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米雇用統計でドル円急落、今後の注目点/消費増税延期不況がやってくる?=栗原将

イエレンFRB議長は「有効賃金理論」の研究成果でも知られるように、雇用・失業に対する造詣が極めて深い人です。そのイエレン氏が今回の雇用統計の数値を見てどう判断するか?かなり慎重な姿勢となるのではないかと予想しています。(『海外投資とネットビジネスで海外移住、ハッピーライフ』栗原将)

5月の為替相場振り返りと6月の注目点/「増税延期不況」のしくみ

米雇用統計悪化でドル/円急落

先週末の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予測の16万人増を大幅に下回る3.8万人増と発表され、発表前に109円前後で推移していたドル円が106円60銭まで売り込まれました(円買いによる円高)。

【関連】相場はアートだ/6月利上げは困難も、米ドル・豪ドルは押し目買い好機=田嶋智太郎

ベライゾンがストライキとなっていたために、本来なら20万人増くらいのところを16万人増という“保守的”な予測となっていたのですが、これをはるかに下回る数値となったことで、早期の利上げ期待が後退、米長期国債の金利が急低下しドル全面安の展開となりました。

先月5月の為替相場は、G7伊勢志摩サミットにおいて日本が何らかの経済対策と消費増税延期を打ち出してくるとの期待、それと、こちらの方がインパクトは大きかったと感じていますが、米FRBイエレン議長をはじめとする理事が、こぞってタカ派的姿勢、つまり早期の利上げを示唆したことにより、円安ドル高が進みました。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

105円55銭から111円45銭まで6円の円安ドル高が1ヶ月かけて進んで、先月末から4日間で5円、一気に円高になったということです。

毎度のことですが、上昇はゆっくりで下落は急激なものですね。

労働市場に造詣が深いイエレンはどう判断するか?

市場関係者から聞こえてくるのは、イエレン議長はじめFRBの理事が相次いでタカ派コメントをしたのは、6月の利上げがあまりに織り込まれていなかったから、ということで、ショーもそういうことだろうと考えています。

何せ世界経済に多大な影響を与える米国の金融政策ですので、その歴史の中で「フォワード・ガイダンス」というものが形成されています。

和訳すれば、「将来の金融政策の方向性を説明する指針」といったところです。

市場関係者は、フォワード・ガイダンスに従って具体的な数値で、例えば「6月の利上げ確率は○%」というふうに公表していきます。

この数値があまりに低いということで、FRBが慌てて利上げ可能性を織り込ませようとした、そして、このことが予想以上にマーケットに影響をもたらしドル高になった、こう考えています。

イエレンさんは、元々、景気を重視するハト派と評されていますが、「利上げに慎重なのは利下げ余地が少ないから」と以前コメントしていました。

同じ0.25%の利下げでも、金利5%の時の0.25%と、0.25%から金利ゼロにするのでは、経済に与えるインパクトがまるで違うということで、これは、すごく分かりやすいと思っています。

ショーの個人的な見解では、イエレンさんはもちろんハト派と言えるでしょうが、それ以上に、とにかく緻密な仕事をする人だなと感じています(先月の理事のこぞってのタカ派コメントは今となってはやり過ぎ感がありますが……)。

そのイエレンさんは、FRB議長になる前は、カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクールの教授などバリバリのエコノミストでしたが、彼女の研究成果として有名なものに「有効賃金理論」があるように、労働市場、労働経済に対する興味と造詣が非常に深い人です。

そのイエレンさんが、今回の雇用統計の数値を見てどう判断するか?

