ロシアとウクライナの戦争は、東西のエネルギー安全保障の歴史を紐解くとよく理解できます。現代でもソ連・レーガン時代の冷戦構造が続いており、米国のエネルギー事情が今回の問題を引き起こしたと言えます。米国のエネルギーひっ迫がまだまだ続くことを想定しながら、6月〜今夏の相場展望をお伝えします。(『角野實のファンダメンタルズのススメ』)
※本記事は有料メルマガ『角野實のファンダメンタルズのススメ』2022年5月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:角野實(かどの みのる)
大学卒業後、金融機関に10年ほど勤務。独立して投資家の道へ。現在は企業経営者として活動、FX関連の執筆を多数行っている。
東西エネルギー安全保障の歴史
3か月以上続くウクライナ侵攻をおさらいするためにもう一度、勉強しなおしました。エネルギー安全保障の観点からみていくと、意外なことがわかってくるものです。
結局、東西のエネルギー安全保障というものは、レーガン政権、つまりソ連崩壊前から始まっており、ヨーロッパのエネルギー安全保障とロシア、ソ連のエネルギー依存体制を米国は警戒してきたのか、というのがわかってきます。
そこにシェール革命が起こり、米国が産油国ナンバー1の地位を40年ぶりに獲得したわけです。つまり、米国に余剰な原油・ガス生産があり、それを輸出に回したいという思惑があります。
ところが、環境問題の勃発によって、それもままにならない…という事情もあります。
ガス油田を持っているのに、なぜ米国のガソリンは高い?
環境問題に関してはいろいろ言いたいこともあるのですが、ここでは置いておき、米国のエネルギー事情についてお話をしておきます。
たとえば、米国にはロシアやサウジを上回る原油、ガスの油田があるのに、なぜガソリンが高いのか?という問題です。
これは非常に明快で、一口に原油といっても、おおまかに2種類の原油があります。重油と軽質油という2種類になります。
日本や米国では、この原油を精製する製油所が重質油対応になっており、軽質油を精製するのには莫大な投資が必要になります。アメリカで産油される原油というのはWTI(West Texas Intermediate)由来ですので、ほとんどが軽質油になります。
つまり、ガソリンや灯油、ジェット燃料を精製するような原油ではないのです。主に、ベネズエラ、メキシコ湾などで採掘される重油が精製に回されるわけです。
つまり米国では、発電や精製に回せる重油は、極端に不足している状態なのです。
日本も同様で、アメリカからの輸入に積極的ではないのはそのためで、中東依存から抜けられないのは、同様です。
ですから、アメリカがイランやベネズエラの制裁を解除する方向に向かうのは、その産油のほとんどが重油だからです。つまり、アメリカのエネルギーのひっ迫は当面、続くということです。
Next: 結局は資源の奪い合い。欧州のエネルギー事情に米国が絡んで戦争勃発
重油の奪い合いが起きている
ロシアの原油もほとんどが軽質油で、軽質油は過剰生産となっています。欧米がすぐさまロシア産原油を禁輸できるのは「需要がないから」という理由です。
世界で原油や天然ガスが有り余っていると言っても、原油は軽質油のことであり、ガスはパイプラインで配送できない地域に偏っています。逆に、輸出入が容易なところでは、不足しているというのが実態です。
中国も必要としているのは主に重質油であり、軽質油はあまり需要がありません。世界のエネルギー需給は重質油ということを理解しなければ、今の原油事情は理解できないと思います。
重油の産油国が増産しなければ今のエネルギー事情は改善しないのですが、その産油国のほとんどは経済不振や制裁などの問題を抱えています。
たとえばイランやベネズエラなど、簡単には問題が解消しない状況です。メキシコ、インドネシアなども問題だらけなわけです。
唯一、カナダだけが、米国の供給に寄与をしているのです。しかし、環境問題でそれも心細い状態なのです。
ロシア・ウクライナ戦を引き起こした米国の思惑
天然ガスは、結局、いろいろな問題がありますが、あまりにもウクライナが好き放題にやりすぎた側面があり、そこでロシアの怒りが爆発をしただけの話です。
そもそもウクライナはロシアからの収入が無ければやっていけない経済体質であり、そしてロシアもウクライナなしではやっていけません。
