ChatGPTほか「生成AI」を規制する動きと活用する動きが同時に巻き起こっています。人間の仕事を奪うという声もあれば、雑務を任せることで創造的な仕事にもっと時間を使えるという声もあります。果たしてChatGPTは天使でしょうか、悪魔でしょうか。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年5月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
「AI」を禁止する自治体、活用する自治体
4月20日、鳥取県の平井伸治知事は、議会の答弁資料作成や予算編成・政策策定など、県の意思決定に関わる業務において「ChatGPT」の使用を禁止すると発表しました。
それ以外の業務については、検討のうえガイドラインを作成するとしましたが、平井知事は「自治体の意思決定は、職員が現場で課題を聞き取り、自分の頭で考えることが必要。AIが集められるのは過去と現在の素材で、端末から出てくる答えは使いものにならない」と説明しています。
一方で同日、神奈川県横須賀市は、自治体として全国で初めてChatGPTを試験導入しました。上地克明市長は、市の幹部会で、ChatGPTについて「人々が幸せになるため、自治体は何ができるかを考えたときの1つのツール」と述べています。
横須賀市では、すでに使用している自治体向けチャットツール「LoGoチャット」とChatGPTを連携させることで、さまざまな用途に活用する方針で、両者を連携させる仕組みは、横須賀市が独自に開発しています。この取り組みを発表するプレスリリースも、ChatGPTに下書きさせたということです。
ChatGPTをめぐり、地方自治体において「真逆な対応」が明らかになりました。
これって、たしかに自治体の長の姿勢によるものではありますが、そのサービスを受ける住民にとっても今後を左右することにもなりませんかね。
住民がChatGPTの恩恵を受けられるのか、受けられないのか…。
この問題を教育現場に置き換えて考えてみると、もっといろんなことが見えてきます。
地方自治体の教育委員会なり、学校ごとに校長の指示が異なることで、ChatGPTに“フレンドリー”な子どもが育つ場合もあれば、ChatGPTに馴染めない子どもが育つケースも考えられます。
それは、子どもたちがこれからの社会をどのように生きていくかにもかかわってきます。
子どもたちの間に「情報格差」を生まないのか……大人の感情で子どもの未来を生きづらくしてよいものでしょうか。
「生成AI」が社会に浸透するのは間違いない
こう言い切る前提は、将来はChatGPTが社会に当たり前のように溶け込んでいると思うところにあります。
インタ-ネットがこれだけ社会に溶け込んでいることを、どれだけの大人たちが想像できましたか。
その社会の変化を、今の大人たちが自分たちの経験をもとに良し悪しを判断することに、果たして意味があるのかどうかを、私たちは冷静に考えるべきかと思います。
こういう問題ではいつも「合理的 vs 情緒的」という対立構造が見られますが、この議論にどれだけの意味があるのでしょうかね。
ChatGPTなどは「生成AI」と称されます。以下、日本経済新聞による解説になります。
生成AI(Generative AI)とは、画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなどさまざまなコンテンツを生成することのできる人工知能のこと。大量のデータを学習した学習モデルが人間が作成するような絵や文章を生成することができる。画像を生成する GAN(敵対的生成ネットワーク)や、文章を生成する文章生成モデルなどがある。例えば米国のAI研究機関であるOpenAIは文章生成言語モデル「GPT-3」を提供、数行の文章からその後に続く自然な文章を生成することができる。
現在のChatGPTはバージョン3.5を経て4.0となっています。これがとてつもなく優秀なのです。専門家の間では「3.0」だと「とても使えないね」と言われていたレベルが、大きく進歩したということになります。
問題は、その進歩の“早さ”にあります。それを使う側の人間が、いろんな意味で追いついていないということにあります。
「生成AI」が社会でできることが多岐にわたっており、しかもその精度が高まっています。あたかも人間が作成したかのようなところまで進歩してきています。
そのことで、私たちの職業がなくなるとか、私たちの社会における価値がなくなるといったことが心配されています。
ChatGPTが文章を上手に作成したり、会話のシナリオを上手に作ってくれることで、例えば役所の窓口業務も、人間じゃなくロボットやコンピューターが対応するようになるのではないかという話がありますね。
しかし、このような考えは「間違い」と断言できます。
なぜなら、ChatGPTに代表される生成AIなど、AIによりもたらされるテクノロジーの進化は、社会の動きを「効率化」させることに貢献しているということで、その業務の効率化がもたらすのは「(新しい)時間を作り出す」ということにつながるからです。
Next: 仕事を奪われても問題ない?AIと人間を対立構造で語るのは愚か
AIに任せることで「時間の価値」が大きく変わっていく
