日本の競争力評価がまたまた低下した。スイスの有力ビジネススクールIMDが6月15日に公表した2022年の世界競争力ランキングで、過去最低の34位となった。昨年の31位から低下した。私は「税制」こそが国の根幹ではないかと疑っている。税制を変えることなしには、日本全体が下げ止まらないと見ている。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)
※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2022年6月27日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
世界競争力、日本は過去最低の34位
日本の競争力評価がまたまた低下した。
スイスの有力ビジネススクールIMDが6月15日に公表した2022年の世界競争力ランキングで、過去最低の34位となった。昨年の31位から低下した。
日本は同ランキングの公表が開始された1989年から1992年までは1位だった。
アジア・オセアニア諸国の中でも、世界3位のシンガポール、5位の香港、7位の台湾、12位のアラブ首長国連邦、17位の中国、18位のカタール、19位のオーストラリア、24位のサウジアラビア、25位のイスラエル、27位の韓国、30位のバーレーン、31位のニュージーランド、32位のマレーシア、33位のタイに次ぐ、15番目に低迷した。
※参照:World Competitiveness Rankings – IMD
「消費税」が日本を弱くした
私は「税制」こそが国の根幹ではないかと疑っている。その見方で、日本経済の節目、節目を見ていくと、奇妙な一致を見るのだ。
日本の税制や日本経済、財政収支などの詳しいデータに興味のある方々は、繰り返し紹介している拙著『日本が幸せになれるシステム・65のグラフデータで学ぶ、年金・医療制度の守り方』をご覧いただきたい。
今回、指摘しておきたいのは、1988年度までの旧税制の下で、日本は世界競争力1位を獲得していたことだ。
ところが、1989年度の税制改革(消費税導入、所得税率+法人税率引き下げ)の翌年度に税収がピークをつけ(更新は2018年度)、経済規模は消費税率を5%に引き上げた1997年度にピークを付けた(更新は2016年度、現在は1997年度よりも小さい)。
世界競争力ランキングでは、1996年までは5位以内だったが、1997年には17位まで急低下した。景気悪化、税収減が示唆する使える資金の不足は競争力の低下を伴うことが分かるのだ。
日本では消費税を導入しその税率を上げる毎に、景気が悪化し、税収も減ってきた。消費税収は確実に増えているものの、他の税収が大きく減ったからだ。
2016年度以降の盛り返しは金融、財政両面からの膨大な資金供給によるものだが、マネーサプライを1989年3月末から19.7倍、1997年3月末から13.6倍に増やし、財政赤字を賄う国債残高が1990年度から6.2倍になったにも関わらず、経済規模、税収共に、ほぼフラットに戻ったに過ぎない。
Next: なぜ世界で最も消費税率の高いデンマークが競争力首位?日本の問題点
なぜ世界で最も消費税率の高いデンマークが競争力首位?
一方で、スウェーデンと共に世界で最も消費税率の高いデンマークが、世界競争力ランキングで初めて1位となった。デンマークは2021年の3位から1位に上昇。スウェーデンは2位から4位に後退した。
日本では消費税が景気後退と税収減、競争力低下を生んだのに、日本より消費税率が高いデンマークはすべてその反対となっている。
この疑問点に対する私の見方は上記の拙著に詳しいが、ここでは2つのチャートをご紹介しておきたい。
1つ目、下図02は、デンマークの2019年の税収構造だ。棒グラフの数値は、それぞれが政府の総税収に占める割合だ。
左から所得税収(赤がデンマーク、青はOECD平均)、法人税収、社会保険料、給与税収、固定資産税収、消費付加価値税収、付加価値税を除く消費税収、そして右端がその他となっている。OECDは社会保険料も税収だと見なしていることが分かる。
このうち、景気の動向に比較的左右されない、いわゆる安定財源だと見なせるものが、社会保険料、固定資産税収、消費税収で、OECD平均は総税収の65%、デンマークの場合は34%であることが分かる。
特筆すべきなのは、所得税収が52%と財源の半分以上を占める反面、社会保険料がゼロであることだ。世界的に有名な高福祉国家デンマークの社会保障制度は、所得税収で賄っているのだ。
2つ目、下図03は日本の2019年の税収構造だ。
日本の安定財源は69%と、デンマークの2倍以上だ。政府は景気の動向に比較的左右されない安定財源を導入したことで、景気が悪くなった。また、景気が悪くても一定の税収確保が出来るようになった反面、景気が良くても税収がそれほど増えなくなった。
結果的に、新税制になってからは税収が増えず、消費税率を5%に引き上げてからは経済も成長せず、競争力が低下することになったのだ。
「税制」が日本経済の足かせに
安定財源とは、国民の生産能力を信頼せず、個人や企業の非常時にも一定の財源を確保しようとするものだ。一方の所得税や法人税(所得税の企業版)は、利益という生産能力の果実に課税する。
消費税や社会保険料が低く、所得税や法人税が高いのは、ビジネスの初期コストを引き下げて、成長力を促した上で、その果実に課税することを意味する。
つまり、デンマークの税制は国民を信頼した税制だ。その結果、経済が成長し、税収が増え、社会保障制度が充実した。
一方、日本の税制は、国民がもたらす成果を待つことをせず、最初に納税ありきとしているのだ。
Next: 日本が世界一だった頃に「税制」を戻せば、経済も復活する
税制を変えることなしには、日本全体が下げ止まらない
日本の税制もかつては国民の生産能力を信じていた。日本の税収が金融政策や財政政策の助けを借りずに60兆円を超えた1990年度の所得税収と法人税収の割合は、合わせて総税収の74%を占めていたのだ。
そして、この時は世界競争力ランキングでも堂々の1位だった。そして、年金を含む社会保障制度も、現在よりも充実していた。
社会保障制度の維持に必要だとされた消費税を導入したことで、景気が悪化し、税収も減った。国は余裕がなくなり、社会保障制度は劣化し、社会保険料も上げ続けることになった。教育、インフラ、すべてが劣化し、世界競争力は下げ続け、先進国はおろか、日本が開発途上だと見なしていた国々よりも低位にいる。
日本の民間にはまだ優れたものがたくさんあるとは思うのだが、国民を信じない政府の税制が足を引っ張っている。
私は、税制を変えることなしには、日本全体が下げ止まらないと見ている。
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『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2022年6月27日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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