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リニア2027年開業断念…本当に静岡だけのせい?山梨・神奈川などほかの工区でも問題山積、そもそもの事業計画に破綻か=原彰宏

JR東海は3月29日、東京・品川と名古屋を結ぶリニア中央新幹線について、2027年の開業を断念すると発表。2034年以降の開業へ延期するとしています。川勝知事が辞任することで話題になった静岡県が着工を認めなかったことを理由として挙げていますが、本当に静岡県だけのせいだと言い切れるのでしょうか。リニアについて長年取材を続けているフリージャーナリストの樫田秀樹氏の記事を参照しながら、問題点を整理します。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2024年4月22日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

リニア中央新幹線、2027年開業を断念

JR東海が開発を進めているリニア中央新幹線は、2027年に品川―名古屋間の運用開始を目標としていました。しかし3月29日、JR東海はとうとう2027年の開業を断念すると発表。2034年以降の開業へ延期するとしています。川勝知事が辞任することで話題になった静岡県が着工を認めなかったことで「2027年開業は難しくなった」と説明しています。

たしかに、JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線をめぐり、静岡県はトンネル工事によって県内を流れる大井川の水量が減ることや、南アルプスの生態系への悪影響が懸念されるなどとして着工を認めていませんでした。

これは、捉えようによっては川勝知事が“難癖”をつけているようにも見えますが、実際にこのようなことが起きるとしたら、大規模な自然破壊も甚だしいものになります。

JR東海の関係者からは静岡県が着工を認めないかぎり、新たな開業時期を打ち出すのは難しいという見方が出ていて、両者の協議の行方が焦点となっています。

果たして、リニア中央新幹線の開業時期が延期になったのは、本当に静岡県だけのせいだと言い切れるのでしょうか。

静岡県以外のところでは、リニア中央新幹線建設をめぐり問題はなかったのでしょうか…。

「静岡悪者論」ばかり強調されていますが、リニアについて長年取材を続けているフリージャーナリストの樫田秀樹氏によると、静岡以外の工区でも工事の遅れは相次いでいるそうです。

※参考:開業は早くても10年遅れの2037年!? リニア新幹線建設の悲惨な現状!! – 週プレNEWS(2024年3月28日配信)

JR東海の公表資料などから試算したところ、現時点で予定より2~10年の遅れが生じている工区が、沿線の1都6県全てにあるというのです。

樫田氏は未契約や未着工、沿線住民による差し止め訴訟、トラブルによる工事中断などを理由に挙げています。

さて、どんなトラブルがあるのでしょうか…。

シールドマシンの不具合

東京新聞の記事を取り上げます。

リニア中央新幹線の北品川非常口(東京都品川区)から名古屋方面へ向かう約300メートルのトンネル工事で、シールドマシン(掘削機)に損傷が見つかり、掘削を一時中断すると発表した。この区間は「調査掘進」として2022年3月までに掘る予定だったが、今回も含め2度の中断。まだ124メートルしか掘れておらず、完了は24年中へとずれ込む見通し。

出典:リニアのトンネル「調査掘進」、また中断 品川で掘削機がへこみ内壁にずれ JR東海「安全性に問題ない」- 東京新聞(2023年10月6日配信)

シールドマシンというのは、円筒状の形状に先端に大きなカッターのような刃物が付いていてトンネルを掘り進む機械なのですが、これがうまく動かなくなったようです。

124メートルしか掘られていない…?

リニア中央新幹線の全長は約286kmですよ。約9割がトンネル区間ですよ…。このシールドマシン、土に混ぜる添加剤の不足で掘削機前面に土が付き、50メートル進んだところで故障したとか。

トンネルの内径はリニア中央新幹線の約13メートル。中央環状線の中落合付近のトンネルを掘ったシールドマシンは直径11.8メートルで、1日平均10メートルのペースで掘り進めていったようです。

この数値をリニアの第一首都圏トンネルに当てはめると、トンネルの貫通には約10年はかかるようです。まあ確かに開業は「2034年以降」になりますなぁ…。

Next: 遅れる着工。そもそも「2027年開業」という計画自体が無理だった?



