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だから日本だけ賃金が上がらない。利上げできないほど景気最悪、“悪いインフレ”からどう生活を守るか=原彰宏

今秋も値上げの報道が目立ちます。物価上昇に伴う賃金上昇があれば、さほど景気が悪くなることはないですが、物価上昇に賃金上昇が追いつかないとなると、これは景気にとっては“悪いシナリオ”になります。さらには円安も加わり、まったく出口が見えません。こんな状況で私たちの生活を守る処方箋はあるのでしょうか。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

【関連】日本国民はまるで政府のATM。給料の半分近くを税金と社会保険料で毟り取り、30年の失政のツケを私たちに払わせている=鈴木傾城

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年9月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

インフレで景気はよくなる?

インフレーションは、世の中のモノやサービスの価格(物価)が全体的に継続して上昇することで、時間経過とともに価格は右肩上がりになっていきます。

目に見える現象で言えばこの説明どおりなのですが、これを生活実態に合わせてみると「時間経過」の部分がとても重要になってきます。

つまりそれは、「今より未来のほうが価格が高くなる」ということにあります。

時間経過とともにモノの値段が右肩上がりに上がっていくのであれば、“今買わないと損をする”という心理が働き、目の前の国民の消費を促すことになります。

景気は「個人消費×企業設備投資」で成り立っていますので、インフレは個人消費を促進する、つまりインフレは“景気をよくする効果がある”といえます。

デフレはこの逆で、時間経過とともにモノの値段は安くなるので“今買わなくても…。”という消費者心理から、個人消費は細って景気は悪くなっていきます。

ただ、物事には「程度」というものがあります。

物価上昇も、賃金が上がらなければ…

物価上昇に伴う賃金上昇があれば、さほど景気が悪くなることはないですが、物価上昇に賃金上昇が追いつかないとなると、これは景気にとっては“悪いシナリオ”になります。

それがいま足元で起こっているのです。

もう少しいま起きている「インフレ」のメカニズムを考えてみましょう。

「供給」よりも「需要」が伸びれば「インフレ」になります。いわゆる「消費が旺盛」という表現になります。

コロナ以前の米国社会では、徐々に個人消費が伸びてきていて、景気はまさに「復活」を遂げようとしていたのでした。

物が動く、物流が動くと供給サイドも活発になる、供給サイドが活発になれば自ずと人手不足になり、人手不足は給料を押し上げます。

給料が上がれば消費も増えるといった「好循環」が生まれます。

ここが日本と、米国なり海外とで決定的に違うところです。人手不足で給料が上がるという労働環境による産業構造の違いが明確に表れているのです。

供給サイドで人手不足が起きれば“賃金が上がる”…海外では当たり前ですが、日本ではこのような構造にはなっていないのです。

Next: なぜ日本だけ賃金が上がらないのか?インフレで総貧困化へ



なぜ日本だけ賃金が上がらないのか?

それはひとえに「労働力の流動性」にあります。

米国では、景気が悪化して企業業績が落ち込むと、まず「レイオフ」で労働力を削減し、景気が良くなってくると積極的に人材確保に動きます。

その際に、労働者側も職場を選べるようになる、つまり、賃金で職が選べるようになっているのです。もちろん職場環境も加味されます。

給料が安ければ人を集めることはできません。企業側は人材確保のために他社よりも良い給与額を提示しなければならないということになるのです。

それが「労働市場の流動化」です。

日本では不況下では、給料が安くても“働かせてもらえるだけで御の字”と思ってしまうのですね。この雇用車の感覚は、好景気時でも同じです。

日本では、解雇規制が厳しく雇用は厳重に守られているので、企業業績が悪化してもそう簡単には雇用者を解雇することはできません。

解雇規制は、戦後の労使パワーバランスが雇用者側が一方的に強いときには、労働者保護の観点から重要だったのですが、これだけ「働き方の多様性」が叫ばれている中では、それがかえって「従業員の低賃金」という状況を作り出しているのです。

それゆえ不況下で企業が取る手段としては“レイオフ”ではなく“賃金カット”になります。

リーマン・ショック後の大不況のときは、「リストラ」の名のもとに大量解雇が断行されました。早期退職というかたちでしたが、多くの社員に自発的に辞めてもらった経緯があります。

