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労基法違反が7割、転職は禁止。劣悪な環境と低賃金で働く「外国人技能実習生」という名の“奴隷制度”その実態=神樹兵輔

日本では約30年にわたり、開発途上国の外国人を対象とした「技能実習生制度」という日本国内での労働を認める制度があります。しかし、実態は人手不足を補うための「移民制度」の抜け道で、就労した実習生は転職の自由もなく、労基法違反の過酷な労働環境で低賃金で働かされています。政府は即刻「技能実習生制度」を廃止すべきです。『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』)

※本記事は有料メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年7月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:神樹兵輔(かみき へいすけ)
投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。

過去最高の人数まで増えた外国人技能実習生

今回のテーマは悪名高き「低賃金・奴隷労働の外国人技能実習制度」についての闇をえぐっていきます。

外国人技能実習制度とは、バブルが崩壊し金融危機へと向かう途上の1993年に法制化され、その後、幾多の改定を重ねてきた、開発途上国の外国人を対象とした制度です。

2022年で発足以来、足掛け30年にもおよぶ制度です。

この制度ゆえに、日本で働く外国人技能実習生は年々増え続け、2011年には13万人だったものが、2020年末にはコロナ禍にも関わらず40万2千人と3倍にまで増え、過去最高になっています。

当初は中国人が圧倒的に多かったものの、2016年からはベトナム人の数が中国人を抜き、今ではベトナム人が10万人ほどでトップです。

賃金上昇が著しい中国人のニーズは薄れ、毎年3万人台の横ばいで推移し、むしろ減少傾向です。

3位はインドネシア人の約1万6千人、4位がフィリピン人の約1万4千人、5位がミャンマー人の約7千人弱と続きます。

転職はできず最低賃金で奴隷労働

この制度の目的には「開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進すること」とあり、「労働力の需給の調整手段として行われてはならない」などと規定されています。

しかし、これまでの経緯では、それらがまったく機能せず、形骸化している現状があります。

要するに、中小・零細事業者の人手不足対策が、この制度発足時の政府の本音そのものだったからです。

技能実習制度に応募する外国人の本音も、当然ながら「出稼ぎ収入」の獲得が目的というのが主流です。

政府は、人手不足解消のための「移民制度」導入では、国民の抵抗や反対が強いので、最長5年で帰国させられる(概ね2~3年で帰国)、こんな酷い制度を作ったわけです。

外国人技能実習制度の内容は、出身国では修得が困難な技能の習熟や熟達を図るものとされているものの、多くは単純労働で、日本人労働者が嫌がる3K労働(キツイ・キタナイ・キケン)にすぎません。

技能実習生の賃金は、全国都道府県の最低賃金以上(2021年の時給最高は東京1,041円、最低は沖縄820円、全国平均は930円)とされていますが、これを守らない事業者も少なくないのです。

また、原則として3年間「転職」が禁止されているため(倒産の場合は認められる)、低賃金で自分に向かない作業や、どんなに時間外労働が多い職場でも、その業務に束縛されます。

こんな理不尽な制約は、「職業選択の自由」を奪う明らかな憲法違反なのです。

外国人技能実習生が働ける業種にも制約があります。

農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械、金属、その他と大きく分けて7業種82職種です。いずれも日本人労働者が就業してくれず、人手不足の仕事ばかりです。日本人が「やりたがらない仕事」を外国人に押し付ける形なのです。

そのうえ、劣悪な労働環境で、寮などの住環境(4・5平方メートル以上)もお粗末なのに、家賃や家電製品のレンタル代などとして高額の料金を賃金から差し引き、結果的にものすごい搾取が横行しているのが実情です。

そのため、技能実習生の賃金は、手取り10万円もあれば「オンの字」という状態に陥っています。ここから母国に仕送りをしたり、母国での借金の返済に充てるというのですから、日本ではずーっと苦しく厳しい生活を強いられます。

Next: 日常的なパワハラ、セクハラ、暴力から逃げ出せない実習生の実態



雇い主や日本人同僚からのパワハラ、セクハラ、暴力も日常的

さらに、雇い主や日本人同僚からの罵倒やパワハラ、日常的な暴力も頻発しており、中には雇い主からの性暴力まであるのです。

妊娠が発覚すると帰国させられるので、こっそり産んだ赤ちゃんを殺して土中に埋め、逮捕された女性実習生もいました。

こうした劣悪な労働条件ですから、失踪する実習生の数も半端ではありません。

失踪すると、在留資格がなくなるため、即「不法残留者」となります。2020年1月の日本の不法残留者数は8万2,892人ですが、うち技能実習生の不法残留者数は1万3,079人にのぼります。

