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テスラの苦戦が示唆するEVの命運。自動車「家電化」で低価格競争へ突入、エンジン回帰は近い?=斎藤満

米国が日独に代わって主導権を取り戻すはずが……

郊外のゴルフ場にベンツやレクサスで向かっても、ゴルフ場では電動カートに乗ります。この電動カート、ゴルフ場のカート道だけを走るものなので、中国製でもインド製でも構いません。簡単に乗れて移動できればいいので、ポルシェやベンツである必要はありません。

そして、中国やインドが電動カートにボディをつけ、窓やドアを付けてゴルフ場の外にも走ってゆけるような「車」に改良しました。動力はガソリンエンジン車の内燃機関と異なり、モーターで走るので、特段の技術も必要なく、部品も少なくて済みます。それだけに、動力に専門知識のない街の電気屋さんでも車が作れるようになりました。

いわば電動カートを改良して、ゴルフ場の外でも移動手段として使える電気機械が完成しました。その命綱はエンジン性能ではなく、モーターを長時間回せるだけの電池となり、その供給に必要な原材料リチウムなどの確保に適した中国がアドバンテージを得ました。労働コストも欧米より安い分、競争力があります。

自動車の形をした電動カートなら、走行性能としての先端技術は不要で、どこでも誰でも作れます。ベンツやレクサスである必要もありません。

EVを仕掛けた米国の勢力は、内燃機関の技術で日本やドイツにかなわなくなったため、母屋を奪われました。そこで温暖化防止、温室効果ガスの排出抑制を前面に出して化石燃料を使わないEVへのシフトを進めました。

米国が日独に代わって主導権を取り戻すはずが、テスラがまさかの中国やインド勢に押される展開となり、予定外の形となりました。

またEV普及の初期段階でありながら、すでに電池の原材料であるリチウム鉱山の争奪戦が中国とオーストラリアの間で展開されています。EVが世界に普及する時代になったら、リチウム電池の供給は間に合うのか、大いなる問題提起となりました。

長距離安定走行に不向き

しかも、電池の制約から、走行距離には限界があります。

ガソリンスタンドのように、必要ならどこでも補充できる体制にはなっていません。家庭で充電しても、外でバッテリー切れとなれば安心して乗れません。特に国土の広い中国や米国の場合、荒野で立ち往生すれば命にかかわります。

電動カートのように近場で乗り回すには良いのですが、500キロを超える長距離走行には向いていません。米国や中国、オーストラリア、ロシアなど広大な国土を持ち、長距離移動を要すところでは、EVは不向きで、どうしても鉄道か飛行機に頼らざるを得なくなります。個人はよいとしても、トラック輸送はEVでは無理が生じます。

またモーターや電池の寿命も問題になります。バッテリーは交換すればよいかもしれませんが、モーターが焼け切れてしまうと、簡単に交換はできません。新車に買い替えられる程度に車価が安くならないと、短い寿命の問題は乗り越えられません。

寿命の問題を抱えたままでは中古市場も育たない可能性があります。

Next: 温暖化防止効果にも限界。EVの時代はすぐに終わる?

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