先ほどの役所の例で言えば、1人の職員が窓口で住民応対をして、窓口を離れた机では、書類の作成や関係部署への書類送付などを行っています。
今まで事務作業山積の中で窓口対応していたものが、事務作業すべてAIが担当してくれることで、窓口における住民サービスに時間を多く割くことができるようになるのです。
AIが事務作業全般を引き受けてくれることで、今まで以上に住民の声に耳を傾けることができるようになるのですね。
住民の人たちに余裕を持って接することができ、さらに親切に手を差し伸べることだってできるようになるでしょう。今まで煩雑な事務処理にかかっていた時間を、ほかの有効なことに使えます。
例えば会社でいえば、「処理」という価値を生まないことに割いていた時間を、新しい価値を生むことに費やせる、時間を「コスト」から「資産」に変えることができるようになるのです。
そうなると、時間消費の「メンバーシップ型」雇用における「人件費はコスト」という概念から、「人件費は資産」という概念に転換しやすくなります。
もちろん、資産を生む能力は求められますし、そのためのスキルは要求されますが、その分自分への価値は上がり、自分の評価(給料)は上がるということになります。
そのスキルを習得するために「リスキリング」制度が整備されようとしているのです。時間の価値が変わる……ここに、AIやテクノロジーによる効率化の意味があるように思えるのです。
そう考えると、AIやテクノロジーと人間が対立構造で語ることが、いかにナンセンスであるかがよく理解できるかと思いますね。
・人間でしかできないことをやる
・それに費やす時間を作ることができる
でも、まだAIを否定する人がいます。今度は「人間は、AIやテクノロジーの被害者だ」とする論調です。
AIに仕事が奪われる?
AIに仕事が奪われる……“奪われる”という表現が、すべてを物語っていますね。
2014年に出たオックスフォード大学調査による記事は、多くの人にとってはショッキングなことだったでしょう。
※参考:オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」- 現代ビジネス(2014年11月8日配信)
当時の筑波大学准教授・落合陽一氏の言葉を思い出します。「義務教育の知識と体力だけでできる仕事は、将来AIに置き換わっていく」。いま言われていることは、「ルーティーン作業はAIが担うことになる」です。この短期間で、落合氏が指摘したとおりの世界観になっています。
自動車の自動運転がなぜ良いのかといえば、それは「ヒューマンエラーをなくす」ことにあるからです。自動車事故のほとんどは運転者による不注意によるもので、その不注意というヒューマンエラーをなくすのが、自動運転なのです。
逆に、そのことで人間でしかできないことが再評価されているという側面もあります。それは人間の評価が上がることでもあり、ひいては給料が上がることにもつながりますね。
だから、「AIやテクノロジーが人間の職業を奪う」のではなく、社会の要請で職業の担い手が変わるだけで、人間にしかできない仕事が大きく注目され、そのスキルが高く評価されるということにもなるのです。
駅の改札口から人がいなくなるまでにはずいぶん時間が経ちましたが、切符がなくなるのはあっという間でしたね。
でも改札口にいた人は、別の部署で活躍していますよね。人は減ってはいませんね。
かつて家内制手工業からマニュファクチュア(工場制手工業)に移ったとき、手作りは最高って叫んでいませんでしたかね。その後は大量生産が当たり前となり、販売価格が下がることで、広く社会に受け入れられました。
あくまでもAIやテクノロジーは“ツール”であり、マイクロソフトはChatGPTのことを「co-pilot(副操縦士)」と称しています。チーフパイロット(主役)は人であり、人がAIを評価するのです。
そうすると今度はこんな反論が出てきます。「能力がある人、できる人はよいが、落ちこぼれていく人はどうすればよいのか」……これはもう、最初から負け犬根性丸出しの考えですね。
Next: 「AIは人間の身体拡張」敵か味方かの議論をするのもナンセンス
「AIは人間の身体拡張」
仕事とは、営利を求めるのも大事ですが、社会的課題を解決すること、消費者の欲求にこたえるものとも言えます。
人々の利益になることを提供することで会社は評価されることでもあり、そのスキルを磨くのが働く者の使命でもあります。
そのために新しく「リスキリング」が再構築されてきました。
おそらく「リスキリング」の狙いは、AIの進化やRPA(Robotic Process Automation)が優先される職業についている人たちが、新しい道に進んでもらい易いようにすることにあるようにも思えます。
海外では「リスキリング」の成功例として、このような事例が多くあります。努力をしないで、スキルも得ようとしない人をどうするかという話ではないというのが前提にあると考えます。
経済的理由や身体的理由でスキルを得られない人への「セイフティネット」は必要ですが、制度設計において、能力を得られない人への対応は考慮しづらく、それらは「OJT(現場教育)」に頼ることになるのでしょう。
そもそも表題にある「ChatGPTは“天使”は“悪魔”か」という問いを立てること自体が、実はナンセンスなのかもしれませんね。
