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岸田「異次元の少子化対策」に期待できない理由。“普通”の施策で出生率を上げた海外事例=原彰宏

岸田首相は23日、衆議院の本会議で「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と発言。ついに政府も本腰を入れて少子高齢化と向き合う姿勢を見せていますが、本当に効果の出る施策を打てるのでしょうか?出生率の高いフランス・スウェーデンの実例を見ながら、いまの日本に必要な少子化対策について考えます。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

【関連】日本国民はまるで政府のATM。給料の半分近くを税金と社会保険料で毟り取り、30年の失政のツケを私たちに払わせている=鈴木傾城

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 20232年1月23日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

想定を上回るペースで日本の人口は減っている

出生数が80万人を切る…1年間に生まれる子どもの数を示す「出生数」について、大手シンクタンク「日本総研」は2022年は全国でおよそ77万人と、国の統計開始以降、初めて80万人を下回る見通しになったとする推計をまとめました。

かつてはベビーブームなんて言葉がありました。1949年のことで、このときの出生数は最多の269万6,638人でした。今とは桁が違います。

80万人を下回れば国の予測よりも8年早く、少子化が想定を上回るペースで進んでいることになります。

1人の女性が生涯に産む平均的な子どもの数を「合計特殊出生率」と言いますが、厚生労働省が昨年6月上旬に公表した2021年における合計特殊出生率は1.30でした。第一生命経済研究所の調べでは、2022年の特殊出生率は1. 27、7年連続の低下で、過去最低の1.26に迫ります。

政府は2025年度までに、子どもを望む夫婦らの希望がすべてかなった場合の「希望出生率1.8」の実現を目標に掲げますが、即効薬は見当たらないのが現状です。

これをどう考えるのか…。

厚生労働省によりますと、出生数は1970年代半ばから減少傾向が続いていて、2000年の出生数は約119万人、2020年には約84万人まで減少しています。約20年間で35万人減り、年間平均で約1.7万人の減少していることになります。

このまま何もしなければ人口自然減は続き、政府なり専門機関なり、どこの予想よりも速いペースで実際は人口が減っていくことになりそうな気がしてなりません。

毎年いくつもの地方自治体が消滅していく状況

違う角度から「少子化」の現状を見てみますと、総人口は、令和3年や令和4年と年間60万人超も減少しています。これは令和2年人口の島根県(67万人)、鳥取県(55万人)の1つの県がそっくりなくなるのと同じ規模感になります。

市区町村レベルで見れば、1年でいくつもの町や村が消滅しているようなものですよね。

もっと違う角度から見れば、日本の1年間の出生数から死亡数を差し引いた数字は、なんと宇都宮市という北関東の中核都市が消えてなくなるのと同じ規模感になるそうです。

婚姻届出数も低調とのこと。厚生労働省によりますと1年間の結婚の件数も2000年代から減少傾向が続いているようで、最近では、2019年は、いわゆる“令和婚”で前の年から増えたものの、それでも59万9,007組と低調で、状況改善には到底至らず、その後は数字は減っていて、やはりここでも「戦後最低」という表現が使われる事態となっています。

ようやく政府も本腰か

少子化の何が悪いのか……少子化では働き手が減ることになります。「生産人口」と呼ばれる層の数が減れば潜在成長率を押し下げることになります。

成長を続けるには生産性を引き上げる必要があります。年金や介護、医療などの社会保障制度は保険料などの負担増が避けられなくなります。

これが、今の岸田政権の「危機感」となって、「異次元の少子化対策」発言に繋がることになったようです。

ようやく重い腰を上げてきたか…という印象です。“遅すぎる感”は否めませんが、それでも厚生労働省もやっと本気で考えるようになったのでしょうかね。

Next: 政府は本当に本気になったのか?財源や使い道をしっかり見極める必要



政府は本当に本気になったのか?

それでも「やる気があるのか」という疑念はあるようで、日曜日のTBS「サンデーモーニング」コメンテーターの松原耕二さんがこう述べています。

・少子化対策を打ち出したタイミングが気になる
・防衛増税一色になることを避けるために、受けの良い少子化対策を出してきたのではないか
・統一地方選挙や補欠選挙向けのアピールではないか
・選挙までは財源f議論は封印、少子化対策は期限を区切っていない
・本気度がわからない
・少子化対策の財源の裏付け議論など、政権の本気度を見極めるべきだ

「異次元の」というネーミングから、言葉遊びをしている感じは確かにありますよね。政府の本気度をチェックする必要がありますね。

防衛費増額はすぐに予算が付きましたが、少子化対策には、具体的にどれだけの予算が付くのでしょうか。

海外は少子化対策にどれくらいの予算を割いているのか

同じくサンデーモーニングで紹介された資料「2017年子育て関連の公的支出の割合(対GDP比)」によれば、

フランス   3.60%
ハンガリー  3.47%
スウェーデン 3.40%
OECD平均  2.34%
日本     1.79%

日本は極端に低いですね。別の番組でも同じ資料を紹介していて、そこでは、

イギリス  3.23%
ドイツ   3.17%

も紹介しています。

一方で、日本よりも低い韓国(1.30%)、米国(1.08%)もあり、一概には対GDP比の数字だけでは判断できない部分はあるのかもしれませんね。

フランスでは子どもを産めば産むほど生活が楽になる?

