米国株が最高値を更新する好調さを見せる中で、EV(電気自動車)の先駆者テスラの株価が、昨年夏から3割も下げる苦戦を続けています。これはEVが抱える問題を示唆している可能性があります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年2月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
中国が仕掛ける価格競争
テスラの苦戦をもたらしたきっかけは、中国のEVメーカー「BYD」の低価格戦略です。
中国の雇用対策とも相まって、中国のEV生産が高まり、早くも過剰供給との声すら上がるようになりました。インドでの低価格EVの供給とともに、低価格のEV供給の増加が、テスラの価格戦略にも影響するようになりました。
中國では国策としての住宅供給策が、1億戸以上の供給過多をもたらし、住宅市場の需給バランスを壊してしまいましたが、EV生産もその二の舞となりつつあります。
中国内でのEV過剰は、低価格EVの海外への輸出を通じて、EV価格の低下圧力となります。
車と家電、価格戦略の違い
EV化は、自動車を「輸送用機械」から「電気機械」「家電製品」へのシフトをもたらします。
この両者の間には、価格戦略で大きな違いがあります。これまでの自動車業界の価格戦略は「値上げの歴史」を持っていました。日本でも初代カローラや初代カムリに比べて、今日のカローラ、カムリの価格は初代の約2倍になっています。
そして高級車でもクラウンからレクサスに進むにつれて、ハイエンドのレクサスは1台2,000万円もします。初代クラウンのハイエンドモデルの5倍以上になります。
このように、自動車は技術革新の中でも「値上げの歴史」を辿ってきました。
これに対して、電気機械、家電は技術革新の下で、ひたすら「値下げの歴史」を展開してきました。カラーテレビが典型ですが、他の電気製品も大方、時がたつと販売価格が引き下げられています。液晶の薄型テレビは出現当初、40インチでも1台60万円以上しましたが、今日では50インチでも10万円強で手に入ります。
自動車が「輸送機械」から「電気機械」化すると、この価格戦略が変わる可能性があり、走行機能よりも走る音響製品、走るコンピューターの機能が前面に出ると、より電気製品化します。
中国EV、テスラの動きは、早くもこれを暗示している可能性があります。