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富裕層がさらに肥える「ふるさと納税」の功罪。制度に4つの問題点も、見直しは官僚が“干された”事例で絶望的か=原彰宏

「ふるさと納税」の直近2022年度の寄付総額は9654億円となり、3年連続で過去最高を更新しています。利用者は増える一方ですが、富裕層にメリットが大きいなど主に4つの問題点があります。菅義偉前総理肝いりの政策のためか、内部から是正しようとしても干されるとの話も。今回は「ふるさと納税」の功罪について考えます。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年8月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

返礼品が目当ての「ふるさと納税」

「ふるさと納税」制度は、2008年(平成20年)5月から開始されています。

「ふるさとを応援する」という思いがこの制度にはあるようですが、実際には、返礼品目当てで、納税する地方自治体を選ぶという様相になっています。

ふるさと納税とは、自分の故郷や応援したい自治体など、好きな自治体を選んで寄付ができる制度のことです。自治体の取り組むまちづくりや復興支援などさまざまな課題に対して、寄付金の使い道を指定できます。
手続きをすれば実質自己負担額2,000円のみで応援したい地域の名産品や宿泊券などをもらえる、とてもうれしい制度です。

ふるさと納税は、本来は自分の住まいがある自治体に納税する税金を、任意で選択した自治体に寄付することで、税金の還付・控除が受けられる仕組みです。

※控除上限額の範囲内で寄付すると、2,000円を超える部分について税金が控除されます。控除上限額は、ふるさと納税をする方の年収(所得)や家族構成などに応じた各種控除の金額などによって異なります。

出典:ふるさと納税とは? 初めての方へ仕組みをわかりやすく解説 |-ふるさと納税サイト「さとふる」

総務省には、ふるさと納税のポータルサイトがあります。

人々は、寄付した額以上の物が手に入るという「投資効率」を、このふるさと納税に求めるようになりました。

高額所得者に大きなメリット

また、節税効果は、ある一定の年収以下の低所得者には恩恵が少なく、効率の良い投資と節税という組み合わせは、まさに高額所得者にメリットがある制度だという指摘が以前からありました。

寄附額以上の税金が控除される制度ではないと説明していますが、高額を寄付できる人にとっては、メリットはあります。

寄付の原資は、翌年に納める所得税及び住民税の一部(または住民税のみ一部)になります。

「ふるさと納税」は、菅義偉前総理肝いりの法案です。第一次安倍内閣のとき「安倍晋三首相が総裁選期間中も議論してきた重要な問題」(塩崎恭久官房長官)とし、2007年(平成19年)5月、当時の菅義偉総務大臣が創設を表明したため、菅義偉氏は「ふるさと納税の“生みの親”」と呼ばれているようです。

菅前総理退陣会見でも、「私の原点はふるさと納税」と言っていたそうです。

※参考:菅首相「私の原点はふるさと納税」地元秋田の記者も質問 6日ぶり報道対応 – 社会 : 日刊スポーツ(2021年9月9日配信)

ふるさと納税は自治体間の返礼品競争を招くとともに、高所得者ほど節税効果が高まる…。

こういった指摘は、官僚の間でも「ふるさと納税」への疑問として多くありましたが、それを真っ向から菅官房長官(当時)に進言する者はいませんでした。

Next: 問題山積。ふるさと納税に「物申す」役人もいたが…



ふるさと納税に「物申す」役人もいたが…

しかし、かつて「ふるさと納税制度」にものを言った役人がいました。平嶋彰英・元総務官僚です。

平嶋氏は「高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税は問題です。法令上の規制を導入すべきです」と菅官房長官(当時)に進言、これに対し菅官房長官は受け入れず、ふるさと納税の寄附控除の上限倍増とワンストップ特例の導入を指示したという経緯があります。

ワンストップ特例制度とは、ふるさと納税をした後に確定申告をしなくても寄付金控除が受けられる便利な仕組みです。「寄附金税額控除に係る申告特例申請書」に必要事項を記入して、寄付した自治体に送るだけなので、とってもかんたん!寄付金上限額内で寄付したうち2,000円を差し引いた金額が住民税から全額控除してもらえます。

※参考:簡単便利!ワンストップ特例制度とは? – ふるさとチョイス

菅前総理に歯向かった平嶋氏には、自治大学校長就任という異例の人事が下りました。総務省から追い出されたのです。あからさまな左遷人事です。

※参考:菅氏と闘った元官僚の激白「抵抗したら干される恐怖」- 朝日新聞デジタル(2020年9月11日配信)

返礼品をめぐって国と揉める自治体も

ふるさと納税を巡っては、こんなこともありましたね。

アマゾンギフト券などの返礼品で寄付者を集めた大阪府泉佐野市が制度の対象外となり、同市が国に裁判を起こし、最高裁では、高裁の判断を覆して泉佐野市が勝訴したというものです。

そりゃ、返礼品は法律で禁止されていないのですからね。むしろ、高裁で総務省が勝ったことの方が不思議でした。

「ふるさと納税は、税制度に対する国民の不信感を高めることになる」……前述の平嶋彰英氏は、雑誌に実名告発しています。

※参考:(1ページ目)菅官房長官に意見して“左遷”された元総務官僚が実名告発「役人を押さえつけることがリーダーシップと思っている」 – AERA dot.(2020年9月10日配信)

