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すんなり上がるわけがない。英国民投票で最初に試される東京市場=E氏

EU離脱の是非を問う英国民投票の大勢が判明するのは24日10時半~12時。この時開いている唯一の先進国市場は日本であり、為替と株が激しく売り買いされる可能性が高でしょう。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

24日は大荒れ必至、もし離脱ならアベノミクス以降の最安値は確実

Brexitの「震源地」以上に日本株が売られた理由

先週の世界のマーケットは、英国のEUからの離脱リスクの高まりからリスクオフの流れが強まり、ほとんどの市場で下落しました。

どの市場も下げたのですが、比較的新興国は軽微で、先進国の株安が顕著でした。それはFOMCで米国利上げがさらに遅れそうという見方が広がったことからドルが売られたことで、代替資産である原油資源が比較的堅調だったためです。

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利上げの後退はドル債務が過剰な新興国の危機が遅れることを意味しますし、新興国の主要産品であるコモディティ市況の持ち直しもポジティブだからです。

一方、先進国市場は、欧州圏はBrexitリスクが直撃して下落しましたが、日本はそれ以上に売られ、世界の主要国指数で最悪のパフォーマンスとなる-6.03%の下落となりました。

日本株がBrexitの震源地である欧州以上に売られた理由は、リスクオフ時は円が上がりやすいためです。円と同様に安全資産的な動きをするユーロは、今回はBrexitリスクもあり弱含み、ドルは米国の利上げが遅延するとの観測が高まったことで下落したので、円が独歩で上がってしまったためです。

外国人にとって「売りやすい」日本市場

サミットで介入への理解が得られなかったことを契機とする円高によって3週続けての下落となたことで、日本株は3ヶ月で見ても1年で見ても、先進国で独歩に悪いパフォーマンスになってしまいました。

昨年半ば以降、外国人がアベノミクスに見切りをつけ始めていることから日本株は先進国独歩で売られやすいと書き続けていた通りの展開です。

直近ではBrexitリスクで欧州株も下落していますが、世界のリスクオフトリガーである中国に最も近い先進国であることに加え、金融緩和が打ち止め気味に取られだしていることもあり、(リスクオフになった場合は円高でさらに株が下がりやすいということもあって)非常に売りやすい市場として認識されています。

中国リスクが横たわっていることとアベノミクスに対する期待で史上最高に買い越していた外人投資家がアベノミクスは失敗したと判断するようになったことは、いずれも構造要因なので、日本株は当面は売られやすい地合いが続きます。

一方の新興国株式市場は、原油高によるところが大きい資源価格の戻りもあり堅調に推移していましたが、先々週から下落基調に転じ始めています。

これは、ドル安でコモディティが相対的に堅調とは言っても下落しているために連れ安している側面が大きく、新興国固有の危機はドル安で遠のいていると言えます。昨年8月のように中国が大幅に元を切り下げた場合は新興国危機が一気に到来すると思われますが、そうでない場合、当面は先進国主導のリスクオフが飛び火しない限り、新興国は比較的落ち着いた展開になるでしょう。

週末にかけてボラタイルな展開に

世界をリスクオフに陥れたBrexit問題ですが、先週16日に残留派議員が離脱派の極右に殺されたことで流れが変わりました。

売り込まれていたポンドは急反転し、議員の死後の世論調査では残留派が過半数となっています。

といっても楽観に変わったわけではありません。はっきりと離脱派優位だった状況が不透明になっただけなので、23日の国民投票までは積極的な買い手は現れないでしょう。

不透明ということは、過度ではないものの依然としてリスクオフであることには変わりがないので、今週も円高が進む局面がありそうです。その場合、日本株は再度安値をトライしに行くでしょう。

もちろん、残留確定となった場合は、世界のマーケットは一時的にリスクオンに転じる可能性が高いので、この水準から過度な弱気ポジションを続けるのは得策ではありませんが、依然として離脱の可能性も残っている以上、23日以降は上下に激しく動く可能性を見据えたポジションを作る必要がありそうです。