残った社員の給料もカットでしたね。ボーナスが現物支給という会社もあります。

コストカット徹底で日本産業は弱体化へ

余談ですが、このときの日本社会は「コストカット」で生き延びることに徹底し、企業は不採算事業を売却・閉鎖していきました。

それが日本から半導体事業が消えたことに繋がります。

優秀な人材はどんどん海外へ流出していきました。日本産業の衰退の始まりです。

事業の効率化に投資をすることがなく、ひたすらコストカットに走ったせいで、日本企業の生産性は上がることはありませんでした。

労働生産性はG7で最下位…。労働時間の長さはG7でも3位なのに、生産性では最下位です。よく働いているのにね。

効率が悪い働き方、それを変えようとしない風土…高度成長期のときは良かったメンバーシップ型と呼ばれる評価基準、つまり会社に行けば給料がもらえる仕組みを変えることなく、成果を重んじるジョブ型に移行することなく構造改革をしてこなかったツケが、労働生産性の低さにあらわれ、企業収益を上げることができず、結果として給料が上がらない状況を生んだと理解しています。

ひたすらタイムカードを押すことに意義を持っていたのです。リストラを恐れた従業員側も「給与所得者」でいられることを強く求めました。「給料が上がらなくても雇用は守って…」と、給与所得者でいればこそ得られる社会保障、退職金などを守るようになりました。

何十年もずっと日本では給料が上がらなかった要因が、このあたりにあるようですね…。

Next: コロナからの経済回復も遅い日本。米国と何が違うのか?



コロナからの経済回復も遅い日本。米国と何が違うのか?

米国市場においては、景気が上向きかけていたときに世界的に起きた出来事が「covid-19 パンデミック」です。

当初は、新型コロナウイルスが何者かはわからず、とにかく感染拡大を防ぐために、人々の行動を全面的に制限しました。

人と接触しなければ感染者数は拡大しない…「ロックダウン」ですね。無理やり人々の経済活動を止めたのです。需要側で大きなブロックを掛けたことで、供給側がすべてストップしたのです。

工場を無理やり止めた。失業者が溢れ、経済は完全に止まりました。海外ではこの事態を重く受け止め、大盤振る舞いの財政出動で、米国では失業保険給付金を大幅に引き上げ、働いているときよりも実入りが良くなったとまで言われました。

このコロナ対策も、日本と海外では大きく異なります。大規模な財政で給付金を出す海外と、財政の紐を緩めることなく給付を渋る日本…。

「供給側の強引な停止」「失業給付金額大幅アップ」…ここがポイントです。徐々に新型コロナウイルスの実態がわかりだすと、人びとの活動も再開され経済が動きだしたのは良いのですが、止まっていた供給側のインフラはすぐには再稼働できないところもあり、また十分な失業給付金をもらっていた労働者が労働市場に戻ってこないことからの人手不足もあり、供給サイドが逼迫してきました。

強制的に経済活動を止められた反動と言われる「リベンジ消費」が見られ、需要側が一気に膨らんだにも関わらず、供給側がまったく機能しない状態になりました。変則ではありますが一種の「ディマンド・プル」型インフレが発生しました。

需要が引っ張る形ではありましたが、供給側のひっ迫状況により、また人手不足で人件費が高騰したこともあり、供給コストが上がる「コスト・プッシュ」型インフレの様相が強くなり、インフレが加速しました。

「需要過多 × 供給ひっ迫」で、米国ではCPIは総合で前年比「8.3%」にまで上昇しています。この激しい上昇は、ここまでの解説からも素直に頷けますね。

エネルギー資源高騰でインフレ加速

インフレを語るうえで重要なものに「エネルギー価格」があります。

戦争状態になったことから、地政学的リスクでエネルギー価格が高騰しました。ウクライナ紛争は、ウクライナから小麦が輸出できないことで世界の小麦価格が高騰するという問題も生んでいます。ロシアへの経済制裁の報復で、西側諸国に天然ガスなどのエネルギー供給を止めたことも、エネルギー価格を押し上げています。

価格も問題ですが、経済活動に欠かせないエネルギーそのものが不足する事態を招き、EU諸国、とくにドイツではロシアにエネルギー供給網を依存しているだけに、ロシア側から天然ガスが供給されないのは国の存亡にも関わってきているのです。

EU諸国のインフレ懸念はこれから、ますます深刻になっていきそうです。

米国にはシェールガスやシェールオイルがあるので、ロシアによる報復措置の影響は少ないといえます。それでも米国でのあの物価高ですから、どれだけインフレが加速しているかよくわかりますね。