では、具体的に海外の例を見てみましょう(実際に海外に行って見聞きしたことではなく、書物や公的機関の発信情報などから拾ったものになります。そこはご了承ください)。

フランスの社会制度は、子どもを産めば産むほど有利なシステムになっているそうです。2人以上の子どもを養育する家庭に給付される「家族手当」に所得制限はありません。20歳になるまで、子どもの数によって支給されます。日本とは違い、子どもが1人の家庭には支給されません。

特に子どもが3人になってから支給される「家族補足手当(多子手当)」というのがあり、所得制限はありますが、制限は緩やかになっています。「新学年手当」というのがあり、6歳から18歳までの学齢期の子どもがいる世帯に支給されます。所得制限があります。また、子どもを3人養育すると、年金が10%加算されます。すごいですね。

「乳幼児受入手当」は3歳までの乳幼児を扶養する世帯が対象で、「出産・養子手当」「基礎手当」「就業自由選択補足手当」「保育方法自由選択補足手当」の4つがあります。「基礎手当」「就業自由選択補足手当」は毎月支給されます。各手当について、以下に補足します。

<出産・養子手当>

出産出産に係る費用を補てんするために妊娠7か月に支給される手当(所得要 件あり)、 養子手当は、20 歳未満の子どもを扶養家族として養子縁組した世帯に支給される手当です。

<基礎手当>

3歳未満の乳幼児を扶養する世帯が受給対象となっており、子どもの誕生月から3 歳になるまで毎月支給されます(所得要件あり)。支給に当たっては、3回の乳幼児健診が義務付 けられています。

<就業自由選択補足手当>

3歳未満の子どもの養育のために保護者が就労を完全にまたは一部 中断している世帯に対して、毎月支給される手当(所得要件なし)。

<保育方法自由選択補足手当>

保育方法自由選択補足手当は、6 歳未満の子どもを扶養している世帯が認定保育ママ(ベビー シッターを含む)を個人的に雇用した場合等に、彼らの雇用に関わる賃金や社会保険料の 一部を補てんするために毎月支給される手当。

このほか、1人親世帯を対象とした「家族支援手当」や、障害を持つ 子を扶養する世帯を対象とした「障害児教育手当」、事故や障害を持つ子に保護者が付き添う必要がある場合に支給される「親付き 添い手当」、「住宅手当」があります。

単に「給付」だけが多いだけではありません。

働き方において、子育てのために仕事を全面的に休むのか、週4日や3日勤務、午後3時までと言ったように時間短縮するかなど、個人に合わせて労働の有無や、労働時間数を選択することができるシステムがあります。父親休暇を含め、出産・育児休暇も日本よりも多くあり、企業側にも、子育て支援のために協力することを要請しています。

両立支援……仕事と育児の両立を、国を挙げてサポートしているのです。

Next: なぜフランスとスウェーデンは出生率が高い?政府の手厚い支援



なぜフランスとスウェーデンは出生率が高い?

なぜフランスは出生率が高いのか。合計特殊出生率が高いフランスやスウェーデンでは「婚外子」や「同棲」の割合が高いようです。

フランスのパクス(PACS、連帯市民協約)やスウェーデンのサムボ(同棲)といった、結婚(法律婚、教会婚)よりも関係の成立・解消の手続が簡略で、結婚に準じた法的保護を受けることができる制度があるためだとされています。

戸籍よりも事実関係が大事……ですか。ここは、日本もぜひ見習ってほしいですね。なぜ日本ではできないのでしょうか。文化や宗教観で説明するのは、いささか答えにはなっていないように思えるのですがね。

もしそういうことでできないのなら、米国の中絶問題もそうですが、国民の利益にあるための制度設計に宗教観は加味する必要はあるのでしょうか…。

スウェーデンでは、男女機会均等から出発した家族政策や女性解放政策によって、結果として少子化を食い止めました。なんと、子どもを出産する間隔を短くすると優遇されるそうですよ。子どもを次々と生むと制度上有利になるのです。

父親専用の育児休暇が法的に定められていたり、高い育児給付金であったり、国として少子化対策に前向きであることが伺えます。

ハンガリーでは「子沢山」を奨励

ハンガリーは、その政権が権威主義的ポピュリズムであり、「ハンガリーのトランプ」とまで言われているオルハーン。ヴィクトル首相ですが、自身も5人の子持ちでもあり、少子化対策には本気の姿勢が伺えます。