つまり、今週は最終日の24日に上か下かは不明ですが、激しく大きな変動があるのです。

Next: 英国民投票で最初に試される東京市場、急騰も安値更新もあり得る



大勢は日本時間24日10時半~12時頃に判明か

英国の国民投票は23日から日本時間の24日早朝まで行われますが、日本時間の24日10時半~12時には大半の選挙区で結果が判明すると見られています。

つまり、結果が判明したときに開いている唯一の先進国市場が日本なので、為替と株が激しく売り買いされる可能性が高いのです。

従って、今週はショートポジションを少しずつ回収する一方で、金曜に備えたポジション作りが必要になってきます。

もし離脱となれば、アベノミクス以降の最安値は確実ですし、残留となったらそれなりに上がるでしょう。

しかし、世界にはBrexit以外のリスクが山積している以上、上がった場合でもそれはアヤでしかないと思われますので、吹き値でのショート構築も良いかもしれません。

今週の注目材料

今週はEU残留の是非を問う英国の国民投票のみが重要といって差し支えないでしょう。

6/21(火)
ドラギECB総裁発言
イエレンFRB議長上院議会証言

6/22(水)
イエレンFRB議長下院議会証言

6/23(木)
英国国民投票開始

6/24(金)
英国国民投票結果判明(日本時間10~12時)
米新築住宅販売件数

ユーロの存亡を占う歴史的なイベントと言っていい英国の国民投票は幸か不幸か、日本株取引時間の真っ最中に結果が判明します。なので、コックス議員死去後から織り込まれ始めているとはいえ残留が決定したら急騰するでしょうし、離脱が決定したらアベノミクス相場開始以降で最大の下げになるでしょう。

昨年のギリシャ離脱と英国では格が違うので、英国が離脱する場合は、パニックに近い下げが続く可能性もあります。

Next: Brexitだけではない、イエレンFRBが追加利上げできない理由



FRBの金融政策~Brexitだけではない、イエレンが追加利上げできない理由

初回利上げが決まったので、FRB政策の今後のポイントは利上げ回数と利上げ幅、そして債券回収時期です。本格的なマネー逆流はFRBの保有債券売却(市中からドル札を吸い上げる)でB/Sを削減し始める2017年以降ですが、利上げをするだけで対外ドル資産が米国に還流するので、米国以外の地域でのドルの過剰流動性は減少します。

リーマンショック以降長く続いた緩和政策を大きなショックなく引き締めに転じるために、FRBは文言を少しずつ変更し慎重に利上げに向けた地ならしを進めてきました。

ステップ1(~2014年11月)「相当な期間ゼロ金利を維持」
ステップ2(2014年12月~)「相当な期間」と「辛抱強くなれる」の併用
ステップ3(2015年1月~)「辛抱強くなれる」
ステップ4(2014年3月)「辛抱強くなれる」を削除
ステップ5 利上げが適切かどうかについて毎回議論(2015年5月から)
ステップ6 2015年12月16日のFOMCで利上げ決定
ステップ7 2回目の利上げ→2016年3月以降毎回議論

昨年12月FOMCで決定された初回利上げ幅は25bpsと想定通りでしたので、今は利上げペースと利上げ幅、今年末時点での金利水準がマーケットの期待値とどれだけ乖離しているかが重要になってきます。

その理由は、FRBは3ヶ月に一度FOMCメンバーの金利見通し(ドットチャート)を公表するのですが、マーケットは当事者の見通しを全く気にしないで暴走するためです。過去数年はFOMCの見方がハト派的に修正されていったので楽観的なマーケット参加者の見通しが正しかったですが、昨年12月は年内利上げを見込むFOMCメンバーに対しマーケットは直前まで来年3月以降の利上げを織り込んでいたために今年初頭の混乱が生じました。

昨年はハト派主体だったFOMCメンバーは、今年から一気にタカ派色が強まっています。

このため、利上げ後初となるドットチャートが出る3月FOMCはタカ派が増えたこともあり注目されていましたが、3月FOMCに続き先週15日のFOMCで発表された声明、経済見通し、ドットチャートともにハト派が加速した内容になりました。

今年末のFFレート見通しの最頻値は3月と同じ0.875%(12月の最頻値は1.375%)でしたが、メンバーの平均値は12月(1.287%)、3月(1.022%)、6月(0.831%)と大きく低下しています。

