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手取り増えぬ「賃上げ」政策の無意味。所得減税は1年だけ、消費税と社会保険料値上げでさらに生活苦へ=原彰宏

1人あたり4万円の定額減税、住民税非課税世帯には1世帯7万円の給付。これは、政府が2日の臨時閣議で賃上げや国内投資の促進策を盛り込んだ「総合経済対策」の一部になっています。1年限定、来年の通常国会で法案を通しますので、実施は6月から。繰り返しますが、1年限りです。これで本当に日本経済は上向くのでしょうか?岸田政権の経済対策をまとめながら、消費減税や手取り増加策には踏み込まないズルさを掘り下げます。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年11月6日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

減税を打ち出しているが…

1人あたり4万円の定額減税、住民税非課税世帯には1世帯7万円の給付。これは、政府が2日の臨時閣議で賃上げや国内投資の促進策を盛り込んだ「総合経済対策」の一部になっています。

所得制限などの詳細はまだ固まっていないものの、減税は岸田文雄首相が「税収増を還元する」として打ち出したもので、一律給付と比べて複雑さが目立ちます。

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報道によれば対策の規模は所得税と住民税の減税を含めて17兆円台前半になるとのことで、岸田文雄首相は首相官邸で記者会見し「来年夏の段階で賃上げと所得減税を合わせることで、所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実につくる」と語りました。

政府は物価上昇に見合う賃金の伸びを確保するため、0%台にとどまる潜在成長率の1%への引き上げをめざします。

「デフレ完全脱却のための経済対策だ」

首相は今回発表の経済対策を「デフレ完全脱却のための経済対策だ」と強調しました。つまり成長戦略、要は、経済が良くなれば税収は増えるというものです。

対策の事業規模は国と地方自治体、民間投資を合わせて37.4兆円ほどになります。財源の裏付けとなる2023年度補正予算案は一般会計で13.1兆円とします。

対策は5つの柱で構成します。

・物価高から国民生活を守る
・持続的な賃上げ、所得向上と地方の成長実現
・国内投資の促進
・人口減少を乗り越える
・国民の安全・安心の確保

供給力の強化策として、半導体や蓄電池などの戦略物資の国内投資を促す減税措置を設けます。農地や森林など開発に制限がある土地にも工場を立地できるよう規制を緩和します。

まあこれは産業界のグランドデザインに繋がりますけどね。経済安全保障にも関わるものです。

物価上昇は、ある意味止めるのは難しいでしょう。そうなると物価対策とは物価上昇を上回る賃金上昇を実現することに尽きると思うのですね。

岸田首相はどうやって賃金を引き上げていくのでしょうか…。

Next: どうやって「賃上げ」を実現する?



どうやって「賃上げ」を実現する?

首相は「来年の春闘に向け私が先頭に立って今年を上回る水準の賃上げを働きかける」と話しました。

なに?岸田首相は労働組合の委員長になるの?

さらに、労働者の賃金を引き上げた企業が受けられる税優遇や補助金を拡充します。

いやいや企業の鼻先に“人参”をぶら下げることが賃金対策ですか……。

所得減税の狙いについて首相は「デフレ脱却ができるかどうかの瀬戸際だからこそ、あらゆる政策を総動員し国民の可処分所得を拡大する」と説明しました。

国民の可処分所得ね。いわゆる実手取り、“手残り”額ですね。

2024年6月に所得税3万円、住民税1万円を減税します。合計4万円です。2022年度までの2年間で所得税・住民税で収入が3.5兆円増えた分の還元と位置づけます。住民税の非課税世帯には1世帯あたり7万円を給付します。3月に決めた物価高対策の3万円の給付と合わせて、10万円分の負担減とします。

1年限定、来年の通常国会で法案を通しますので、実施は6月から。繰り返しますが、1年限りです。

減税と防衛費増額に必要な増税との整合性に関しては「順番が何よりも重要だ」と指摘し、「今回の減税と同時に防衛の税制措置を実施することは考えていない」と言明しました。

でもね……可処分所得を増やすには、減税もさることながら社会保険料の削減が何より重要だと思います。

ぜんぜん「手取り」は増えない…

可処分所得は、いわゆる“手取り”であり以下の計算式が成り立ちます。

可処分所得 = 総支給額 -(税金 + 社会保険料)

