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日本の脱炭素で儲かるのは中国企業だけ。グレタさん原発“擁護”発言で世界のエネルギー政策に変化の兆しも=原彰宏

環境活動家グレタさんが「すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」と発言したことで、原発推進派が勢いづいています。地球環境保護と原発は両立できるのか。世界も日本も脱炭素に向けて大きく動いていますが、太陽光発電パネルのシェアのほとんどが中国メーカーを占めている現状を見ると、日本のエネルギー政策がさらに不安定にならないかどうかをしっかりとチェックしながら進める必要があります。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年10月24日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

グレタさんが原発擁護?原発推進派も支持へ

「すでに稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」

環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが、ドイツで「気候保護のために原発は良い選択か?」というインタビューに答えたものです。

ドイツではこれを「原発擁護発言」と受け取り、原発推進派は手のひらを返したように「グレタ支持」に回りました。

リントナー独財務相は、「グレタ・トゥーンベリが原発を送電網に接続し続けるという党の立場を支持したことを歓迎する」と述べました。

ブッシュマン法相も、「グレタ・トゥーンベリですらドイツの原発の稼働継続に賛成している」と発言。

ドイツでは、原発稼働延長論争が起きているなかでの発言だけに注目が集まり、このことにより原発推進派が勢いを増してきたということです。

つまり「グレタにお染み付きをもらった」と言わんばかりで、グレタ本人の発言が大きな重みとなっているのです。

これは原発稼働反対派にとっても、地球環境活動をしているグループにも大きな影響をもたらしたといえます。

地球環境保護と原発は相容れない?

地球環境保護と原発…。

脱炭素という観点では親和性があるものの、福島原発事故やチェルノブイリ原発事故などからの安全面の問題や、核燃料廃棄処理問題なども危惧されていて、果たして人類にとってどちらが良いことなのかという選択は迫られそうです。

19歳の少女の声が世界を二分するという現象の健全性を問いたいとは思いますし、この少女の発言を盾に原発を推進していく姿勢にも違和感を覚えます。

当のグレタ・トゥーンベリさんは非常に困惑しているようで、自身のツイッターで、「自分たちの方向性に合うときだけ不愉快な真実に耳を傾ける人たちに注意することが重要だ」とけん制しました。

原発から石炭火力への回帰に反対する発言が、原発稼働の延長論議が進むドイツで政治利用されることに、グレタさんは不快感を示したと報じられています。

地球温暖化のある側面だけを強調して「CO2を排出しない原発」を取り上げるのはどうなんかという疑問を投げかけたいですし、単純に“CO2を排出するしない”だけで地球温暖化対策を語れることの危険性を考えるべきかと思います。

地球環境も大事ですが、その他の要素、経済面も考慮する必要があるように思えます。

Next: 原発は「脱炭素エネルギー」に含まれるのか?日本政府の方針は…



原発は「脱炭素エネルギー」に含まれるのか?

1つの側面だけで意見を発することの危険性を知るべきでしょう。

CO2を出させない。だからと言って、一気に脱炭素に舵を切ることによる足元の経済への影響も考えるべきところもあります。

経済無視と活動家は言いたいでしょうが、世界との関係を考えればそうもいかないでしょう。

日本でも原発再稼働は大きなテーマであり、いつの間にか新設・増設の話にまで発展しています。1基を動かせば、なし崩しにすべてを動かす……この国は本当に、政府に対しての信用がないのですね。

「脱炭素エネルギー」の範疇に、原発は含まれるのかどうかは意見の分かれるところです。

欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は、脱炭素社会の実現に向けて原子力発電を地球温暖化対策に役立つエネルギー源だと位置づけると正式に決めました。

EU内でも、原発などに異論が出て、信号の黄色のような新分類を設けるべきだとの提案もあったようですが、欧州委員会は今回、過渡期の対応だとして理解を求めたとされています。

原発については、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)処分場の具体的な計画づくりなどを要件としました。また、新増設は45年まで、運転延長は40年までに各国の規制当局の認可を得る案件が対象となります。

グレタ・トゥーンベリさんの発言は、この欧州委員会の決定を受けてのことと、グレタ支持者の弁ではあります。

日本では、岸田総理、西村経済産業大臣、経団連十倉会長出席の「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」において、電力の需給がひっ迫する状況やエネルギー安全保障に対応するため、これまでに再稼働した原発10基に加え、来年の夏以降、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認しました。

政府がこの10基に加えて再稼働を目指す方針の7基は、以下の通りです。

宮城県の「東北電力女川原発」2号機
新潟県の「東京電力柏崎刈羽原発」6号機・7号機
茨城県の「日本原子力発電の東海第二原発」
福井県の「関西電力高浜原発」1号機・2号機
島根県の「中国電力島根原発」2号機

この7基はいずれも、規制委員会の審査に合格しています。

日本の「脱炭素」目標は適切か?

日本では、2030年には温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減、2050年に完全なカーボンニュートラルを実現することを目標に定めています。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を等しくすることで、実質的な排出量をゼロにする状態のことで、日本は、2030年目標数値を、さらに50%の高みにまで引き上げることとしています。

この数字は、2021年10月に新たに閣議決定された内容で、2016年にパリ協定の採択にともなって制定されていたものよりもさらに厳しい削減基準が設けられているものです。

さらに、2020年10月に行われた菅義偉総理所信表明演説で、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と述べました。

この宣言が伝えていることは2つ。

1つは、カーボンニュートラルはCO2だけでなく、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含むということを宣言していること。それが「温室効果ガス」というキーワードに含まれます。

もう1つの重要なセリフが「排出を全体としてゼロにする」という表現です。

Next: CO2「全体としてゼロに」の真意は?エネルギー政策の岐路に立っている



CO2「全体としてゼロにする」の真意は?