メンバーが予想する今年の利上げ回数は2回で変わっていないのですが、インフレ見通しを引き下げたことで、平均値が大きく下がってしまいました。

これは全員が弱気になったというより、5名程度が超弱気になったのに引きずられているためと思われます。

これを見ると分かるように、今年末のFFレート見通しで1%超えを見るメンバーが1名に減った一方で、0.6台という「1回しか利上げを想定しない見方」のメンバーが1名から5名になったことが原因です。最頻値の0.9%前後が利上げ回数2回の世界なので、6名のメンバーが「今年の利上げは1回で良い」と考えているということです。

今年3月からのマーケットは比較的落ち着いていましたし、昨年利上げを躊躇する理由にしていた原油安も歯止めがかかり、前年同期でプラス寄与をするまでになったというのに、たった3ヶ月で何か弱気になるようなことでもあったのでしょうか?

非常に重要なコメント

今回弱気になった理由で考えられるのは、Brexitの不透明感今月上旬の弱い雇用統計の2つしか出ていません。しかし、もしBrexitがリスクなら、以下のような表現をするでしょうか?

今後の金利見通しについては「緩やかな」ペースで上昇する可能性が高いとの見方をあらためて示しながらも、追加利上げの時期として次回7月やその他の特定時期には言及しなかった。イエレン議長も会見で、利上げ時期をめぐるガイダンスの提示を拒否した。

議長は「今後2会合と言えなくもないが、ためらわれる。たとえばの話だが、完全に順調なコースを歩んでいると確信させるようなデータが7月までに表れるようになるのは不可能ではない」と話した。

出典:FOMC:金利を維持、年内1回の利上げ予想は当局者6人に増加 – Bloomberg

このコメントは非常に重要です。というのも、今回利上げをしなかった理由にBrexitを挙げているのなら、7月の利上げの可能性をもっと主張して良いはずなのに、それすら言っていないからです。

Next: 米利上げ見通しは明らかに後退、「全くやる気がなさそうだ」



米利上げ見通しは明らかに後退、「全くやる気がなさそうだ」

イエレンFRB議長は、先月下旬の講演で「向こう数カ月の利上げが適切…」と発言しているのに、今回「利上げを巡るガイダンスの提示を拒否した」というのは、利上げ見通しは明らかに後退したと言って良いでしょう。

なぜならば、このところFOMCメンバーは、不意打ちを避けるために、利上げ確度が上がった場合はマーケットに織り込ませるように事前に発言をすると言ってきたからです。なので、5月以降多くの要人たちが6月利上げを支持する発言をしてきたので、マーケットは6月か7月の利上げを織り込み始めていたのです。

なのに、今回のFOMC声明と会見では、7月利上げをするのなら絶対にするはずの「不意打ちを避けるための準備」が全くと言っていいほどなかったのです。

しかも、マーケットが最近織り込み始めていた9月利上げすら考えていなさそうなのです。先のコメントの2段落目を見ると分かるように、今後2会合での利上げは躊躇われるという言い方をしているので、可能性はかなり低いです。もし、現時点で9月利上げを少しでも考えているのなら、「向こう数カ月での利上げが適切となる…」という言い方をするはずだからです。

とどめは、最後の文章です。7月利上げをするにあたって乗り越えないといけない壁がいつの間にか高くなってしまっています。少なくとも、利上げを議論し始めた昨年夏以降で、ここまで理想的な経済指標を無理強いするような表現をしたことはありません。

私が知る限り、FOMCメンバーが「完全に順調なコースを歩んでいると確信させるようなデータ」というのがどのくらいのものなのか、一度も示していない以上、「やる気がないので、絶対出てこないような激しく強い指標をイメージして返答した」としか思えないのです。

つまり、今回のFOMCから感じるのは、「やるやると言っていたけど、全くやる気がなさそうだ」というのがばれてしまったということです。

FOMCメンバーへの信頼度が低下

前から弱気ならともかく、6月利上げを主張するメンバーが過半したのに、なぜここまで劇的に変わってしまうのか、私には理解できませんし、それは多くの市場関係者も同様です。なので、今回のFOMCで、FOMCメンバーたちに対する信頼度がかなり低下したことは間違いありません。

