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安倍氏亡き後“成長できない日本”の舵取りを岸田首相は担えるのか?自民党党内人事と次期日銀総裁の行方に注目するマーケット=山崎和邦

安倍元首相が凶弾に倒れ、「増税か?アベノミクスの継続か?」岸田首相の政策に注目が集まる。8月の自民党の党内人事、異次元緩和の出口戦略を担う来春の日銀総裁人事のシナリオについて見ていこう。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年7月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に購読をどうぞ。

増税か?アベノミクス継続か?

参院選が(株式市場にとっては)順調に終わり、来年後半まで堅調の市場が続くと想定されるが、増税路線が出てくるとその期待は崩れる。アベノミクスが引き継がれるか否かを見極める期間が必要である。岸田首相の基本的な価値観は新自由主義的な発想に反対する立場であるから、増税路線が出てくる可能性は大いにある。それがなければ、少なくとも向こう1年、株式市場は堅調だろう。海外に多少の不安要因があろうとも、それはそれで割り切って乗り切れるであろう。

日本の株式市場は海外要因によって大きく変動した。幾多の試練に耐えてここまで来た。その強さはこれから現れるであろう。たたし、これからは政策の問題である。政治の期間に入る。

「成長できない日本」をどうするのか?

主要国がそろって金融緩和の修正に動く中で、日本だけが金融緩和を止められない状態に陥っている。円で置いておいても、利息がほとんど付かない。その円は円ドル相場で24年ぶりの安さになって、138円台に入った。24年ぶりというのはアジア金融恐慌の真っ最中である。その前年に山一證券と三洋証券の破綻、都銀大手の北海道拓殖銀行の破綻、11月の1週間でそういう事件が起こった年である。ドル円相場はその頃と同じ安さになった。成長できない日本の姿を現している。

2000年のGDPを100とすると、ユーロ圏は現在約200、アメリカも約200、日本だけは100であり、2000年と変わりない。以上はIMFの試算である。

同じくIMFの試算によれば、日本の2021年のGDPは円安の影響も大いにあって、2012年安倍政権発足の時代から21%減った。主要7ヶ国G7でGDPが減ったのは日本だけである。

IMD(国際経営開発研究所)の「世界競争力年鑑」によれば、アメリカのレーガン大統領が日本を追尾国と見なしてライバルとして恐れた頃、日本の国際競争力は世界で1位だった。それが失われた20年を通して2001年には23位になり、今日では31位に陥っている。

これは生産性の劣化から来ている問題が大きい。経産省の資料から言えば、アメリカが日本を追尾国として恐れていた頃の1990年前後、半導体は世界シェアの50%を超えていた。今はたった10%にまで落ちた。その間に伸びたのは、アメリカが当時37%だったのが、今は50%のシェアになり、アジアが3%のシェアだったものが、今は25%のシェアになっている。日本は50.3%が10%に陥った。OECDの資料によれば、加盟国を対象に調べた就業者一人当たりの労働生産性は、現在ではOECD38カ国中で28位に下がった。G7では最下位だ。

Next: アルゼンチンの二の舞いも。先進国から滑り落ちる日本


日本は先進国からすべり落ちる

エズラ・ヴォ─ゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が発刊された当時に、日本の強みとなっていたものが、今では全て日本の弱みと変化した。

当時は、企業の新卒一括雇用・企業内研修・終身雇用などが日本の強みになっていた。これは今や「日本の弱み」に変化してしまったような感じである。安倍政権の経済政策は雇用を増やし、株価を上げ、時価総額を上げた。ただし、雇用を増やしたといっても正規雇用でない部分が多い。したがって、賃金の平均は横ばいということになっている。

安倍政権の経済政策は財政の拡張を前提にして全体を進めてきたから、安倍元首相の存命中は、岸田政権の経済運営の基本も、その安倍政策とバランスをとることが基本だった。ところが、安倍元首相がいなくなり、そのバランスは不安定になり、経済運営の舵取りはむしろ困難さを増す。

「世界には4つの国しかない。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンである」

これは1971年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者サイモン・クズネッツの言葉である。かつてアルゼンチンは輝ける経済の国だった。ところが、21世紀になって以降からはデフォルトは多発するし、債務は膨張するし、極度のインフレ、失われる競争力、そういう典型的な経済没落国に化した。先の言は、日本だけ特別に先進国から滑り落ちるという意味だ。

米国の策にはまった90年代の日本

日本人は総じて勤勉で、清潔好きで、厭世家は少ない。世に厭世の資本主義はない。日本人は、国民としては先進国足り得る資質は持っていると思う。現に、それを1945年から1990年まではレーガンが80年代に日本を追尾国として恐怖するほどまでに実現してきた。

