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「ヘリマネ妄想」に取り憑かれた市場、冷水を浴びせる7月日銀会合=E氏

7/29の日銀政策決定会合で何らかのアクションが出てくる可能性はかなり高いです。しかし1月のマイナス金利導入決定直後のように、策を誤れば材料出尽くしと取られるリスクも高いことから、日銀はかなり厳しい判断を迫られることになるでしょう。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

市場が「ヘリコプターマネー」妄想から目を覚ますとき何が起こるか

7月日銀会合、新しい緩和手法は非常にリスキー

散々追加緩和に消極的な発言を繰り返していた黒田日銀総裁が1月日銀政策決定会合で騙まし討ち的なマイナス金利を導入したせいで、このところ日銀や黒田日銀総裁にネガティブな見方が急速に増えてきました。

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超過準備に対するマイナス金利で弊害を受けている民間銀行からも猛反発を受けているせいか、このところの日銀政策決定会合はノーアクション続きです。

物価目標が再度下ブレ気味になっていることや景気減速の兆しが出ていること、そして急速な円高もあるので、6月追加緩和はあっても良さそうでしたがノーアクションでした。このため、日銀の政策手詰まり感が台頭してきています。

日銀もECB同様に、(これ以上買うと弊害が増えるという)物理的な限界や(民間金融機関の体力を蝕むという)デメリットの増大のため、政策余地が限られてきているのです。とはいうものの、新しいことをすると銀行界からの反発を食らうでしょう。

独断的なサプライズ決定を繰り返した結果、完全に民間金融機関との信頼関係が壊れてしまっています。このような中で、新しい緩和手法を出すのは非常にリスキーと言えるでしょう。

厳しい判断を迫られる黒田日銀

しかしその一方で、このところ経済見通しを修正する動きになっているので、7/29の日銀政策決定会合で何らかのアクションが出てくる可能性はかなり高いです。

しかし、1月の日銀政策決定会合でマイナス金利導入を決定したら直後に円高になったように、「策を誤れば材料出尽くしと取られて却って円高になるリスクも高い」ことから、かなり厳しい判断を迫られることになるでしょう。

何しろ、この2週間のマーケットは妄想の度が過ぎました。

ヘリマネ論者のバーナンキFRB元議長が来日して首相に表敬訪問に行くだけでヘリマネが直ぐに行われるかのような反応になったのです。否定しても広義のヘリマネを持ち出すなど好き放題の解釈をしていました。

この妄想のお陰で、円は歴史的な変動率となる大幅下落になったのです。その妄想も件の報道が流れたことでようやく終わりそうです。

依然として何か期待している向きがいるので、一気に円高には進展しませんでしたが、週末のG20で黒田日銀総裁が改めてヘリマネを否定したことで、しつこい妄想も消えるでしょう。

答えは簡単なのです。「法律で禁じられている」のですから。

「ヘリマネ妄想」の代償は?

なので、私が再三書いたように、今真剣にやる気になっても、法改正をする必要があるし、法改正の前には有識者懇談会などで議論をつめるので、憲法9条を変えるよりはるかに時間がかかるのです。

にも関わらず、この妄想だけでマーケットがあれほど動いたのは、動かした参加者の知識が足りないからです。

それは個人投資家であり、法律を知らない外人投資家、しかも人間の頭で考えないアルゴなどコンピューター取引のCTAでしょう。

ヘリマネのような目新しい政策でないと、追加緩和は材料出尽くしになる可能性が高いです。

Next: 追加緩和の可能性は半々、出尽くしからの円高再開に要注意



日銀7月追加緩和の可能性は半々

現時点での追加緩和の可能性は半々です。

今の状況では、2%のインフレ目標の達成は困難ですので、何らかのアクションを行っても不思議ではありません。

その一方で、従来、黒田日銀総裁はマーケットの期待度が低いときにサプライズ狙いで緩和を決定していましたが、今回は事前の期待が妄想に近い状況なので、何もしないという可能性も十分有り得ます。

日本株がこれだけ上がっている中で駒を使うと出尽しと取られて下がった場合に対処できなくなるというのは今年1月のアクションで学んだはずですので、今回のECBのように駒を温存するためです。

追加緩和が行われるとしたら、マイナス金利幅拡大か、国債買い入れ増額か、ETF買い入れ増くらいですが、マーケットインパクトでポジティブなのは国債買い入れ幅増額のみで、あとの二つは失望もしくは材料出尽くしと取られる可能性が高いです。

しかし、国債買い入れについては、既に限界近く、現行の買い入れ額を削減すべきだという声すら出ていますので、大幅に増やすのは困難でしょう。

そう考えると、今回追加緩和を決定した場合、今年1月のマイナス金利導入決定と同様に、材料出付くしと取られマーケットが下落に転じる可能性がかなり高いと思われます。しかも、非現実的なヘリマネまで妄想していただけに失望は大きいため、円相場は今年2月上旬のように大幅に上昇する可能性が高いです。

一方、ノーアクションの場合も下落に転じますが、今回は黒田日銀総裁が上のように再三クールダウンしているので、激しい失望には繋がらず、過去2週間のアヤを徐々に吐き出していく形になると思われます。

