マネーボイス メニュー

GongTo | Featureflash Photo Agency / Shutterstock.com

孫正義とジョブズ~ソフトバンク“次期社長”の電撃退任が意味するもの=栫井駿介

ソフトバンクのニケシュ・アローラ副社長が突然退任することになり、市場を驚かせました。孫社長が肝いりで連れてきたエリートの退任劇は、これからのソフトバンクにとってどのような意味を持つのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

カリスマ経営者の後継者問題が企業価値と株価に与える影響は?

孫社長「まだ辞めたくない」

退任するニケシュ・アローラ副社長はインド系アメリカ人であり、Googleの副社長として活躍していましたが、孫社長が口説き落としてソフトバンクに連れてきました。孫社長の後継者に内定していたとも言われており、今回の退任は晴天の霹靂です。

【関連】赤字発覚のLINEが「上場ゴール」ではない合理的な理由=栫井駿介

表向きは、孫社長が「まだ辞めたくなくなった」とまるで子供のような言いぶりをしています。確かに、孫社長はまだ58歳であり、引退するには早すぎる年齢です。

しかし、これを額面通りに取る人はそういないでしょう。アローラ氏の退任が発表される前日には、匿名の投資家グループによるアローラ氏の副社長としての資質に問題があると訴える書簡をプレスリリースで否定しています。退任の発表がその翌日ですから、調べてみたら実は問題があったと考えてもおかしくありません。

アローラ氏の退任を受けて、ソフトバンクの株価は上昇しました。アローラ氏に関する不安要素が退任によって払拭されたことが理由の一つと考えられます。

ソフトバンクグループ<9984> 日足(SBI証券提供)

ジョブズの退任後、アップルの株価は上昇

ソフトバンクのようなカリスマ的経営者がいる会社にとって、後継者は最大の課題です。最近ではセブン&アイの鈴木会長やスズキの鈴木修会長の退任が話題になりました。同じような問題を抱えるのが、ソフトバンクの社外取締役も務めるファーストリテイリングの柳井会長や日本電産の永守社長です。

後継者問題に唯一の正解はありませんが、確実に言えることはカリスマ経営者と同じような人を連れてくるのは難しいということです。仮に優秀な人材を連れてきたとしても、これまでと同じやり方というわけにはいかず、経営方針を変更せざるを得ないでしょう。これが難しいことから、「集団指導体制」により変化を緩和しようとする会社も少なくありません。

カリスマ経営者の辞任で思い出されるのが、アップルスティーブ・ジョブズです。ジョブズは若くして亡くなり交代を余儀なくされましたが、株価は交代後に大きく上昇しています。

※ジョブズのCEO退任は2011年8月、2012年3月に配当の再開を発表/アップル<AAPL> 月足(SBI証券提供)

ジョブズが稀代の経営者であることは疑う余地がありません。それなのに、なぜいなくなってから株価が上昇したのでしょうか。

Next: 「カリスマ経営者」が抱えるリスク。バトンタッチで何が起こる?



「変人の会社」から「普通の会社」へ

一つの仮説として考えられるのが、カリスマ経営者から普通の経営者に交代することによって、投資家から見て「普通の会社」になることです。

カリスマ経営者は良くも悪くも常人とは違った考え方をするので、動きを予測することが難しくなります。予測できないということは「リスクが高い」ということです。もちろん、常人と違うからこそ飛び抜けた成果を上げられるのですが、人は根本的に「リスク回避的」なため、敬遠してしまう投資家が多いのです。

株主還元の考え方も独特です。自信にあふれる経営者は、株主還元にお金を回すよりも、そのお金を拡大投資に充てた方が有利だと考えています。実際に、ソフトバンクの配当性向は10%と、平均を大きく下回ります。

アップルのケースでは、ジョブズは過去の苦い経験から、できるだけ現金を手元に置いていたいと考えていたと言われています。ジョブズの死後アップルは配当を再開し、株価の上昇に大きく貢献しました

普通の経営者に交代すると、経営のリスクが下がり、株主還元が充実する可能性があります。これは会社が「開拓期」から「収穫期」になると言っていいでしょう。そして、多くの投資家にとっては収穫期の方が魅力的に映るのです。

ソフトバンクグループ<9984> 月足(SBI証券提供)

ソフトバンクはアリババやスーパーセル、ガンホーの売却により、1カ月で2兆円もの現金を手にしました。これは、アローラ氏主導によるものだと言われ、これまでの成果の一部を「収穫」したと言えます。このままアローラ氏が後を継いでいたら、本格的に収穫期に移っていたかもしれません。

孫社長の続投によりソフトバンクの収穫期は当分先になりそうですが、その分まだまだ市場を賑わせてくれそうです。

つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

【関連】3つに分けると見えてくる!孫正義率いるソフトバンクの爆発的な可能性=栫井駿介

【関連】英国EU離脱がバリュー株投資家にとって千載一遇のチャンスとなる理由=栫井駿介

【関連】電力自由化にも新規参入、株主総会から考えるソフトバンクの未来=平林亮子

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2016年6月24日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問

[無料 ほぼ 平日刊]
【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。