「全体としてゼロにする」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするということです。

2050年にはカーボンニュートラルを目指すということです。

2050年のカーボンニュートラルを目指す前の目標である2030年での電源構成は、非化石燃料電源を59%にするとしています。この内、原子力発電は20~22%、再生可能エネルギーは36~38%に設定されています。

原発ゼロではないのです。

原発は再稼働、新設・増設でこの数字は維持できますが、再生可能エネルギーの目標数値は達成できるのでしょうか。

あるいは非化石燃料「59%」という枠組みを維持するために、その中の比率は流動的と考え、再生可能エネルギーで実現しなくても原発で多くのCO2排出を削減できると考えているのでしょうかね。

これが狙いでしょうか…。

再生可能エネルギーは外資優遇策?日本のメーカーは虫の息

当メルマガの22年10月配信分では、原発に関して、様々な観点から「なぜ再稼働が必要か」「なぜ新設・増設が必要か」を検証してきました。再生可能エネルギーはコストが高いという印象を与えるための「固定価格買取制度(FIT)」であると指摘してきました。

現状の再生可能エネルギーの電力比率は、2020年度で「20.8%」という数字があります。毎年微増で、顕著に増えているという感じではありません。

日本メーカーが育たない……。かつて太陽光発電や風力発電のメーカーは日本社がトップを占めていましたが、いまは中国と韓国が大きくシェアを伸ばし、日本社はトップ10に入っていないことも、当メルマガで指摘してきました。

蓄電技術の進歩も見られず、今になっていくつかのスタートアップ企業が出てきてはいますが、当時から国を挙げて蓄電技術を向上させていれば、今のような電力不足に悩まされることもなかったということも指摘しています。

太陽光発電メーカーの2020年市場シェアを見ると、以下のようになっています。
1位:Longi(隆基緑能科技) 中国
2位:Tongwei Solar(通威太陽能) 中国
3位:JAソーラー(JA Solar) 中国
4位:アイコ・ソーラー・エナジー(Aiko Solar・愛旭太陽能科技) 中国
5位:トリナ・ソーラー(Trina Solar) 中国
※参考:2020年の世界太陽電池市場、シェアトップ5社は? – 日経BP(2021年5月24日配信)

風力発電メーカーの2019年市場シェアを見ると、以下のようになっています。
1位:ヴェスタス(デンマーク)
2位:シーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(スペイン)
3位:金風科技(ゴールドウィンド)(中国)
4位:GEリニューアブル・エナジー(米国)
5位:遠景能源(ENVISION)(中国)
※参考:風力発電メーカーランキング、ヴェスタスとシーメンスガメサが上位。中国企業も席巻 – Sustainable Japan(2020年5月31日配信)

ネットサーフィンをして拾った情報なので、みなさんでもきちんと調べていただければと思いますが、個々で言いたいのは、日本企業が1社もなく、大多数が中国メーカーであることを知ってもらいたかったのです。

東日本大震災以降11年間、日本の経済産業省は何をしてきたのでしょうね。本気で再生可能エネルギー発展に取り組む気があるのでしょうかね…。

Next: 日本の太陽光発電量は世界第3位も、その技術は中国製がほとんど



再生可能エネルギーは持続可能なのか?

日本の再エネ電力比率は2020年度で「20.8%」です。2019年の再エネ発電設備容量は世界第6位で、太陽光発電は世界第3位です。

再生可能エネルギーは季節や天候によって発電量が変動し、安定供給のためには火力発電などの出力調整が可能な電源や、蓄電池と組み合わせてエネルギーを蓄積する手段の確保が必要です。

冒頭グレタさんは、ここでの火力発電や石炭発電を否定していましたね。

彼女たちにすれば、一刻も早く、というか今すぐにでも化石燃料をなくしたいのでしょう。実に非現実的ではありますけどね。

ここで念のため、再生可能エネルギーの定義を確認しておきましょう。

エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)においては、「再生可能エネルギー源」について、「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されており、政令において、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマスが定められています。

ここで問題になるのが「永続的」という表現です。ここに、再生可能エネルギー普及を嫌がる人たちは食いついてくるのですよね。

重要なのは「蓄電池」の技術

そこで重要になってくるのが「蓄電池」技術です。

日本の自給率は2019年度で12.1%とOECD加盟国の中でも低い水準で、世界が有事のときの日本国内のエネルギー安定供給においては、かなりの不安が残ります。

「安定供給の重要性」に地球温暖化問題をかけ合わせて「原子力発電」を位置づけてくるのですが、たしかに再生可能エネルギーは、この「安定性」に大きな課題があります。

それを解決するのが「蓄電池」なのですが、いまはまだその蓄電能力もさることながらコスト面でも採算が合わない状況のようです。

電力系統用蓄電池……経済産業省エネルギー庁のホームページには、このような文章が載っています。

経済産業省は、2013年から進めている「大型蓄電システム緊急実証事業」や、2015年の「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」、2016年の「大型蓄電システムによる需給バランス改善実証事業」などを通じて、蓄電池の実証実験を支援しています。

出典:再エネの安定化に役立つ「電力系統用蓄電池」- 資源エネルギー庁(2018年2月27日配信)

グレタ発言が世界で大きな話題になっているので、今回はそんな話題にも触れましたが、ここからは、いよいよ再生可能エネルギーにフォーカスして解説を進めてていきます。

はたして再生可能エネルギーはベースロード電源になれるのか。原発に取って代わるようになるのか。政府・国の思惑を横において、違う角度から検証していきたいと思います。

・洋上風力発電の可能性
・電気を蓄電して船で運ぶ「PowerX」
・太陽光パネル設置と自然災害
などの話を進めていきます。

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