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「消費増税先送り&衆参W選挙」はアベノミクス最後の切り札となるか?=江守哲

今回のG7では、麻生財務相とルー米財務長官の認識の溝が浮き彫りになりました。伊勢志摩サミットでも各国が協調して動くコンセンサスは得られにくい状況にあり、安倍首相は結果的に最終手段に出ることになるでしょう。それが「消費増税先送りと衆参ダブル選挙」です――有料メルマガ『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2016年5月23日号の一部を無料公開します。

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プロフィール:江守 哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

市場で高まるサミット後の政策期待。しかしそう簡単にはいかない

G7の成果は?

主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が閉幕しました。仙台市内で開催されていましたが、日本での開催は8年ぶりだそうです。今回のG7では、為替政策に関する従来のG7やG20の合意を確認するにとどまりました。

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直近のG20では、通貨の競争的な切り下げ回避の重要性が謳われました。また世界経済の不確実性の増大に警戒感を示し、各国が状況に応じて金融・財政・構造改革を組み合わせて政策展開することも確認されました。

麻生財務相は会見で、「最近の為替市場の動向を踏まえて為替レートの安定が重要との認識をあらためてG7として再確認した」と説明しました。その上で、為替レートを目標にはせず、過度の変動や無秩序な動きは経済や金融の安定に悪影響を与えるとした2月の上海G20の合意を再確認し、競争的切り下げ回避の重要性も強調しました。

一方、麻生財務相の好敵手とも揶揄されたルー米財務長官は記者会見で、「為替に関するコミットメントが相場の安定に寄与してきた」との認識を示すとともに、G7が為替に関する公約を再確認したことは重要としました。

麻生財務相とルー米財務長官の認識に大きな溝

過去のG20・G7を受けて、日本と米国には為替認識に大きな違いがあることが浮き彫りになったことは記憶に新しいところです。日本政府は、今年に入って1割を超える上昇となった円高は「過度で無秩序な動き」と認識しています。さらに、景気に悪影響を与えるとの懸念を強め、円売り介入の可能性を何度もほのめかしました。

しかし、米国の方といえば、ドルの下落は想定通りです。今年からドル安政策に転換していると思われますので、ドルの下落は喜ばしいかぎりです。その流れを、日本が余計なことを言うことで止まるようなことを許すはずがありません。

結局、この二人の認識の溝が全く埋まっていないことが、日米財務相会談で浮き彫りになりました。米国は足元の円相場は秩序立っているとの立場を変えておらず、日米の為替に関する見方は平行線のままで終わったようです。

為替政策については、やはり米国の意向が最終的は反映されることになりそうです。日本が勝手に円売り介入などを行い、市場の方向性を無理やり変えようとすれば、結果的に「ミスター円の悪夢」が繰り返されるだけになりそうです。

Next: 「ミスター円の悪夢」再び?不用意な円売り介入に対しては米国も反撃必至



「ミスター円の悪夢」再び?不用意な円売り介入に対しては米国も反撃必至

「ミスター円の悪夢」。それは、1997年に財務官に就任した榊原英資氏の円売り介入に対する、米国の対応を意味します。

榊原氏は在任中に8兆5000億円もの円売り介入を行いました。在任中は一時147円までドル円が上昇することもありました。すべては、榊原氏の積極的な円売り介入のおかげとみられていました。

そして、1999年7月に任期を終えるまでに、ドル円は再び調整、108円台にまで下落する場面がありました。それまでの水準から40円もの円高になったことから、自身のこれまでの成果を否定された気持ちにでもなったのでしょうか、榊原氏はそこで「122円まで円安にする」と発言してしまったのです。

事実、その後は積極的な円売り介入で122円台を回復しました。しかし、ここで怒ったのが米国です。当時のサマーズ米財務長官は「聞いていない」とし、日本の勝手な円売り介入が米国の逆鱗に触れたとされています。

