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また利権か。岸田政権が原発再稼働に方針転換したワケ。日本の持病「電力不足」は完治するのか?=原彰宏

岸田首相は8月24日、再稼働する原子力発電所の追加や次世代型原発の開発・建設について検討を進める考えを表明しました。なぜここに来て方針を転換したのか?電力ひっ迫は解消されるのか?日本のエネルギーの在り方を考えていきたいと思います。おそらく一般情報では触れない、電力の「タブー」に深く突っ込んでいけるのではと思っています。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年8月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

岸田政権、電力不足に耐えきれず「原発再稼働」に方針転換

今夏も電力不足が騒がれましたが、これから来る冬こそ電力危機が叫ばれています。

岸田文雄首相は24日、次世代型の原子力発電所について開発・建設を検討するよう指示した。原発の新増設を想定しない東日本大震災以降の方針を転換し、年末までに具体策をまとめる。再稼働する原発は2023年夏以降に最大17基へ増やし、中長期的な電力確保をめざす。

出典:原発新増設へ転換、次世代型の建設検討 再稼働7基追加: 日本経済新聞(2022年8月24日配信)

ここでのキーワード「冬の電力不足」が重要ですが、新しく「次世代型原発」というワードが出てきました。さらに記事には続きがあります。そこにあるキーワードとして「GX(グリーントランスフォーメーション)」というのも注目です。

岸田首相のこの発言は、「新しい資本主義」政策実行を担う「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」にオンラインで参加したときのものとなっています。

「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」を検討するよう関係省庁に求めた…とあります。

さて、「次世代型原発」って一体なんぞや…?

本当に電力は不足しているのか?電力は「長期」「短期」の視点が必要

この話を進める前に…電力に関しては「長期」と「短期」で考えなければならない課題があります。

目先の「電力不足」と、長期の「カーボンニュートラル」です。政策として、この短期と長期の課題解決が同じ対策になるのか、それとも分けて考えることになるのか、いや、実は繋がったものでなければならないという考え方もあり、一筋縄ではいかない問題になっているようです。

どちらにも原子力発電をどう考えるかが問われるものですが、特に「短期的」視野において、原発再稼働は喫緊の課題となっているようです。

今回は「短期的視野」に立っての課題を検証していきます。

本当に電力は不足しているのか…?短期と言っても「今年の冬場」という、かなり差し迫った話になりますし、その流れで言えば、来年の夏場をどう凌ぐのかという問題にもつながっていきます。

ようは「電力不足は毎年のこと」ということになりますね。

Next: 次世代型原発とは何か?議論されている“今ある”原発施設の再稼働



次世代型原発とは何か

こんな直近の電力不足を補うには今あるリソースを使わざるをえない、そこで常に問われているのが、「“今ある”原発施設再稼働」です。

冬場の電力不足は夏場よりも厳しい状況が予想される中で、岸田首相は、これまで再稼働にこぎつけた原子力発電所10基に加え、来夏以降に7基の再稼働を目指すと表明したのです。

原発の安全性もわかるが熱中症で死ぬリスクもある…。

目の前の電力不足が何よりも優先され、原発事故による教訓もありながら、「原発再稼働やむなし」という動きがあるのも確かです。

原発再稼働に変わる電力供給源はあるのか……これに真正面から答えられない限り、電力不足解消のために原発再稼働は必要とする主張には対抗できないかもしれませんね。

ただ今回の岸田首相の発言は、「原発再稼働の是非」を問いながらその回答を得ぬうちに「新築新増設・建て替え」にまで踏み込んできたのです。

数の目標を掲げた。これまで「想定していない」としていた新増設についても方針転換。その環境なり安全性に配慮した「次世代型原発」を採用するという表明に、日本中がざわめいたのです。

「次世代型」なら原発増設でもかまわないのか?そもそも「次世代型原発」ってなに?

