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英国民投票という終わりの始まり~離脱でも残留でも元には戻らないEU=真殿達

英国民投票は仮にEU残留の場合も僅差は間違いない。激しく罵りあい将来ある若い議員が死亡する事態にまで発展したのだから、国民のEUへの目はこれまでとは全く異なってくる。(『投資の視点』真殿達)

筆者プロフィール:真殿達(まどのさとる)
国際協力銀行プロジェクトファイナンス部長、審議役等を経て麗澤大学教授。米国のベクテル社、ディロン・リードのコンサルタント、東京電力顧問。国際コンサルティンググループ(株アイジック)を主催。資源開発を中心に海外プロジェクト問題への造詣深い。海外投資、国際政治、カントリーリスク問題に詳しい。

英国は序章。ユニラテラリズム(単独行動主義)に向かうEU諸国

いまだ離脱派の勢い衰えず

EU脱退を問うイギリスの国民投票を23日に控え、毎日の様に発表される各種世論調査では、「脱退」が「残留」を上回りそうな勢いである。昨年の英国議会選挙では、ハング・パーラメント(保守党も労働党とも過半数を取れない)との予想のところ、結果は保守党の圧勝だった。所詮予想に過ぎないにしても、過去の年齢別棄権率を加味するなど相当精度を上げた予想でも、「脱退」が勝ちそうな勢いである。

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もとはといえば、キャメロン首相がこうした深刻な事態に陥ることなど毛頭考えず、議会選挙を意識して軽々しく国民投票と言ったばかりに世界が震え上がるような事態を招いたのだ。当時は移民問題がこんなに大きな政治案件になるとは誰も思っていなかった。

変わる世界

仮に「残留」と出ても、僅差は間違いないところなので、事前事後の世界は異なる。激しくののしり合ったばかりか、将来のある若い議員が襲われて死亡するような事態にまで発展したのだから、国民のEUへの目はこれまでとは全く異なる。

イギリス以外の国でも脱退を気軽に議論するようになるであろうし、国民投票に訴えようとする傾向は一段と強まる。EUの官僚機構には国民投票で立ち向かうのが一番なのだ、との学習効果は絶大だ。EUは国民国家の意向を最大限満たしながら合理的解決を図る能力があるのかどうか、常に問われ続けるシステムに変わる。

離脱なら金融市場の混乱は必至

「脱退」と出れば、いくら脱退派がノルウェーとスイスと同じく「EUにバカな分担金(毎年120億ポンド)を払わないで済むし、EUが60か国と結んでいる経済協定はEUの欄にイギリスと書き直すだけだよ」と言っていても、金融市場の混乱は必至であり、その他の脱退プロセスを巡るすったもんだは避けられない。

イギリスが「対EU貿易で大幅入超なのだから、困るのはEUの方で、脱退から2年かけてしっかり対応を考えればよい」と言ったところで、輸入品に関税が課されることになることは変わらない。イギリスに群がる外資は心穏やかではない。「残留」を望むスコットランドは結果次第で再び独立に舵(かじ)を切るかもしれないし、北アイルランドはアイルランドとの国境管理を迫られることになる。

Next: EUの終わりの始まり。英離脱でも残留でも単独行動主義に向かう加盟国



英国だけではない。単独行動主義に向かうEU加盟国

一方、イギリスの脱退作業が大きな問題を回避しながら進むなら、追随する国が現れる。既にチェコのようにEXITを国民投票にかけようとして国会で僅差で否決された例もある。

少なくとも、どの国も従来以上にEU内で非妥協的となり、財政規律など基本政策を巡る加盟国間の対立は先鋭化する。EUという仕組みの正当性やあり方が一段と厳しく問われ、一歩間違えると崩壊に至る可能性を抱えたシステムとなる。

振り返れば、EUの加盟国は何でも満場一致で協調行動をとってきたわけではない。本当は、国内の不満を抑えて妥協を積み重ねてきたのである。BREXIT騒動をきっかけに、たまり続けた不満のマグマが次々と爆発するようになって初めて気づかされることになるのは、「EU諸国の思潮は、随分前から問題次第では、国際協調よりも孤立を恐れず自国の主張に拘泥する“ユニラテラリズム(単独行動主義)”に向かっていたこと」であろう。その時には、キャメロン首相は「パンドラの箱を開けただけだった」と言われることになる。

内向きの国、日本は生き残れるか

ユニラテラリズムの始まりはアメリカである。口では何でも言うが自国の損になるような行動は一切取らない。NATOの盟主でありながら兵員派遣に極めて慎重であり、一方でITを駆使したサイバー攻撃には積極的である。ステルス的にIT技術を駆使して国際問題を主導する。中国やロシアの非妥協的な姿は、アメリカのユニラテラリズムへの対応とみることができる。EU主要国の立ち振る舞いもそうかもしれない。

BREXIT問題を生んだ国民感情とEU拡大の蹉跌(さてつ)の背景には「ユニラテラリズム」の進展があり、それを第4次産業革命が支えているという構図である。

こうした国際環境にもかかわらず、伊勢志摩サミットで消費税増税延期のお墨付きを得ようと狂奔(きょうほん)したり、政治資金を公私混同した首都の知事を追い詰めたりと、政治指導者の「せこい話」が続くと、つくづく日本は国際問題に興味がない内向きの国だと思う。国内でしか通用しない論理を世界に持ち出そうとするのが日本のユニラテラリズムとでも言うのだろうか。そんな日本とは無関係に、世界は新たな混乱の時代に突入しつつある。

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『投資の視点』(2016年6月22日号)より

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