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中国に限らず海外メディアは「汚染水」と報道。米紙も「処理済み汚染水」と書く現実に日本政府はどう対応するのか?=原彰宏

野村農林水産大臣は9月2日、福島第一原発にたまる「処理水」のことを「汚染水」と発言したことについて謝罪して撤回しました。実態は「汚染水」か「処理水」か。国内でも言葉・表現にナイーブになっていますが、海外はどう報じているのでしょうか。調べてみると、中国だけに限らず、米国を含め海外では「treated (処理された)」が付いているケースもありますが「radioactive water(放射性水/汚染水)」という表現が使われているようです。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年9月4日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

処理水か、汚染水か

野村農林水産大臣は9月2日、福島第一原発にたまる「処理水」のことを「汚染水」と発言したことについて謝罪して撤回しました。

この発言に対して岸田総理は、「言い間違いとはいえ不適切であり、極めて遺憾だ。水産事業者への支援はスピード感が大事で、早急に対策を取りまとめ、全力を尽くすことで信頼をばん回してもらうことが重要だ。ぜひこうした考え方に基づいて野村大臣にも努力してもらいたい」と述べています。

これについては松野官房長官も、「昨晩、野村農林水産大臣が全面的に謝罪し撤回したものと承知している。言い間違えとはいえ、発言があったことは遺憾であり、改めて緊張感を持って、水産事業者に寄り添った対策の実施に万全を尽くしてもらいたい」と述べています。

※参考:野村農相 “汚染水”発言 謝罪し撤回 野党側は追及の構え | NHK | 福島第一原発 処理水(2023年9月1日配信)

今度は、報道側の姿勢を伺う記事があります。

NHKは国際放送「NHKワールド JAPAN」で東京電力福島第一原発からの処理水を海洋放出する方針を9日に伝えたニュースのウェブ上の記事の見出しなどを差し替えた。海洋放出されるのを「radioactive water(汚染水)」としていたが、視聴者から誤解を与えかねないと指摘を受けたとして「treated water(処理された水)」に改めた。

出典:汚染水→処理水 NHK、海洋放出の英語表現差し替え:朝日新聞デジタル

日本では「radioactive water(汚染水)」を使わずに「treated water(処理された水)」に統一するようですね。

海外メディアはどう表記している?

では、海外メディアについて見てみましょう。

CNNで8月22日の公開された記事の見出しは、「Japan will start releasing treated radioactive water this week.Here’s what we know」となっていて、海洋放出される水は「treated radioactive water」と表記されています。

日本語訳では、「数カ月にわたる論争と期待を経て、一部の国からの激しい反対にもかかわらず、日本は今週後半に福島原発からの“処理済み放射性廃水”の放出を開始する予定だ」という文章で始まっています。

同じく8月22日のBBCの記事では、「Fukushima nuclear disaster: Japan to release treated water in 48hours」となっています。

これ、タイトルでは「treated water」になっていますが、記事の中身では「Japan will start releasing treated radioactive water from the tsunami-hit Fukushima nuclear plant into the Pacific Ocean on Thursday,despite opposition from its neighbours.(日本は、近隣諸国の反対にもかかわらず、木曜日、津波に襲われた福島原子力発電所からの処理済み放射性水の太平洋への放出を開始する予定である)」と、「treated radioactive water」になっています。

さらにウォール・ストリート・ジャーナルの8月24日記事「Japan Starts Releasing Water From Fukushima Nuclear Plant IntoPacific」では、「Japan plans to release more than 1.3 million tons of water with smallquantities of radioactive tritium over some three decades.(日本は、30年以上にわたって放射性トリチウムの微量が含まれる1,300,000トン以上の水を放出する計画です)」と、「small quantities of radioactive tritium over some three decades.」という、より直接的な表現をしています。

Next: 中国に限らず海外では「汚染水」と報道。なぜ放出は8月24日だった?



中国に限らず海外メディアは「radioactive water(放射性水/汚染水)」と報道

今回海洋放出される水は、「radioactive water」なのか、「treated water」なのか。はたまた、「treated radioactive water」なのか…。

中国が今回の海洋放出を非難していますが、世界的に日本だけが「treatedwater(処理水)」という表現を使い、中国だけに限らず米国を含め海外では「treated (処理された)」であろうと「radioactive water(放射性水、汚染水)」という表現を使っていますね。

NHKがなんと言おうと……。言葉のチョイス・表現はすごく重要な問題で、その表現を選ぶ背景には、政府などの何らかの意図があるのは当然です。

「敵基地攻撃能力」が「反撃能力」に変わったのは、記憶に新しいですね。

少し前の話ですが、英語表記だと、日本発の英字新聞「ジャパンタイムズ」が、徴用工を「forced laborers(強制された労働者)」ではなく「戦時中の労働者(wartime laborers)」と表現するようになりました。

慰安婦については「日本の軍隊に性行為の提供を強制された女性たち(womenwho were forced to provide sex for Japanese troops)」としてきた説明を変え、「意思に反してそうした者も含め、戦時中の娼館で日本兵に性行為を提供するために働いた女性たち(women who worked in wartime brothels,including those who did so against their will, to provide sex toJapanese soldiers)」との表現になっています。

※参考:焦点:「慰安婦」など表記変更 ジャパンタイムズで何が起きたか | ロイター(2019年1月25日配信)

記事によれば、このことでジャパンタイムズは、当時の安倍政権との単独会見が実現したとか…。

なぜ8月24日だった?

