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中国の電気自動車もアメリカに潰される。バイデン「EV税優遇」の外国車いじめで世界経済はどう動くか=角野實

バイデン政権は18日、米自動車メーカーの電気自動車を購入する際に税金を優遇する政策を導入した。中国はもちろん、日欧韓の車も対象外となったことで波紋が広がっている。米国メーカー限定の“EV優遇策”は各国の経済とマーケットにどう影響を与えるのかを解説したい。(『 角野實のファンダメンタルズのススメ 角野實のファンダメンタルズのススメ 』)

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プロフィール:角野實(かどの みのる)
大学卒業後、金融機関に10年ほど勤務。独立して投資家の道へ。現在は企業経営者として活動、FX関連の執筆を多数行っている。

自動車を巡る米中の争い。中国は日本と同じ道をたどる…

4月18日からEV車などの税制優遇から始まるのですが、以下のグラフをご覧ください。アメリカと中国の自動車生産になります。

アメリカ・中国の自動車生産

2016年くらいから中国の自動車生産が伸び、アメリカが減少しています。

これはみなさんお察しの通り、アメリカ自動車メーカーがコストの安い中国で生産を始めた結果、アメリカ本土で生産を縮小し、中国で生産をし始めたという結果になります。

要は自動車生産がアメリカから中国に移行をした、というだけの話なのです。そこで優遇税制は、アメリカ本土からの部品調達をマストとする。年々、その比率を高めていくということになるのです。

この話、大昔、どこかで聞きましたよね。そうです、1990年代の日米の貿易摩擦の話であり、自動車は日本メーカーの自主規制ということでアメリカ輸出を制限しました。中国向けにも同じことが起こっているだけの話です。

日本の場合は、アメリカ本土で自動車生産を開始しました。トヨタやホンダをアメリカ人はアメリカ企業と思っている方も多く、まさに現地化をしたのです。

おそらく中国の自動車メーカーもこの流れになると思いますが、問題は2020年に共産党が表明した中国社会主義化計画です。要は社会主義をこれからも促進していく、ということになります。中国メーカーがアメリカに進出した場合、それは社会主義も輸出される、という意味になり、個人的にはこれが米中争い激化の本質だろうね、と思います。

アメリカ人は共産主義を毛嫌いしており、「それは困る」という話になるのが必然だよね、と思います。

そのほか、半導体も、ほとんどの方は昨今の話でしょ、と思う方が多いと思いますが、1990年代には日米の火種となっています。最終的には富士通やNECなどが台湾・韓国などに半導体事業を売却することによって日本の半導体世界トップシェアはアメリカに譲るということになっています。

台湾をめぐる緊張というのは、結局、生産ナンバー1である台湾を中国が侵攻したら困るのは米国というだけの話だろうね、と個人的には思っています。

要は、経済的にアメリカが負けてくると、日本に対して1990年代に行ったように、さまざまな圧力をかけて経済戦争に勝利をしようとしている、だけ、の話だね、と私は解釈しています。

1990年代に自動車と半導体という生活必需品や産業の命と呼ばれる覇権を日本に手放させることに成功したのを、今、中国にアメリカはやらせようとしている、ということだけの話ですよね、と思います。

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ガソリン車禁止のドタバタもただの勢力争い

経済的には劣勢なアメリカですが、たとえば、今、アリババなどの分割が話題になっています。

これ、インターネットショッピングの自由化の布石なのではないか、と私は思っています。ティックトックの米企業による買収は、ティックトックが個人情報を収集するのは許さない、情報収集は個人のプライバシーを旨とする民主主義に見合わない、それを放棄せよ、とアメリカは言っているのだろうね、と思います。

今後、中国が自動車でアメリカで販売するのであれば、現地生産を旨とし、その際に社会主義の輸出はまかりならん、という警告なのであろうね、ということなのです。5Gではアメリカのコストは叶わないので、ファーウェイを排除したのでしょうね、ということなのだろうね、と思います。

経済的には現状、アメリカは劣勢ですが、中国はアメリカやユーロ市場がなければ生き残ることができない、というだけですし、もちろん、中国は自分の工業製品を欧米に買ってもらいたいのですから言うことを聞くほかないような気がします。

いずれ、さまざまなメーカーが欧米に進出することになるのであろうね、と思います。日本と同じような形になっていくのでしょう。

蛇足になりますが、欧州の自動車生産も中国に負けています。

ドイツ・中国の自動車生産

中国の生産台数が増えると欧州は減っていきます。

そして2035年くらいにユーロ圏ではガソリンカーの販売を禁止する、とやっています。私の眼からみると実現不能のようにしか見えませんが、これは中国に生産拠点を奪われた欧州が、それを奪還するための作戦なのだろうね、と思います。

