ふるさと納税を利用する人が年々増えていますが、結局は「税金の無駄使い」でしかありません。お金持ち・自治体にぶらさがる地場産業と、広告費を巻き上げるポータルサイト……一部が潤うだけの制度なのです。(『神岡真司の人生逆転の心理術』)
※本記事は有料メルマガ『神岡真司の人生逆転の心理術』2022年4月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ビジネス心理研究家。日本心理パワー研究所主宰。法人対象のモチベーショントレーニング、組織活性コンサルティング、心のパワーアップセミナーなどで活躍。著書に『思い通りに人をあやつる 101の心理テクニック』(フォレスト出版)、『苦手な相手に勝つ実践切り返し術』、『必ず黙らせる「クレーム」切り返し術』(日本文芸社)、『効きすぎて中毒になる 最強の心理学』(すばる舎)など多数。
年々増加する「ふるさと納税」利用者
2008年度から「ふるさと納税」制度がスタート。初年度の全国の受け入れ額は813億円でした。
そこから年々増加し、2018年度は5,127億円に達します。2019年度は4,875億円とやや減りましたが、2020年度は6,724億円と大幅に増えています。
はたして、この制度に問題はないのでしょうか。
返礼品と事務処理費で消える寄付金
ふるさと納税制度とは、自分が指定する自治体に寄付(限度額あり)をすると、寄付額から2,000円を除外した金額が、所得税や住民税から控除される仕組みです。
そして、たいていの場合、寄付した自治体からはお礼としての返礼品がもらえます。
例えば5万円を寄付した場合、4万8,000円分が国や居住自治体には入らずに、寄付先の自治体に入ることになります。
当然ですが、こういう制度設計でスタートしたわけですから、寄付してもらいたい自治体は、高額の返礼品を贈ることをPRして、返礼品競争が起きました。
大阪府の泉佐野市は、高額返礼品だけでなく金券として使えるアマゾンギフト券まで返礼品とし、2018年度の寄付受け入れ額が497億円にも達し、受け入れ額トップになっています。
泉佐野市の同年の一般会計予算517億円にも匹敵する寄付額だったのです。
それでもまだ1,000億円にものぼる借金が残っています。泉佐野市は、もともと第2の夕張になるともいわれた財政逼迫の自治体だったために、なりふり構わず寄付を集め、そこから高額返礼品をバラ撒いたというわけです。
しかし、少し考えればわかることですが、本来国や寄付者の居住自治体に入るはずだった税金が、返礼品や事務処理費用分だけ消え去って、とてつもない税金の無駄遣いなのです。
Next: 終わらない「返礼品競争」。いったい誰がこんな制度を考えた?
制度が改められても「返礼品競争」はなくなっていない
結局、2019年6月から国は、「返礼品の調達額は寄付額の3割以下」「返礼品は地場産品」などと制度を改め、泉佐野市や他の4つの自治体をふるさと納税制度の指定対象から外したため、泉佐野市に訴えられます。
泉佐野市は最高裁まで争った結果、制度改正以前の高額返礼品の問題行為については、お咎めなしとされ、ふるさと納税への復帰も認められました。
そして、他にも43の自治体が要注意先として、総務省から制度の指定対象期間を当面、絞られているのです。
誰がこんな制度を導入したのか?
ふるさと納税制度は「税金の無駄遣い」ですが、いったい誰がこんな制度を考えたのでしょう。
そもそものキッカケは、2006年3月の「地方を見直す『地方税制』案」と題された日経新聞のコラムといわれます。
これを見た地方出身の政治家たちの間で議論が進み、第1次安倍内閣の「地方創生プラン」として、2008年からスタートしたのです。
地方の自治体は、人口減少でどこも財政状況が厳しくなっています。
地方で保育や教育のサービスを受けた子どもたちも、成人すると都会に出て働き、一番稼ぎのある期間は、都会で納税し、老いて収入がなくなる頃に故郷に戻ります。
そして地方自治体は、医療費負担や介護負担などの福祉費用がのしかかるだけなのです。
この仕組みを少しでも是正する制度が構築できないか――というのが、ふるさと納税の設計趣旨だったのですが、返礼品競争が起こることまで事前に予想できなかったのです。
導入したのは第1次安倍内閣で総務大臣を務めた菅義偉氏であり、のちに首相になっています。
この人は、横浜市議時代と総務大臣在任中に、自分の実弟や長男を許認可権限のある関連企業に就職斡旋するという非常に問題のあることを、平然と行った厚顔の政治家といってもよい人でしょう。
Next: 得をするのは富裕層・自治体“寄生”産業・ポータルサイトだけ
恩恵を受けるのは「富裕層」
ふるさと納税制度には、寄付額に限度額があります。
独身で年収400万円なら4万2,000円ぐらいです。夫婦共働きの子ども1人で年収800万円なら11万円ぐらいです。黒毛和牛や高級海産物、温泉宿泊といった高額寄付が必要な返礼品利用だと、せいぜい5回以下ぐらいの利用でしょう(5回以下は確定申告が不要)。
その点、所得税や住民税の支払いの多い富裕層は違います。
年収1,200万円で専業主婦の妻と子ども2人なら、限度額は20万円近くになり、年収1億円なら360万円ぐらいになります。
富裕層ほど、トクをするのが、ふるさと納税制度なのです。
返礼品調達先に選ばれた「地場産品の業者」も得をする
次に得をしているのは、自治体に返礼品調達先に選ばれた地場産品の業者です。
しかし、地方産業の振興といっても、自治体にへばりつき、ぶら下がる一方では、成長は覚束ないでしょう。
自治体への寄生を助長するだけだからです。
最も儲かるのはポータルサイト
結局、地方自治体が返礼品競争のために広告を載せている、いくつかの専用ポータルサイトだけが一番儲けているのです。
何とサイトの広告掲載手数料は、寄付額の10%程度もします。
こうなると、今後のふるさと納税制度においても、受入額5,000億円超の10%に当たる500億円が広告費で消え、3割の調達相当額1,500億円の合計2,000億円が消えていくのです。
ふるさと納税サイトを見ると、今でも最大還元率116%や98%などと還元率ランキングが堂々と掲載され、激しい広告合戦が続いているのです。
こんな金持ち優遇の制度は必要ないでしょう。
大都市などに住んでいる人の居住地での自治体税収を減らし、返礼品競争の自治体にぶら下がった地場の産業が甘い汁を吸い、ふるさと納税サイトが法外に儲かるという、とんでもない制度に他ならないからです。
返礼品をもらってひたすら喜んでいる人も、一度、冷静に考えてほしいものなのです。
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『神岡真司の人生逆転の心理術』(2022年4月25日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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