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ふるさと納税、自治体の取り分はわずか3割。富裕層と広告代理店だけが儲かる血税の無駄遣い制度=神樹兵輔

税金を控除しながら各地の名産品が手に入ると人気の「ふるさと納税」。しかし、実態をよく見てみると、金持ち優遇と一部の業者だけが。税金で儲けるというシステムになっています。「ふるさと納税」は税金の無駄遣いでしかありません。平等という観点からは即刻中止すべき愚策です。『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』)※この記事は音声でもお聞きいただけます。

※本記事は有料メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年7月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:神樹兵輔(かみき へいすけ)
投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。

ふるさと納税は天下の愚策

今回のテーマは「ふるさと納税」についての闇をえぐっていきます。この制度が「天下の愚策」だからです。

「ふるさと納税制度」がスタートしたのは、2008年度からでした。2022年度で、かれこれ14年が経ちました。

スタート以降、寄付額は年々増加し、2018年度は5,127億円に達しました。

2019年度は4,875億円とやや減りましたが、2020年度は6,725億円と前年の1.4倍に増えています(寄付件数は3,489万件で前年の1.5倍)。

しかし、この制度に問題はないのでしょうか。

起こるべくして起きた返礼品競争

ふるさと納税制度とは、自分が指定する自治体に寄付をすると(寄付金額には限度枠がある)、寄付額から2千円を除外した金額が、あとから確定申告することで(寄付先が5つ以内なら寄付先の自治体が交付するワンストップ特例申請を居住の自治体にすれば、確定申告は不要になる)、所得税の還付や住民税の控除が受けられるという仕組みです。つまり、実質2千円の負担で各地の名産品が貰えるというわけです。

例えば5万円を寄付した場合は、2千円を除外した4万8千円分が、国や居住自治体には入らずに、寄付先の自治体に入る仕組みになります。

居住する自治体の税収はその分減ります。

減った自治体は、国から地方交付税として、75%の補填がありますが、東京23区は国からの交付税不交付団体のため、2021年度だけでも531億円が減収になっています。

当然ですが、こういう不公平な制度設計でスタートしたわけですから、寄付してもらいたい自治体は、高額の返礼品を贈ることをPRして、返礼品競争が起きてしまいました。

大阪府の泉佐野市は、高額返礼品だけでなく金券として使えるアマゾンギフト券まで返礼品とし、2018年度の寄付受入総額が497億円にも達し、受入額トップになっています。

泉佐野市の同年の一般会計予算517億円にも匹敵する寄付総額だったのです。

それでもまだ泉佐野市には、1,000億円以上にものぼる借金が残っています。

なぜなら、泉佐野市は1980年代からの国家プロジェクトである関西国際空港建設(1994年開港)に協力し、空港周辺インフラとして、空港のある人工島を結ぶ連絡橋の建設や、副都心計画としての「りんくうタウン」造成に莫大な投資をしたからでした。しかし、バブル崩壊もあって企業誘致などが思うように進まなかったためのツケが残っていたからでした。

このように、財政逼迫の泉佐野市は、もともと「第2の夕張」になるともいわれた自治体だったのです。ゆえに、なりふり構わず「ふるさと納税」の寄付金を集め、そこから高額返礼品をバラ撒いたというわけでした。

しかし、少し考えればわかることですが、本来、国や寄付者の居住自治体に入るはずだった税金が、返礼品や事務処理費用、ネット上の専用ポータルサイトの広告代や、返礼品の対象事業者の売上分だけ消え去っていく流れです。

とてつもない税金の無駄遣いになっているのです。

Next: 天下の愚策「ふるさと納税」を考えたのは誰だ?



