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岸田政権「国民皆歯科検診」が救いたいのは増えすぎた歯医者さんか、国民の健康か=原彰宏

すべての国民が毎年「歯科検診」を受けることを義務付ける「国民皆歯科検診制度」の導入が検討されています。これに違和感を感じる人もいて、かつての「日歯連闇献金」事件と重ねる意見も。いったいどんな制度になるのでしょうか?コンビニよりも多いと言われる歯科医を救うためのものか、きちんと国民の健康を守るためのものになるのか。その中身を検証してみます。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

【関連】日本国民はまるで政府のATM。給料の半分近くを税金と社会保険料で毟り取り、30年の失政のツケを私たちに払わせている=鈴木傾城

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年6月27日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

岸田政権政策で明記された「国民皆歯科健診」

表現の問題ですが、「検診」は特定疾患の診査・診察のことで、「健診」は総合的な健康のチェックのことです。歯科で言う「検診」とは、むし歯、歯周病の診査・診断ということになります。

ちなみに、医療業界では、歯科以外の、内科、外科、産婦人科などのいわゆる「一般科」と呼ばれる「医科」と、歯及び口腔内治療を専門とする「歯科」に分かれていて、それぞれ日本医師会、日本歯科医師会と学会も分かれています。

保険点数と言われるものも、「医科」と「歯科」では体系が異なります。

「歯科点数が低い」とよくいわれますが、学会の政治家へのロビー活動の違いから生じるものだとも言われれていて、かつて橋本龍太郎元総理や野中広務元自民党幹事長や青木幹雄元自民党参院幹事長への献金疑惑「日歯連闇献金事件」の背景にも、日本歯科医師会による歯科点数引き上げのロービー活動ではとされていました。

医療業界としては、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護師協会、日本薬剤師会などがありますが、いずれも自民党支持母体であるとされています。

全日本病院協会ホームページに「関係団体リンク」があります。概ね医療関係団体がここで把握できるかと思います。「病院」ですのでクリニックの歯科は掲載されていません。
※参考:医療関連:関連団体リンク – 公益社団法人全日本病院協会

この流れで、今回いきなり「全国皆歯科健診」という政府が歯科健診を奨励するようなメッセージが出されていることに違和感を感じる人もいて、かつての「日歯連闇献金」事件と重ねる意見も見られています。

雑誌「デイリー新潮」記事では、岸田政権「骨太の方針2022」も盛り込まれたこの政策を“「骨」ならぬ「歯」に関するある文言が盛り込まれた”と表現して、選挙対策の疑惑を指摘しています。

確かに、菅内閣での「骨太の方針」にも、健康意識を高めることで、健康診断促進により医療機関にかからないようにする、いわゆる「未病・予防」が、ひいては逼迫している医療給付費を抑えることに繋がるといった文脈は、理解できなくはありません。

今回、岸田内閣における「骨太の方針」では、わざわざカッコ書きで「いわゆる国民皆歯科健診」という文言が差し込まれていることに世間が注目したのです。

デイリー新潮記事では、歯科医師連盟推薦の山田宏氏が今回の参議院議員改選組であることを指摘しています。
※参考:選挙対策が裏目の「日歯連」 骨太方針に「国民皆歯科健診」をねじ込んで批判殺到 – デイリー新潮(2022年6月11日配信)

自民党内に「国民皆歯科健診実現議連」(会長・古屋圭司、事務局長・山田宏)があるようで、それこそロビー活動により、今回のカッコ書き一文が差し込まれたように感じますね。

ちなみに古谷圭一氏は衆議院議員で、自民党政調会長代行、憲法改正実現本部長であり、第二次安倍内閣で国家公安委員長を勤めていました。

偶然かもしれませんが、今回の参議院選挙の目玉なるであろう参政党共同代表の吉野敏明氏は歯科医ですね。保守系政党で、れいわ新選組同様、街頭演説とネット活動で支持を集め、かなりの個人献金も集め、今回の選挙で議席を確保するのではと言われています。

テレビではほとんど取り上げられませんが、参政党は、今回の参議院選挙で政党要件をクリアしてくると言われています。

「国民皆歯科健診」政策を政治的な視点から考察しても憶測でしかないですが、文面を真正面から捉えて、その内容を見てみましょう…。

Next: 得するのは誰か?「国民皆歯科健診」その中身



「骨太の方針2022」

岸田政権が掲げる日本の将来ビジョンですが、5月31日に経済財政諮問会議から原案が示され、6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」(骨太方針2022)が閣議決定されました。

「人への投資」や「グリーントランスフォーメーションへの投資」などへ中長期的・計画的な財政支出を行う旨が明記され、政府部門が先導し、官民一体での投資促進を図るとしています。

専門家によれば、米欧でも志向されている「大きな政府」の世界潮流へ、日本も舵を切ると見られています。

骨太方針は「これまでの財政健全化目標に取り組む」としており、政府の掲げてきた2025年度の基礎的財政収支黒字化目標は生きている形になっていて、これが、参議院選挙後に、岸田政権は増税するのではという思惑に繋がるようです。

経済優先と財政再建、ある意味バッティングする2つの政策を同時に掲げることになりますが、やはり経済立て直しが迫られている課題であるでしょうから、財政再建目標は直近では動けないという見方もあります。

増税は景気の足を引っ張ることは、間違いないですからね。

「骨太の方針2022」の資料(PDFファイル)は以下のページで見ることができます。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