たとえば、中国は車やIT関連に関しては最新技術をもっていますが、一般的には環境技術に関してはほとんどもっていません。たとえばガソリンに含まれる硫黄分を取り除く脱硫装置や火力発電での褐炭による発電など、こういった環境技術はまだまだ新興国と同じレベルです。EVも中国が最新技術を入れる前に、と画策しているのだろうね、と想像をしますが、現時点では中国の方が有利のような気がします。

要は今の米中戦争というのは、アメリカや日欧が中国と経済戦争を行っているだけの話だと私は思っています、結末は、中国は販路が欲しいのですから、日米欧の言うことを聞かざるを得ない状況になるでしょうね、と簡単に想像がつきます。それを超越して、中国が社会主義に拘泥するとおかしなことになるよね、とは考えています。

そこにロシアが乱入してきたわけですが、西側はロシアを仲間に入れないと拒否をしているのです。中国は言うこと聞けば仲間に入れてやるけど、ロシアは入れないよ、とやっているだけの話でしょ、と思うのです。ロシアは反発して仲間に入れろ、とやっているのです。欧米からみればロシアを仲間に入れて大きなメリットはないので入れたくない、と考えているのでしょうね。私からみればウクライナを仲間にいれても、ロシア以上にメリットがないように思いますけど、イデオロギーの戦いである以上、「準」仲間にしないと具合が悪いだけの話だと思います。

海外製品を締め出すアメリカの常套手段

実は、車の生産は日米欧では落ち込んでいますが、反対に中国・メキシコ・韓国などの新興国での自動車生産は回復しています。

先進国で自動車生産が回復しないので、先進国の製造業が不振となっているのです。以前にお話しをしましたが、自動車生産というのはGDPに大きく影響し、寄与度が非常に高いものになりますので、アメリカ・日本・欧州はこの生産を回復させたい。しかし、中国などの新興国の方がコストが安いので価格競争力がある…というだけの話なのです。

そのためトランプは、「メキシコで生産する自動車は米国で製造しろ」と脅したわけであり、トルコには鉄鋼の生産を止めて欲しいので無理難題を押し付けただけの話です。こういった自動車や鉄鋼というのは産業のコメと言われるほどの重要品目であり、それを米国主導の形にしたいだけの話です。

そこで、米国に自動車生産を回帰させるために米国での優遇税制を始めたのです。つまり現地生産をした自動車には優遇税制をするけど、中国などの完成車輸出に関しては優遇をしないよ、ということになるのです。

となると、アメリカの自動車産業は基本的にはアメリカ製になるわけですから息を吹き返し、雇用や金利に大きな影響を与えるのです。コロナ禍を経て、今の問題は、世界的に、とくに先進国の製造業が回復しないことに問題があり、その根幹をなすのが自動車産業ということなのです。

だから、優遇税制、日本円で100万円程度になるわけです。車の購入での100万円が大きいことは、車を購入した人であればわかる話だと思います。

Next: 車の問題はマーケットに何の影響があるのか?



車の問題はマーケットに何の影響があるのか?

そうなると、中国やメキシコ、韓国は何をするかといえば、完成車輸出をやめ、メーカーがアメリカ本土に行き、そして半導体や電池メーカーも、部品調達比率規制があるわけですから、アメリカ本土に進出せざるを得ないのです。

その際に習近平が2020年に中国社会主義化促進計画を表明しましたが、社会主義は輸出しなくてよい、ということです。その代表例がティックトックで、個人情報を収集する中国企業はいらない、とやっているわけです。

中国はおそらく、これに言うことを聞くほかありません。中国は自分の工業製品を世界で売り捌き、そして経済成長を目指すわけですから、アメリカの国内ルールに従うほかありません。

そのほか、アリババが当局主導で分割をされていますが、おそらくインターネット市場は中国ではアリババの独壇場でしたが、アマゾンなどが進出する布石なのであろうね、と思います。

1990年代に電電公社が分割民営化されたのはアメリカの圧力…というのは周知の事実でしょう。そこに第二電電などが誕生しましたが、アメリカ企業など見る影もありませんけどね(笑)。うまくいくかどうかはアメリカさん次第です。

その最大のネックが、中国の社会主義輸出計画、つまりイデオロギー戦争で、アメリカに進出するのには、民主主義を標榜しなければいけない…ということが喧嘩の原因なのだろうね、と思います。そうしなければ、ティックトックやファーウェイのように徹底的に弾圧するぞ!という脅しなのでしょうね。

