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「要介護2」は本当に“軽度高齢者”か?介護保険から締め出し、地方自治体任せへ。厚労省ではなく財務省が決めるワケ=原彰宏

介護保険制度の見直しに関して、財務省財政制度審議会は軽度高齢者を(全国一律の)国の介護制度から地方自治体へ移管するとしています。具体的には「要介護1・2」のクラスを、全国一律の介護保険制度から外して地方自治体に任せるということ。すなわち、自治体ごとにサービスが異なるという事態を招くことになりかねないということになります。介護事業者や利用者家族などの批判を受けて一部見直しの動きも出ていますが、問題は山積みです。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年11月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

「要介護1・2」を介護保険から外す?

財務省財政制度審議会にて軽度高齢者を、(全国一律の)国の介護制度から地方自治体へ移管するとしています。

具体的には「要介護1・2」のクラスを、全国一律の介護保険制度から外して地方自治体に任せるということです。

地方自治体に任せるということは、地方財政の影響を受けやすいということで、それはすなわち、自治体ごとにサービスが異なるという事態を招くことになりかねないということになります。

2015年の制度改革により、すでに「要支援1・2」は、市区町村の枠組みに移されています。

今回「要介護1・2」も「要支援1・2」と同じ「軽度」に位置づけるというものですが、症状から見て、本当に「要介護2」は「軽度」と言えるのでしょうか。

周りの負担を考えると、「要介護1・2」を「軽度」にすることは、実態に即した対応なのでしょうか。

介護保険「保険制度 vs 税制度」論争があった

まずは介護保険制度について考えてみましょう。

介護保険とは、「介護を必要としている人に費用を負担する制度」で、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとなっています。1997年法案成立、2000年施行、何度かの改正を経て、直近は2020年に改正しています。

1997年といえば橋本龍太郎内閣、介護保険制度を担ったのが小泉純一郎厚生大臣でした。当時介護保険制度を、保険制度で支えるのか税金で考えるべきかで議論が分かれていて、小泉大臣の指導のもとで保険制度となりました。

当時私は、財政投融資を考え、介護保険を「第2の予算」としての年金保険料に組み込んでいくのではないかと思っていました。だから是が非でも保険制度にしておきたいのではないかと、邪推していました。

今の年金制度の問題も保険制度ゆえに、少子化による保険料収入の目減りや高齢化により給付額増加の影響をもろに受けて、制度のバランスを著しく欠いていて、結局は税金投入額を増やすことになっています。

当時も介護保険制度を設計するに当たり、社会保障制度の先行きは、想像できたのではないでしょうかね。

「第2の予算」確保のための保険制度……どうしてもそんな邪推をしてしまうのですね。

その後、消えた年金問題や厚生年金保険料で建てたグリーンピア事業の失敗などが世間の目にさらされることになり、自民党は政権の座を追いやられることになります。

Next: 軽度高齢者が全国介護保険から締め出される?問題となるのは認知症…



介護保険基本理念

さて、介護保険の基本的な考え方は、以下となっています。

自立支援:単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢
者の自立を支援することを理念とする

利用者本位:利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、 福祉サービスを総合的に受けられる制度

社会保険方式:給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用

要介護認定に応じて受けられるサービスは異なります。

サービス事業者は、
・在宅サービス(訪問介護、通所介護等)
・地域密着型サービス(定期巡回、認知症対応型共同生活介護等)
・施設サービス(老人福祉施設、老人保健施設等)
を行い、費用を市区町村に請求し9割分(7・8割分)が支払われます。

介護保険の財源構成は「保険料50%・公費50%」となっています。

<保険料>

・第1号保険料(665歳以上)23%
・第2号保険料(40~64歳)27%

<公費>

・国庫負担金25%(調整交付金5%、定率分20%)
・都道府県負担金12.5%、市町村負担金12.5%

問題となっている「軽度高齢者」を介護保険制度から外すということは、この国庫負担金を「要介護1・2」介護者のサービスのために“充てがわない”ということになるのでしょうかね。

「要介護認定」とは

介護サービスの必要度(どれ位、介護のサービスを行う必要があるか)を判断するものですが、その方の病気の重さと要介護度の高さとが必ずしも一致しない場合があります。

この要介護状態や要支援状態にあるかどうか、その中でどの程度かの判定を行うのが要介護認定(要支援認定を含む。以下同じ)は、保険者である市町村に設置される介護認定審査会において判定されます。

要介護認定は介護サービスの給付額に結びつくことから、その基準については全国一律に客観的に定められています。

この要介護認定で問題となるのが「認知症」の扱いです。

厚生労働省のホームページにはこうあります。

アルツハイマー型の認知症の方で、身体の状況が比較的良好であった場合、徘徊をはじめとする問題行動のために介護に要する手間が非常に多くかかることがあります。しかし、身体的な問題が発生して寝たきりである方に認知症の症状が加わった場合、病状としては進行していますが、徘徊等の問題行動は発生しないため、介護の総量としては大きく増えないことが考えられます。

