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参院選自民大勝利は日本にとって黄金か鉛か?岸田政権「無選挙の3年」に潜む危うさ=山崎和邦

自民党の大勝利に終わった参院選で、今後3年間は無選挙となる可能性が高い。現行憲法下では「無選挙の3年」は2回しかなかったが、その2回とも日経平均は大きく上昇した。岸田政権は、この3年間を「黄金の3年」とすることはできるのだろうか?(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年7月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に今購読をどうぞ。

岸田政権の「無選挙の3年」に潜む危うさ

現行憲法の下で74年間、3年ごとの参院選の途中に一度も衆院選がなかった「無選挙の3年」は過去に2回ある。

一度目は1980年6月~83年6月までであり、その間、日経平均は6,000円半ば~1万円の大台乗せの絶妙の期間であった。二度目は1986年7月~89年7月までで、その間の日経平均は1万7,000円台半ば~バブルの8合目3万4,000円台になった。

ともに政策が良かったからそうなったわけではなく、たまたまそういう期間に遭遇したに過ぎないが、結果的には「黄金の3年間」と呼ばれ「無選挙の3年は黄金の3年」と言われてきた。

しかし、岸田首相が今年7月の参院選で「黄金の3年」を手中にしても、その後の岸田政権のあり方によって「黄金の3年」は「鉛の3年」とならないとも限らない。ツキに恵まれて好調を維持してきた政権が、経済の悪化や政治の不安定化や支持率低下などで、一転して逆風に見舞われ、末期状態に陥るケースがないとは限らない。この入り口に立った岸田首相にまず必要なのは、何よりも自分自身の明確な理念や哲学に基づく、政権の達成目標の明示とその手段であろう。

岸田首相は参院選が終わるまでは安全運転第一に徹し、路線は不明瞭で時々「○○という選択肢もあると言っただけだ」と曖昧化させた。「黄金の3年」を手中にしても、この状態が続けば、これは「泥沼の3年」となり「鉛の3年」となる。今からの「岸田首相の3年」は、日本の経済は政治とともに死んだとならないための、歴史上決定的な3年となるだろう。

が危ぶまれる参院選後の岸田人事

参院選を相撲に例えるならば、呼吸が合わなくても、どんな不利な状況であっても、期日が来たなら立ち合いを「待った」することはできない。そこで「参院選には魔物が潜む」と昔から言われてきた。これまでの参院選で与党側を窮地に陥れたのは、消費税の年と年金だった。今回は物価高が加わった。「参院選には魔物が潜む」というのは、衆院選と違って、何があろうと3年ごとに必然的にやらなければならないからだ。衆院選のようにタイミングを計って、野党がバラバラで与党が有利な時に解散選挙をするというわけにはいかない。参院選は機械的に行なわれる。相撲で言えば「待ったなしの立ち合い」だ。

政治家は「本当のことを喋ってはいけない」ことになっている。「本当のこと」をしゃべると、それは「失言」ということになっている。麻生太郎氏がその常習犯だ。彼は思ったことを口にする人だから率直な人だということにはなるが、政治家は率直では駄目だ。

参院選後の岸田人事が危ぶまれる。

Next: 「新しい資本主義」の投資枠拡大には期待できる



「新しい資本主義」の投資枠拡大に多少の期待

岸田首相の「資産所得倍増プラン」は、基本的には良い着想であり、資産所得拡大を通して消費が増えるはずであるから、併せて賃金上昇政策を進めれば、GDPの6割を占める消費が増えるはずであるから、GDPは間違いなく成長幅を増す。高度成長期の再現も夢ではない。

しかし、岸田首相は資本市場の流通市場に対して無知であることが明白であるから、ブレーンがちゃんとしていなければならない。

個人資産を、全世代的に貯蓄から投資へシフトさせる。これは大変良いことであり、個人金融資産のうちの、現預金に占める比率が1000兆円もあるということは、先進国で日本が唯一の国である。それをむしろ長所として生かして、その分のたとえ5%でも証券市場に流入させれば、アベノミクス大相場の期間の外国人投資家の買い越し額(買った金額-売った金額)の2倍を超えることになる。そうなれば、本稿が以前から言っていた「日本株式市場の地殻変動」が起こる。日経平均は万単位で何度も上に変わる可能性はある。日経平均4万円や、5万円は、地殻変動を起こせばそれだけであり得る。