大深度工事といえば…

さらに、リニア中央新幹線のトンネル工事は、地下40メートル以下の大深度を掘る工事です。

大深度と言えば、「想定外」の陥没事故が起きた東京外郭環状道路(外環道)の工事を思い出します。

東日本高速道路(NEXCO東日本)が外環道の工事をしていた東京都調布市で、2020年秋以降、道路の陥没や地下の空洞が相次いで見つかりました。

振動や音の訴え、地面のひび割れなどもあり、東日本高速の有識者会議は「特殊な地盤条件下で行った特別な作業」が原因と結論づけていました。

住民にとっては、降ってわいた災害としか言いようがなく、裁判所は一部区間の工事差し止めを認めましたが、住民側は全区間の差し止めを求めており、紛争は最高裁に持ち込まれました。

大深度地下は、通常は使用しない空間で、2001年施行の「大深度地下利用法」で、3大都市圏を対象に、公共目的なら国などの認可で、土地所有者の同意や用地買収なしに利用できることになりました。

ルート設定の自由度も高く、予算や工期が抑えられます。

通常は、「土地所有者には補償すべき損失が発生しない」ことを前提にした仕組みだったとのことです。

リニア中央新幹線も、この大深度にトンネルを掘ります。

問題が発生しないか確認しながら進めていくようですが、外環道の教訓も踏まえて、地下の状況の確認や排出土砂量の管理など施工方法の改良もしたというのです。

なんか大変な工事になりそうですね。

そもそも「2027年開業」という計画自体が無理だったのじゃあないですかね。

用地買収は進んでいるのか?

朝日新聞記事に、リニア中央新幹線2027年開業を困難にしていることに関して「静岡県と神奈川県との舌戦」が載っています。

リニア中央新幹線の東京─名古屋間の2027年開業が困難な情勢になっていることをめぐり、川勝平太知事は(2022年9月)22日の定例会見で、「神奈川県に一義的な責任がある」と述べた。

相模原市に建設予定の車両基地の用地買収が進んでいないことなどから、買収する立場の神奈川県をやり玉に挙げた形だ。

出典:リニア開業困難は「神奈川県に責任」 静岡知事、用地買収巡って批判 [静岡県]:朝日新聞デジタル(2022年9月23日配信)

このことから、2027年開業は難しいとされていたのですかね。

用地買収に関して神奈川県の黒岩知事は、(2022年10月1日)相模原市緑区鳥屋に設置予定の車両基地について「住宅の用地取得は(地権者の)8割が了承している」と話し、用地取得が順調に進んでいるとの認識をあらためて示した。

出典:同上

と述べています。でもね、実際に用地取得済みの割合は、全体の50%ぐらいでしょうか。もう少しあるかもしれないですが、まだまだ工事が進められない状況のようです。

黒岩知事は「現地で聞いた話として、移転先が決まっていなくてもリニアのために売却を決めた人もいた」と言っているようですが何なのでしょうね。

報道で黒岩知事は「リニア中央新幹線開業の遅れは神奈川県のせいではない」と強調しているようです。

Next: 山梨県側でも問題発生。開業を延期すればすべて解決するのか?



山梨県高架部分の問題

リニアモーターカーは、山梨県内の約83キロのうち大半はトンネル区間ですが、3分の1の約27キロで地上を走ることになります。

そのうち8割に、全体を覆う高さ約8メートルのフードを設置。残り計2割に当たる県内10カ所の区間は、換気の必要性などからフードではなく、高さ2~6メートルほどの防音壁を設置するとしています。

この地上を走る区間を「明かり区間」と呼んでいるそうで、主に山梨県南アルプス市を走る区間がそうで、高架橋による日照被害、騒音対策の問題があるようです。

日照被害とは、50メートルもの高いところをリニアモーターカーが走るので、その影になってしまう住民は影になってたまったものじゃあないということのようです。

騒音問題に関しては、リニア中央新幹線の建設に反対する沿線住民の団体が山梨県に対し、騒音や振動による生活への影響について県独自の現地調査を行うことなどを要請しました。

現在検討されている県内の防音壁の区間を防音フードに変更して欲しいことや、県独自で騒音や振動、地下水への影響に対する現地調査を行ってほしいと訴えました。

残土から放射線検出

赤旗の記事です。記事の一部を転載します。

JR東海が進めるリニア中央新幹線建設工事の日吉トンネル南垣外工区(岐阜県瑞浪市)で残土から複数回、放射性物質である微量のウランが検出されていたことが分かりました。この地域には日本最大のウラン鉱床が広がっています。トンネル掘削には住民から不安の声が相次いでいましたが、同社は公表していませんでした。専門家は、住民の信頼を得るためには公表が必要と指摘しています。

出典:リニア残土 微量ウラン/JR東海 公表せず/岐阜 日吉トンネル工事(2019年8月5日配信)

もともと言われていましたが、リニア中央新幹線トンネル工事では、大量の土砂が出てきます。

「要対策土」と呼ぶそうですが、リニア工事で発生する「要対策土」とは、土壌汚染対策法の基準値を超える重金属を含む土壌になり、JR東海は、要対策土に不溶化剤や固化剤を混ぜて擁壁などの造成に利用することを検討しているそうです。

