無印良品は、今回の決算も芳しくなく、ニトリやユニクロに置いて行かれてしまったのではないかと言われています。しかし、無印良品内部の状況と世の中の見方は必ずしも一致していないのではないかと考えます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
無印良品は終わった?
度重なる下方修正もあり、“神話の崩壊”とまで言われています。
服ならユニクロ、小物ならニトリ、プチプラなら3COINSというように、無印良品は各分野で他社に負けているように思えます。
結局、「無印って何の店なのか」という疑問すら浮かんできます。
一方で、「無印ファン」も根強く存在していて、私はそこが無印の肝だと思っています。
ユニクロ、ニトリと比較
<株価>
2020年からすると、ユニクロは40%以上伸びています。
ニトリはトントンといったところです。
それに対して良品計画は40%のマイナスという苦しい状況です。
<営業利益>
営業利益も、良品計画は2020年を下回っていて、3社の中では一人負けとなっています。
<売上高>
しかし、売上高については様相が変わってきます。
売上高の伸びは、ユニクロ、ニトリと比べても遜色ありません。
つまり、お客さんがいなくなったわけではなく、物自体は売れているということです。
売上は上がっているのに業績が悪いのはなぜ?
ひとつ考えられることが、「薄利多売」になっているのではないかということです。
売上が増えていて利益が減っているので、利益率は下がっています。
もともと10%以上あった利益率が今では7%くらいになっていて、今期では5%くらいになるのではないかと見られています。
ユニクロやニトリはアップダウンはあるものの、ある程度キープしています。
Next: 実は都会よりも田舎に注力?無印良品が抱える問題点
薄利多売戦略ではない?利益率低下のワケ
まず、売上高の増加の要因は店舗数の増加にあります。
ここからさらに100店舗くらい増やすと言っています。
どのような店舗が増えているかというと、“スーパーマーケット隣接店”と呼ばれるものです。
無印良品というと、都会のショッピングビルに入っているイメージが強いですが、今はどちらかというと田舎への展開を進めています。
新店の7割がスーパーマーケット隣接店ということです。
元々都心を中心に展開していて、それが一時期は人気を呼び、ある種のブランドになりました。
大きな転換を行っているのがこのスーパーマーケット隣接店です。
スーパーマーケット隣接店は悪くない状況で、むしろ都会の店舗が足を引っ張っています。
<無印良品の問題点>
2014年頃に、無印良品が人気を博し、“ハイブランド”のような扱いとなりました。
そんな中、それまで小物中心だったものがアパレルに進出しました。
端的に言えばアパレルは原価率が低くて粗利が高いです。
中国でもハイブランドとして受け入れられ、業績も右肩上がりとなり、株価も大きく伸びました。
しかし、無印良品本来の“ブランドが無い”というコンセプトが逆説的にブランド化してしまい、値段が上がって中途半端な位置づけとなってしまいました。
その結果、“ブランドに胡坐をかく”ような状態となってしまいました。
アパレルにおいても様々なジャンルの商品を販売し、幅を広げるほどユニクロと競合する結果になりました。
人気がある状態で、アパレルも売れたので、さらにいろいろな商品を出していった結果、売れなかった商品が店舗の在庫としてどんどん膨らんでいきました。
在庫というものは目に見えない損失なので、どこかでは処分しなければなりません。
それが将来的な利益の圧迫につながりました。
新たな商品を出せば売れるという時期があり、そうしているうちに消費者の需要から乖離してしまいました。
<なんとかしなくては…>
「在庫」という爆弾が膨らんでいる状況をなんとかしようと、2021年に“第二創業”と呼ばれる中期経営計画を掲げました。
この時に現在の堂前社長が就任しました。
堂前社長はマッキンゼー出身で、ファーストリテイリングを経て良品計画の社長に就任しました。
コンサル出身で、この問題を解決するために就任したということです。
経営を立て直すために様々な取り組みを始めました。
- 在庫処分 不良在庫の一掃
売れなかった商品を損失にならないギリギリまで値下げして在庫処分を行っているのがこの1年の動きです。
- 商品の見直し 「これがいい」ではなく「これでいい」
今のブランド化している状態では無印の本来の、日常で使えるものをパッケージを簡素化することによって安価で販売しようというコンセプトと離れてしまっています。
普通の商品で“感じの良い”ものを比較的安価で提供するという原点に回帰しようとしているところです。
- 仕入れ体制の見直し 生産の上流から考える
これは経営としては当然のことですが、これまではきちんと行えていなかった部分です。
- 物流・広告・店舗運営の高度化 各分野プロフェッショナルを招聘
正直、無印は店舗運営が上手いとは言えない状況でした。
そこで、各分野のプロを集め、運営の高度化を図りました。
人材を集めようとしてもなかなか集まらないことが多いですが、無印の“人を惹きつける力”が発揮され、様々な良い人材を集めることができているようです。
- 日常生活を支える スーパー隣接店
人々の生活に入り込んで、誰にでも必要なものを安定的に売る企業として、ボリュームを上げながらコストを削減しているのが今の無印良品の戦略です。
Next: 足元は大苦戦も、この先は業績が上がっていく?
高い目標に向かって
店舗を増やしながら、在庫処分やコスト削減を行うという、アクセルとブレーキを同時に操作するような難しい運転をしようとしている状況です。
しかし、この戦略が成功した暁には大きな利益となります。
売上は伸びているので、利益率が少なくとも以前の水準まで戻れば、単純に利益は以前を上回ります。
このように高い目標を掲げています。
ローソンに商品を出すなど、日常に入り込もうとしている姿勢は見て取れます。
足元は大苦戦
経営改善に向かってはいるものの、足元ではかなり苦戦を強いられています。
<内部環境>
- 在庫処分
- 出店コスト
- 人件費増
<外部環境>
- 原材料高
- 円安
- 中国コロナ
本当に良くなるの?
2023年1月についに値上げを行いました。
それまでは、良い商品ができるまではと値上げを実施できなかったのですが、商品の用意ができたということだと思われます。
また、中国のロックダウンが終了したこともプラスに作用するでしょう。
2023年3月には1年ぶりに「無印良品週間」を実施しました。
これも“準備が整った”ということが想像できます。
今回の無印良品週間によって、衣料品が好調に推移しました。
顧客のニーズに応える商品を作っていれば、原材料価格が上がったとしても、やがては商品に転嫁できると考えられるので、とにかく良い商品を開発し続けることが無印良品のやるべきことであると思います。
無印良品はちゃんとやっているか、ぜひ店舗に行って自分の目で確かめてみてください。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2023年4月27日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。