途中変更を余儀なくされた欠陥だらけの「ふるさと納税制度」

結局、2019年6月から、国は遅ればせながら「返礼品の調達額は寄付額の3割以下」「返礼品は地場産品」などと制度を改め、泉佐野市や他の4つの自治体をふるさと納税制度の指定対象から外したのでした。

すると、当然のことながら、泉佐野市は国を訴えました。

そして、泉佐野市は最高裁まで争った結果、制度改正以前の高額返礼品の問題行為については、お咎(とが)めなしとされ、ふるさと納税への復帰も認められたのでした。

そしてこの時、他にも43の自治体が要注意先として、総務省から制度の指定対象期間を一時的に絞られるというペナルティを課せられています。

なぜ、こんな制度が生まれたのか

ふるさと納税制度は、税金の無駄遣いですが、いったい誰がこんな制度を考えたのでしょう。

そもそものキッカケは、06年3月の「地方を見直す『地方税制』案」と題された日経新聞のコラムだったといわれています。

これを見た地方出身の政治家たちの間で議論が進み、第一次安倍内閣の「地方創生プラン」として、08年からスタートした制度だったのです。

地方の自治体は、人口減少で、どこも財政状況が厳しくなっています。

地方で保育や教育のサービスを受けた子供たちも、成人すると都会に出て働き、一番稼ぎのある期間は都会で納税し、老いて収入がなくなる頃に、また故郷に戻ります。

すると、地方自治体は、老人になって戻って来た地元出身者の医療費負担や、介護負担などの福祉費用が、のしかかるだけなのです。

この仕組みを少しでも是正する制度が構築できないのか?というのが、ふるさと納税の最初の設計趣旨だったのですが、こんなに激しい返礼品競争が起こることまでは、事前に予想できなかったというわけです。

Next: 自治体へ入るのは一部だけ。「ふるさと納税」でトクをするのは誰?



「ふるさと納税」で一番トクをするのは誰か?

そもそも、ふるさと納税制度には、寄付額に限度額があります。収入や家族構成で、寄付額に制限がかかるからです。

たとえば、独身で年収400万円なら寄付限度額は、4万2千円ぐらいです。

夫婦共働きの子供一人の場合なら、年収800万円で、11万円ぐらいです。

黒毛和牛や高級海産物、温泉宿泊といった高額寄付が必要な返礼品利用だと、せいぜい5回以下ぐらいの利用の範囲内でしょうか(5回以下は確定申告が不要な制度あり)。

その点、所得税や住民税の支払いの多い富裕層は違います。

年収1,200万円で専業主婦の妻と子供二人なら、20万円近くの寄付限度額が認められます。

しかし、年収1億円なら360万円ぐらいの寄付限度額が認められますから、返礼品だけで1年間の食費が賄えてしまう、という見方もできるほどです。

富裕層ほど、トクをするのが、ふるさと納税制度の特徴なのです。

次にトクをしているのは、自治体に返礼品調達先に選ばれた地場産品の業者でしょう。売上アップが見込めるからです。

これも、地方産業の育成に効果が大きいともいわれます。

しかし、地方産業の振興といっても、自治体にへばりつき、ぶら下がる一方では、成長は覚束ないでしょう。自治体への寄生を助長させるだけだからです。

結局、地方自治体が返礼品競争のために広告を載せている、いくつかの専用ポータルサイトがしこたま儲けているのです。

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2022年7月配信分
  • 「ふるさと納税」は金持ち優遇で税金の無駄遣い! ただちに廃止すべき、その理由!(7/18)
  • 悪名高き奴隷労働の「外国人技能実習制度」はただちに廃止すべき!(7/11)
  • 世襲議員が日本を滅ぼす!(7/4)

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※本記事は、神樹兵輔氏のルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年7月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読を

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神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』(2022年7月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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1990年のバブル崩壊から続く「失われた30年」を経て、ニッポン国の衰退ぶりは鮮明です。デフレ下でGDPは伸びず、賃金は上がらず、少子高齢化で人口は減り、貧富の格差も広がりました。いったいどうしてこんなことになったのでしょう。政治、経済、社会、マネーや投資に瑕疵があったのは否めません。本メルマガは、そうした諸分野に潜む「闇」を炙り出しグイグイえぐっていこうとするものです。

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