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FXディーラーに課される取引ルールの代表例3つ/上手い個人は監視対象!?=岡嶋大介

FXディーリングの連載もそろそろ終わりに近づいてきました。この第5回と次の最終回で、これまでに書ききれなかった脱線的な話をいくつかしようと思います。むしろこちらのほうが興味深い人も多いかもしれません。(岡嶋大介)

プロフィール:岡嶋大介(おかじまだいすけ)
1976年東京生まれ。ソフトウェア作家兼投機家。株式会社ラガルト・テクノロジー代表取締役。東京大学理学部情報科学科卒業。相場好きを生かして開発したトレーディング・ディーリングツールを証券会社等に提供する一方、独自開発のFX業務パッケージ「TFTrader」までを手掛ける。

本当に上手い個人投資家はFX会社にリアルタイム監視されている!?

プロのディーラーも時に大敗し平常心を失う

前回の記事『FXディーラーが最も心躍る瞬間。顧客注文を「呑んで」儲けるテクニック』では、顧客の注文をカバーしない場合、ディーラーの損益は大きくブレるという話をしました。

コツコツ丁寧にカバーしていれば、大きく損をすることはないかわりに大きな収益を上げることもできません。ディーラーも人間なので、「ここは一発勝負!」と顧客の注文を呑んで大勝を狙う局面があります。そして、それに失敗して負けるときもあります。

ディーラーにとって最悪なケースは、最初の負けで平常心を失い、それを取り返そうと無理な勝負に出てさらに負けの幅を広げるというパターンを繰り返してしまう、というものです。

相場の鉄則の1つは、「失敗が明らかになったら傷が浅いうちに撤収して態勢を立て直す」ですから、それを怠ると思わぬ痛手を被ります。

FXでも株でも、個人で相場を張った経験がある人は1度や2度は身に覚えがあると思います。分かっていてもついロスカットが遅れる、というのは筆者ももちろんあります。

大損失を被って破綻するFX会社も

ただ、個人の場合はどんな恥ずかしいヘマをしてもその個人の責任ですが、ディーラーはFX会社の金で取引をしているので、ディーラーが大きく負けた場合、会社の存続の危機になってしまいます。

少し前の話ですが、スイスフランが急騰した事件の際は本当に破綻してしまったFX会社もありました。こういう突発的急変動ではやはりプロといえどもあっけなく死ぬことがあります。
「スイスフランショック」の余波世界に、為替業者が破綻 – ロイター

FX会社の立場では、大きな損失が出ないように(少なくとも、損失する可能性のある最大金額が見積もれるように)何らかのリミットをかける必要があります。ディーラーの大失敗に備えるガードが会社として必要、ということです。

Next: ディーラーの大損失に備える「行動制約・冷却ペナルティ」の例



ディーラーの大損失に備える「行動制約・冷却ペナルティ」の例

筆者の知っている範囲では、次のようなリミットがありました。

(1)決まった時刻(NY市場のクローズや、ディーラーが別のディーラーに業務を交代する時刻)では、顧客の全ポジションをカバー済みの状態にするよう義務付ける

こうすれば、ディーラーも「遅くともあとXX時間ではカバー注文をしなければならない」と頭に入るので冷静になりますし、会社全体の一日ごとの損益額をはっきりさせるためにも有用です。

(2)週またぎ禁止

FX市場は土曜・日曜の約48時間は動きません。一日ごとには全部カバーしない場合でも、最低限週末だけはカバーしておこう、というものです。

週末の、カバー取引できない間に相場状況が急変することは非常にまれにしか起きませんが、起きるときは強烈な影響があります。

古くはニクソン・ショック(アメリカの金本位制放棄)がありますし、東日本大震災のときも地震発生は金曜の午後でしたが、被害の想定外の大きさが明らかになるのは相場が停止する土曜朝以降のことでした。

(3)上限数量、上限損失

ディーラーが未カバーで持っていいポジションサイズに上限を設けたり、その評価損が一定額に達したら強制的にカバーをさせる、というものです。

また、ディーラーが頭を冷やして冷静になる時間を強制的につくるために、「強制カバールールに抵触したディーラーはその後24時間はディーリング業務禁止」という社内規定を持っているところもあります。

Next: 本当に上手い個人投資家をマークして売買の参考にする



本当に上手い個人投資家をマークして売買の参考にする

FX会社は多数の個人投資家を顧客として抱えています。

その中には本当に実力と資金を兼ね備えた「本物の」トレーダーが少数ながら存在しているので、FX会社はその口座の動きをリアルタイムにマークしています。

過去の取引履歴から特に上手いトレーダーを選別してきて、その口座からの注文があると即時にディーラーの端末にアラートが出るようになっています。

ディーラーはそれらの口座の動きも参考にディーリングをします。

例えば、ディーラーが「相場は下」と思っていたところ、突然そういう上級トレーダーの口座から大きなロットの買い注文が出た場合、「相場は下」という思い込みを即時に放棄してカバー取引を執行する、ということです。

やはり、そういう上級トレーダーは何万人に1人の才能なので、その判断には素直に従うのがよいでしょう。

ディーラーの立場としては、上級トレーダーの判断の逆を張ってまで収益を狙う必要はありません。ちゃんとカバー取引をしておけば損益はトントンにできるので、別の局面で収益を狙っておけば十分なのです。

今回はここまでとします。次回がもうちょっと同系統の話をつづけた最終回になります。

【関連】FX会社の企業秘密 顧客注文から利益を捻出する「カバー取引」あの手この手(第1回)

【関連】個人トレーダーと何が違う?「FXカバーディーラー」の基本的な稼ぎ方(第2回)

【関連】レートがどれだけ動いてもFXディーラーの損益がゼロになる仕組み(第3回)

【関連】FXディーラーが最も心躍る瞬間。顧客注文を「呑んで」儲けるテクニック(第4回)

岡嶋大介(ソフトウェア作家兼投機家)

株式会社ラガルト・テクノロジー

「ラガルト」はスペイン語で「とかげ」です。2005年10月に、私がバルセロナに旅行したときに訪れたグエル公園の有名な像を見て思いつきました(この像はとかげじゃなくて蛙という説もあるのですがまあいいですよね)。この会社は、どちらかというと私の個人的な活動を下支えする色彩が強いので、自分の気に入ったものを使って命名しようと思いました。この他、最近は更新が滞りがちですが、個人のtwitterアカウントblogがそれぞれあります。

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