そうすると、金融資産を持つ者と持たざる者との格差が拡大するではないかという批判は当然起こる。有効な政策には副作用が起こる。そういう細かいことに気を配る必要はない。岸田さんは「人の話しを聞く特技」と言っても、そういうことに耳を傾けていたら物事は進まない。

鄧小平が40年以上前に言ったように「余滴が裾野に広がる」という考え方を通した方がいいだろう。ただし、個人金融資産を投資へシフトさせると言っても、株式売買が盛んになるだけではあまり意味がない。これは流通市場の売買が盛んになるだけであって、喜ぶのは証券会社と証券取引所だけだ。時価総額が増えるようにしなければならない。ということは、企業の在り方を改善しなければならない。幸い、日本企業の稼ぐ力は、今、過去最高に高まっているとも見える。

「法人企業の売上高経常利益率は戦後から2012年頃まで1~4%で推移していたが、2021年は8%を超える見通し」

-出典:武者陵司著「日経平均は4万円になる!」(宝島社新書)

そういう状況であるから、日本の最悪期は10年前に終わったということを、資家にも投資家以外の国民にも信用させる。韓国以下になった低賃金を改めて、円安は日本企業に有利であることを知らしめる。世界に類のないようなビジネスモデル(例えば、平凡ながら総合商社などはそれだ)を国民に知らせしめ、「感情」よりも「勘定」を重んずる理性的に明るい将来を国民に理解させる。その具体策を「NISA」の拡大などというママゴト的な小規模なことでなく、大幅にいくらでも考えられるはずである。

預貯金「1,000兆円」をGDPの流れの中に戻す

それは預貯金を投資に向けることである。投資(I)が貯蓄(S)とイコールになることを経済学で「IS(アイエス)バランス」と言うが、貯蓄である間はGDPの流れの中からの「漏出」であり、意味がない。これを投資に向けなければいけない。ところが、その分が先進国の中で日本は一番遅れている。株式投資に対する分がアメリカで現預金の中の37%に対して、日本は11%にしか過ぎない。イギリスとドイツも20数%ある。これにはそのように国が仕向けたという制度もある。

元々、400年前に欧州から新大陸に渡った投機家たちが、アメリカを作り、その移民たちの国であるから、アメリカは発生史的に特別な意味があったとはいえ、アメリカもイギリスもドイツも、全ては国家に政策があった。

ところが、その国家の政策といっても、健康寿命から平均寿命までの平均9年間の老齢者が持っている現預金は、150兆円ぐらいあると推定されている(日銀の資金循環統計)。その150兆円弱を相続しやすい新制度を作り、投資市場に向かわせることが肝要である。上場企業のほとんどが実行している、従業員持ち株プランなどの優遇も、その一つだろう。アメリカで言う401kである。

Next: 岸田首相は人口減少問題の解決法を持っているのか?



人口減少には打つ手はある

また、人口減少に対する政策も迅速に動かしていく必要があるだろう。

2053年には日本の人口は1億を割り込む。65歳以上の人口が4割に達する。ところが、労働人口が減るということは、一人当たりの生産性を増やすということで、いくらでも補える。これを論理的に説いたものが「人口と日本経済」(吉川洋著、中央公論社、2016年8月刊)であるが、人口を増やす方法はある。移民を嫌う日本にとっては出生率を増やすしかない。

週刊東洋経済誌7月9日号の特集は「人口減サバイバル」である。筆者に言わせれば、この特集には、決定的な方策の話が出てこない。人口減に対する方針、は筆者に言わせれば二つある。

一つは8兆円を使って、出生一人に対して1,000万円を配ることである。3年間で3人出生したら3,000万円与える。予算は8兆円で済む。

二番目の方針は移民である。この移民は別の稿で述べたように、明確なルールを作って、そのルールに対する宣誓をさせた上で、宣誓を破った場合の厳罰を事前に明示した上で、どんどん移民を受け入れる。

違反者は受刑者として単純労働をさせて、幾らかでもGDPに資する。入国者対しては特定の集団をつくらず、日本文化に溶け込むことを条件とする。そして仲間同士で話す時も、日本語を使うようにさせる。文化風俗は日本のそれと調和させる。

このようなことで基本的人権を侵害するという批判もあるかもしれないが、アメリカではそのようにしているようだ。

人口が減少しても一人当たりの生産性を増やせば、GDPは減らない。よって、一人当たりのGDPも減らない。これは考えようによっては縮小均衡の考え方である。人間を株券に例えることで批判はあるだろうが、敢えて言えば、流通株数を減らして1株当たり利益を増やすという、自社株買いの考え方と同様である。問題を含みながらも緊張度を高めて活性化した社会を作るには、移民政策の導入が必要であることを、世論が受け入れなければならないのではないかと思う。

