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手詰まり日銀「緊急対策会議」のゴールが1ドル100円割れとなる理由=斎藤満

7月末に米国ではFOMC(連邦公開市場委員会)が予定され、1日ずれて日銀の決定会合が予定されています。現時点の状況では、FRBは利上げ見送り日銀も追加緩和できず、為替はもう一段円高ドル安に向かうと見られます。ドル円は100円割れをトライしに行くのではないかと思います。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月1日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です!

FRBも日銀も動けない7月相場、1ドル100円割れは時間の問題に

米7月利上げ、ほぼ消滅

まず米国ですが、先のイエレン議長の議会証言では、英国がEUに残留し、市場が安心を取り戻したところで米国の雇用統計が明確な改善をすれば、7月ないし9月の利上げが可能、と考えられていました。

しかし英国のEU離脱(ブレグジット)が現実のものとなり、各国中央銀行がドルスワップの供給を余儀なくされる事態となった今となっては、米国の7月利上げはほぼなくなったと見られます。

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実際、FRBのパウエル理事が28日に「ダメ押し」とも言える発言をし、市場は7月ばかりか、年内の利上げはないと見るようになりました。

FRBパウエル発言のポイント

彼の発言では、これまでのドル高と信用スプレッドの拡大で、FRBが複数回の利上げをしたのと同じような引き締め効果をもたらしている、との指摘が重要です。そこへブレグジットが一段の引き締め的状況を作ったことになります。

これまでFRBが利上げシナリオを提示し、これを先取りする形でドル高円安が進みましたが、それ自体が金融市場に引き締め効果を持っているので、現実に利上げをしなくとも、すでに何回か利上げをしたのと同じ効果をもたらしている、と言っています。

米国はドル高が米国経済に負担と見ているだけに、利上げ見送りでドル安となれば、歓迎するはずです。

米ドル/円 月足(SBI証券提供)


米ドル/円 週足(SBI証券提供)

かたや日銀はと言えば、ブレグジット後、連日のように政府・日銀が「緊急対策会議」を行っていますが、これは選挙前という事情を考え、市場への牽制球を投げているにすぎません。

Next: 政府・日銀の「緊急対策会議」がまったくの無意味である理由



政府・日銀ができるのは、市場への「牽制」のみ

つまり、市場に政策期待を持たせて、株売りや円買いをけん制するのが目的で、具体的な策はなかなか打てません。為替介入はドル高となっている状況で、米国がウンとは言いません。

実際、安倍総理の経済アドバイザーの浜田宏一参与は、表向きは「為替介入の権利はある」と言いながら、実際には米国が良い顔をしないと、その困難さを述べ、金融面からの追加策も、円安につながると見られれば、やはり米国は難色を示すとのニュアンスです。雇用が悪化しない限り、追加緩和もできないとの印象でした。

限りなくゼロに近づく超長期債利回りの危うさ

それだけではありません。米国と同様に、市場がすでに追加緩和を先取りするかのように動き、追加緩和を不要としている面があります。もっとも、米国の裏返しで円安が十分景気を刺激し、インフレを押し上げたわけではありません。否、その点では米国と異なり、円安が止まってしまい、景気も物価も緩和効果が浸透していません。

ところが、金利の方が追加緩和を織り込むほどに大きく下げています。10年国債利回りは一時マイナス0.24%まで低下し、超長期国債の利回りは限りなくゼロに近づいてきました。

日銀はマイナス金利付きQQEの効果として、金利全般の押し下げを通じて各方面に影響をもたらすと言いますが、何度か追加緩和をしたくらいに金利が下がっています。

追加緩和効果の伝達ルートが金利以外にあるならともかく、金利引き下げを経て、と説明しているからには、すでに追加緩和が不要なほどに金利が下がっている、と言えます。

その金利低下の効果として、設備投資や住宅投資の刺激をするプラス面よりも、銀行や年金の運用を困難にするマイナス面が意識されると、一段の金利引き下げが難しくなります。

しかも、これだけ金利が低下していながら、為替が円安にならず、むしろ円高が進んでいます。

日本の投資家にすれば、確かにマイナス金利の国内債への投資が難しくなったものの、金利の高い米国債に投資をするにしても、為替リスクを考えればこれも困難で、さりとて為替リスクを回避しようと為替ヘッジをすると、スワップ・コストが高く、採算が取れません。

逆に米国の投資家は大幅なマイナスのベーシスを利用することで、マイナス金利の日本国債を買っても利益が出ます。現に、最近はマイナス金利の国債を買っているのは外人ばかり、と言われます。これは為替に円高効果を持ちます。

Next: 市場が日銀の「丸腰」を悟れば1ドル100円は簡単に割れる



具体策を持たない日銀の「丸腰」

ブレグジット・ショック以来、政府は何とか円安株高にして選挙に臨みたいとしていますが、金利が「追加緩和」に相当するほど下げていながら、円安も株高も実現していないというジレンマに陥っています。

追加緩和で円安誘導と米国から言われる以前に、金利が下がり過ぎて、金融機関の事情を考えると、これ以上金利を下げられないところまで来ています。

このため、緊急対策会議は何度も開かれるものの、具体的な対策が打ち出せない状況にあります。日銀には記者団から「臨時決定会合の開催」を問われても、日銀は返す言葉がありません。

臨時会合を開いても、打つ手がなければ意味がありません。

結局、日銀は「武器」を持たないことを敵に悟られないよう市場をけん制し、口先介入や「期待」に働きかけて相場の安定を維持するしかありません。

マイナス金利策の拡大は一段と難しくなりましたが、さりとてこれだけのマイナス金利国債を買い増しすれば、日銀の財務悪化を悟られてしまいます。

量的緩和の追加は、政府の国債増発を待つしかないでしょう。それは政府が総合経済対策を打ち出し、その財源として国債や財投債の追加を打ち出してから、と見られ、10月末の会合まで待つ可能性があります。

7月日銀緩和見送りなら1ドル100円割れも

市場には日銀が7月こそ追加緩和に出る、との期待があるだけに、これが見送られると、また円高を誘うことになり、今度は100円割れにつながる可能性があります。

政府日銀には、これを打開するためには、最後はヘリコプター・マネーに逃げ込むしかない、との認識が広がりつつあります。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月1日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です!

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マンさんの経済あらかると』(2016年7月1日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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