ちなみに技能実習生の失踪者数は2019年に8,796人でした。劣悪労働環境で、転職の自由もなければ、こうなるのも必然でしょう。

2020年以降は、コロナ禍で帰国便もなくなる中、倒産した中小・零細事業者や、実習生を解雇するところが続出しました

労基法違反は約7割、トンデモ事例のオンパレード

生活に困窮する外国人技能実習生は、再雇用の場も容易に見つけられないため、失踪する事例を激増させたのです。

住居を追われ、路上で虫や草を食べる生活レベルまで困窮した元実習生は、仲間とともに養豚場の豚を盗んだり、自分のパスポートを担保に犯罪組織から金を借り、そのパスポートが悪用されて携帯電話契約が成され、数百万円の物品詐取に使われたりしています。

困窮した元実習生は、個人情報もへったくれもない状況におかれたからゆえに、パスポートでさえ売り渡します。セーフティネットもなく、民間へ丸投げの外国人技能実習制度は、「犯罪誘発制度」といっても過言でないのです。

ともかく、外国人技能実習生を受け入れる中小・零細事業者は、まさしくやりたい放題なのです。

「建設作業」で受け入れておいて放射能汚染地域の除染作業をさせたり、時給400円で残業代は全てカットとしたうえに、過労死ラインの月80時間を超える残業を強いていた事例もあるのです。

働かせている時には、パスポートを取り上げたり、逃げないように外出禁止にしたり、スマホやパソコンを取り上げて、横の連絡を取れなくさせる事業所まであるほどです。まさしく奴隷扱いなのです。

厚労省は2020年に外国人技能実習生などからの相談や通報を受け、労働基準監督署によって全国8124事業所への立ち入り調査を実施しています。

その結果、職場の安全管理義務違反や労基法違反などの事業所が、全体の70.8%に及んだと発表したのですから驚かされます。

安全義務違反が1974事業所(24.3%)、違法な時間外労働が1,275事業所(15.7%)、残業代の未払いだけでも1,261事業所(15.5%)もあったのです。重大な人権侵害事例のオンパレードだったのです。

安全ベルトも装着させずに危険な高所作業を強いたり、金属加工業務で防塵マスクを付けさせないなど、トンデモ事例のてんこ盛りだったのです。

Next: 年収1,000万円をもらい、技能実習生を保護しようとしない日本側の監理団体役員



機能不全の外国人技能実習生を保護制度

母国で日本への外国人技能実習生に応募するのは「出稼ぎ収入」を得たいからです。

それは母国での賃金水準が低いため、日本での賃金が、途方もなく高く、魅力的に映るからなのです。

たとえば2020年の日本人の平均年収は433万円(正規・非正規・男女含む)ですが、ベトナム人の平均年収は約40万円ですから、10倍もの差があります。

しかも、実習生に応募するのは、賃金水準の高いハノイやホーチミンなどの都市部からでなく、貧しい農村部の人が多いので、年収が20万円を切っているケースも少なくないのです。

一見すると、日本での1か月分の賃金が、ベトナムでの年収分に匹敵するとも見えるため、大いなる錯覚を覚えてしまいます。

ベトナムと日本の物価水準を考慮していないからです。

母国の送り出し業者は、実習生になりたい人を田舎から多数集め、日本から採用面接に来る監理団体(実習生受入れの取りまとめ団体)の役員や、中小・零細の雇用事業主を接待し(飲食や性接待が常態化)、雇ってもらえるように働きかけます。

採用が決まれば、送り出し業者からの1ヶ月程度の研修(日本語や生活習慣講習など)を受けてから日本へ送り出され、日本の監理団体でも1か月程度の研修(日本語学校などに丸投げする)を受講させ(合計で2カ月間程度の講習が必要)、日本の事業者の下での就業となるわけです。

そのため、実習生に採用された人は、こうした費用の補填分として、50万円から100万円位の借金をし(平均80万円の借金額)、地元の送り出し業者に支払うシステムになっています。

結局、最初から実習生を食い物にしている構図で、母国の送り出し業者や日本側の受入先の監理団体や事業者たちは、自分たちの負担すべきコストまで(渡航費や滞在費など)、実習生に払わせているカラクリなのです。

日本側の監理団体というのは、外国人技能実習生を雇いたい日本の中小・零細事業者からの要請を受けて、外国人技能実習生を束ねて斡旋し、技能実習生の管理や保護監督を行う事業協同組合のことをいいます(許可制)。