税額は所得控除など生命保険や扶養者の有無で納税額はおさえられますが、社会保険料にはそういった控除枠はありません。そして、ここ何年も社会保障維持の名目で右肩上がりに増え続けています。給与所得者の場合は厚生年金部分の半分は会社が負担になっていて、これが会社業績を圧迫しているのです。

ガソリンの価格上昇を抑える補助や電気・ガス料金を差し引く措置は2024年4月末まで延長します。電気・ガスへの対策は2024年5月には激変緩和の幅を縮小すると記しました。

ガソリン価格に関しては「トリガー条項」を発動させるほうが簡単です。あるいは二重課税と言われる消費税をガソリン価格には課税しないという措置を取ればよいのですが、一度手にした税収源は手放したくはないのでしょうね。

この「一度手にした税収源は手放したくない」というのは、消費税減税の議論でも言えそうです。

トリガー条項とは、ガソリン価格が160円を3か月連続で超えると、ガソリン税の上乗せ分の課税を止めて、減税する仕組みで、2011年の東日本大震災の復興財源確保のための震災特例法で凍結されましたが、「今こそ解除を」という声が拡がっています。

Next: なぜ消費税の減税をしない?岸田「経済政策」が向かう先は…



岸田「経済政策」のポイントは

経済対策の財源には当初予算で計上した新型コロナウイルスや物価高騰、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う対応への予備費を半減して活用します。補正予算案は11月中にも提出し、臨時国会での成立をめざします。

経済政策のポイントを再度おさらいします。

・所得税と住民税も定額減税+住民税非課税世帯に給付
・ガソリンや電気・ガス料金への補助金を2024年4月末まで延長
・中小企業の賃上げ促進税制を拡充
・半導体工場などの立地規制を緩和
・児童手当の拡充四球を前倒し
・「物流2024年問題」への対策

概ね専門家の評判はいまひとつですが、この経済対策は「日本丸」が経済という大海を渡る“海図”になるものですから、日本の未来がかかっている大事なものになってきます。

なぜ消費税の減税をしない?

野党を含め、経済対策を考えるのなら、消費税を減税するか廃止にすべきだという意見があります。

そもそも物価対策なり国民生活を守るということを訴えているときに、なぜ「インボイス制度」を強引に導入するのでしょうか。

そもそも「インボイス制度」は、軽減税率導入により税率が複数存在することによる清算のためにあるので、これを一律8%なり5%に下げて一本の税率に統一すれば、必要ないものですけどね。

政治関係者の間では、ここまでコツコツと丁寧に消費税率を引き上げてきたのに、それを引き下げることは自分の政権ではやりたくないという思いがどうもあるようですね。ここまで所得税減税で走ってきた岸田政権ですから、それをご破産にすることは、政権の求心力にも関わりますからね。

要は、国民を向いているのではなく、自分の保身のためというところが見え隠れしてしまいます。

消費税は社会保障制度維持には必要である……でもね、いま消費税は目的税ではなくプライマリーバランス改善のための一般税になっていますよね。

そもそも竹下内閣で消費税を導入するときは「直間比率の見直し」が、導入の大義名分だったはずです。もう十分に外国各国並みの直間比率になっていませんか。

直間比率とは、直接税と間接税のバランスの問題で所得税や法人税などの直接本人の申告で収める税金は景気により税収が安定しませんが、消費することで税を収める間接税は、税収の安定化を図ることができます。

Next: 「消費税」と呼ぶのは日本だけ。世界基準の税制とはまったく異なる?



「消費税」と呼ぶのは日本だけ

「消費税」という表現は日本だけで、海外では「付加価値税」と言われます。現在、140カ国余りで付加価値税を採用(主要国ではアメリカだけが採用していません)していますが、「消費税」というネーミングをしているのは日本だけです。

ここから考えるに、日本の消費税は、世界に今ある税とは違うのではないのか……そういう疑問が湧いてきます。

インボイス制度導入の根幹となっている「消費税は預かり税」「益税の考え方」について、本当にそうなのかは 次回のメルマガ 次回のメルマガ 以降、ちょっと深掘りしていきたいと思います。

次の選挙では大きなテーマになるであろう「消費税減税」「消費税廃止」。消費税というものを、もうちょっと掘り下げて丁寧に因数分解していきましょうかね。

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らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』(2023年11月6日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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