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「マリオ映画」全米大ヒット、任天堂の業績はどれくらい上がる?日本公開も期待できる3つの理由=佐々木悠

アメリカで公開されている『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が、4月5日公開され公開後の興行収入がアニメ映画として歴代No.1を記録しています。5日間で興行収入は500億円を超え、間もなく1,000億円を突破する勢いです。2019年に公開された『アナと雪の女王2』を上回る好発進となっています。その観客動員数は驚異的な数字を叩き出し、映画ファンやゲームファンのみならず、ファミリー層も含めて多くの人から熱い注目を浴びています。日本では4月28日に公開される予定です。今回は、この話題作に深く関わった任天堂に注目していきます。映画の大ヒットが任天堂にもたらす影響や、映画が成功した理由について、しっかりと解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)

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プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。

マリオ映画が大ヒットしている3つの理由

マリオの映画がどのようなものか、動画をご覧ください。

馴染みのあるスーパーマリオブラザーズやマリオカートの世界が映画化されていることがわかります。

それではなぜ、マリオの映画がヒットしているのかを考えます。

<ヒットの理由その1:マーケティング活動>

脅威的なスタートダッシュの背景には、広告宣伝の効果があったと考えます。報道によると、今回のマリオ映画の制作費は、1億ドル(約130億円)をミニオンズなどで知られるイルミネーションと共同して出資しています。

また広告宣伝費用は製作費用と同等である、という情報があります。アメリカでは宣伝費が100〜200億になるとのことから、今回の映画も1億ドル前後の広告宣伝費があるのではと考えます。
※参考:製作費よりもお金がかかる!? 映画の「宣伝」の舞台ウラ! – 映画.com(2021年5月14日配信)

スポーツイベントでのCMやアメリカで人気の声優を採用するなどの宣伝活動が功を奏し、素晴らしいスタートダッシュを切れたのだと思います。何よりも、映画にこれだけのお金をかける任天堂の本気度が伺えます。

<ヒットの理由その2:ノスタルジーを喚起した>

実はこの映画は、映画評論家からは星5つ中「2.75」と決して評価が高いわけではありません。

一方で、一般人からの評価は4.7と大変好評です。

レビューからは「任天堂ファンはニヤニヤできる」「とても懐かしい気持ちになった」という感想が見受けられます。

ゲームに触れたことがある人に刺さる効果音や演出を入れたことがヒットの要因の1つになったと思います。来場者は子供に限らず20〜30代の観客が多いそうです。

<ヒットの理由その3:本質的なIPの強さ>

マリオは、多くの人が子供の頃に触れてきたキャラクターであり、その人たちが今では親となり、自分たちの子供にもマリオを遊ばせるという世代を超えて愛されるIPです。

このように長い間多くの人に愛されてきたため、任天堂にとって大きな財産となっています。10年後の子供や青年たちも、ポケモンやマリオで遊ぶ未来が容易に想像できます。これが任天堂のIPの本質的な強さであり、映画がヒットする最大の要因だと考えます。

Next: そもそも、なぜ映画に注力?任天堂の成長戦略



そもそも、なぜ映画に注力?

ここまで映画がヒットしている理由を考えましたが、本来任天堂は映画の制作会社ではなくゲームソフトやハードの製造販売を主とする企業です。

京都に本社がありますが、売上の80%が海外である、グローバルな企業です。

出典:任天堂 2022年3月期 決算短信より作成

任天堂はこれまで、ファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、Nintendo64、ゲームボーイ、DS、Wii、Switchなど様々なハードを開発してきました。しかし大きな課題がありました。それは業績がハードのヒットに依存するというものです。

下のグラフは、業績とハードの販売年を表したものです。

現在は営業利益約5,000億円に到達する企業ですが、2012〜2014年は営業赤字でした。wii Uがヒットせず、他のゲーム会社も売れないハードのソフトは作らない、という悪循環を産んでいました。しかし、2017年のSwitchが大当たりとなり業績が回復しています。2021年にはコロナの巣ごもり需要もあり、過去最高益を達成しています。

