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Tポイントを絶滅に追いやる3つの誤算。Vポイント統合も本質は“弱者連合”、元祖共通ポイント衰退の真相とは=岩田昭男

元祖共通ポイント「Tポイント」が、三井住友カードの「Vポイント」と統合すると発表されたことで話題になりました。敗色濃厚だったTポイントがこれで復権へ向かうのか、弱者連合として細々と展開されるのか。統合の狙いと、今後のポイント業界の勢力図について詳しく分析してみました。(『 達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場 達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場 』)

※本記事は有料メルマガ『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2022年11月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。

共通ポイントの先駆けだった「Tポイント」

10月3日、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)と三井住友フィナンシャルグループは、TポイントとVポイントが2024年をめどに統合すると発表した。

Vポイントは三井住友カードを利用すると貯まるポイントだが、このニュースが新聞・TVやネットで報じられた際、多くの消費者の反応は「Vポイントって何?」だったのではないか。

一方、Tポイントはいわゆる共通ポイントの草分けで知名度は抜群だ。筆者はTポイントがサービスを開始した2003年の記者発表の会場で感じた高揚感を昨日のことのように憶えている。

Tポイントの幹部は、イギリスの航空会社ブリティッシュ・エアウェイズのマイレージサービスを高く評価するとともに、「いま欧州では『共通ポイント』というものが盛んに利用されている。Tポイントはそれに倣った。今後ポイントサービスの主流になる」と意気込みを語った。

共通ポイントは業界・業種を問わずどの店で買い物をしたりサービスを受けてもポイントが貯まって還元を受けられるもので、Tポイントは日本で初めての共通ポイントだった。

CCCはレンタルビデオ店のTSUTAYAや蔦屋書店を展開しているが、TSUTAYAでビデオを借りる人の多くがTポイントの会員となり、大ブームになった。現在50歳以上の中高年男性の多くがこの時期に会員になったのではないか。

以来、いろいろな店のレジで「Tポイントはお持ちですか」と聞かれるようになった。消費者もそれまで以上にポイントというものを意識するようになった。Tポイントが私たちの消費生活を確実に変えた、時代を先取りする新しいサービスだったのは間違いない。

現在、Tポイントの会員数は7,000万人を超え、加盟店の数は15万店以上に達する。それがなぜ実績と知名度ではるかに劣るVポイントと統合することになったのか。

「Tポイント」がスタートダッシュに成功した理由

スタートから間もなくしてTポイントは、加盟店を「1業種1社」とする方針を打ち出す。たとえば石油販売業界なら加盟店をシェアトップのENEOSのガソリンスタンドに限定して、2番手以下の元売りの店は排除するという仕組みだ。そのためPonta(ポンタ)などの後発の共通ポイントは、業界のナンバー2、もしくはナンバー3以下の企業を加盟店にせざるを得ない。

この仕組みを徹底させることで、Tポイントは加盟店の数や質で他の共通ポイントよりも優位に立つことができた。

いま考えると、よくそんな強気の政策を強行できたものだと驚くが、それだけ他に先駆けた新しいサービスとしての勢いがあったということだろう。長期的にはこの「1業種1社」が足枷になって、逆に加盟店の広がりを抑え込んでしまったという見方もあるが、初期の躍進の原動力となったことは確かだ。

もうひとつ「決済機能が付いていない」ポイントだったことも、Tポイントの普及を後押しした。決済機能がついていると、当然、決済サービス会社に手数料を払わなければならない。しかし、決済機能がないことで、店側から見ると加盟店になるためのハードルが低かった。それが短期間に幅広い業種に浸透し、多くの加盟店を獲得できた理由のひとつだった。

いまTポイント失速の理由として、「dポイント」や「楽天ポイント」の台頭を指摘する声が多い。確かにこうしたスマホ決済と連動したポイントサービスの影響は大きい。しかし、少なくともスタート時は決済機能がついていないことが加盟店と消費者双方の負担を軽くし、Tポイントが広く受け入れられる下地になったと考えられる。

Next: Tポイント凋落の裏に3つの誤算。Vポイントは「救いの女神」か?



なぜTポイントは落ち目に?3つの誤算

では、Tポイントの何が問題なのか?改めて考えたい。

筆者の見立てでは、Tポイント側に次の3つの「誤算」があったのではないかと見ている。

  1. レンタルビデオの不振
  2. 杜撰な個人情報の管理
  3. ヤドカリ戦略の破綻

<誤算その1. レンタルビデオの不振>

まず(1)は、祖業のレンタルビデオ事業がNetflixやAmazonプライムなどのサブスクリプションに押されてすっかり低調になり、店舗が次々と閉鎖されていること。Tポイント会員はレンタルビデオ店のユーザーが中心で、店舗の減少は会員数の減少に直結する。

Tポイントの基盤がレンタルビデオの会員であることは、会員の男性比率が高いという特徴につながっていて、稼働率が低いという問題も抱えていた。

<誤算その2. 杜撰な個人情報の管理>

(2)は個人情報の管理・保護に関する認識が甘く、たびたび不祥事を起こしており、個人情報を扱う企業として致命的な欠陥があるのではないかということだ。一例を挙げれば、警察からの任意の捜査関係事項照会要求に応じて個人情報を提出していたことが2019年に発覚した。つまり犯罪捜査協力という名目で個人情報データを本人に無断で警察に流していたわけだ。しかも長期間にわたって継続的に行われていたというから大問題だ。

ポイント事業だけでは儲けが少ない。そこで顧客情報の転売をビジネスの柱にし、収益構造の転換を図ろうとしていたのではないかという疑いすら生じる。

<誤算その3. ヤドカリ戦略の破綻>

最後の(3)のヤドカリ戦略とは、ビデオレンタルの低迷を受けて、経営基盤をより堅固なものにするために、大手金融企業やクレジットカードや決済サービスのなかに入り込み、そこでポイント事業を展開したことを指す。

Tポイントは2013年に「Yahoo!ポイント」を統合し、つい最近までYahoo!ジャパン、ソフトバンクグループのポイント戦略の根幹を担っていた。これもヤドカリ戦略の一環といえた。ところがコード決済のPayPayが大きく伸びてPayPayポイントを開始すると、重複する事業ということになり、今年3月にお役御免になってしまう。ヤドカリ戦略が破綻に追い込まれたわけだ。

突如現れた救いの女神!?

