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クールジャパン赤字309億円超、薄給アニメーターを差し置いて誰が税金で潤った?結局は“天下り先”を作っただけで統廃合へ=原彰宏

クールジャパン機構の投資先が業績不振になり、機構自体の存続が危ぶまれています。クールジャパン機構の累積赤字はなんと309億円。政府がお金を出すことで貧困にあえぐ末端アニメーターの救済も期待されていましたが、実際のお金を手にしたのは……?結局は誰かの天下り先を作っただけという声も聞かれます。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2022年11月28日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

累積赤字309億円「クールジャパン機構」

クールジャパン機構の投資先が業績不振になり、機構自体の存続が危ぶまれています。

クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)は「日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓に関連する支援・促進」を目指し、2013年、法律に基づき官民ファンドとして設立されました。

「日本の魅力」を事業化し、海外需要の獲得につなげるため、「メディア・コンテンツ」「食・サービス」「ファッション・ライフスタイル」「インバウンド」をはじめとする様々な分野でリスクマネーを供給するものです。

海外に、アニメやラーメンといったものを海外イベントなどで広く紹介する一方で、日本国内のアニメ現場などの資金が必要な場所にお金が流れていないとか、クリエイターに恩恵がないなどの指摘もありました。

お隣韓国でも、エンタメや文化支援に積極的になっていて、音楽グループ「BTS」が世界的に大きな影響をもたらしている成功例は周知のとおりです。

米アカデミー賞4冠の「パラサイト 半地下の家族」の映画や、「イカゲーム」「愛の不時着」といったドラマなどの世界的ヒットも見られます。

韓国では、国を挙げてエンタメや文化を支援していこうという取り組みが見られますね。

ひるがえって、日本はどうでしょう。

「クールジャパン機構」元社外取締役の夏野剛ドワンゴ社長は「機構」の責任者が9年間で3人も変わったことや、経営者刷新が繰り返されていたことを指摘して「韓国との国の本気度の違いが結果に表れている」とコメントしています。

「クールジャパン機構」って単なる天下り先としか考えていないのでは…?そんな疑問が頭をよぎりますね。

その日本の本気度が今年に入って“日本の”エンタメ・文化支援などが“崖っぷち”に追いやられたという報道に繋がるのではないでしょうか。

“崖っぷち”を数字で表したのが「累積赤字309億円」というものです。

経済産業省は、2025年度に黒字転換させるとして存続をめざす一方で、財務省・財政制度等審議会は、組織の統廃合を検討する事態となりました。

もともと経済産業省の従来計画は「2024年度黒字転換」でした。つまり、1年先送りにした格好になります。

Next: そもそも何のために作られた?成果が出なくても惰性で続けてきたワケ



そもそも何のために作られた?

じゃあなんで「クールジャパン機構」を作ったのでしょう?改めて、設立の経緯をおさらいしておきましょう。

そもそものスタートは、2007年第一次安倍政権時の「日本のブランド価値向上政策」でした。そして民主党政権「クールジャパン海外戦略室」設置を経て、上記の通り、2013年第二次安倍政権のときに「機構」が設立されました。

設立政策意義は、「“呼び水”としてのリスクマネー供給」にあるとされています。理念は、「食」「アニメ」など“クール(かっこいい)”な魅力を海外に広めるソフトパワー強化にありました。リスクマネー供給と言っても、いわゆる単なる投資ではなく、経済政策の一環のようなもののようです。

ただ、クールジャパン機構は「海外需要開拓支援機構」ですから、「内需」は眼中にはないということですかね。

ずさんな投資、目的があいまいな投資が目立ち、3月末時点で309億円の累積赤字を抱える……報道ではこのような厳しい声も上がっています。

「クールジャパン機構」の戦略会議は、昨年9月から開かれていないという報道もありますね。

単年出資142億円(2022年)、総投資件数53件、そして累積赤字が309億円というのが「クールジャパン機構」の実態です。

クールジャパン機構の概要に関しては、直近では「令和3年10月」の資料が経済産業省ホームページから見ることができます。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/2110CoolJapanFundr1.pdf

「機構の狙い」として、以下のように書かれています。

・日本は人口減少に直面し内需が縮小傾向。外需を取り込み経済成長につなげる必要。
・グローバル競争が激化する中で、他国に真似できない日本固有の魅力を外需の獲得に つなげることを目指す。
・具体的には、日本のコンテンツ、ファッション、日本食、地域産品、観光等で海外展開 やインバウンドの強化に取り組む。

この資料の中の「事業スキーム」として「“呼び水”としてのリスクマネー供給」とあり、「ハンズオンによる経営支援」とありますが、この「ハンズオン」とは、実地で体験したり実務に携わる、現場で実践するなどのことで、教育現場でいうところの「体験学習」といった意味があります。

