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「普通の生活」でも貯蓄できなくなった日本社会。資産運用から目を背けると“命にかかわる”=矢口新

物価が上がるなか、賃金はなかなか上昇しません。「平均的な生活」を送るには、月額26万3,718円、年間で316万4,616円の生活費がかかるというのが標準となっています。パートタイム労働者はもちろん、正社員でも貯蓄が難しい状況です。となれば、賃金のほかにも収入源を用意しなければ“命にかかわる”と言わざるをえません。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2022年8月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

インフレで実質賃金が目減りする

厚生労働省によれば、2020年度の1人平均現金給与総額(従業員5人以上の事業所)は、前年度比1.5%減の月平均31万8,081円でした。内訳は一般労働者が1.9%減の41万6,570円、パートタイム労働者が0.9%減の9万9,083円です。

1人平均総実労働時間は、一般労働者が2.9%減の月平均159.8時間、パートタイム労働者は5.1%減の78.6時間でした。これはパートタイム労働者の平均時給が1,261円だということも意味しています。

現金給与総額は名目賃金と呼ばれています。この名目賃金からインフレ率を差し引くと実質賃金となります。

つまり、インフレ率がプラスの数値だと、実質賃金は名目賃金より少なく、マイナスの数値だと、実質賃金は名目賃金より多くなります。

日本の名目賃金は30年以上基本的に減っているのですが、インフレ率も低いままでしたので、実質賃金の減少も緩やかなものでした。

一方で、日銀の政策目標はインフレ率2%ですので、目標を達成すると、名目賃金が増えない限り、実質賃金は約2%減少することになっていました。インフレになっても必ずしも名目賃金が上昇するわけではないので、実質賃金が減少する政策だと言ってもいいでしょう。

名目賃金とは、給与明細に支給額として記されるものです。ここから、社会保険料や税金を引いたものが手取り額となります。実質賃金と現金給与手取り額とは、まったくの別物です。

低賃金に苦しむパートタイム労働者

2020年度の1人平均現金給与総額を例に、一般労働者とパートタイム労働者の手取り額を計算すると、下図のように、それぞれ387万2,319円、100万3,089円となります。

現金給与総額と手取り額(注:社会保険料の対象年齢は40歳〜64歳:所得税等は扶養親族0人で計算)

一方、常用労働者数は、前年度比0.7%増の5,138万2,000人となり、17年連続の増加。正社員などの一般労働者は1.4%増の3,544万7,000人で7年連続の増加でしたが、パートタイム労働者は0.9%減の1,593万5,000人で15年ぶりの減少でした。

これは、コロナ対策による営業停止で最もあおりを食ったのがパートタイム労働者であったことを意味しています。

また、労働者の3割以上を占めるパートタイム労働者の手取り額は100万円ほどだということになります。残る7割近くの正社員は387万円ほどですから、多くの人は事情さえ許せば正社員になりたいことと思います。

ところが、厚生労働省が発表した2021年9月の新規求人倍率は2.10倍と、前月に比べ0.13ポイント上昇したにもかかわらず、正社員の有効求人倍率は0.01ポイント低下の0.91倍でした。有効求人倍率とは仕事を探す人1人に対し、何件の求人があるか示すものですから、正社員になるハードルは高いのです。

Next: 「平均的な生活」には年間316万4,616円が必要。貯蓄する余裕はあるか?



「平均的な生活」には年間で316万4,616円が必要

一時、「老後生活のために2,000万円程度の金融資産が必要」だということが話題となりました。

その理由は、高齢者夫婦2人の「平均的な生活」として、収入が20万9,198円、支出が26万3,718円で、その差額にあたる約5万円を取り崩しながら生活することになり、それを30年間継続するならば約2,000万円の金融資産が必要になるというものです。

その計算の根拠となるものが下図です。

「老後生活のために2,000万円程度の金融資産が必要」(出所:厚生労働省)

これは、無職の高齢者夫婦2人が年金などだけで生活するとすれば、毎月の赤字が約5万円生じるというものです。

とはいえ、この試算の上部、実収入の部分は家庭によって大差があるものと思われます。左端の「勤め先収入」や「事業収入」がこれよりはるかに多い家庭もあれば、この図では19万円を超えている「社会保険給付」が、未納や、未納でなくても「国民保険」だけだと、全納の夫婦2人合わせても、13万円と、これよりはるかに少なくなります。当メルマガの前号で「貯蓄は必要か?」について解説しましたが、そこから該当箇所を引用します。

「制度のベースとなる国民年金の年金保険料を40年間全額納付した場合の、65歳からもらえる老齢基礎年金は、2021年度時点で年額78万900円、月額にすると約6万5,000円です。しかし、未納期間があるためにこの全額を受け取れない高齢者が既に半数いて、現在64歳以下のその予備軍がコロナ以降に急増中です。」

また、その他収入が多い人たちもいることでしょう。

一方で、「生きるための実支出」は実収入ほどの差は出ません。となれば、「平均的な生活」を送るには、月額26万3,718円、年間で316万4,616円の生活費がかかるというのが標準なのです。また、最低限の暮らしには「時給1,500円」が必要だという試算もあります。

正社員でも余裕はない。ましてパートタイム労働者は…

となれば、手取り額100万円ほどのパートタイム労働者は言うに及ばず、手取り額387万円ほどの正社員でもあまり余裕がないことになります。

また、ここでの支出の内訳を見ると、住居費が1万3,636円と、持ち家が前提となっています。つまり、住宅ローンの支払いが継続中の人々や、賃貸住宅に住んでいる人々は、この前提からさえ落ちこぼれているのです。

ここで、「貯蓄は必要か?」を検討した、当メルマガの前号のまとめを繰り返します。

貯蓄は、自分が働けなくなった時の備え。
日本の社会保障制度はOECD諸国と比較してさえかなり高負担である。
それでもセーフティーネットとしては不十分。
従って、貯蓄、あるいは、何らかの収入源は「絶対に」必要だ。

しかし、老後に備えて貯蓄することは、ほとんどの平均的な人にとって、今の生活を犠牲にすることなしには不可能であることが分かってきました。それどころか、今の生活には貯蓄をする余裕がなく、既に追い詰められている人々も多いのです。

では、どうすればいいのか?

Next: 貯蓄がないなら、何らかの収入源が「絶対に」必要



貯蓄がないなら、何らかの収入源が「絶対に」必要

貯蓄がないなら、何らかの収入源が「絶対に」必要だと言うことです。

前ページ図表の上部では、「社会保険給付」の他に、少ないながら「勤め先収入」や「事業収入」それに「その他収入」があります。つまり、これらを大きくする以外に、「生きられない」可能性が高いのです。

ここで、資金運用からの収入は「その他収入」に含まれます。

そこで当メルマガでは、「資金運用収入」につながる話をしています。資金運用は、「勤め先収入」や「事業収入」がない人でも、今の収入不足を補い、将来に備えての貯蓄を増やす可能性があるものです。

「では、貯蓄は可能か?」と見てきた、この項のまとめです。

平均給与の手取り額では、貯蓄を積み上げることは難しい。収入増の手段として、資金運用から目を背けるのは、場合によっては「命にかかわる」。

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image by:Oleg Elkov / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2022年8月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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