しかし、こうした日本側の監理団体にとって、中小・零細事業者は、年間の組合費や実習生受け入れ費用(一人あたり年間数十万円)を毎月支払ってくれる大事なお客さんです。

ゆえに監理団体は、月に一度の中小・零細事業者への訪問チェックでさえ、事業者が実習生に酷いことをしていても、見て見ぬふりをしがちなのです。言葉も通じないので、ほったらかしになりがちです。しょせん技能実習生の保護など眼中にないのです。

ゆえに、外国人技能実習生は誰からも保護されない、極めて無責任な制度下におかれているといえるのです。

監理団体は、非営利が原則ですが、役員の給与については、制限がありません。そのため、儲かっている監理団体では、役員メンバーの年収が軽く1千万円を超えているところまであるのです。

また、法令違反のない監理団体は「優良な監理団体」に認定されますが、そうなると技能実習期間を3年から最長5年に延ばせ、技能実習生の受け入れ人数枠も増やせる制度もあります。しかし、こうした「優良な監理団体」に認定された監理団体はわずかなのです。

アメリカ国務省は人身売買と批判

こんな奴隷制度のような日本の技能実習制度は、2010年時点で、劣悪な強制労働の温床になっているとして、アメリカの国務省からも「人身売買」と批判されています。

また、日本弁護士連合会も2011年に外国人技能実習制度の早急な廃止を求める意見書を日本政府に提出しています。

外国人技能実習生になった開発途上国の人たちは、日本で苛酷な扱いを受けて、当初母国での「日本大好き! 憧れの国!」というイメージから「日本大嫌い! 最低の国!」と記憶することになるでしょう。

国際貢献を謳っておきながら、奴隷労働を強いるのですから、外国人技能実習制度は、日本の評判を国際的にも著しく貶める制度といってよいのです。

ただちに廃止すべき制度なのに、30年も続けてきたのが日本政府だったのです。

日本の国益を損なう制度なのに、国会議員たちはいったい何をしてきたのでしょうか。

技能実習生の「痛み」を感じずに、「見て見ぬふり」をさらに続ける気なのでしょうか。

Next: 性懲りもなく「奴隷制度」を拡充した日本政府



性懲りもなく「奴隷制度」を拡充した日本政府

しかも、日本政府は、新たな在留資格として、2019年4月に、この奴隷制度をさらに拡充させました。

せっかく仕事を覚えた外国人技能実習生を、概ね2~3年で帰国させてしまうのはもったいないという声に押されたからでした。まさしく人手不足対策としてて取り繕う策なのです。

中小・零細事業者にとっても、3年で実習生に帰国されると、新たな代わりの外国人技能実習生を雇い入れ、1から仕事を覚えてもらうべく、作業を教えていくのは骨が折れます。

そこで、3年経った外国人技能実習生に学科もしくは実技試験と日本語試験を受けさせて合格したら、技能実習生とは異なる在留資格の「特定技能外国人」という新たな在留資格を設けたのでした。

「特定技能外国人」になれば、さらに5年間の在留が認められ、同一職種なら転職も可能となります(管理団体に代わって認定登録支援機関が監督・斡旋できる)。

あくまでも、移民でなく、「技能実習」という位置づけで、日本の中小・零細事業者の人手不足を補おうという苦肉の策から生まれた制度なのです。

どこまでも開発途上国の人たちを都合よく食い物にする構図といえるでしょう。

こんなことをやってまで、中小・零細事業者の事業経営を支援する必要があるのでしょうか。

日本人でさえ、就きたがらない低賃金の奴隷労働制度は、日本人従業員の賃金下方圧力さえ生んでいます。

ろくでもない人手不足対策は、即刻廃止すべきなのです。

日本の信用を毀損する著しく矛盾に満ちた制度だからです。

こんな制度を30年間も続けてきた日本政府に対して、私たち国民も「奴隷労働制度を即刻廃止しろ」と声を上げなければいけないでしょう。

それでは、今回はこのへんで。

次回は「ふるさと納税は金持ち優遇で税金の無駄遣い! 即刻廃止すべき!」がタイトルです。このテーマについて、鋭くえぐっていきたいと思います。

次回をお楽しみに!

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2022年7月配信分
  • 悪名高き奴隷労働の「外国人技能実習制度」はただちに廃止すべき!(7/11)
  • 世襲議員が日本を滅ぼす!(7/4)

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※本記事は、神樹兵輔氏のルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年7月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読

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神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』(2022年7月11日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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