2022年9月22日、日銀はドル売り円買いの為替市場介入を行った。規模は円買い介入としては過去最大の2兆8,382億円。これまでは1998年4月10日の2兆6,201億円だった。同規模の為替市場介入を少なくともあと数回は繰り返すことができる。テクニカル的な判断からも今週(10月17日~21日)行うかも知れない。もっとも、市場介入は市場から円を吸収するので、引き締め効果を伴う。そこで、その影響を考えてみる。(『 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』矢口新)
※本記事は矢口新さんのメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2022年10月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
日銀の為替介入「おかわり」は今週中にも?
2022年9月22日、日銀はドル売り円買いの為替市場介入を行った。規模は円買い介入としては過去最大の2兆8,382億円。これまでは1998年4月10日の2兆6,201億円だった。
為替市場への介入は2011年11月4日以来で、ドル売り円買いの介入は1998年6月17日以来となる。
8月末の外貨準備高は1兆2,921億ドル(当時のレート約138円90銭で約179兆円)が、市場介入の原資となるので、何の制約もないと有りそうもない仮定では、同規模の介入を約63回繰り返すことができる。
また、今年の貿易赤字は18兆円に迫りそうなので、貿易での外貨需要なら約10回分満たすことができる。
もっとも、市場介入は市場から円を吸収するので、引き締め効果を伴う。そこで、その影響を考えてみる。
8月のマネーストックM3の平均残高は前年比3.0%増の1,565兆4,000億円だった。うち預金は前年比5.9%増の914兆5,000億円、現金は2.9%増の114兆7,000億円、外債は14.9%増の34兆7,000億円などだ。日本の外貨準備高はヘッジなし外債での外貨需要を約5倍分満たすことができる。
ここで、預金だけに注目すると、前年から約53兆円超増えた。市場介入の外貨売りで、貿易赤字分の外貨を供給、その分の円貨を吸収しても、例えば、預金の伸び率が5.9%から3%台後半の伸び率に下がるだけだ。
その意味では、同規模の為替市場介入を少なくともあと数回は繰り返すことができる。仮に私が財務省の担当者だったとすれば、テクニカル的な判断からも今週(10月17日~21日)行うかも知れない。
もっとも、外貨準備の大半は米国債で保有しているので、米政府を刺激することになる。上記のコメントはあくまでも仮定上の話だ。
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日銀が「利上げできない」4つの理由
ここに、円安(1990年8月以来となる148円台後半)、インフレ(8月の消費者物価指数:前年比+3.0%、コア指数:前年比+2.8%、9月の企業物価指数:前年比+9.7%)対策として、日銀が利上げをできない理由を繰り返しておく。
<利上げできない理由その1. 国内需要は大きくない>
GDPギャップはコロナ前の2019年10-12月期から2022年4-6月期まで11四半期連続でマイナス(=需要不足)。利上げでこれ以上需要を減らしても、インフレを抑えられないだけでなく景気をさらに悪化させるだけ。
<利上げできない理由その2. ゾンビ企業が耐えられない>
帝国データバンクは2022年7月、BISの「ゾンビ企業」の定義である「3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)1未満、かつ設立10年以上」に該当する企業を調査し、国内に約16.5万社の「ゾンビ企業」が存在すると推計した。
つまり、利益で利子が払えない企業が16万社以上存在する。利上げはそれらゾンビ企業を追い込むだけでなく、さらに多くのゾンビ企業を創出する。
また、全企業の6割以上が欠損法人(赤字で税金を払えない企業)だ。
<利上げできない理由その3. インフレは海外発>
日本はエネルギーのほとんど、食料の大半を輸入しているので、国内での利上げは無力。
<利上げできない理由その4. 財務省が許さない?>
「財務省のホームページには、普通国債残高は1,000兆円を超えており、金利が上昇すれば利払費が大幅に増えることになります」と明記されている。
日本の経済政策は事実上、打つ手がない状態となっている。税制改革など抜本的な見直しがない限り、過去20数年の停滞から、今後は坂道を転げ落ちる状態となっていく。貿易赤字、円安、インフレのスパイラルがそれを加速させる。
英企業年金の危機は、年金や保険、預金も安全確実ではないことを示唆している。保証や保障を物語る政府は、民間資産を当てにしているだけなので、厚かましい限りだ。
今さらながらに、自分の身は自分で守るという覚悟が必要だろう。
過去1世紀で最悪のリターン
ドル円は2022年10月14日、1990年8月以来となる148円台後半まで上昇した。
イエレン米財務長官は14日、米連銀の急速な利上げに伴うドル高が、ドル建て債務を抱える新興国を圧迫しているとの批判に対し、「市場で決定される為替レートがドルにとって最良の体制であり、それを支持する」と反論した。
しかし、利上げは当局が決定したもので、市場は従っているだけだ。政策金利とは誘導金利だが、市場はその誘導に逆らうすべを持たないものなのだ。そして、利上げは通貨を上げる手段の1つでもある。
米ドルの独歩高は、また、各国に輸入インフレを引き起こす一方で、米国からの外貨建て投資を通貨安という損失で悪化させている。世界中でほぼあらゆる資産が売られる中、各国の投資家にとっては米国の短期金融資産という逃げ道があるが、米国の投資家にとっては全面安なのだ。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)グローバルリサーチは14日、保有資産の60%を株式、40%を債券に投資する伝統的ポートフォリオの投資家たちが、2022年は過去1世紀で最悪のリターンに直面していると発表した。株価、債券価格のどちらもが下落しているためだ。債券市場からは多額の資金流出が続いているという。