出典:要介護認定はどのように行われるか – 厚生労働省

また要介護認定の聞き取りのときに、「できない」というのが恥ずかしくて無理に頑張ってみたり、できないのに“できる”と言ってしまうことで、現状に合致しない認定を受けてしまうことがあります。

特に認知症がある人の場合、認知面の調査では、実際と異なる返答をされる場合もあります。

認定基準によって受けられるサービスも異なりますし、何より家族の費用負担が異なります。

こればかりは、ご本人の気持ちの問題でもありますので、認定時点で頑張ってしまうのはよくわかりますが、公平客観的に現実に即した判定がされることを望みますね。

介護が必要と判定されると、症状のレベルに応じて「要支援1・2」または「要介護1~5」のいずれかに認定されます。

「要支援」とは、身の周りの介護はまだ必要ではないものの、日々の生活を送る上で何らかの支援が必要な状態です。「要介護状態になることを防ぐ」という意味合いも込められています。

嫌味な言い方をすると、「要介護になることを防ぐ」ことは介護保険制度の範疇ではないと、2015年に判断されたのだと思ってしまいます。

今回の「要介護1・2」も、介護状態ではなく「予防段階」だということでしょうか。

「要介護」の数字が大きくなるほど、必要な支援や介護の度合いが大きくなります。介護保険で利用できる居宅サービスや限度額も異なってきます。

居宅サービスとは、自宅で生活する人を対象とした介護保険の介護サービス全般のことを言います。

居宅サービスの種類は、「訪問サービス」「通所サービス」「短期入所サービス」「その他のサービス」の4種類になり、居宅サービスの費用は、要支援および要介護度や、利用するサービス、居住している市町村などによって変動があります。

重要なのは、利用者は「要介護2」以下が7割を占めているというデータがあることです。しかも、その割合は年々増加傾向となっています。

今回のテーマ「軽度高齢者が全国介護保険から締め出される」の対象である、まさに「要介護1・2」の介護者が該当します。

この“締め出し”、正確には「要介護2以下の介護保険不適用」を決めたのが、社会保障を司る厚生労働省ではなく財務省なのです。

Next: なぜ財務省が決める?介護実態を把握しているのか甚だ疑問



財務省財政制度審議会が決定?

財務省財政制度審議会とは、どんな組織なのでしょうか。

財務省設置法6条に基づき、2001年(平成13)1月に設置された財務大臣の諮問機関で、前身は、1950年(昭和25)に設立された旧大蔵大臣の諮問機関であった財政制度審議会。中央省庁再編に伴い審議会も統合再編され、財政制度審議会はじめ、資金運用・たばこ事業等・国有財産などの審議会が統合されて、財政制度等審議会になった。

※参考:財政制度等審議会とは – コトバンク

財務省財政制度審議会から出てきた話として、「要介護者1・2」を「軽度者」としたのです。

財務省いわく、地域の実情に合わせた多様なサービスをするには地方自治体が適しているとして、「要介護1・2」を全国一律の介護保険制度の適用外としたと説明しています。

この地方自治体が地域連携で行うのが「地域支援事業」になるそうです。

地域支援事業は、要支援や要介護になるおそれのある高齢者に対して、介護予防のためのサービスが地域包括から提供される事業のことです。

介護保険と地域支援事業に関しては、厚生労働省のPDFにその説明があります。
https://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/h30_jigyou02a_day2.pdf

「要介護1・2」の介護者を地方自治体にサービスを任すというもので、そうなるとお金の“出どころ”は地方自治体になります。

「財務省財政制度審議会は介護実態を把握していない」

「財務省財政制度審議会は介護実態を把握していない」……そんな批判が、現場から出ています。

「そもそも要介護の人を軽度者としてくくって要支援者と一緒に地域支援事業へ移行させる
のが望ましいのかどうなのか、根本的な問題もございます」こう指摘をしたのは、全国老人福祉施設協議会の小泉副会長・業務執行理事の発言です。

発言の場所は、厚生労働省介護保険部会(9月26日)でのこと。今回の「要介護1・2」を介護保険制度から除外することに対して紛糾した部会となっていて、その議事録がネットで公開されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001003533.pdf

小泉さんの発言は「P15」に記載されています。ぜひお読みください。発言には、「要介護1・2」の訪問介護・通所介護を地域支援事業に移行することは、専門性の乏しいケアで対応することになると、小泉さんの発言にはあります。

特に認知症の例を取り上げて、厚労省HPにもあるように、症状と介護認定が合致しないことがあり、認知症ケアにおいては重大な機能低下を起こす可能性が高くなると指摘しています。地域支援事業受託者に「要介護1・2」の訪問介護・通所介護を行う力量は未知数……とも指摘しています。