米国が、景気減速を犠牲にしてでもインフレを抑えたいとするFRBのパウエル議長の思いも非常にうなずけます。

需要が伸びているから利上げができる。米国の動きを追いかけるように、EUではこれからエネルギー価格高騰によるインフレが加速しそうで、金融政策における利上げはこれからだと思われます。

世界では、インフレ抑制のための利上げが相次いで行われています。

Next: 日本だけ利上げしないで大丈夫か?国民に“悪いインフレ”が直撃



日本国民に“悪いインフレ”が直撃

スイスも利上げを行いマイナス金利を終了しました。これで世界でマイナス金利を採用しているのは日本だけになりました。

世界で利下げをしているのは、トルコと中国と日本だけになりました。そう、中国も景気が良くないのです。これは世界の供給網のひっ迫にも繋がりますし、消費国としての中国の不況は世界経済にも大きな影響を与えます。

・デフレよりもインフレの方が良い
・需要は伸びるのは良い
・円安だと外国人観光客誘致にはメリット

…徐々に変わっていけば、それなりのメリットも享受できるとは思うのですが、なにせスピードが想定以上の早さですので、いろんなことが追いつかないでいるようです。

このスピード違反を起こした原因が、covid-19のパンデミックによるロックダウンからのリベンジ消費と、ウクライナ紛争にあります。

このインフレ要因は世界共通で、日本も同じインフレの波を被っているのですが、日本の物価上昇率は総合で3.0%となっています。

米国に比べれば低いものではありますが、米国では需要も伸びていて「ディマンド・プル × コスト・プッシュ」のインフレのように思えるのですが、日本は給料が上がらないので需要は伸びず「コスト・プッシュ」だけの物価高と思われます。

「菅義偉前総理による携帯料金引き下げがインフレを押し下げている」と指摘する人もいます。それでも日本では需要が伸びていないということは、それは「悪いインフレ」の典型となるのですけどね。

給料が上がらないなかでの物価高は、たとえ3%という数字でも、実生活は厳しいですよ。何より生活コストである電気代などの値上げが家計を直撃します。

中東における原油価格が落ち着いてきたにも関わらず、日本ではガソリン価格が下がらないどころか上がっているところも見受けられます。

日本は利上げができないほど景気が悪い

円安で、日本のエネルギーコストが随分上がっています。ドル建て価格が落ち着いても円換算では高くなる…日本には「円安」という要素があるのです。

「日米金利差で円が安くなっている。だから日銀は利上げをすべきだ…」黒田日銀総裁に集中砲火を浴びせる声も日に日に高まっているようですが、いま利上げをすれば日本の景気はますますひどくなってくるでしょう。

とにかく景気が悪い。利上げができないほど景気が悪いのです。GDPギャップが大きくマイナス、つまり需要が伸びないデフレ状態であるということです。

ここまで「インフレ × 円安」のメカニズムをお話してきましたが、日本の産業構造、労働市場が変わらない限り、賃金上昇は望めませんし、世界がインフレから開放されても、日本だけは円安によるコスト高は解消されないでしょう。

つまり、日本だけがまったく出口が見えない状況だということです。こんな状況で、私たちの生活を守る処方箋はあるのでしょうか…。

Next: 物価上昇も賃金据え置きの日本、私たちはどう生き抜けばいいのか?



副業と投資が必須か

正直、なにもないというのが本音ですが、とにかく個人の工夫で収入を増やすこと以外に打開策はないようです。

副業と投資…日本政府が「リスキリング(Reskilling)」推進に力を入れていくようです。「リスキリング」とは、今後の業務において必要となるスキルや技術を社員に「再教育」すること。特に近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応を念頭に、デジタル関連の教育に力を入れるとしています。この推進を、経済産業省が音頭を取って行うようです。

「リカレント教育」や「生涯学習」もそうですが、新しいスキルや考え方を積極的に取り入れる環境づくりに取り組むことで、「副業」を推進することを政府は考えているようです。

副業で収入を増やして、これに「投資」の手法を取り入れることも検討する必要があるようです。

長期投資と短期投資のハイブリッド…これが処方箋かと思われるでしょうが、もはやこれ以外に思いつくものがないのですね…。

給料は“貰う”ものではなく“稼ぐ”ものだ…こういうふうに思うのは、なかなか難しいですかね。

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