<ハード依存を改善するためにIPを活かしたい>

任天堂は、業績のハード依存から脱却するために、ある方針を掲げています。

それは「IPに触れる人口の拡大」です。

つまり、任天堂が保有する「ポケモン」「マリオ」「どうぶつの森」などのキャラクターを知ってもらい、好きになってもらうことです。これらのキャラクターは世代を超えて愛されている存在であり、ポケモングッズ販売やUSJの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」など、IP戦略の一環として活用されています。

そして今回ヒットしている「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」もIP戦略に含まれています。映画がヒットした理由は、様々なものがあるでしょうが、マリオというキャラクターが多くの人に認知されているために、人気が出たのだと思います。つまり、この事象は任天堂のIP・キャラクターの強さを裏付けるものであると考えられます。

23年4月28日に日本でも公開されます。もし日本でも大ヒットすれば、IPに触れる人口の拡大の成功例として注目されることでしょう。

映画のヒットは何をもたらすのか

では次に映画のヒットがもたらす影響を考えます。ひとことで言ってしまえば、企業価値に良い影響を与える、ということです。

任天堂が持つキャラクターには魅力があり、映画がヒットすることで「任天堂の映画はおもしろい」というイメージが定着すれば、より多くのファンが生まれる可能性があります。そして、ディズニーやピクサー、新海誠作品のようなポジションに任天堂が入ることもできるかもしれません。

実際、映画配給を担当するユニバーサルの責任者は、「この映画は、驚異的な知的財産を映画化している。」とコメントし、任天堂が持つ強力な知的財産を活用することで、ゲーム業界でより強い地位を確立する可能性があると感じられます。

<ゲームをしない人でも映画を見る?>

それでは、今回の映画が本来の目的である「IPに触れる人口の拡大」につながるでしょうか?

今回の映画の面白さはあくまでノスタルジーですから、映画を見る前にマリオをプレイしている必要があるでしょう。つまり、今までゲームをして来なかった人にとっては響くものではないかもしれません。

この懸念に対し「バンドワゴン効果」という行動心理が働く可能性があります。バンドワゴン効果とは世間の流行や周りの評判を判断材料にする傾向の事を指します

例えば、鬼滅の刃のアニメを見ていない人が「話題だから」という理由で映画館に足を運んだ事象が思い出されます。このように人気が人気を呼び起こし、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」も口コミやYouTuberのレビューなどが影響し、より多くの人々の関心を集める可能性があると考えられます。

Next: 任天堂は買いか?映画のヒットが業績と株価にもたらすもの



任天堂に投資しても良いのか?

最後に株価と売上の推移を比較してみましょう。

出典:株探、各年度有価証券報告書より作成

売上が伸びれば、しっかりと市場でも評価されていると考えます。

しかし、ゲームの開発には長い時間と費用を要する一方で、顧客のトレンドや求めるものは移り変わっていきます。ゲーム開発は簡単ではないですし、本質的にはギャンブル性が高い投資である側面もあります。

ただし、任天堂の取り組みはそのギャンブル性を排除し、弱点を克服するための取り組みです。その効果が実証できるのは、次のハードが販売された時だと思います。仮にハードがヒットしなかった場合、売上の大幅な落ち込みを回避できるか、が大きな注目ポイントです。一方でヒットした場合は、IPビジネスとの相乗効果により更なる成長が期待されます。

現状、任天堂は人気キャラクターを武器に様々IP戦略に取り組んでいます。

今回の映画はこのIP戦略の成功例となる可能性も大いに秘めています。日本での公開は4月28日とGWに合わせたものです。連休中に大きな話題となり、任天堂の業績に好影響を与えることを期待しましょう。


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image by: Barone Firenze / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2023年4月18日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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