この自動車産業の復活によって何が起こるのか、を考えていくと

まず、中国企業・自動車メーカーは、最大の自動車の販路であるアメリカ本土では部品調達比率を達成できませんので、現地進出を図るのは自明のことでしょう。同様に韓国やメキシコもそうでしょう。

その間に、米国の自動車メーカーなどの復活があるとは思います。その意味は業績という意味ではなく、雇用という意味です。自動車産業は本体だけではなく、部品・販売・ローンなどのさまざまな雇用を生みだします。

おそらくそうなると、アメリカ、世界の製造業が復活していきます。

よく考えて欲しいのは、アメリカは去年4.5も利上げを行っても、2.6の成長を遂げているのです。前年が不振であったことを考えても、この事実です。今年は利上げをするでしょうが、去年ほどではないと想像されます。そのうえに「産業のコメ」である自動車が復活したら、どうなるのか?ということだけの話です。

よく暴落の話を聞きますが、暴落というのは去年より30〜40%も上昇したときに考えるものであり、現状、去年よりも安い株価で暴落が起こるというのは、よほどひどい事件が起こらない限り起こりません。

去年は4.5の利上げを行っても10%程度の下げ…と考えると、インフレが急落を起こすとは考えにくいもの。急落などありえなく、あっても5%でも厳しいのではないかな、というところです。

そうやって考えれば、「株価は上昇」と考えるべきだと私は思います。

為替に関しては、内閣府の景況判断に自動車産業に一部、回復の兆しが見えるとの文言が入っています。これは日本からの資金流出が昨今は言われており、中国人の観光客もいつ来るかも見えない状況において、かなり明るい話題です。

しかし、ドル円ですから、ドルも好調、円も好調となると「ドル>円」なのか「ドル<円」なのかで、円安か円高というのが決まるだけの話です。おそらく一昨年まで110円で安定していたのが、今後は130円±10円程度の為替になってくるのではないか、と考えています。そこに、中国人観光客がくれば10円くらいの円高になるのではないか、と考えています。

ただ、具体的な日本の産業の復活や日本株への投資などが見えているわけではなく、証拠がそろわないうちは緩慢な動き、円安気味に動くのだろうね、と予測しています。

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2023年4月配信分
  • 中国の本格稼働が始まった(4/19)
  • 危機は静かに進行(4/18)
  • いろいろと書いたことをもう一度、検証する(4/17)
  • なぜ金融不安が続き、利下げの可能性があるのか、の話(4/16)
  • ドルが去年より安くなった(4/14)
  • なぜインフレが終わると思うのか? 不思議に思う(4/13)
  • 株価はまだまだ急騰する(4/12)
  • インフレよりも新興国?(4/11)
  • 大きな流れは?(4/10)
  • 自動車を巡る世界覇権争い(4/8)
  • 雇用統計はあまり関係がないように思う(4/7)
  • 米国は景気後退か?(4/6)
  • 雇用統計と求人数はあまり関係がないと思うけど(4/5)
  • ISM製造業に注目しなければいけない理由(4/4)
  • 去年は4/2に急落したのですけど(4/3)

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  • 令和5年度のマーケットはどうなるのか?(3/31)
  • 今のマーケットのカギは半年前(3/30)
  • 現実と理想の乖離(3/29)
  • 3月30日くらいからマーケットは変化すると思います(3/28)
  • 金融不安は続くのか、の問題(3/27)
  • 割安割高の計算方法(3/26)
  • なぜ金利が下がる?(3/24)
  • 予定通りの利上げ(3/23)
  • 不朽のロジック マーケットは安定化へ(3/22)
  • 金融不安の構造(3/20)
  • 金融不安後のマーケット(3/19)
  • 今回の危機はなぜ起こったのか? 原因を探れば今後はわかります(3/17)
  • こんどはCSですか・・・(3/16)
  • さてクイズです(笑)(3/15)
  • シリコンバレー銀行は大きな流れに影響がない、と思う(3/14)
  • シリコンバレー銀行? 何? という感じです(3/13)
  • 今の状況の整理 訳がわからない人は読んだ方がいいでしょう(3/11)
  • 円が異常に強いマーケット(3/10)
  • やっぱり0.25の利上げ、だと思う(3/9)
  • 利上げはおそらく0.25だと思います(3/8)
  • 今のマーケットのテーマは需給(3/7)
  • 今年はドル、金利はわき役、主役は需給(3/6)
  • なぜ円高になるのか? 日銀総裁など関係ないと思います(3/5)
  • 来週あたりから株価は急騰するかも?(3/3)
  • 円高かな?(3/2)
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角野實のファンダメンタルズのススメ 角野實のファンダメンタルズのススメ 』(2023年4月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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