資料は「第1章」から「第5章」からなっていて、具体策は以下にあります。

第2章 新しい資本主義に向けた改革
第3章 内外の環境変化への対応
第4章 中長期の経済財政運営

今回のテーマである「国民皆歯科健診」は「第4章 2,持続可能な社会保障制度の構築」の中に書かれていて、この項目の最後の段落で下記のように書かれています。

全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実、歯科医療職間・医科歯科連携を始めとする関係職種間・関係機関間の連携、歯科衛生士・歯科技工士の人材確保、歯科技工を含む歯科領域におけるICTの活用を推進し、歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。また、市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する――

出典:経済財政運営と改革の基本方針2022 について(PDFファイル)- 内閣府

ずいぶん、歯科領域の説明が充実していますね。

「骨太の方針2022」の内容検証は、いろんなメディアでも行われていて、上記のPDFを読んでご理解いただければと思います。ここでは、他のメディアでは取り上げない視点で、この「全国皆歯科健診」について検証したいと思います。

Next: コンビニより多い「歯医者さん」、皆歯科検診が実現すれば経営安定?



歯科クリニックの現状

いまやコンビニよりも“歯医者さん”の数のほうが多くなっています。

ある県では、歯科医に関しては、“開業”件数と“廃業”件数が同じぐらいになっているとのことです。

医科の場合、多くは医学部卒業後は医局に残るか、大学病院や総合病院に勤務するケースが多いように思いますが、歯科医の場合は大学医局がなく、大学に残るのは稀で、総合病院にも歯科という診療科目を設けているところは少なく、開業するしかないという現状があります。

歯科医育成で急激に歯科大学を増やしたこともあり、大学の数に比例して開業医が増える構図になっています。歯科クリニックが生き残るために、患者さんを取り合っているのが現状です。

道を歩けば“歯医者さん”にあたる…。

患者さん確保で大事なのは「メンテナンス」「予防・未病指導」です。実際の治療の方が利益は上がりますが、患者さん確保のために普段からクリニックに定期的に通ってもらうためには、ブラッシング指導などのメンテナンスで、患者さんを囲い込むことが大事になってきます。

日曜日に待合室を開放して「虫歯予防教室」を開いたり、中には「ワイン教室」を開いて患者さんを確保しているところもあります。涙ぐましい努力ですね。

ある歯科クリニック院長は「歯科には危機感がありサービス業に徹する心構えがある」と、医科よりも有利だと話していましたが、それも人それぞれでしょうけどね。

まあ、クリニックは経営センスが問われるようになりましたね。そんな状況において「全国皆歯科健診」は、歯科クリニックにとっては「願ったり叶ったり」の政策ではないでしょうか。ネット上では、「全国皆歯科健診」を支持する歯科医のサイトも見られます。

また、東京都や神奈川県では、保険診療をやめて自由診療治療専門のクリニックも増えてきました。保険診療には歯科治療での限界があり、もともと点数が低いので、腕と経営能力があれば、自由診療で勝負したいと考える歯科医も多くいます。

歯科クリニックの現状は厳しい…。医科と歯科では、ずいぶん様子が異なるようです。

唾液でがん検診、咬合治療で腰痛改善

国民が高齢になっても多くの歯を残し、健康寿命を延ばすことで、医療費の抑制を目指す…。

読売新聞では、歯周病と心筋梗塞等の関係を紹介しています。歯周病は、歯を失うリスクが高まるだけでなく、心臓病や糖尿病に影響するなど、全身の病気との関連が指摘されています。
※参考:全国民が生涯通じて歯科健診、「骨太の方針」で検討…健康寿命を延ばし医療費抑制 – 読売新聞オンライン(2022年5月31日配信)

現在、歯科健診が義務付けられているのは、1歳半と3歳、小中高生のほか、塩酸などの化学物質を扱う労働者などに限られています。読売新聞は「国民皆歯科健診」実施には意義があると主張しているのでしょう。

歯科クリニックの待合室に「唾液検査で早期にがん発見」というパンフレットが置いてあるのをお気づきでしょうか。

「サリバチェッカー(SalivaChecker)」という検査があります。唾液成分の大部分は血液由来のため、がん細胞から染み出す代謝物質は血管を通って唾液中に染み出します。その唾液をサリバチェッカーで解析することで、がんの疑いがあるかを判定するようです。そもそもだ液を採取するだけの手軽な検査で痛くないですし、1度の検査で6つのがん種ごとに現在のがんリスクを判定できるそうです。費用は保険診療外で、医療機関によりますが、2~3万円ぐらいでしょうか。

「咬合治療」も、単にかみ合わせを矯正するだけでなく、全身症状を取り除く効果も認められています。

Next: かみ合わせが頭痛や腰痛の原因に?国民の健康は守られるか



咬合治療と腰痛

かつて、顎関節症が話題になりましたよね。

心身症の1つとも捉えられていましたが、顎関節症患者のなかで約7割の患者に頭痛がみられるそうで、また逆に、頭痛患者からみた顎関節症の発症疑いも考えられるようです。

ご紹介した「サリバチェッカー」や「咬合治療」は保険適用外で費用もかかりますが、歯科健診でいろんな症状を発見することができれば、歯科領域から治療方針を立てることもできそうです。

それは新たなビジネスチャンスに繋がるかもしれません。

今回は「骨太の方針」から、センセーショナルな話題となっている「国民皆歯科健診」について「なんで歯科健診なの」という観点で考察してみました。

この政府メッセージと歯科クリニックの現状をかけ合わせて、見えてくるものはなにかを考えてみました。

こんな視点も、あってもよいですよね。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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