堂々巡りとも思える議論になっていますが、この議論に終止符を打つには、原発に変わる電源を早急に示すことが必要だということです。

原発再稼働を推進する側の意見は、「電力不足早期解決 → 既存施設の活用 → 原発再稼働」と自然な論理の流れのようには見えますが、果たしてこれで良いのでしょうか。

これしか「答え」はないのでしょうか…。

目の前の電力不足はどうする?議論されている“今ある”原発施設の再稼働

一方で、再稼働反対の立場としては、やはり原発の安全性を訴えることはもちろんですが、廃炉計画が不十分なままで再稼働することの問題を指摘しています。

ここまで原発を停止してきたことで廃炉に向けて進めてきたカレンダーを、再稼働によって逆戻りさせるのではと危惧しているようです。

それはすごく理解できますが、目の前の電力不足にどう対応するかの答えにはなっていないですね。東日本大震災から11年も経って、この間、再生可能エネルギーを育てるのに国は何をしてきたのか……そんな問いも頭に浮かびます。

送配電分離などの再生可能エネルギー普及の環境整備はどうしてきたのか、そんなことも疑問に思います。

Next: 太陽光・風力発電でも競争力を落とした日本。もはや原子力しかない?



もはや原子力しかない?

太陽光発電や風雨力発電メーカーの上位に、日本企業の名前がなくなってしまいました。

太陽光パネルメーカー上位は中国企業が多く、風力発電のメーカーも、「陸上・洋上」とも中国メーカーが目立ちます。日本は本気で再生可能エネルギーに取り組んできたのか……何度もこの疑問が浮かんできますね。

10年以上も経って、再生可能エネルギーが「ベースロード電源」にならないというのはどういうことでしょうか。本当に太陽光・風力発電は、安定したエネルギー供給源にならないのでしょうか…。

切羽詰まって「原子力しかない」と言われても、「現実的に仕方がない」と言われれば納得せざるをえないのですが、どこか合点がいかないところがあるのですがね。

個人的には、ずっと日本では「地熱発電」が「ベースロード電源」になると主張してきました。しかし、地熱発電には国は非常に弱腰です。地熱(マグマ)を利用する場所は温泉が近くにあり、地熱により水を汲み上げる技法から「温泉が枯れる」という理由で温泉組合の抵抗を強く受けているだけでなく、地熱発電の場所の多くが国立国定公園に指定されていて、国立・国定公園に関する法律(自然公園法)に基づき、公園内では大きな施設が作れなくなっています。

つまり、温泉組合との折衝や自然公園法を改定しない限り、実質的に地熱発電はできなくなっています。

その気になれば法律を変えればよいのですが、地球環境にやさしく、日本には最も効率的な発電方法を、なぜ国は選択しないのでしょうか。

いろんな側面から追い詰められて、結局は「原発一択」に持ち込まれているところがあるという指摘は、決して的を外していないようにも思えます。

なぜ原子力発電にこだわる?

なぜ「原子力発電」でなければならないのでしょう。このテーマは、ずっと根深くあり、触れてはいけないテーマのようでもありますね。

原発施設の稼働が停止している間は、火力発電に頼っていました。しかし、ウクライナ戦争や円安などで原油価格が高騰し、火力発電の採算性が非常に悪くなってきています。施設の老朽化も問題です。

後述する「長期的視野」のところで述べるつもりですが、「カーボンニュートラル」の課題により、火力発電所への投資がなされていない、脱炭素に不適合なものへの投資は避けられてきたという状況があり、火力発電所は老朽化のまま放置されていたようでもあります。

「脱炭素」に一気に切り替えたことによる「ハレーション」だと感じています。

採算が取れないので動かしたくない火力発電に頼れない現実もあり、やはり原発再稼働しかないという方向性が求められているのでしょう。

だんだん追い詰められるように、目の前の電力不足を補うのに、“現段階では”「原発再稼働」しかないという主張に対抗できる電源がないとも言えます。

現実的な解決法はあるのでしょうか。経済界としては、産業競争力や日本経済発展のために電力逼迫の現状を早く解決したい事情があります。電力不足が慢性化している状況において、常に電力供給を不安視する環境では、産業の発展は望めません。

それゆえ、原発再稼働を強く主張しているのでしょう(他にも事情はあるのでしょうが)。

慢性的な電力不足は、その国の産業発展の障害となり、海外資本も入らなくなります。産業界にとっては大問題です。

その流れもあるのか、岸田首相の「次世代型原発」増設の話は、この産業界を意識したもののように聞こえてしまいますね…。

Next: 再稼働ではなく新設・増設?またも「原子力ムラ」の利権か



再稼働ではなく新設・増設?