これは、マーケットに対して著しくネガティブな結果を招くでしょう。たとえば、彼らが本気で利上げをしようと考えて発言を増やしても誰も信じなくなるでしょうし、マーケット急落時のハト派的なリップサービスも意味を持たなくなります。今年1月のリスクオフ時は、利上げしたばかりだったのに、FOMCメンバーが相次いでハト派的メッセージを送ったことで、過度なリスクオフが解消された恩は記憶に新しいでしょう(私の記事でも再三、マーケットを危惧しているのは彼らも同じなので、どこまでも弱気になるのは危険だと書いたと思います)。

しかし、今回こういう発言をしたら、マーケット急落時にハト派発言をしても効果がなくなってしまいます。なにしろ、どうせ数年利上げしないんだろ?と思われてしまったのですから。

昨日の記事で紹介したブラード総裁はつい1か月前は6月利上げを主張していたのに、先週は2年半で1回の利上げで十分と発言していますし、同氏は先の経済見通しすら提供しなくなってしまいました。

いろいろ理屈をこねましたが、マーケット関係者は「ずっと外している見通しなので出せないのだろうが、見通しを出せないのなら、利上げの判断もできないではないか?何か金融政策の変更ができるのか?」と感じてしまいました。

この結果、7月利上げ見通しはもちろんのこと、年内の利上げ確度は4割程度まで一気に低下してしまったのです。

Next: FRBの優柔不断は米大統領選を見据えた演技か?それとも――



FRBの優柔不断は米大統領選を見据えた演技か?それとも――

イエレンFRB議長があんなことを言うものだから、9月確度も急落し、上がったのは12月だけです。といっても、FF金利先物市場は既に織り込んでいたので、7月限は無反応でした。このところ全く動いていません。

つまり、Brexitがなくても、FOMCはどうせ利上げなんてできないだろうとタカをくくっているのです。

一方、9月限は急上昇しているので、9月利上げの確度が急低下したことを示しています。

9月限は40bpsなので、現行25bpsとほとんど変わらないので、利上げを見ている人は少数派です。これは12月限も同様です。

年末のFF金利先物見込みが42bpsなのです。FOMCメンバーのドットチャートでは、最頻値0.9%程度、最も弱気なメンバー6名の予測が0.6%程度なので、要するに「マーケットはFOMCメンバーのいうことは全く信じていないで、今年は利上げできないだろう」と見ているのです。

経済が弱いからできないのではなく、優柔不断だからできないのだと思っているのです(経済見通しをほとんど変えていないし、今回海外金融情勢がリスクとは言っていません)。

このFOMCの優柔不断さの結果、先の金利先物まで利回りは急低下してしまいました。

来年末で67bpsなので、FOMCメンバーで最も弱気な6名の今年末の見通しです。つまり、マーケットは「今年か来年か知らないけど、FOMCは来年末までに利上げ1回くらいしかできやしないだろう」という見方になってしまったのです。

2017年12月限のチャートを再度見てほしいですが、6月上旬の2017年12月のFF金利先物利回りは1%程度だったのが、たった3週間で67bpsまで低下したということは、来年末までの利上げ回数が3回から1回になってしまったということです。

この長期にわたる金利低下は、アセットローテーションに大きな影響を及ぼします。

たった数カ月程度の利上遅延なら、「そうは言ってももうすぐ利上げだったら流動性が低いアセットに入れても回収が大変だ」となるので、ジャンク債や不動産、新興国から流出し始めていた投資が戻ることはありませんが、数年も遅延するのだったら「再度新興国やジャンク債に投資するか」となってしまうからです。

このように、今回のFOMCは、事前の発言が全く意味をなさないこと、自分たちの発言のせいでマーケットが軟調になったことで逃げ腰になるという非常に情けない面を強調してしまいました。

このため、今後米国FRBによる要人発言の重要度はかなり低下するでしょう。なぜならば、ブラード総裁が急に7月利上げが望ましいと発言しても信じられますか?「お前の発言でマーケットが下がったら、それにびびってFOMCでは利上げ見送りにするんだろ?どうせ…」と思われるのが関の山でしょう。