実業家の堀江貴文氏は、「AIは人間の身体拡張」と表現しています。自動車は人間の「足」の身体拡張……人間が走るよりもはるかに早く自動車や新幹線は早く移動することができ、そのことで「距離」という概念が大きく変わりました。「移動」という、いわば生産性のない無駄な時間を省くことで、より効率的な時間活用を実現できたのが自動車であり高速道路であり、新幹線ではないでしょうか。
さらにコロナ禍で進んだ「リモート化」により、その距離そのものの概念が大きく変わることになります。つまり、新幹線や高速道路網の普及により「距離が縮んだ」という概念から、リモートで「距離が“なくなった”」という感覚になったのではないでしょうか。
話を「身体拡張」に戻しますが、身体機能に異常をきたす人の補助ツールとしてのテクノロジーの進化は、目を見張るものがあります。
視覚・聴覚・味覚・歩行・認知・コミュニケーションツールなど、まさに健常者と同じ機能を有することができる、これこそまさに「身体拡張」という表現が当てはまるのではないでしょうか。
「ChatGPTで、ほとんどの人の知能がバージョンアップした」……堀江貴文氏の表現ですが、捉え方でまたいろんな意見が出てくるのでしょうが、これはこれで素直に受け止めても良いような気がしますけどね。
自分が考えるよりも、ChatGPTのほうが良い文章を書いてくれますからね。
ツールに善悪はない
大統領やFRB議長、大手企業のCEOのスピーチを、A41ページに纏めて…。論文を読みやすいように3分の1に要約して……こういったことに瞬時に対応してくれるのが「ChatGPT」です。
調べ物でも、今までいくつものサイトを探索ていたものが、ChatGPTが瞬時に調査結果を知らせてくれます。実に便利です。
この時点で、ChatGPTが使いこなせる人と、そうでない人との間に情報格差が生まれるでしょうね。今でも、Googleなどの検索バーに入れる言葉をたくみに操れるかどうかで、情報の取り方に差が出てきていますからね。
それゆえ、学校等の教育現場でChatGPTの使用規制を行うのには、同意しかねるのですね。ChatGPTが悪いのではなく、それを上手に使って子どもたちに理解させる側の能力や技量を磨くことが大事だと思いますがね。
・フェイクニュースが横行する
・嘘や間違った情報が簡単に広まる
・悪意のあるプログラムが作られる
……この話になると、人殺しの道具となり得る包丁をつくる人が悪いのか、世の中から包丁は撤去すべきなのかという議論になります。3Dプリンターが世の中に登場したときも、人を殺す武器が作られるとか言われましたね。
道具が悪いのではなく、道具を使う人間の教育が大事……あまりにもAIの進歩が早くて、制度や倫理など、人間のほうが追いついていない状況にあるのも事実です。
Next: 使いこなすしか道はない。間違いなくChatGPTは未来を変える
「ChatGPTを否定する未来はありえない」
ChatGPTを巡って国際ルールを決める動きや、倫理コードを策定することも求められています。まだまだ過渡期ではあります。
間違いなくChatGPTは未来を変えます。AIは、私たちの社会のあり方を大きく変えます。でも、それは人間という価値が変わることではありません。
ChatGPTは、イーロン・マスク氏が創業し、マイクロソフトが多額を出資している「OpenAI」が作ったもので、マイクロソフトはもちろん、アルファベット(Gooogle)も導入していますが、GAFMの一角であるamazonも、画像動画とドッキングしたものを開発しています。
以下、ロイター通信の記事になります。
米アマゾン・ドット・コムは13日、クラウドコンピューティングを手掛けるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を通じ、自社の生成人工知能(AI)の提供を開始すると発表した。クラウドを通じた生成AI提供の準備を進めている米マイクロソフトとアルファベットに攻勢をかける。アマゾンのサービスは「Bedrock(ベッドロック)」と呼ばれ、利用企業が独自の自動対話プログラム(チャットボット)や画像生成ツールなどを開発するのを支援する。いずれは、サードパーティーが開発した生成AIの基盤も提供するという。
これからは、ChatGPTをうまく使いこなせるかどうか、AIと共存できるかが、次の社会の生き方の中心にあると思います。
それで今回の問い「ChatGPTは“天使”か“悪魔”か」の答えですが、「使い方次第でどちらにもなる」ということになるのでしょうかね。
ただはっきりと言えることは「ChatGPTを否定する未来はありえない」ということです。
だから、AIを使いこなす私達が賢くなって、ChatGPTを「天使」にしなければならないということになるのですね…。
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- らぽ~る・マガジン第578号「『子どもの自殺』問題は深刻」(5/8)
- らぽ~る・マガジン第577号「ChatGPTは『天使』か『悪魔』か…」(5/1)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年5月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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