「原子力ムラ」という表現があります。ネットでの解説には「原発を推進することで互いに利益を得てきた政治家と企業、研究者の集団」というのがあります。

利権……原子力ムラを語るうえで何度も見え隠れしてくるワードですね。このことについては、1つの章を立てて検証したいところです。きっと「なぜ原子力発電でなければならないのか」の答えが見えて来きます。

今回の連載で「電力問題検証に関する提議」としていくつかの問いを投げかけ、今後それら1つ1つを紐解いていくことで、電力問題の本質を探っていきたいと思います。

問1. 原発再稼働の必要性の根拠となる「電力需給逼迫注意報」は本当か?
問2. 東日本大震災原発事故から日本は「脱原発」に対して何をしてきたのか、何をしてこなかったのか?
問3. 日本では再生可能エネルギーが普及しない理由は何なのか~技術力(日本メーカーの衰退)
問4. 日本では再生可能エネルギーが普及しない理由は何なのか~送電網
問5. 電力価格高騰は電力自由化の弊害?
問6. ベースロード電源の考え方、これでいいの…?

これらの「短期的視野」の疑問を解決して、原発再稼働の是非をもう1度問い直して、その先にある「長期的視野」につなげたいと考えています。

今回はかなり長丁場の連載となりそうです。「長期的視野」の中心は、やはり「カーボンニュートラル」になります。

菅総理が2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」を宣言したことにより、日本での「脱炭素」の設備投資を含めた取り組みが見直されるようになってきました。

政治的な視点でも「脱炭素」から地球温暖化論争を捉え、さらに岸田政権の「新しい資本主義」にもある「GX(グリーントランスフォーメーション)」にも触れていきます。

当メルマガ 当メルマガ で連載しますので、ぜひ読み続けてください。おそらく一般情報では触れない、電力の「タブー」に深く突っ込んでいけるのではと思っています。

政治家が電力問題を取り上げると、特に原子力の闇に手を突っ込むと、政治生命が危ないと言われていますからね。それだけ闇は深いようです。

次世代型原発は電力不足を救うか?

報道記事から読み解くと、「次世代型原発」とは「現在の原子炉よりも安全性が高く、効率よく発電できる」原発のようです。

随分“ざっくり”とした解説ですが、既存の軽水炉型の原発をベースに安全性を高めた革新軽水炉など大きく5種類あるようで、革新軽水炉は他の方式に比べて最も開発が進んでいるそうです。

<革新軽水炉>

デジタル技術で安心性を高めたもの

<小型モジュール炉>

出力30kw以下のもので、設備の大半を工場で生産し、工期や建設費を削減

<高温ガス炉>

炉内温度が高くエネルギー小売tが高く、水素も取り出せる

<高速炉>

高速中性子による高効率で核燃料を燃やし、核のゴミも少ない

<核融合炉>

水資源が核融合する際のエネルギーを活用する。安全性が高い。

これだけでは、ちょっと分かりづらいですね。とにかく、デジタル技術で事故の兆候をつかみ、重大な事故を防ぐことができ、三菱重工業などが開発を進めているもののようです。

Next: 議論は十分か?ようやく動き動き出した日本のエネルギー政策



議論は十分か?

注目されているのが、出力30万キロワット以下の小型モジュール炉(SMR)です。原子炉など発電設備の大半を工場で製造し、現地で組み立てるため、現在の原発よりも工期が半分程度になり、建設コストも大幅に安くなるようで、米国ではバイデン政権がスタートアップ企業による開発を資金支援などで後押ししていると報じられています。

報道によれば、SMRの市場規模は2030年に130億ドル(約1兆8,000億円)に達するとみられていて、核分裂時に発生する高熱で水を分解して水素を取り出す高温ガス炉(HTGR)への期待も高いとしています。

現実的なことを考えて「いまある施設一部の再稼働」は検討するとしても、いくら安全だといえ、新規・増設というのはどうでしょう。新設・増設をするのなら、もっときちんとした議論が必要になると思えるのですがね。

これからいくつかの「問い」を検証していき、日本のエネルギーの在り方を考えていきたいと思います。

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※本記事は、らぽーる・マガジン 2022年8月29日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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