AI(人工知能)、半導体、データセンター……これらのホットなキーワードに関係が深い米国企業の1つが「スーパー・マイクロ・コンピューター(SMC)」だ。本記事では、SMCの事業や将来性について解説する。また、関連して株価上昇が見込めそうな日本企業についても検討したい。(天野博邦)
プロフィール:天野博邦(あまの ひろくに)
作家、投資家、経営コンサルタント。1982年山梨県生まれ。東北大学大学院卒(量子情報理論)。金融・コンサルティング業界を経て、2024年に独立。海外勤務の経験から主に欧米企業の企業分析が得意。日本をいかにより良い国にできるかをテーマとして執筆活動を行っている。
いま最も注目を集める企業の1つ「スーパーマイクロコンピューター」
2023年末から2024年にかけて日本で最も知名度が上がった米国企業は、半導体メーカーの「エヌビディア」だろう。AIブームを追い風に株価は暴騰し、時価総額は2兆ドルを超えるまでに成長した。
その影で、少しずつ注目されつつあるのが「スーパーマイクロコンピューター(SMC)」だ。サーバーやストレージシステムを設計・製造する会社である。
以下のチャートを見て欲しい。1年前の株価を100として、ピーク時は10倍以上になっている(直近では8倍)。比較しているナスダックがまったく成長していないように見えてしまう。同様のチャートでは、エヌビディアでも最高時点で3.5倍だ。
株価の推移を見ると、1月19日を境に急成長(四半期の業績速報が良好だった)。しかしながら3か月後の4月19日、業績速報を公表しなかったために株価は23%下落。このあおりをうけ、エヌビディアは10%も下落した。
そして5月1日(日本時間)早朝に決算を発表。好決算かつ今後の見通しを上方修正している。
業績が急成長している理由は、やはり大規模言語モデルに代表されるようなAIの進展が大きい。
なぜ業績が急成長?
SMCが主戦場としている市場には、「デル」「ヒューレットパッカード」などの大手企業がいる。例えば、デルはAI向けサーバーの需要が高まっていることを公表したことで、3月1日に株価が27%上昇した。
SMCの競争力を支えているのは革新的な技術力だ。
最先端のサーバーでは高度なCPUとGPU(これらはチップと呼ばれる)が使われるが、その際に、大量の熱が発生する。SMCでは、チップに直接、冷却の液体を触れさせる技術を強みとしている。また、SMCはグリーンコンピューティング(環境負荷が少ないコンピューティング)を標榜しており、それは可能なのだという。
Facebookで有名なメタ社は、世界中にデータセンターを作ってAI開発を加速しているが、データセンターの電力源として再生可能エネルギーを使う。そんな中、SMCの業績向上の一因としてメタからの大型受注があるのではという噂もある。
日本でもデータセンターの建設は増えているが、特別に大量の電力を確保するために電力会社とも連携しなければならないという状況が生まれている。
今後、コンピューターの消費電力は社会問題になる可能性が高い。省電力で優位に立つSMCは、今後もマーケットシェアを拡大していくだろう。
SMCは台湾出身のCharles Liang氏によって設立・経営されている。SMCの成功は、Charles氏によるところが大きいと筆者は考える。もともとエンジニアであり、今でも自らテクノロジーの最先端を切り拓いているのではないか。自ら創業したSMCのことを本当に楽しそうに話す人物だ。
Next: SMCは今後も成長する?日本の半導体銘柄への影響は…
日本の半導体銘柄への影響は?
アメリカの株式銘柄と日本の株式銘柄の関係はどうか。
日本の半導体銘柄の動きは、エヌビディアに強く影響されているかのようなコメントがネットでは増えている。
そしてエヌビディアの株価は、半導体製造装置メーカーの「ASML」や「SMC」の株価やニュースにも影響されている。仮にエヌビディアの株価が日本の銘柄に影響するとするならば、エヌビディアの株価に影響を与える要素にも注目すべきだろう。
投資家の間でも「半導体」という業界を大きく一括りにして語られているような印象があるが、「半導体」と言っても、その種類から開発工程まで広がりがあることには留意が必要だ。
例えば、半導体のプロセスのサイズについて考えてみると、北海道で次世代半導体の国産化を目指して準備されている「ラピダス」では2nm(ナノメートル)のものを作る一方で、熊本に工場が建設された「TSMC」では22~28nmの半導体をつくる。エヌビディアのGPUに関連するのは、前者である。「半導体」と言っても、どんな種類・用途の半導体の話題なのかをしっかりと見極める必要がある。
また「ソニー」のように、特定の銘柄が半導体関連なのか否かがグレーの場合もある。
SMCと日本株の関係性を述べると、AIシステム受注開発の「データセクション<3905>」が4月12日にSMCとの業務提携を発表したことで、株価が急騰したことが目新しい。
データセクション<3905> 日足(SBI証券提供)
海外の特定の企業の動きだけを見て、日本株の銘柄の投資判断を行うのは危険だろう。しかし、SMCがサーバーとストレージを主軸とする企業である以上、同社の動きは日本の半導体関連銘柄への投資を検討するうえで、大いに参考になる材料を提供してくれる。
SMCの成長は今後も続くか?
SMCはクラウドサービス企業からの需要に加え、クラウドサービス企業が最先端の技術を実装するのを待っていられないような企業からも需要がある。
4月22日付の日経新聞にあった「ソフトバンクが生成AIのために1,500億円を投資し、GPUはエヌビディアから購入する」という報道は、これに関連するかも知れない。ポイントは、今後もこのような案件が増える可能性が高いこと。そして、SMCがこの分野で競争力を有していることだ。
需要が高まっているのは、AI向けのサーバーだけではない。従来型のサーバーやストレージの需要も高まっていると、競合会社のデルは2月29日のアナリストコールで発言している。
サーバーやストレージの需要に影響するものとして世界のデータ量があるが、世界で毎年生成されるデータ量は年率25%で成長していると考えられている。
このように、今後もAIブームの高まりやデータの増大にともなってサーバーやストレージの需要も高まっていくなか、SMCはマーケットシェアを大きくしていくことで成長していく可能性が高い。
今後、ますます高まる環境負荷への関心のなか、SMCがどこまでグリーンコンピューティングでリーダーシップを発揮できるか。注目していきたい。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年5月9日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による