しかしこのように放射性物質が検出されたら、どこの県が処分を引き受けてくれるのでしょうかね。

東京・名古屋間で約250 kmのトンネルを掘り、残土の量は6200立方メートルにのぼります。通気口、非常坑口もあちこちに掘られ、とてつもない範囲で環境に影響が出ることが予想されます。

この要対策土の処理については、なんか後々大きな問題になりそうですね。

すでにトンネルで崩落事故発生、工事費は膨らみ、差し止め訴訟も…

かつてない難工事とされているリニア中央新幹線工事ですが、すでに事故などが起き、工事の中断や遅れが生じているようです。

※参考:「リニア」の遅れは静岡だけのせい? ほかの工区でも後ずれする工事、未解決の問題を考えた:東京新聞 TOKYO Web(2024年4月5日配信)

2021年10月、岐阜県中津川市のトンネル工事現場で、火薬で掘り進める途中、岩肌が崩れ落ちて作業員2人が死傷しました。

2016年に着工した名古屋市中区にある名城非常口は底部からの湧水や土壌汚染があり、完成が予定より遅れたそうです。

2021年4月には、品川―名古屋間の総工費が従来見込まれていた5兆5,000億円から約1兆5,000億円膨らみ、7兆円あまりになる見通しが発表されました。工事が長引けば、工費がさらに膨らむ可能性もあります。ルート予定地の住民による差し止め訴訟も起きています。

先程の、山梨県南アルプス市の住民が甲府地裁に起こした訴訟は今年5月に判決が出ます。原告、被告のどちらが勝っても控訴する見込みで、原告代理人の梶山正三弁護士は「最高裁まで争えばあと2、3年はかかる。それに判決が出ても住民は簡単に土地を提供しないだろう」と言い、関係工区の完成はさらに先になるとみられます。

Next: そもそもリニア中央新幹線は必要か?静岡県だけを責めるのは違和感が…



そもそもリニア中央新幹線は必要なのか?

たしかに、東京から名古屋までの所要時間は約40分で、東海道新幹線より約50分短縮されますが、乗車までのアクセスや時間を考えると、結局は変わらないのではないでしょうか。

北品川駅までのアクセス、地下深くまで降りていく時間、逆に地上に戻る時間を考えたらどうでしょう。地中深くをノンストップで走ることを考えるとテロ対策のセキュリティにかかる時間も必要でしょう。

アルプスの地下で止まった場合の避難はどうするのか。まさか山登りするわけではないでしょう。地表は雪山かもしれませんよ。リニア中央新幹線に必要性を、JR東海はホームページで以下のように説明しています。

現在、日本の三大都市圏を結ぶ大動脈輸送を担う東海道新幹線は、開業から半世紀以上が経過し、将来の経年劣化や南海トラフ巨大地震などの大規模災害に対する抜本的な備えを考えなければなりません。このため、東海道新幹線とともにその役割を担う中央新幹線について、当社が開発してきた超電導リニアにより可及的速やかに実現し、東海道新幹線と一元的に経営していくこととしています。

出典:なぜ中央新幹線を建設する必要があるのですか。- JR東海

リニア中央新幹線の正式名称は「中央新幹線」になっています。確かにこう説得されれば納得できなくはないですが、南海トラフ地震の発生確率「70~80%」の根拠は「江戸時代から眠る古文書」によるものだという話もありますよね。

JR東海の葛西敬之前会長は、リニア中央新幹線は「経済安全保障案件だ」と強調していました。つまり、中国よりも早く完成させ、稼働させることで、海外への輸出に有利にしておくことが大事だというのです。

でも、2027年開業延期は決定的です。

しかし、中国で2023年4月初旬、超電導リニアモーターカーの浮上運行に初めて成功したというニュースが報じられました。この報道を受けて「リニアの本格営業運転開始は中国が先かも」という声も一部から聞かれるようになりました。
※参考:日本超える?中国「時速600キロ」リニア開発の実情 技術研究は進むが路線計画には進展見られず – 東洋経済オンライン(2023年04月12日配信)

もう大変ですよ。ちなみに、JR東海の葛西敬之会長と言えば、「安倍晋三を総理にした最後のフィクサー」と呼ばれている人物です。
※参考:安倍元首相を総理にした男、フィクサー・葛西敬之のただならぬコワさ 瀬島龍三から葛西敬之、安倍・菅政権へと受け継がれたもの – JBpress(2023年1月16日配信)

そして、こんな記事もあります。
※参考:財投3兆円投入、リニアは第3の森加計問題 – 日経ビジネス電子版(2018年8月30日配信)

いずれにしても、リニア中央新幹線の開業は「2027年以降」になるそうです。それは決して静岡県だけの責任ではないということです。

そして、ここでご紹介したことを含めて、リニアモーターカーに関する報道は、地上波を含め、あまり取り扱われていないようです…。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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