その結果、99年11月には101円台にまで急落することとなりました。つまり、日本が勝手に円売り介入をすれば、最後は米国に厳しい対応を受けることになるということです。

ここ最近の麻生財務相の発言に、私はとてもひやひやしていました。結果的に、口先介入まででしたので、何とかなりましたが、これが実弾での円売り介入を実施していれば、100円では止まらないほどの円高になっていたのではないかと思います。

今回は突っ込んだ議論にならなかったのでよかったのですが、日本があまりに独善的な発言を繰り返せば、再び円高圧力にさらされる可能性があります。この点には要注意です。

Next: 厳しい伊勢志摩サミット/安倍首相「消費増税先送り&衆参W選」の勝算は?



いよいよ26・27の両日に伊勢志摩サミット開催

さて、いよいよ26・27の両日に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開催されます。安倍首相は、G7版3本の矢として、特に財政出動が成長を下支えする役割の重要性を主張したいと考えています。しかし、残念ながら、主要各国の足並みはそろっていません。

現在は国によって状況がさまざまであり、景気が底堅い国と悪い国が混在しています。また財政政策もスタンスや認識も大きく異なっており、為替および財政政策を同じ方向に協調して動くというコンセンサスは得られにくい状況にあります。

サミットで明確な成果を上げることができなければ、当然のように安倍首相は追いつめられることになります。政策の手足を縛られることになり、結果的に最終手段に出ることになるでしょう。それが「消費増税先送りと衆参ダブル選挙」です。

安倍首相「消費増税先送り&衆参W選挙」の勝算は?

麻生財務相は米国側に、消費増税は予定通り行うと説明したとされています。しかし、これまでの安倍政権のやり口を考えると、そのような発言を信じるわけにはいきません。

聞くところによると、主要各省はすでに衆参ダブル選挙をにらんだ準備に入っているといいます。野党も一人区は共闘して一人の候補を出して、協力して選挙を戦う意思を明確に示しています。このような状況で、安易に衆参ダブルに持ち込むと、自民党が議席を減らす可能性もあり、非常に難しい判断を迫られることになりそうです。

安倍政権が推し進めた大胆な金融緩和は一時的に株価を押し上げ、円安にはなりましたが、実体経済を押し上げることはできませんでした。結局のところ、企業側もこのような人為的な政策で景気が良くなるとは思っておらず、賃金の引き上げを行うインセンティブが働かなかったことから、安倍政権の思惑とは全く逆の状況になりました。

政府側は、「企業サイドに内部留保がたまり、民間の支出が出てこず、給料も上がらない」ということは認識しているようです。また、「財政が出ない限り、民間はさらに動かない」ともしています。しかし、政府が動けば民間が動くという発想そのものが、すでに古い教科書の考えというか、思い込みといえるのでしょう。

また「経済を成長させていくためには需要が必要ということに関しては皆一致している」ともしています。しかし、金融緩和でも需要が増えず、黒田日銀の政策の限界が露呈したばかりです。まだそのような発想でいるのかと思うと、先が思いやられます。

Next: 難しいかじ取りを迫られる安倍政権



難しいかじ取りを迫られる安倍政権

消費増税を先送りすれば、景気悪化は避けられるかもしれませんが、それが景気拡大にはつながらないでしょう。また財政を出せば需要が増えるということも、いまの日本では難しいように思われます。

今後もつねにデフレへの回帰のリスクと隣り合わせの中で、安倍政権は難しいかじ取りを迫られることになるでしょう。

証券業界には、サミット後の株価上昇への期待が高まっているようです。しかし、そう簡単にいくでしょうか?

政策に期待したい気持ちはわかりますが、そのようなものに期待するのではなく、真の株式分析を行い、それを投資家に堂々と披露してもらいたいものです。それが証券業界の役割ではないでしょうか。


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マーケット・ヴューポイント~株式市場は重要な局面に

今週の「ポジショントーク」~ポジションはほぼ変わらず

ヘッジファンド投資戦略~「ソロス氏の戦略に学ぶこと」

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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