子沢山を奨励……ユニークなのが、3人以上の子どもがいる家庭は、7人乗り以上の新車を購入すると、7,500ユーロの補助金がもらえるそうです。

有給育児休暇3年、4人生んだら所得税ゼロ、新婚カップルに対する税額控除に無利子ローン、マイホーム補助金……特筆すべきは「学生ローン返済減免」。これは、学生ローンを借りていた女性が第1子を妊娠した場合、妊娠3カ月目から3年間、返済を停止できます。第2子を妊娠した場合も同様、第2子を出産後は、学生ローン残額の5割が免除されます。さらに、第3子出産後は残額全額が免除されます。なんとも斬新なアイデアだこと。

さらには、体外受精無料化。第1子に対して5回まで、第2子以降は4回までの体外受精費用を、全額補助しています。体外受精にかかる医薬品の100%保険適用、これによって、体外受精は無制限に健康保険が適用されるようになりました。

これらの「異次元の少子化対策」で、ハンガリーでは過去10年、子どもを産む人が2割増えたとのことです。これらが「異次元」の少子化対策ではないでしょうか。

さて、岸田政権の「異次元の少子化対策」って、どんなものが出てくるのでしょうか。

選挙に行かない若者よりも「票になる」高齢者に税金を投入?

社会保障といえば、高齢者のためにある言葉のように今までは捉えられていました。「全世代型」を強調する政府は、どうやって若者世代に保障を拡充していくのかが問われます。

票につながらないから若者対策は疎かになる……政治家が、保身のために(自身への票のために)政策をしているようでは、いつまでたってもこの国は良くはならないですね。

年金制度には「年金支給辞退」というのがあります。高齢者側が、自ら率先して痛みを受けることができるのか、自分たちへのリソースを、次世代の若者に費やす発言ができるのでしょうか。

選挙前には高齢者に優しい発言ばかりで、このことが社会保障制度の抜本的改革を妨げてきました。高齢者の耳が痛いことはずっと言ってこなかったのです。

介護士待遇は改善されても、保育士待遇はなかなか改善されない……若者に向けた政策がなかなか動かないのも、政治家が「票」を意識するあまりの行動の結果のように思えます。

だから若者は投票に行こう……そういう話ではないでしょう。日本の未来に投資するのは国家運営には大事なことであり、若者の投票行動に関係なくやるべきことはやらなければ。

Next: 明日さえ不安な若者たち。少子化要因としっかり向き合う必要



少子化要因としっかり向き合う必要

一般的に言われている「少子化」の要因として「出産期女性人口減少」が挙げられます。

晩婚化なども言われますが、なぜ結婚しないか、結婚できないかという根源には経済的理由が強いと思われます。

たしかに、子育て環境を改善し、子育てにかかる費用を軽減し、子どもを産んだ後も働きやすい環境を整えることは大事です。それはフランスやスウェーデン、ハンガリーの実例からも明らかなことです。

でも、そういった環境を変えたとしても、肝心の若い世代には、将来不安が強くあるように思えるのです。

40歳代以上の人の将来不安は「老後」に関することが多く、「健康」もあるかもしれませんが、20歳代の若者の不安は、もっと漠然とした「生き方」への不安だったり、もっと現実的な「目の前の生活」「明日の飯」であったりします。

もちろん老後不安もあるのでしょうが、そんな遠い未来よりも目の前の自分の姿、近未来の自分の将来像が見えなくなっているような気がします。

まさに、数年後の未来も描けない状況で、老後なんて遠くかすんで不安を感じる以前の問題になっているのかもしれません。

・給料が上がらない
・将来の生活が見えない
・今を生きるのに精一杯

……こんな状況で家族を持とうとか子どもを育てようということは、考えられないですよね。

ロールモデルがない。私たち大人の責任もあるかもしれません。寂しい、丸まった背中をたくさん見せてきましたからね。40歳以上の大人の諸君、若者の見ているところで“ため息”ばかりつくのはやめよ…。今の社会が、ましてや政府が、若者に明るい未来を示していない中で、結婚という他人の人生を背負う責任なんて持てる訳がない、ましてや子どもを育てるということは考えにも及ばないのでしょう。

保育無償化も待機児童をなくすことも、男性の育児休暇取得促進もわかりますが、もっと根本的な部分の改善、それこそ経済的な問題も含め、いろんな要素が重なり合い、年金問題だって昇給の問題や雇用環境、非正規雇用が増えていることも関係してはいませんか。

社会に明るい材料が見えず、未来に夢が持てなくなっているのだと思います。

単に出生数数が減少しているという数字の話ではなく、その背景にある闇のような部分が大事なのではないでしょうかね…。

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