資料には「体験学習」として、メディア・コンテンツ43%、ライフスタイル32%、食・サービス12%、インバウンド11%などに出資したとあります。

政府946億円、民間107億円の総額1,053億円になるそうです(数字はいずれも昨年10月データ)。

鳴り物入りで始まった、日本文化を海外に売り込む日本の戦略ですが、よく言われる「国がやることは成功しない」ものになってしまうのでしょうか…。

成果が出なくても惰性で続けてきたワケ

今月22日に開かれた財務省・財政制度要審議会では、「ラストチャンス」「これで改善しなければ、統廃合の道筋も検討しないといけない」という意見があったと報じられています。

経済産業省からの、当初計画から1年遅れの2025年度に黒字転換提案、累積損失を2033年度に解消する計画に関して、分科会が来年6月に進捗状況をチェックすることになっています。

報道では、財務省の担当者が「成果が出ていなければ、守り切れないということになるかもしれない」と話したとあります。

クールジャパン機構の担当者は「コロナの影響で観光分野で見込みと違ったり、中国での事業に影響が出たりした投資先もある。黒字化する時期は修正したが、すぐに統廃合ということではない」と強調したとのことです。

「『クールジャパン』というとイメージが狭くなりがちだが、今後は先端技術など手を付けていなかった領域にも投資を拡大する」のですって。

2012年12月に発足した第2次安倍政権が打ち出した「クールジャパン機構」に関して、当時の安倍晋三首相は、最初の施政方針演説で「『クールジャパン』を世界に誇るビジネスにしていこう」と力説していました。

機構設立時の映像では、テープカットに茂木敏充自民党幹事長や甘利明元自民党幹事長が映っていましたね。当時の役職は、茂木敏充氏は経済産業大臣、甘利明氏は経済再生担当大臣、TPPを担当していました。ちなみに初代クールジャパン担当大臣は稲田朋美氏でした。

今の担当大臣は誰だかご存知ですか?岸田政権では、岡田直樹氏が担当大臣を務めています。

岡田大臣の肩書は、内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策 地方創生 規制改革 クールジャパン戦略 アイヌ施策)・デジタル田園都市国家構想担当・国際博覧会担当・行政改革担当…となっています。

ん~、この担務だと優先されるのは、岸田内閣肝入の「新しい資本主義」にある「デジタル田園都市構想」でしょうね。本音は、大阪万博があるので国際博覧会担当に重点を置きたいのでは…?

Next: 末端アニメーターの救済はどうなった?実際にお金を手にしたのは…



末端アニメーターの救済はどうなった?

海外にアニメやラーメンといったものを海外イベントなどで広く紹介する一方で、日本国内のアニメ現場などの資金が必要な場所にお金が流れていないとか、クリエイターに恩恵がないなどの指摘がなされていてと前述しました。

お金が落ちたのは末端のアニメーターではなく、大手広告代理店やコンサルだったということもあり、そのお金の使い方が果たして日本産業のためになっていたのかという疑問は残ります。

世界に日本の文化を広める「クールジャパン構想」は、結局は「観光立国」を目指すという方向で、その形を変えていくのではないのでしょうかね。

あくまでも「私見」ですが、それが、万博であったりIR事業だったりしてね。

ネットでは「クールジャパン機構」設立に関して、こんな文言があります。「小泉政権から始まっていたが、安倍政権になって理想的な日本人をつくり出そうとした」。戦後レジームからの脱却を全面に出して発足した第一次安倍政権が、真っ先に取り組んだのが戦後教育の見直しともなる教育基本法の改定でした。このことと「クールジャパン構想」を結びつけるのには無理があるかもしれませんが、ネット上にあるセリフ“理想的な日本人”というところ、日本人に“誇り”を取り戻そうというのが日本文化の世界輸出であるのか、それがアニメでありラーメンなのかと、穿った見方をしてしまいます。

クールジャパン機構ホームページに、直近の投資案件が紹介されています。
https://www.cj-fund.co.jp/files/press_221114-jp.pdf

ベトナムとカンボジアで日本食材も活用したジャパニーズイタリアンレストランチェーン「Pizza 4P‘s」を経営する「4P’s Holdings(シンガポール)」に約1,000万ドル出資すると発表したものです。

「4P’s」は益子陽介氏と高杉早苗氏が2011年に設立した。ベトナムとカンボジアで和とイタリアンを融合させたレストランを現在28店舗運営、チーズ工房と2つのセントラルキッチンを持ち、自社製造の冷凍食品やチーズを5つ星レストランやホテル、高級スーパー、E コマースを通じて販売するリテール商品事業も手がけています。

こんな所に出資しているのですね。

また、日本発の発芽大豆由来の植物肉原料の世界展開を企図するフードテック・スタートアップ企業DAIZ社へ20億円の出資を決定したともあります。
https://www.cj-fund.co.jp/files/press_221028-jp.pdf