正直言って、今回のFOMC声明と会見は激しくショックを受けました。いまだかつて、FOMCメンバーをここまで軽蔑したことはありません。

長きにわたる膨大な緩和で感覚がマヒして、正常な経済循環である
景気過熱→利上げ→金利上昇で株価調整→景気が冷える
というサイクルができなくなってしまったのでしょうか?毎年上がり続ける見通ししか作れないのなら共産主義経済国家の予算と同じレベルです。

もし、彼らがBrexitだけでなく、決して公に発言できないけど、2人の大統領候補のどちらかになるかで米国経済が大きく変わりそうなのが怖いという理由で、今回恥を忍んでバカ者を演じたとすればそれは立派ですし、愚鈍のフリをしてドル安誘導を続けている場合も非常に優秀です。

そして、その可能性は決して低くない(普通の米国人は、Brexitよりトランプが大統領になる方がはるかに怖いと思います。しかし、そんなこと口が裂けても言えるわけないじゃないですか)ですが、それは誰にも分かりません。

口だけおばさん、口だけおじさん

分からない以上は、当面FOMCの影響度は低下して、「口だけおばさん口だけおじさんがワーワー騒いでいるけど、ヘタレなので、FOMCでは何もできない」と思われてしまいますし、実際出てくるアクションもそうなってしまうのでしょう。

以上を踏まえ、私の利上げに対する見方を大きく変えることにしました。

変えた理由は、彼らの判断力では、今年山積しているリスクに対しゴーサインを出すことができないだろうという見方からです。

Brexitがなくても7月利上げがないだろうと判断した理由は、先のコメントがかなり強い指標じゃないと利上げしないと言い切っているためです。この期に及んでハードルを引き上げたということは、利上げしたくないのです。

今、Brexitが怖いのなら、7月FOMCは大統領候補の党大会も怖いでしょう。

7月18~21日:共和党党大会
7月25~28日:民主党党大会

そして、大統領選挙は11月ですから、9月FOMCも10月FOMCも様子見する可能性が出てきましたし、結果次第では12月FOMCも何もできないでしょう。

つまり、Brexitが不安と言っている限り、利上げなんてできなくなってしまうのです。

上の見通しで年末に利上げがあるかないかの差は、今週のBrexitの結果がどうなるかです。

FOMCがどちらの候補に懸念を持っているか分かりませんが(常識的には分かりますが、敢えて分からないということにしましょう)、大統領が懸念された方になった場合、FOMCは労働需給が強くても12月利上げはできないでしょう。

結局、12月利上げがあると考えられるのは、Brexitじゃなく(EU残留)、雇用統計の回復が見えて、大統領がまっとうな人のときだけなのです。

こう考えると、PCEや小売売上高、CPI、雇用統計などの米国統計で利上げ確度が高まったときは、(結果的に見送る高い以上)アヤである可能性が高いようです。

以上より、今週以降、要人発言の影響度は低下します。今週議会証言がありますが、あまり重要視されないでしょう。次に要人発言が注目されるのは、今回会合でなぜ急に変貌したか、FOMCは本当は何を恐れて弱腰になっているかということをきちんと説明してくれる要人の発言が出た場合です。

Next: 欧州ECB「ユーロ瓦解リスク」どう対応/日銀は「ノーアクション」



欧州ECBの金融政策~「ユーロ瓦解リスク」にどう対応

今年1月のECB理事会後の会見でドラギ総裁が宣言したとおりに、3月上旬のECB理事会では追加緩和が決定されました。しかも、マーケットが期待していた国債買い入れ額増額がメインだったのでほぼ満額の回答です。

しかし、3月理事会合後の定例会見上でドラギECB総裁は利上げ打ち止めとも取れる発言をしてしまったことで、マーケットには「ECBの追加緩和打ち止め観測」が急速に台頭していましたが、実際、今月上旬に開催されたECB理事会は予想通りノーアクションでした。

6月ECBでは今年度インフレ率やGDP見通しを僅かですが上方修正していますので、当面の追加緩和はなさそうです。実際、先週出てきた要人発言も当面の追加緩和に消極的です。