まずは、6日のイエレン講演に市場は注目していますが、かなり慎重な姿勢となるのではないかと予想しています。

今月の注目事項は米国利上げのほか、日銀の追加金融緩和有無、それから英国のEU離脱国民投票。なんと言ってもこの3つが大きなトピックです。

事前の高官コメントや世論調査、メディア報道、そして実際の結果により、相場は上下に大波乱の6月となりそうです。

あくまで個人的な見解ですが、上下どちらのリスクが大きいかと聞かれたら、下向きと考えています(投資は自己責任でお願いしますね)。

Next: まるで「サラリーマンの会議」だった安倍首相の増税延期会見



まるで「サラリーマンの会議」だった安倍首相の増税延期会見

6月1日の安倍首相記者会見(消費増税再延期)、中継をフルで見ました。もちろん、為替チャートを見つつ(笑)

首相が話しはじめる直前にまとまった売り(フライング売り?)が発生したり、これはネタか、と思うようなこともあったわけですが、話の内容に驚きみたいなものは何もありませんでした。

経済対策は秋までに、というのはネガティブでしたが。

消費税増税再延期はすでにここ数日、メディアにリークして織り込んできましたから、市場の反応は“材料出尽くし”で、ドル円は下落していきました。

冒頭の挨拶みたいな話の後、本題の消費増税再延期に話が移ったわけですが、まあ、前置きが長いこと長いこと

為替の掲示版もチェックしていたのですが、「早く結論お願いします」といった投稿が連打されていて笑ってしまいました。

この光景を見つつ思い出したのが、サラリーマン時代の会議での報告

悪い報告をする人って、たいてい前置きがめっちゃ長くて、まずは、これこれこんな努力をしてきました、ベストを尽くしてきました、でも、外部環境が悪くて、目標未達に終わりました、みたいな流れになることが多いと思います。

前置き9割5分、結論5分みたいな感じですね(笑)

国家の代表である総理大臣でも、中間管理職サラリーマンのように話さないといけないのか、大変だな、と感じたものです。

そして発言の中で非常に気になったのが、

足元では新興国や途上国の経済が落ち込んでおり、世界経済が大きなリスクに直面している。こうした認識を、先般、伊勢志摩サミットに集まった世界のリーダーたちと共有した。

の部分。

大きなリスクに直面している」という言葉が複数回出てきましたが、報道を通じてこのことを知った人の反応は大きく2つに分かれると思います。

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これから「消費増税延期不況」がやってくるかも?

まずは、ショーのメルマガやブログを読んでいる方をはじめ、経済動向を正しく理解している人。少数派になりますが、そのような人は、

消費増税を延期するための方便だよね

と見切っているはずです。

世界が深刻なリスクに直面しているなら、アメリカが利上げの議論を深めることはないはずだし、新興国や中国経済を理由にしてはいるけれど、一番ヤバイのはアベノミクスの頓挫じゃないの?と考えているのではないでしょうか。

一方、特に経済に興味を持っているわけでも、積極的に資産運用しているわけでもない、すなわち大多数の日本人は、今回の首相コメントにより、

近いうち、大不況が来るのかもしれないな

と感じてしまうのではないでしょうか。

日本を代表する人から、何度も「大きなリスクに直面」と言われたら、いくらその真意はリスクを回避、克服するための政策を実行しますよ、ということであっても、消費マインドを萎縮させる可能性が高いと思います。

「トリスハイボールにしておこうかな」

新橋の居酒屋で飲むおじさんが、角ハイボールでなくてトリスハイボールにしておこうかな、将来リーマンショック級の大不況になるかもしれないから、なんてことがあるのではないかと想像してしまいます。

海外識者のコメントに、「消費増税再延期は短期的には消費マインドを良好にする」といったものがありましたが、ショーはまったく反対の考えです。

1年以内に消費税が上がるなら、ぼちぼちマイカーを買い替えようか、といった駆け込み需要もあったでしょうが、そのかなりの部分は持ち越しになると思いますし、自分自身、増税が延期になってトクをした、だからその分たくさん買い物しよう、などとはまったく思わないですね。

今回書いたことが妄想のまま終わることを祈ってはいますが、消費マインドがさらに悪化したら、「消費増税延期不況」みたいなことにもなりかねません。

【関連】「◯◯記者、許さん!」投資家がアナリストや記者に責任転嫁することの損失=ショー

海外投資とネットビジネスで海外移住、ハッピーライフ』(2016年6月2日,6月4日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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9年間のタイ、フィリピンでの海外移住生活から帰国し、北海道暮らしをはじめた50歳男子が、久々の日本生活から感じることや、海外生活のメリット・デメリット、そして、地方暮らしの実際について独自目線で語っていきます。

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