産する35歳以上の人を高齢初産婦とされ、一般的には35歳以上の妊婦が初めて出産することを「高齢出産」とし、初産婦35歳以上、経産婦40歳以上の妊娠を「高齢妊娠」としています。

厚生労働省の調査によれば、「高齢出産」は1990年代には出産数全体の数%でしたが、2010年には20%台、2019年には約30%になり、3~4人に1人は「高齢出産」となっているそうです。

不妊治療が保険適用でない自由診療であったころは、その治療費が高額になることから国としては、上限30万円の助成金を出す制度を設けていました。

年齢制限や回数制限はありますが、不妊に悩んでいる方への経済援助としての制度として、地方自治体を窓口とする「特定不妊治療費助成」制度がありました。

ただし、4月より不妊治療が保険適用となったことから、この助成制度は4月以降は受けられなくなりました。

「不妊に悩む方への特定治療支援事業」についての厚生労働省ホームページです。ここにはこの支援が受けられる“条件”が記載されていますが、この条件が、保険適用になる条件へとそのまま引き継がれているのです。
※参考:不妊に悩む夫婦への支援について

なお「不妊治療の保険適用」に関するリーフレットもあります。上記、特定治療支援事業の内容と見比べてみてください。

43歳未満、通算6回まで

不妊治療が保険適用となるには、治療開始時年齢が年齢43歳未満であることが条件です。

「6回」というのは治療回数制限のことで、治療開始年齢が40歳未満であれば6回、40歳から43歳未満で治療を開始すれば3回までという、保険適用になる回数が決まっています。

また、不妊治療は人によってその内容は異なります。「その人にあった治療方法」が強く求められるもので、中には、保険治療だけでは対応できない人もいます。

「混合診療」という、保険適用の治療と自由診療を同時に行う場合があります。

その場合は保険診療部分も自由診療とみなされる、つまり、治療行為すべてが自由診療扱いとなります。

Next: 患者の負担増につながる?議論を呼ぶ「混合診療の解禁」



議論を呼ぶ「混合診療の解禁」

「混合診療の解禁」というテーマが医療の世界では、長らく議論されてきました。

保険診療と自由診療を混合してもそれぞれで請求が異なっても良いとするものですが、この「混合診療の解禁」を認めれば、多くの医療機関では混合診療を選択して売上を上げることに注力して、本来保険診療だけでよい治療でも混合診療が勧められ、結果、患者さん負担が大きくなるのではと危惧する声もあるのです。

従来の補助金30万円と比較した場合、自由診療費用が30万円以下であれば、旧補助金制度だと患者さん負担は「0円」になりますが、保険診療適用後は、本人3割負担の「9万円」になります。

このあたりの調整も必要ではとの声も聞かれます。

今回の不妊治療の保険適用は、男性不妊にも事実婚カップルにも適用されます。

まだまだ課題はあるものの、不妊治療の保険適用がなされることで、これまで子どもを授かるのに苦労していたご夫婦にとっては「一歩前進」となってくれることを期待します。

少子化対策の一環と言われれば、なんかそっけない話ですけどね。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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