このようないくつかの誤算のなかでも、とりわけ(3)の「ヤフーショック」は大きく、Tポイントとしては次の手が見えないのが現状だった。そこに目をつけたのが三井住友カードだ。Tポイントにすれば、まさに救いの神に見えたかもしれない。

三井住友カードは日本で最大手のクレジットカード会社だ。かつてはCMで必ず三井住友Visaカードと「Visa」を連呼し、Visaという国際ブランドとの親密な関係を強調していたが、最近は「NL」とか「タッチ決済」という言葉を前面に出している。

NLというのはナンバーレスの意味で、カード券面のクレジットカード番号や有効期限、名前などをカード裏面やスマホに移動させて、盗み見を防ぎセキュリティーを高めた「不正利用防止策」だ。タッチ決済はクレジットカードを端末にかざすだけで決済が終わるようにした先端技術。これらの技術はVisaブランドの総本山であるビザワールドワイド社が推進する技術で、今後、世界のクレジットカードに導入されることになる。

この技術を日本では三井住友カードが優先的に取り入れ普及させることが許されている。そのことが奏功してか、三井住友Visaカードはいまや日本のカードシーンを独走する強さを見せつけている。

2022年に一番注目を集めたクレジットカードとして三井住友カードNLが指名される機会が、雑誌やアフィリエイトサイトで増えているのはそのひとつの表れだ。

Next: Tポイントは格安の居抜き物件?統合の狙いは



Tポイントは格安の居抜き物件?

ナンバーワンカードの三井住友カードにとって頭痛の種は、実はポイントだった。三井住友グループが発行する共通ポイント「Vポイント」の知名度が冒頭で述べたように一向に上がらないのだ。

かつては三井住友カードにはワールドワイドポイントというポイントがついた。銀行系カードを代表するポイントとしてそれなりに知られていたが、いつの間にかVポイントに代わり、いまではVポイントが主流になっている。しかし、Visaの威光をもってしてもその知名度はいまだに低いままだ。

Tポイントはそんな三井住友カードにとって格好の獲物だった。Tポイントとの統合は、共通ポイントの仕組みもノウハウも加盟店も手に入れることを意味する。いってみれば居抜きで格安の物件を手に入れるようなものだ。うまくいけば完璧なカード事業が可能になる。そんな思惑もあるだろう。

10月3日の発表ではTポイントの運営会社の資本比率はTポイント6割、三井住友カード4割、統合のめどは2024年春で、新たなポイント名になるという。少々言葉が過ぎるかもしれないが、死に体のTポイント相手に統合を進めるには、相手に花を持たせて実を取るというのが三井住友カードの戦略なのかもしれない。

ある大手クレジットカード会社の幹部は、「Tポイント会員7,000万人に三井住友フィナンシャルグループの5200万人を加えて合計1億2,000万人で日本一だとしきりに喧伝しています。しかし、Vポイント会員は正確には2,000万人ほどですから合計しても9,000万人にしかならず、Pontaや楽天ポイント(この2つのポイントはいずれも1億人を上回る)に負けているので、日本一とは言えません。プレスリリースで、強引に1億2,000万人と打ち出して、その勢いで日本一にしようというのはちょっと無理があります」と批判する(編注:Tポイント運営のCCCは、名寄せをしているので1億2,000万人で収まっているが、比較した楽天とポンタよりは多いはずと指摘。加えて、楽天とポンタは名寄せをしていないため、1人が複数枚のカードを持っていてもそのまま発表すると主張しています)。

統合の本質は「弱者連合」

マスコミは水増しされた会員数をもとに今回の統合劇を強者連合のように囃すが、それは間違っている。これまで見てきたようにTポイント、三井住友カード(Vポイント)はどちらも弱みを抱えた弱者であり、弱者連合というのが正しい。

両者をこんなふうに擬人化してみると面白かもしれない。

Tポイント=旅芸人:一座の看板役者。ただし、いまはすっかり落ちぶれてしまった。
Vポイント=大店の若旦那:才覚も実績もないが、店の金だけは親に頼んで引き出せる。

若旦那は役者のひいきになって役者を再生させようとするが、果たしてその行方は……。

下手なたとえはこれくらいにして、話を元に戻す。双方ともに弱者とはいっても、以下のように見返りは三井住友カードのほうが圧倒的に大きい。

・元祖共通ポイント「Tポイント」の力は絶大で、会員増が確実に期待できる
・さまざまな業界に精通した共通ポイントのノウハウが丸ごと手に入る。

注意しなければならないのは次のようなことだろう。

・Tポイントの個人情報の管理・取り扱いに関するコンプライアンスを徹底して、信用の回復を図る必要がある
・統合に時間がかかりすぎると、他のグループの介入を招く恐れがある。できるだけ早く実行に移すべき

あえて最後につけ加えるなら、三井住友グループは、新しいポイントサービスの名前を決めるにあたって、Tポイントの意向を最大限尊重する度量を見せてほしい。

長年この業界を見てきた者として、Tポイントという名前が完全に消えてなくなってしまうとしたら、実に寂しいことだ。

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※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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