ただ、ウクライナのポテンシャルを、欧州で2番目の領土面積があり、肥沃な土壌という観点から見ると十分にやっていける能力があるのです。
ウクライナは近年ではスターリンによるジュノサイドが明らかになってきましたが、それ以前は西側からひどい仕打ちを受けています。その独立の渇望はすざましいものがありますが、あまりにもその場しのぎ、準備不足の感が否めません。
そこに米国の思惑、欧州のエネルギー事情があまりにもロシアに依存している危機感が、燃え盛ったという話であろうと私は理解しています。
米国には有り余る天然ガス資源があり、その輸出をなんとかしたいという思惑があるのかと思います。ただし、液化天然ガスのコストは、パイプラインと違い高すぎるわけです。
そのコストの高いLNGで欧州がやっていけるとは思いません。結局、ノルドストリーム2が制裁対象になりましたが、解除されることになるのであろうと思います。
Next: 週末の株価上昇は「気迷いの上昇?」どうなる今週のマーケット
週末の株価上昇はなぜ起きた?
週末もずっと考えていましたが、戻りいっぱいになるであろう、という考えには変わりがありません。
結局、ドル安と金利安で上昇したとしか考えられません。しかし、6月1日からのQT(量的引き締め)を控え、このまま上昇するとは考えにくいというのが考えの根本になります。
まず、わずかな円高ドル安です。この状態で株価が大幅に上昇することは考えにくく、そのほかの材料を考えます。週末にミシガンサーベイ(ミシガン大学消費者態度指数)のファイナルが発表されています。
その中で期待インフレ率(潜在成長率)が5.4から5.3に低下しています。この期待インフレ率と実質金利のIS曲線の交点を自然利子率と呼び、潜在成長率の低下は自然利子率の上昇につながります。
自然利子率が上昇することは株価にとってはネガティブなことであり、その反対の結果としてダウが1.76%も上昇したのは意外でした。私には意味がわかりません。また日本株は年間で8.12安、ダウは3.81安で米株の方が高い状態というのもよくわかりません。
ISM製造業のコンセンサスは前回、55.3とマイナス0.1ポイントですが、週末にはさらに下がって0.5マイナスとなっており、強気になれる材料がありません。わずかに強気できる材料はドル安と金利安ということくらいです。
今の時点ではわかりませんが「気迷いでの上昇?」と考えています。
関連指数から見ると夏のインフレ・金利高の可能性は高い
わかるのは金利ぐらいです。CBR指数(国際商品先物指数)が前日比1.99ポイント高の0.59%高。これでCBR指数は上抜けており、ドル安人民元高と資源高を押し上げる効果もありますので、商品市況の高騰は避けられない状況です。商品市況が高騰をして、金利がこのまま低下していくとは考えにくいです。一方、住宅ローン金利は低下をしており、金利の指標は住宅ローン金利ということを考えると、難しい判断になります。
住宅ローンが下がっているといってもわずかなことであり、住宅市場の不振もありますが、これだと下がったとも言いづらいのかなとは考えています。
この夏はインフレがそれほど進行しないと以前に記したことがありますが、この状況を見ると、おそらく予想外にインフレが進行することになるのではないのか、と考えています。インフレで株価が高くなる、金が高くなるというのは、経済にとってインフレがポジティブな場合であり、もちろん、経済以上に物価が上昇すれば株価や金価格にはネガティブになります。
私は前者になると判断をしているのですが、識者・専門家によっては判断が違うのでしょう。
FRBは、9月までにインフレ終息の目途がついたと公言をしていますが、FRBのインフレ予測も、去年からハズれまくっていますので、全面的には信用はできないです。
どちらにしろ6月も0.5ポイントの利上げをしてから判断ができることであり、今の時点ではなんともいえない、ということです。
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『角野實のファンダメンタルズのススメ』(2022年5月30日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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