2022年はインフレショックが金利ショックを引き起こし、それが景気後退ショック、信用リスク拡大と連鎖、加えて、欧州での戦争、エネルギー危機によって、あらゆる資産クラスで評価額が急落したとされている。
あらゆる資産クラスの評価額が急落、米ドル以外の通貨が全面安。過去100年間で最悪のリターン。つまり、今の我々が直面していることは、過去の経験則で乗り切れることではないのだ。
Next: 最悪のリターンはまだ続く?世界経済「正常化」は始まったばかり
「正常化」はまだ始まったばかり
とはいえ、私の過去のブログを見ていただければわかるが、こうなることはある程度予測できていた。このブログは発行済みメルマガの1部を転載しているので、内容はすべてオリジナルのまま、後日になっての訂正や編集は行っていない。
※参照:矢口新の生き残りのディーリング:ブログ記事一覧
https://ameblo.jp/dealersweb-inc/entrylist.html
世界で今起きていることは、ここ10数年に起きてきたことの結果に過ぎない。
リーマン・ショック後の米連銀資産の急拡大、欧州から始まったマイナス金利政策、日銀の異次元緩和に伴う様々な金融政策、世界的な新型コロナウイルス対策としての経済の殺処分、そして、コロナ対策で止めた経済支援のための財政・金融両面からの巨大な資金供給。それらがインフレや貧富格差拡大(これは税制によるものが最も大きい)、社会不安につながってきた。
各国が採ったこれらの政策は、すべて過去100年どころか前代未聞のもので、常軌を逸していたと言える。つまり、2021年末までの世界の方が異常だったのだ。だからこそ、米連銀は「正常化」を急ぐとしている。
一方、日本には外貨準備を売る為替市場介入以外(あるいは税制改革以外?)に「打つ手がもうない」のだが、日銀は「異次元緩和を続ける」とうそぶいている。いずれにせよ、それだけでもドル高円安は止まりそうにない。繰り返しておくが、中長期の円安トレンドの主因は貿易赤字で、この貿易赤字、円安、インフレはスパイラル的に悪化する可能性がある。また、2年国債の日米金利差も4%を超えてきている。
米国に先立ち、2021年の後半からいくつかの国で利上げが始まっていた。理由はインフレだ。
米国でも数年前から随所でインフレの兆しが見られていたが、コロナ後の資金供給が火をつけた。そのため、2022年3月から利上げ、6月からは資金回収を開始した。
つまり、「正常化」はまだ始まったばかりなのだ。
マイナス利回りの債券が投資運用理論的には説明がつかないような超高値ならば、それに呼応した株高も同じような超高値だった可能性がある。仮想通貨も、NFTも、スパックも、不動産価格も同様だ。つまり、リーマン・ショック以降の一連の政策は随所でバブルを生んだのだ。
また、そうした超高値、超低利回りは運用難を産み、英国の企業年金のような確定給付型(一定の給付額を約束しているもの)は「異常な」リスクを取るしかなくなっていた。何しろ、それらの企業年金が大量に保有していた2061年償還の英国債のクーポンは0.5%しかないので、過大なリスクを取ることなしには、約束の給付ができなくなっていたからだ。
同年金はイングランド銀行の市場介入なしには破たんしていたと言われているが、同国債は介入時点で元本の24/100に値下がりしていたとされている。こうした運用難はどこの国の年金、保険、銀行なども同じなので、英国の企業年金の苦境は氷山の一角である可能性がある。
ベン・バーナンキ元米連銀議長がノーベル経済学賞を受賞した。同氏の米連銀議長としての在任期間は2006年から2014年だ。つまり、在任中に米住宅バブルは進展し、2007年8月にはサブプライム・ショックが起き、2008年9月にはリーマン・ショックが起きた。そして、同氏の金融政策がその後のバブル、インフレや貧富格差拡大、社会不安につながった。
世界の多くの国々が「リーマン・ショック後の資金供給の急拡大、ほぼゼロやマイナス金利政策、コロナ対策で止めた経済支援のための財政・金融両面からの巨大な資金供給」を行ったように、バーナンキ氏の政策は、弊害の大きさを超えて、世界の称賛に値するものなのだろうか。
10数年続いた異常な政策が過度なインフレを生み、そのために世界経済が壊れかけている。そこで、多くの国々が金融の「正常化」を急いでいる。その正常化もまた異常なスピードで弊害は避けられないのだが、まだ始まってから1年も経っていない。
これが世界の実情だ。「過去1世紀で最悪のリターン」が2022年だけで終わるとは考えない方いい。 ※2022年10月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。
※本記事は、矢口新氏のメルマガ『
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相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー
』2022年10月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に
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相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー
』(2022年10月17日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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