さて、この海洋放出を実施する8月24日という日程は、政治日程の絡みから出てきたと毎日新聞は批判しています。

政府は東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を24日に始める。政治日程などをにらんで放出日を調整してきた政府は、風評被害を懸念する漁業者の理解を得られないまま踏み切る。<中略>

東京電力福島第1原発の処理水について、岸田政権が8月中の海洋放出に踏み切ったのは、9月上旬の外遊や9月中旬が有力視される内閣改造などの窮屈な政治日程をにらみ、「夏ごろ」としていた放出時期をいたずらに引き延ばすことが得策ではないと判断したためだ。

出典:処理水放出踏み切った政府 外遊、内閣改造…綱渡りの政治日程 – 毎日新聞(2023年8月22日配信)

国会も開いていないので、国会での追及も避けられますしね。福島の漁業関係者等との話し合いが十分なされたからこの日に決めたのではないのですね。

この流れで、現地の人の言葉「理解はするが、納得はできない」という表現を噛み締めてください。

※参考:処理水放出、納得なき「理解」 政府関係者「反対続ければ復興も遅れる」 – 朝日新聞デジタル(2023年8月22日配信)

ALPS処理水海洋放出に対しての、地元の方々の思いkが「納得なき理解」という表現に込められていると思います。

Next: 現地の人の言葉「理解はするが、納得はできない」から読み取れるもの



現地の人の言葉「理解はするが、納得はできない」から読み取れるもの

世の中、言葉や表現にこだわるようなので、ここでも「理解」と「納得」の違いにこだわってみたいと思います。

「理解」は、自分の意思とは関係なく、物事の筋道を正しくとらえること
「納得」は、自分の意思を踏まえた上で相手の考えや行動を受け入れること

もうこれで、世の中に起きている「科学的事実に基づいた行動を否定するのか」という人たちにも反論できそうですね。

前提として、科学的に、ALPS処理水は安全であることは認めます。おそらく“飲める”レベルまで安全だと思います。ここで「安全」と「安心」という表現が頭に浮かびましたが、これ以上深掘りすると事の本質がややこしくなるので、これ以上の深掘りは、やめておきます。

さて「理解」と「納得」の話に戻しましょう。

納得の上に「理解」があるのか。
それとも、理解の上に「納得」があるのか。

この問いにどう答えられますか…。ある問いに対して「解(答え)」が提示されたとして、「へぇ~そうなんだ」という段階が「納得」であり、その上で「解(答え)」を知ったうえで自分なりにそれが正しいかどうかを考え抜いて「理解」にたどり着きます。

今度は、ある問いに対して議論が起こり、相手の意見を言い分をいったんは受け入れようとする姿勢が「理解」に相当しませんか。そのうえで相手の言い分が自分の意見とは異なっていても、自分なりに妥協点を見出して「それぐらいなら受け入れることもありかも」という状況が、「納得」ではないでしょうか。

「納得」に至るまでは、十分な時間が必要で、それこそ、とことん話し合いがなされて得られる話のような気がします。

前者の例は、自分ひとりで解決させる感情であり、後者の場合は相手がいることになりますね。そして議論の元になる「問い(納得の上に理解があるのか、理解の上に納得があるのか)」に対する「解(答え)」が、話し合っていくうちに「どっちもありなんじゃないか?」となることはないでしょうか。

意見の違いが分からなくなり、同じように感じてしまうことはないですか。頭が混乱してしている状況ですね。考えすぎて余計に分からなくなっているかもしれません。

納得のうえに「理解」があるのか、理解のうえに「納得」があるのか…。

どっちが正しいのでしょうかね。理解する側はどう考えればよいのか、説得する側はどっちを大事にすべきなのでしょうか。

「理解」と「納得」に関しては、こんな見解もあります。

理解とは、物事が解っただけのこと。
納得とは、物事をわかりさらにその事に同意すること。

個人の意見が反映されるのが「納得」。
個人の意見を抜きにしているのが「理解」。

いま国がしていることは、国民の、いや地元福島県民の意見を反映していることになるのでしょうか。

政府は「丁寧に」対応しているのか?

地元の人たちの感情は抜きにして、「科学的安全」の旗のもとに、「科学的証拠(エビデンス)」をもとに無理やり理解させ、個人的感情は度外視して納得させているようにも見えるのですがね。

対応に「丁寧さ」が足りない。そこをうまくやれば、科学的根拠の元、粛々と手続きは進むのではないでしょうか。

まるで「ボタンの掛け違い」で大揉めに揉めた、千葉県の成田空港誘致の問題みたいですね。

ところで、そもそも海洋放出が、現状を改善する唯一の方法なのでしょうか。他に本当に良い方法はないのでしょうか。

いまタンクにある水分だけを蒸発させて、残った固形物を地中深く埋めるとか日本海溝に沈めるとか、あるいはチェルノブイリみたいに石棺に閉じ込めるとかは考えられないのですかね。

どうせ最終処分処理場を作らなければいけないのですから。まだまだ知恵を出し合う余地はあるような気がするのですがね…。

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