繰り返しますが、クールジャパン機構は「日本の魅力」を事業化し、海外需要の獲得につなげるため、「メディア・コンテンツ」「食・サービス」「ファッション・ライフスタイル」「インバウンド」をはじめとする様々な分野でリスクマネーを供給するものでした。

これまでの「クールジャパン機構」の投資先事例をホームページで見ることができます。
https://www.cj-fund.co.jp/investment/deal_list/

民間がやらないことを国がやるという主旨はわかります。だから、投資の失敗にも意味があると機構側は言っていますが、失敗したお金は国民が納めた税金なのですから、失敗した詳細なり情報開示は、絶対に必要です。

「期待値と目先の数字」という観点は、たしかに難しい部分ではありますが、大事なのは「情報公開」です。正直に現状を伝えることです。

くれぐれも黒塗りの“のり弁状態”だけはやめて欲しいものです。

Next: クールジャパンをめぐって経済産業省と財務省がバトル?思惑は…



クールジャパンをめぐって経済産業省と財務省がバトル?

以下は、令和3年度の事業報告です。
https://www.cj-fund.co.jp/files/investment/report_r03_01.pdf

B/S、P/Lも見ることができます。
https://www.cj-fund.co.jp/files/investment/report_r03_02.pdf
https://www.cj-fund.co.jp/files/investment/report_r03_03.pdf

「クールジャパン機構」を所管する経済産業省は、政府の財政投融資を議論する財務省の審議会で抜本的な見直しに向けた取り組みを報告しました。

職員のボーナスの査定に差をつけることや、担当する案件に職員みずからの資金も投資できるようにし、利益が還元される制度を導入することなどで優秀な人材の確保に努め、業績の改善につなげるとしています。

ただ財務省としては、今後の実績次第では「統廃合」を視野に入れなければならないということを強調しているようです。

経済産業省 vs 財務省……相変わらず「縦割り行政」で、経済産業省は「クールジャパン」の“クール”の面から、財務省は「ファンド」の側面から“財政”から、ものを申しているのでしょう。

この省庁間対立構図は興味本位で見るには面白いですが、いったい誰が私たちの税金の使い道に関して責任を取るのかは、はっきりとさせてほしいです。

本当に国がやることは、最後は誰も責任を取らないですからね。

使われた大量の血税、またも検証・決算報告はうやむやに…

私たちの税金を使う予算立ては必死になるのに、使った後の検証、決算報告はずさんなのですから。

財務省が言う「統廃合」って、結局“クール”な日本のコンテンツを世界に輸出することをやめるということなのでしょうか。

それとも今あるたくさんの政府ファンドと一緒にするということでしょうか。

国土交通省や農林水産省所管の官民ファンドでも多額の赤字が計上されていて、経営の在り方が問われる事態となっています。

そもそも国が、民間の経済活動に対して余計なことをするものではない官僚たちにファンド運営ができるのか。

ちなみに、今回のような財務省財政政策審議会で議論されている官民ファンドは、以下の通りです。

・海外需要開拓支援機構(クールジャパン) 経済産業省管轄
2013年設立 累積309億円赤字

・海外交通・歳開発事業支援機構(JOIN) 国土交通省管轄
2014年設立 累積赤字145億円

・海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT) 総務省管轄
2015年設立 累積赤字112億円

・農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE) 農林水産省管轄
2013年設立 累積赤字141億円

いったい国は、国民の税金を使って何をやっているのでしょうね。

Next: ただの「天下り先」づくり?政府は本当に日本のために働いているのか…



ただの「天下り先」づくりか

この官民ファンドは、国の政策に基づき日本政府と民間で出資する日本の政府系ファンドで、かつて各省庁にあった政策金融機関が小泉構造改革で統合されたことで、新たに作り出した天下り先が「官民ファンド」に形を変えた“疑似政策金融機関”だと、竹中平蔵氏は指摘しています。

クールジャパン構想、日本の魅力や知恵を海外に輸出することに意義があることは認めます。しかし、それを国が前面に立って行うことなのか、いや行えるのか、何でも自分たちでやりたがるのは良くないです。

コンセプトを国が作るのはよいですが、オペレーションは民間に任せる、国はそのサポートに徹するべきだと私も思います。やるなら国が出資するのではなく、ガバナンスも含め民間が行い、国はあくまでも民間事業のサポートに徹するべきだと、私も思います。

国が前面に立つとろくなことはない……「呼び水」投資だとか天下りだとか累積赤字だとか、一体何をやっているのでしょうか。私たちの税金を使うのだから、私たち国民にきちんと説明してもらいたいものです。

そういえば、文部科学省が取り組む10兆円規模の「大学ファンド」は大丈夫なのでしょうね…。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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