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やがて来る植田日銀「長短金利操作」修正。なぜバクチ打ちは長期国債を売買する?長期金利が上がると債券価格が下がるワケ=塚崎公義

いよいよ日銀・植田新総裁での金融政策決定会合が開かれます。長期金利操作の修正とその時期について言及されるのか、国内外の投資家から注目されています。長期金利が上がるとどんな影響があるのか。まず、債券価格は下がります。昨日発行された金利の低い債券を買いたい人はいませんから。(経済評論家 塚崎公義)

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プロフィール:塚崎公義(つかさき きみよし)
経済評論家、元大学教授。東京大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)、久留米大学商学部教授を経て2022年に定年退職。現在は経済評論家として執筆活動を行う。著書に『よくわかる日本経済入門』『大学の常識は、世間の非常識』『老後破産しないためのお金の教科書』など。

長期金利は人々の予想で変動する

資金を長期間貸借する際に、あらかじめ金利を決める方式を「固定金利」と呼びますが、その際に決められた金利を「長期金利」と呼びます。長期といっても様々な期間がありますが、一般に長期金利と言うと期間10年の貸借の際の金利を指すことが多いようです。

長期金利は、人々が予想する将来の短期金利の平均で決まるのが原則です。実際には、それより少しだけ高くなる場合が多いようですが。以上が前回の拙稿の要旨です。

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つまり、人々が「将来はインフレが来るから日銀が短期金利を引き上げるだろう」と思うようになれば、今のインフレ率が低くても長期金利は上がりますし、反対に日銀は金利を上げないだろうと考えるようになれば、長期金利は下がります。

人々の予想によって長期金利は時事刻々と変わるのです。

長期貸借は国債の売買で行なわれる

長期金利というと、銀行間の資金貸借の金利をイメージする人が多いでしょうが、最近では銀行間で長期資金の貸借が行なわれることは稀です。どこの銀行も資金に余裕があるため長期国債を持っているので、それを売買しているのです。

長期の貸出を増やしたい銀行は、長期国債を買うでしょう。長期借入をしたい銀行は、手持ちの長期国債を売ることによって同じ効果が得られるでしょう。長期国債を持ったまま長期借入をするのと、長期国債を売るのと、資金繰りは同じになりますから。

A銀行がB銀行に国債を売る(つまり長期資金を借りる効果を得る)としましょう。長期金利は2%であることを両者が合意しているとします。A銀行が金利2%の長期国債を持っていれば、話は簡単です。それを売れば良いのですから。

Next: なぜ長期金利が上がると債券価格は下がる?国債需給が金利を動かすことも



長期金利が上がると債券価格は下がる

しかし、A銀行の持っている国債の金利が1%だとしたら、B銀行は「そんなものは買いたくない」と言うでしょう。B銀行は、金利2%で金を貸せば、100円が120円になるのに、A銀行から国債を買っても110円にしかならないからです。

もっとも、工夫の余地が無いわけではありません。A銀行がB銀行に国債を90円で売れば良いのです。そうすれば、B銀行は20円の利益を得ることができますから、金利2%で貸したのと同じ効果が得られます。実際のプロたちはもう少し複雑な計算をしているようですが、基本的な考え方は以上です。

A銀行が持っている国債の金利が1%だということは、それが発行された時には世の中の長期金利が1%だったということです。そうでなければ日本政府が国債を売り出しても誰も買いませんから。

つまり、その国債が売り出された時の人々の予想する短期金利は1%だったわけです。それが人々の予想の変化によって2%に上がったわけです。そうなると、今日発行される国債の金利は2%になるのでしょうが、それと同時に昨日発行された国債は値下がりする、というわけですね。

反対に、人々が短期金利の予想を引き下げると、長期金利が下がるので、国債の値段は値上がりします。昨日発行された国債は高い金利を払ってくれるので、宝物のように扱われるわけですね。

国債の需給が長期金利を動かすこともある

長期金利の基本は上記のように予想短期金利の平均ですが、国債の需給が長期金利を動かすこともあります。

仮に日銀が国債を買わなければ、政府が巨額の国債を発行することで、国債の供給が需要(銀行が買いたい額)を上回ってしまい、国債の価格は下落するでしょう。そうなれば、国債を買った人は高い金利(利回り)を享受できることになります。そして、次から発行される国債は高い金利を付けなければ売れなくなるわけですね。

これは、国債の売り注文と買い注文という需給関係から説明することもできますが、長期固定金利で金を貸したい人と借りたい人の需給関係という説明も可能です。貸したい人が少ないのに借りたい人が多いから金利が上がった、というわけですね。

実際には反対に、日銀があまりに巨額の国債を買っているので、長期金利は人々の予想する将来の短期金利の平均より低くなっています。というよりも、日銀が長期金利をその水準まで押し下げているわけです。

そこで、日銀が「今後は金利を押し下げることをそれほどがんばらない」と宣言すると金利が上がる、という状況にあります。昨年末に起きたことはそういうことでしたし、今後もそうしたことが起きるかも知れないと言われています。

Next: バクチ打ちも長期国債を売買する



バクチ打ちも長期国債を売買する

長期国債の売買は、長期資金を貸したい人と借りたい人が主に行なうわけですが、長期資金とは無関係なバクチ打ちも売買に参加することがあります。

長期金利が低下すると予想しているバクチ打ちは、銀行から金を借りて長期国債を買うわけです。予想どおり長期金利が下がれば、長期国債が値上がりしますから、売って儲けて銀行への借金を返そう、というわけですね。

予想が外れて長期金利が上がれば買った国債が値下がりして損をしますが、バクチというのはそういう物ですから仕方ありませんね。

日銀が大量に国債を買っているから長期金利が押し下げられている、と前述しましたが、もしかするとバクチ打ちたちが「日銀が長期国債を買うから長期国債は値上がりするだろう。今のうちに買っておこう」と考えて大量の買い注文を出し、それが長期金利を一層押し下げているのかもしれませんね。

(筆者注:本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。)

image by: Leonid Andronov / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年4月27日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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