そして

1)1985年に円高にして輸出力を弱まらせようという悪巧み(プラザ合意)
2)手抜き教育によって日本の若者をバカにする方策を奨めた(「ゆとり教育」)

オメデタイ日本国は安易に乗っかった。

だが、手抜き教育は意外に早く自ら気づいて改めたし、円高は天の許さざるところまできて反転した。デフレも脱しつつあり、インフレ気運になってきた。問題は政策である。

安倍政権のブレーンはリフレ派であった。「政策を売り歩く商売人」として、学界では評判の悪い竹中平蔵氏辺りの意見も、一応は聞いてみればいいだろう。インフラビジネスは移り行くということを、建設技術研究所は言っている。こういう意見も聞いてみたら良かろう。必ずしも責任を持った発言か、机上のアイディアかはわからないが、幸い日本には色々な論客が数多く居る。一概にバカにせずに、この際は意見を聞くべきだ。

Next: 次期日銀総裁は日銀生え抜きか?マーケットを左右する重要人事


自民党内人事と来春の日銀総裁人事

参院選が終わり、8月~9月に内閣改造と、自民党役員人事や、来春の日銀総裁人事へ、市場の関心が集まる。日銀総裁は財務省出身者と、日銀生え抜きが交代でやる原則があったが、次期総裁は間違いなく日銀生え抜きを起用することを軸として進むであろう。副総裁にリフレ派が就くか否かは、金融政策の出口戦略にも影響を与え、マーケットを左右し得る要素である。安倍元首相に近かった人物の影響力が低下するだろう。

ただし、参院選の自民党大勝は、安倍元首相の弔い合戦の要素もあったとすれば、安倍氏に近かった人物の影響力を遠ざけることは容易ではないだろう。例えば、財政出動積極派で、マーケットの耳目を集めた高市早苗自民党政調会長の去就などが、関心事の一つになろう。

日銀総裁は財務相出身者が10年務めた後になるため、日銀出身者になる可能性が非常に高い。候補に名前が挙がるのは、雨宮副総裁と、その前任の中曽宏・大和総研理事長である。

雨宮氏は異次元緩和を始め、過去四半世紀の金融政策の設計に深く関わったし、政界や官界の人脈も豊富である。

一方、中曽氏は金融システムや市場の危機管理の経験が長く、BIS(国際決済銀行)の市場委員会で議長を務めたこともあり、海外とのパイプも太い。

2人の内、どちらが就任したとしても、任期5年間の中のどこかで、異次元緩和の出口戦略が課題になることは間違いない。

中曽氏は量的緩和の幕引き作業(2006年)で金融市場局長を担った経験がある。岸田内閣では日銀総裁は手堅く日銀生え抜きを選び、副総裁の方で一定の独自色を出すことを考えるだろう。または、初の女性起用もあるかもしれないが、そういう奇をてらっているヒマはなかろう。

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<山崎和邦の投機の流儀 vol.527 7/10号>

第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)当面の市況
(3)週末の状況 
(4)プライム市場が始まってから3ヶ月強、売買代金3か月振りの低水準
(5)「原発超再編構想」─「棚ぼたを食うためには、常に棚の下に居ろ」
(6)今後とも、台風の目の一つである「東電株」 
(10)南関東6月の街角景気、5ヶ月ぶり悪化
(11)国内の銀行・生保が外債売り越し最大 
(12)マザーズ指数が1ヶ月ぶりの高値
(13)参院選後の3年間は「選挙がない『黄金の3年』に恵まれるかどうか」は判らない
(14)6月調査の日銀短観(7月1日発表)によれば、ものづくりは不調、サービスは好調
(15)「外交の岸田」に難問
(16)7月8日の安倍元首相銃撃事件に関する懸念
(17)安倍元首相が白昼の凶弾に倒れた後、株価が上げ幅を縮小した程度で済んだが・・・

■ 第2部:中長期の見方
(1)「失われた30年の終わり」これからはこうする
(2)割安株の安値圏内(したがって業績は悪い)において、株価の復元を期待して、中長期保有するスタンスで投資し、保有する。この方法は、最近の乱高下相場の中でも利益を出し続けてきた
(3)「長期運用なら株と債券に分散を」
(4)武者リサーチ最新号より原文のまま抜粋─「今日の日経平均27000円台から2年後には4万円、10数年後には10万円になると考えます」
(5)「社会的価値」と「経済的価値」とを混同させてきたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
(6)FRBのインフレ対策の失敗
(7)円安を本気で止める姿勢も見えず、手段もない。
(8)経済政策論議で出るであろう「高圧経済と経済政策論議」
(9)再び「核兵器禁止条約推進派に日本が背を向けるのは正しい」

■ 第3部:読者との交信蘭

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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2022年7月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に購読をどうぞ。

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年7月17日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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