「ふるさと納税」に4つの問題点

ここまで言われている「ふるさと納税」制度の問題点を整理しておきます。

1. 寄附という名目でありながら、実質的には節税手段として機能し、特に高所得層がその恩恵を得る仕組みとなっている

2. 実質的な意味で農水産業やそれに関連する産業の割合の多い自治体への補助金のような役割を果たしている

3. 「ふるさと納税」だけで見た各自治体の採算実績から、赤字自治体1団体あたりで4つの黒字自治体の黒字を支えているという構図になっている

4. 地方交付税交付金の観点から、返礼率を少しでも高めて流入額を増やそうというインセンティブを各自治体に与えた

ざっとこんな感じでしょうか。

(1)に関しては、ここまで何度も指摘してきました。

(2)に関しては、返礼品は原則地場産品で、雑貨や工芸品よりも生鮮食品などの人気が高く、結果として、農水産業が盛んな地域がふるさと納税の恩恵を受けているのではとの指摘です。

(4)に関しては、地方自治体環境層を促すことにもなり、「ふるさと納税」に対して積極的であるかどうかで変わってきます。地方が独自の「徴税権」を手に入れたと考えると、それはそれですごいことですけどね。

さて(3)に関しては、「ふるさと納税」だけを見ると、ざっくり全国の8割の自治体は黒字になっているそうです。黒字は主に地方の自治体が多く、赤字になっている自治体は都市部が多いとの結果です。

Next: 都市から地方へ流れる税金……大きな人口を抱えきれるのか?



都市から地方へ流れる税金

都市から地方への資金移動が進み、地方創生が促進されるという見方もできますが、一方でこんな記事もあります。

※参考:ふるさと納税9654億円、3年連続で最高 寄付先最多は都城市 物価高、返礼品でやりくりも – 東京新聞 TOKYO Web(2023年8月1日配信)

東京新聞記事ですが、「総務省は1日、ふるさと納税制度に基づく自治体への2022年度の寄付総額が、前年度比1352億円増の9654億円となり、3年連続で過去最高を更新したと発表した」とあります。

また、「半面、都市部を中心に税収の「流出」が顕著で、東京23区では過去最高になり、東京や神奈川県などの自治体からは制度の見直しを求める声があらためてあがった」とあります。

制度が始まった2008年度の寄付総額は81億円だったそうですよ。今とは桁が違いますね。

返礼品として人気の特産品を確保できる自治体が上位になる傾向は変わらず、2022年度に最も寄付を集めたのは宮崎県都城市で196億円。北海道紋別市194億円、根室市176億円と続いたとあります。

先程の「農水産業への補助金の役割」という指摘も、なんとなくうなずけますね。

一方、首都圏の自治体は税収の「流出」があらためて目立ったとあります。

記事では、「東京23区の流出見込み額は合計で826億6,000万円(6月1日時点の推計値)に上り、前年度比で1.2倍近くに達し過去最高になった」とあります。

「23区で最も多かったのは、世田谷区の98億2300万円で全国でも5番目。全国11番目の港区(67億6100万円)や大田区(49億5100万円)、杉並区(47億8600万円)など、上位20自治体までに8区が入った」とあります。

さらには「都内のほか、首都圏自治体は横浜市が流出額全国トップの272億4200万円、川崎市が4番目の121億1500万円。6番目にさいたま市の89億6100万円、12番目に千葉市の55億4100万円と続いた」とのことです。

ここまでを見れば、先程述べた通り、大都市から地方へお金が動く仕組みはできているということになります。地方創生という観点から、地方活性化の手助けになっているのかもしれません。

ふるさと納税を寄付した人は翌年度に居住地に納める住民税が軽減(住民税控除)されるため、居住自治体にとってはその分「減収」となります。

ふるさと納税制度によって控除額超過となった市町村は、地方交付税により当該超過額の75%が補填され得る仕組みとなっていますが、地方交付税の不交付団体である東京の都区部についてはその対象となっておらず、超過分の補填がなされないため、純粋な「減収」となっています。

川崎市も2022年度は不交付団体となっており、収入減となるふるさと納税制度への懸念は特に強いようです。
※参考:東京都23区の区民税流出は826億円超 ふるさと納税で過去最多:東京新聞 TOKYO Web(2023年8月1日配信)

あらためて、ふるさと納税制度に基づく東京都23区の区民税の控除額(流出額)が合わせて826億6,000万円(6月1日時点の推計値)と過去最多を更新したことにもう一度触れておいて、中野区のホームページを見てください。

「その『ふるさと納税』、もう少し考えてみませんか?」というもので、返礼品目当てで、中野区に本来収められる住民税が激減したことを指摘しています。

そのうえで「中野区では、子育て先進区の実現に向けた取組をはじめとした事業への寄附を、ふるさと納税制度などを活用して受け付けています。しかしながら、中野区への寄附額は7,721万円(令和3年度)と、圧倒的に流出額の方が大きいのが現状です。この状況が続けば、区民に提供する行政サービスの低下につながりかねず、大変深刻な問題として捉えています。そのため、中野区は、ふるさと納税制度の抜本的な見直しを国に求めています」……このように訴えていますね。

「ふるさと納税」制度、これを見直すと言っただけで菅義偉氏にきつく怒られるのかもしれませんが、その制度の主旨や現状を鑑みて、今後どうあるべきか、どう改善すべきかということは、立ち止まって考えてみても良いのではないでしょうか。

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らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』(2023年8月7日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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