つまり、地方財政の具合によるサービスの不均衡が生まれ、場合によっては、必要なケアができなくなるということです。

介護保険を取り巻く環境としては、たしかに高齢化が進むにつれて介護費用も増加傾向にあり、介護給付費の総額は、介護保険制度創設時から約3倍にまで膨れ上がっています。

団塊世代が全員75歳以上となる2025年には、介護ニーズがますます高まって介護費用もさらに増加することが予想されています。

2025年以降は、介護保険料を負担する40歳以上の被保険者の人口が減っていくことから、どのようにして財源を確保するかが課題となるのもよくわかります。

高度成長期の、右肩上がりの高度経済成長期や“産めよ増やせよ”の人口増の時代では、保険制度が効率的であったことは理解できますが、全てが停滞横ばいになった低成長、むしろ衰退していく日本において、社会保障という国民のセーフティネットを保険制度にしておくことのデメリットは、どう考えればよいのでしょうか。

資本主義を考え直すのであれば、国家がなすべきことと市場主義に任せることのバランスを議論すべきではないでしょうかね。

私が懸念した保険制度維持の問題、つまり、少子高齢化が進むことで疲弊していくことは誰の目にも明らかなのに、政府はずっと放置してきました。むしろ、スタート段階で急がずに税制度を検討すべきだったのではないかとも思ってしまいます。これは私の私的意見です。

Next: 進まぬ少子高齢化対策。選挙が社会保障制度議論の妨げになっている



選挙が社会保障制度議論の妨げになっている

財源確保の方策として、介護保険料の引き上げや納付開始年齢の引き下げ、利用者負担額2~3割の対象者拡大などが考えられますが、どれも国民の反発を招くことが予想されます。

特に選挙があるときは、与党としては議題にあげづらい内容です。それが社会保障制度改革を、何もせずに放置してきた最大の要因となっています。

学級委員のように、毎年総理は変わっていましたからね。総理特権の衆議院解散権も、考え直すべきではないでしょうかね。選挙が怖かったら、じっくりと重要な物事は議論できませんよね。

介護に限らず医療においても、保険制度維持のために給付を減らす「予防・未病」に力を入れています。

介護においても期待されているのが「介護予防の強化」です。介護予防を強化することで要介護となる高齢者を出さない対策も考える必要があるのは理解できます。

それだけでは不十分だとして、財政面で財務省が介護保険のスリム化を主張しています。少子高齢化のスピードを考えると“時間がない”のでしょう。

そう考えると、ここまで政府が少子化対策を何もしてこなかったことが恨まれます。戦後最大の長期政権だったのにね。

介護を取り巻く大きな社会問題

多くの現場の方が指摘していますが、介護は机上の数字だけで決めるものではありません。単純に「軽度」で区別するのはおかしいという意見も多数あります。

特に認知症に関しては、高齢者ほど専門家が必要とされています。

進行前のケアが大事……「要支援1・2」を「軽度」として介護保険の枠から外すことが、進行防止のケアにつながるのでしょうか。

また、「軽度」の範疇を拡大して介護保険制度から外して地方自治体に委ねることで、家族への負担が増えはしないか懸念されます。

認知症症状を抱えた高齢者を自宅で介護することの負担は、とても大変です。

過重な介護負担、介護殺人、ヤングケアラー、介護心中……いま介護をめぐる様々なものは、大きな社会問題となっています。

財務省は、この現実をどのように見ているのでしょうか。

改めて要介護区分の内容

改めて、要介護区分ごとの状態を簡単にまとめておきます。

<自立(非該当)>

1人で日常生活を送ることができ、介護や支援が必要ない状態

<要支援1>

基本的にはほとんど自力で日常生活を送ることができるが、掃除などの複雑な動作において部分的な支援が必要な状態

<要支援2>

基本的にはほとんど自力で日常生活を送ることができるが、運動機能に少し衰えが見られ、部分的な支援が必要となる場面が要支援1よりも多い

<要介護1>

身の回りのことはたいてい自力で行えるが運動機能や認知機能にやや衰えが見られ、日常生活を送る上で見守りや部分的な介護が必要な状態

<要介護2>

日常生活において自力でできないことが増え、排泄や入浴など部分的な介護が必要な状態。認知機能が衰え、理解力や思考力が低下している

<要介護3>

自力で日常生活を送ることが難しく、歩行、食事、排泄など全面的な介護が必要な状態。認知機能の低下により問題行動が見られることもある

<要介護4>

起き上がりや歩行、入浴など全面的な介護が必要で、介護なしには生活を送ることができない状態。思考力や理解力の低下によって意思疎通がやや難しい

<要介護5>

寝たきりで意思疎通が困難な状態。寝返りやおむつ交換など全面的な介護が必要とされる

Next: 終の棲家によってサービス格差も?老後は地方自治体の財政次第に…



最後に「制度の矛盾」を指摘

この「要介護2」の、自力ではできないことが増える状態である介護者を、全国一律サービスから切り離して地方自治体の財政事情に応じたサービスに切り替えるというのです。

何度も同じことを指摘しますが、地方財政によっては、サービス低下に繋がり、家庭の負担が増えることが懸念されます。

国民は、自分が該当者になったときにサービスを受けられることを前提として介護保険料を負担しています。いわば、サービスを受けることは「権利」に等しいのです。

それを財務省の言い分で、サービスが受けられない範囲が増えるということは、まさに「制度の矛盾」とも言えます。

いったい何のための介護保険制度なのか。政府や行政は、どこを見て政治をしているのでしょうね。

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