世界的な「躁鬱病マーケット」の正体

Brexitのショックで適正水準が判らなくなったせいか、世界のマーケットは激しい躁鬱病に掛かってしまったようです。週単位で悲観と楽観が激しく繰り返していましたが、今月上旬発表の米雇用統計以降、米国株が何かに取り憑かれたかのように連日のように史上最高値を更新しています。

雇用統計が強かったことによる経済に対する安心感が最大の理由ですが、強い雇用統計は次期利上げ前倒しになる可能性が高まるので、一般的には無条件に株価上昇には繋がりません。他のアセットとの乖離を見れば明らかです。

ドルや30年債を見る限り、雇用統計で相場トレンドは変わっていません。FOMC要人はタカ派発言にシフトしたのですが、そうはいっても不透明要因が多いので早期利上げは困難だろうという見方からです。不透明要因が多いのは米国株も同じ事なのですが、米国株だけが楽観の極値のような動き方をしてしまっているのです。

この流れが他の地域の株式市場にも波及する形で、この2週間ほどかなりリスクオン的なマーケットが続いています。

Brexitでよくなったことは何一つなく、かといって中央銀行の金融政策が過剰流動性供給方向にシフトしたわけではありません。なのに、米国株に吊られる形でリスクオンになってしまっているのです。

先週は、このように米国株が小幅ながら最高値を更新する中で、先進国株式市場も売り込み難い展開となりました。ただ、欧州市場に関しては上値を追うほどの買い材料もないので、徐々に動きが鈍くなってきています。

こうした中で日本株は、週間で+0.78%と3週連続の上昇になりましたが、円の下落ピッチが止まりつつあるため、上値が重くなっていました。

日本株は基本的に円相場に連動しているという流れに変化はありません。その円相場は、この2週ほどヘリマネや20兆円経済対策といった「悪質ともいえる」噂で歴史的とも言える変動幅で下落しましたが、徐々にガセネタの化けの皮が剥がれて来ました。

先週の日本株は上昇したとはいえ、これまでの独歩の上げ方ではなくなってきました。

しかし、先々週の歴史的ともいえる暴騰の結果、これまで独歩で売り込まれていた3ヶ月パフォーマンスや1年パフォーマンスでキャッチアップをし始めています。

新味ある具体的な政策や事実は何一つ出なかったのに、ここまで上昇するマーケットは記憶にない位なので、Brexit後の激しい躁鬱病が日本株にも伝染しているとしか考えられません。世界的にショートスクイズが起きているので、世界の株式市場の中でダントツに売り込まれていた日本株は猛烈なカバーが入ったというだけでしょう。

ヘリマネや20兆円経済対策はそんなカバーのトリガーにしかすぎません。過度に売り込まれていたので、通常ならスルーされるようなレベルの噂が恐怖に変わったのです。

一方の新興国株式市場も、米国株発のリスクオンに釣られ反発が続いています。

商品市況は下落基調が続いていますし、トルコのクーデター騒動や元安などで新興国通貨も売りが入っているので、この戻りは実態から懸け離れたものです。

Next: 揺らぐFRBへの信認/現在の市場は「暴落前夜」の危険な状況



揺らぐFRBへの信認

このように、7月上旬の雇用統計を契機に、世界は米国株発の過度な楽観相場が続いています。

雇用統計でなぜこれほどまで妄想が進むのかについては、雇用統計後の記事で詳細したように、FRBが金融政策を放棄するような無責任な発言をしたせいです。

通常、強い雇用統計が出ればマーケットは「早期利上げ観測」が台頭することで、マーケットの過熱感を調整させますし、FOMCメンバーもそうリードするような発言をします。しかし、6月FOMCで、「いろいろ不透明なので何があっても当面利上げはしない」というメッセージを出してしまいました。

つい数か月前までは6月利上げをマーケットに織り込ませるため、多くの要人が6月利上げ支持の発言を繰り返していたのです。それが6月FOMC以降、突然利上げ時期を明示しなくなり、ちょっとくらい強い指標が出ても年内利上げはしないようなトーンを出してしまったので、「景気がどんなに過熱しようが、マーケットがどんなに過熱しようが、どんなに強い統計が出ようが、FRBは動かない」とマーケットが取ってしまったのです。

先々週以降、再度FOMCメンバーはタカ派的な発言に修正しましたが、「利上げやるやる詐欺」と思われているので、マーケットは全く聞く耳を持たなくなっています。つまり、FRBの信認が低下したのです。

暴落前夜

マネーは全く増えていないというのに米国株が上げ続けるので、現在の米国株はリーマンショック以降で最も過熱している状態と言っても過言ではありません。

なので、何かのトリガーで膨らみきった風船は突如破裂する危険を孕んでいます。また、フランステロ、トルコクーデター未遂、ドイツの乱射事件など、毎週末のようにイスラム教徒に絡んだ地政学的リスクが発生しているので、人々のセンチメントは下方/リスクオフに向かい易い状態になっています。

風背が破裂したら一気にリスクオフに向かうので、円は再度急騰するでしょう。そうなると、米国株と円相場という二つのエンジンで大幅高を演じてきた日本株は、一気に逆回転の売り浴びせを喰らう可能性が高いです。

今のマーケットは、「○○ショック」等のように名前がついている過去の暴落前夜に近いかなり危険な状態です。

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元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年7月25日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。

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