しかし、移民政策は、8兆円を配布して人口増加を図るというよりも、今の日本の世論形成はもっと難しいだろう。低賃金では日本の魅力は薄れる。したがって、移民も不可能になる。ゆえに、持続可能な移民政策を取るためには賃金を上げることも必須条件となる。

移民受け入れは、文化・風土の緊張と価値観の多様性を同時に生み出す

アメリカは出生率が2.0倍よりもずっと低い11.4%%あるから、本来は人口減少国である。ところが、アメリカの人口は少しずつ増えている。移民を毎年入れているからだ。これがアメリカを活性化させる大きな要因になっている。移民を受け入れることで識字率は下がる、人種間の摩擦が生じる、犯罪も増えるかもしれない、等々のマイナス面を意識しながらも、アメリカは常に移民を受け入れている。ここがアメリカの凄みだと言える。

400年前に移民で成立した国であり、それの子孫が今の指導者であるから、基本的な国の成り立ちが違うと言ってしまえばそれまでだが、日本は移民政策を採用しておらず、外国人労働者の入国に永住許可を与えていない。単純労働者を受け入れず、専門的技術分野以外の人材については短期滞在を前提としている。価値観の多様化を容認し、移民を容認することができるかどうかが問題である。

もちろん、下記のような移民制限の条件を付けてもいいことは当然である。

1)特定のコミュニティで生活することは止める。独自社会を作らせない。

2)公共の場では外国人同士でも日本語で話す(ウズベキスタンから毎年200人の国費留学生があり、東大・筑波大学・一橋・早・慶に入学させているが、彼らは仲間同士で話す時も日本語で話す)。

3)勤勉であり、生活等の社会の風俗に従う。

4)最初に日本国憲法のもとに守られていることを知り、市民としての義務を守ることを誓わせる。

5)そして、今まで育った祖国への忠誠を、日本に入国した時に放棄させる。

このようなことは当然、アメリカでもやっている。具体的なことを何も考えずに、移民に無闇に反対するのは合理的ではない。移民を受け入れることによって、文化・風土にある種の緊張をもたらし、人口減少を防ぐことができる。

続きはご購読ください。

<山崎和邦の投機の流儀 vol.527 7/10号>

第1部:当面の市況
(1)当面の市況コメント「週明けは小確りで始まろう」
(2)週末の安倍元首相狙撃事件
(3)週末は、所謂「幻のSQ」で終わった。
(4)日本株の「買い支え役」が入れ替わった。
(5)経済運営に対する自信をなくしたFRB
(6)先週前半の市況は、一部の銘柄に売買が集中して、相場の先行き不透明感を反映した。
(7)今の市場と対峙するスタンス
(8)善かれ悪しかれ、人が投資市場で行ってきたことをつなぎ合わせてみれば、そこに一つの人間像が出来上がる。それが自分なのだ。
(9)東電の「催促相場」=東電の筆頭株主は何をモタモタしているのか?
(10)食品の6割が値上がり
(11)「健全なインフレ」は来ていない。
(12)日経平均では市場の細部は分からない。
(13)当面の市況は、日経平均だけで見ていれば弱含みボックス相場に過ぎないが、個々の銘柄別には「踏み上げ相場」が現出している─「悲観の中で生まれ、疑惑の中で育ち・・・」
(14)大きな潮流に乗らなければ儲けるのは難しいが、ゲリラ資金を稼働させるには個々の銘柄の動きを見ないと判らない。

■ 第2部:中長期の見方
(8)在庫を起動点とする短期循環
(9)「日経平均、業績相場で年末3万円」説
(10)元・FRBの名議長ジャネット・イエレン、現財務長官に退任観測が浮上
(11)ウクライナ侵攻は「殲滅戦」ではなく、「消耗戦」に持ち込みたい米中
(12)アメリカ悲観論は正しくない。中国・ロシアの将来は暗い。
(13)中国の解けない呪縛、習一強に試練の夏、世界の火種に
(14)中国経済停滞に伴う諸影響
(15)「高圧経済と経済政策論議」

■ 第3部:読者との交信蘭
沖縄の読者W様との交信

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  • 山崎和邦の投機の流儀vol.526(7/3)
  • ★★★ 2022年7月分一覧 週報『投機の流儀』-PDF形式-(7/3)

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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年7月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に購読をどうぞ。

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年7月10日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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