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「日本の家計が値上げを受け容れている」黒田発言に「仕方なくだろ!」の国民総ツッコミ=高梨彰

「家計の値上げ許容度の改善」され、「日本の家計が値上げを受けいれている」という日銀黒田総裁の発言がありました。しかし、この発言には、ツッコミどころが多く、そのまま受け容れがたいのが実状です。(『徒然なる古今東西』高梨彰)

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プロフィール:高梨彰(たかなし あきら)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。

日銀黒田総裁「日本の家計が値上げを受け容れている」

共同通信「きさらぎ会」にて講演をした黒田東彦日銀総裁の言葉が、各メディアで取り上げられています。ツッコミが入ったのは「家計の値上げ許容度の改善」と「日本の家計が値上げを受け容れている」という表現です。

黒田総裁は東大の渡辺努教授が行ったサーベイを基に。この発言をしています。質問の内容は「馴染みの店で馴染みの商品が10%上がったときにどうするか」です。

日本・ドイツ・カナダ・米国・英国で同じ質問を2021年8月と、2022年4月に行ったとのこと。21年8月時点では、日本は「その店でそのまま買う」43%、「他店に移る」57%でした。これは他国に比べて「他店に移る」の割合が多くなっています。

一方、22年4月の日本では、「そのまま買う」56%、「他店」44%と回答が逆転しています。

これをもって黒田総裁は「日本の家計が値上げを受け容れている」と評した訳です。

「仕方なく、だろ」とのツッコミ

まず、「許容度の改善」や「受け容れている」には前向きな連想を抱くかと思います。何というか「納得」に近い感覚です。

でも、直感的に物価高に「納得」して「その店でそのまま買う」と回答した人は少ない気もします。どちらかと言えば後ろ向きの「仕方ない」です。価格が上昇しても、お腹が空けば「ある程度」食べ物を買わざるを得ません。

この「納得」と「仕方ない」がツッコミ(反発)を受けている主要因にみえます。

Next: コロナ禍の「強制貯蓄」を許容度を上げた理由にする日銀の傲慢



コロナ禍で増えた「強制貯蓄」

また黒田総裁は「家計の値上げ許容度の改善」に繋がる理由として、「コロナ禍における行動制限下」で蓄積した『強制貯蓄』」を挙げています。

この「強制貯蓄」にもツッコミの入る余地がありまして。

コロナ禍で蓄えを増やすのは将来に不安があるためです。この不安は自分の意志とは関係なく「強制」されたため、「強制貯蓄」が生まれた、と。

でも、経済学の教科書にある「強制貯蓄」は少し意味合いが異なります。モノの値段が上がった時、「今まで通り買うのを止めて、おカネ貯めとこ」となる現象です。

例えばパンが100円から200円に値上がりしたとき、本当なら2個買いたかったのだけど、値上がりしたので諦めて1個にしておこう、なんて場合です。

日銀がこの辺を意図的に混同させているのかは不明です。でも、真面目に日銀からの言葉を理解しようとするほど、アタマの中は混乱します。

少なくとも分かり易さや透明性といった観点からはイマイチです。

「ご飯論法」での円安容認

これは冒頭の「許容度の改善」などでも同様です。

インテリ層が行いがちな、敢えて挑発的な表現を用いることでツッコミを受けつつ、そのツッコミを詭弁や修辞などで言いくるめて挑発を滑稽化させる、そんな風にみえます。

「朝ご飯(食事)はとったが、ご飯(お米)は食べてない」の「ご飯論法」と被っちゃうんです。

中央銀行の存在感の大きさが日本国債市場から生気を奪いました。そして今度は円相場を無秩序化しつつあります。「ご飯論法」で円安を肯定されては、反論しようにも「暖簾(のれん)に腕押し」です。

ということで今朝のドル円は132円台突入。市場心理として「あと10円くらい円安でも」という恐怖心が俄かに高まって来る動きです。

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image by:Asian Development Bank Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

徒然なる古今東西』(2022年6月7日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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