これ以上マイナス金利を拡大させることは、やはりリスクが高いと考えているようです。とすると、残す手段は国債買い入れ増額しかありませんが、流動性の問題で買う国債がドイツ国債に偏重しているなど、日銀と同じジレンマを抱えています。なので、当面の追加緩和はないと思われます。

今、ECBの最大関心事は英国のEU離脱です。離脱で起きるショックが大きい場合は金融流動性供給などの緊急対策を施すでしょうが、多少の調整で済むのならば何もしない可能性が高いです。

英国が離脱した場合、スペイン等でも同様の動きが出ているため、「ユーロ瓦解リスク」が出てくるでしょうからユーロは暴落します。

先週木曜のコックス議員殺害以降、ユーロは反発していますが、23日の国民投票までは予断を許さないと思います。

従って、今週のECB絡みで重要になってくるのはBrexitになるかどうかです。離脱が決定的になったら、マーケットは暴落に近い動きになるでしょうが、ECBの対策が早い場合は、直ぐに戻す可能性もあるので、離脱になったからといって超弱気になるのは危険です。

日銀の金融政策~ノーアクション

散々追加緩和に消極的な発言を繰り返していた黒田氏が1月日銀政策決定会合で騙まし討ち的なマイナス金利を導入したせいで、このところ日銀や黒田日銀総裁にネガティブな見方が急速に増えてきました。

3月下旬以降の円高と熊本地震で政策発動期待は高まりましたが、日銀に対する期待感はなかなか出なかったことでも明らかです。しかし、4月日銀政策決定会合の1週間前にBloombergが「貸し出しへのマイナス金利導入を検討」という報道をしたことで、マーケットは想定外のアクションを避けるためにショートスクイズや期待が一気に高まったのです。

金を借りる人にマイナス金利という持参金を付けるという前代未聞のアイデアに驚愕したため、日銀政策決定会合前の1週間は日本株/円ともに考えられる限りのポジティブな期待感で相場形成されたのですが、私が「記事どおりでも材料出つくし、しょぼいアクションで失望を誘えば急落、何もなければ悲劇的な結末」と危惧したとおりの結果になってしまいました。

結局、黒田日銀総裁を始めとする委員は、Bloomberg報道以前の見方どおりの行動を取ったので、責められる筋合いは全くありません。悪いのはガセネタを流したBloombergと、勝手に期待したマーケットなのです。

しかし、肩透かしの結果、再度黒田氏に対する不信感が高まったのは事実です。このため、再び日銀が何を言ってもマーケットは信用しないし頼りにしなくなったと考えていましたが、先週の日銀政策決定会合後の反応を見ると、多少は期待していた可能性が高いです。

弱い雇用統計でドルが急落したのに、円がすぐに反落したり、先週前半の円高ペースが他通貨と同じ程度で緩かったわけですが、恐らく、緩和を期待していなかったらもっと急ピッチの円高が進行していた可能性が高いです。

先日の記事で書いたように、今回の結果が通常より早く出たのは、「ノーアクション」以外の選択肢がなかったからであり、これだけ円高が進展しているのに何も手を出せなかったのは、積極的な財政出動や金融緩和が通貨安政策と取られ米国から圧力が掛かっている可能性よりは、三菱がプライマリーディーラーを辞退することで、現行の日銀の緩和策が民間銀行の離反で遂行できなくなるリスクを懸念してのものだと思われます。

マイナス金利も、貸出へのマイナス金利適用も、民間銀行にとっては何のメリットもない以上、何も新味を出すことができないのです。

かといって、国債買い入れ増額は通貨安政策と取られる可能性が高いし、日銀が買いの過半を占める異常事態になっているので、今後は緊急時の持ち駒として温存したいでしょう。

そう考えると、マーケットが年初の下げのような暴落でもしない限り、日銀の次の手は出てこないと思われます。

以上から、今週の日米欧中央銀行絡みで重要なのは英国離脱決定を問う国民投票と、離脱が決まった場合のECBのアクションです。FOMCの要人発言は従来ほど気にしなくていいでしょうし、日銀もまた同様です。

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元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年6月20日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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