投資は太陽が爆発するときと似ています。僕が子どもだった頃、父親に面白い話をされました。「もし太陽が爆発しても8分間は誰も知らない。光が届かないから。それが地球から逃げ出すチャンスだということも」というものです。
孫社長率いるソフトバンクが3.35兆円でARM社を買収しました。私はこの太陽の話に少し似ていると感じています。ただし、少し違うところもあります。
「IoTは今後すべてのものに備え付けられる可能性がある。ただ、稼ぎはそこまで生み出されていない。だからまだ、みんなチャンスだと気づいていない」この話なら十分あり得るでしょう。
もちろん、それだけでソフトバンク株を買うことはできません。投資にあたっては、今後も稼ぎを生み出し続けることができる可能性を、しっかりと確認しなければならないのです。(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)
会社名:ソフトバンクグループ<9984>
現在株価:5,703円(2016/07/29時点)
※本記事は、『バフェットの眼(有料版)』2016年8月1日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です。
孫社長率いるソフトバンクの企業価値をバフェット流12の視点で分析
Q1:その企業は消費者独占力を持っているか
ソフトバンク自体は安定した企業です。携帯電話という許認可を要するビジネスに安全域を持っています。しかし、積極的に攻めてもいます。
ヤフー株式会社(Yahoo!Japan)の株式を51%保有していますし、アリババの株式すらも押さえています。投資家としても非常に優秀な面を持っています。まさに長期の投資をするには最適な企業なわけです。
この企業にとって、円高は追い風です。潤沢なキャッシュを持っているからこそ、海外への投資に積極的になれます。日本の低金利と事業で稼いだ円を使って、世界を買収しているわけですね。円高と低金利を利用した壮大な作戦、戦略としては申し分ありません。
では、投資家はソフトバンクグループ株を買ってよいのでしょうか?本当にしっかり稼げているのでしょうか?以下、それを検討していきましょう。
Q2:その企業を理解しているか
理解しています。ソフトバンクグループの営業利益9994億円の内訳は、
- 国内通信:6884億円
- ヤフーなど:2496億円
- スプリント:615億円
となっています。そして、最近買収したARM社の売上高と営業利益を見てみると、
- 売上高:1,488.6百万ドル
- 営業利益:406.1百万ドル
です。話がややこしくなるので1ドル100円で換算すると(最近は為替が大きく変動しますし、だいたいの影響力を測りたい場合は大雑把な値でよいです)、
- 売上高:約1,488億円
- 営業利益:約406億円
となります。
こう考えると、年間406億円の営業利益をもたらすARM社を3.35兆円で買うのは、利回り1.2%でこの会社を買収するのと同義です。そのため「高けーよ、このハゲ!」と株主が怒りだし、ソフトバンクグループの株価が下がったわけです。
しかし、本当に「高けーよ、このハゲ!」なのでしょうか?
正直、毎年1兆円を稼ぐソフトバンクにとって、今回の買収はそれほど大きい投資ではありません。私は、この投資は間違いなく正解だと思っています。この投資には拡張性が期待できます。
ARM社は、将来的にIoTの普及が加速したとき、とてもではありませんが、こんな額では買えない会社です。
今回の投資は「安全域」でリスクを取っているのです。
Next: トヨタ以上?「世界のソフトバンク」のすごさが分かる数字の数々
Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐化していないか
これに関しては微妙です。しかし、例えば今回買収したARM社は、変わり続けることのできる会社です。現在の製品が永遠に使われることはないかもしれませんが、使われる技術を生み出す技術を持っています。
Q4:その企業はコングロマリットか
コングロマリットとは言えません。現時点では、ほぼすべての利益は国内から生み出されています。
Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか
決算年 EPS(円/株) 前年比成長率
2015 402.49 -28.4
2014 562.2 28.7
2013 436.95 31.2
2012 332.95 16.5
2011 285.78 63.0
2010 175.28 96.1
2009 89.39 123.8
2008 39.95 -60.7
2007 101.68 272.3
2006 27.31
年平均EPS成長率:30.9%
うーん、30.9%って恐ろしいですよね。こういうことが可能なのは、孫社長がレバレッジを取れるように銀行を説得できるからです。ソフトバンクの自己資本率は約20%を以下を保ち、常に資本を成長に向けて稼働させています。
Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか
決算年 ROE
2015 25.6%
2014 18.1%
2013 18.4%
2012 18.8%
2011 29.8%
2010 34.8%
2009 22.9%
2008 11.4%
2007 32.6%
2006 11.0%
平均ROE:22.3%
高いですね。そして、なによりも安定しています。これもやはり素晴らしいです。ソフトバンクは日本代表として世界に打って出ることができる企業ですね。交渉力という点ではトヨタにも勝ると考えています。
Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか
今期の長期負債(円) 2,646,609
今期の税引き後利益(百万) 474,172
長期負債/税引後利益(年) 5.58 (長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)
なるほど。私はもっと借金しているものかと思っていましたが、利益で考えると、大きすぎるリスクを取っているわけではないですね。見直しました。
Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か
今期発行済み株数 1,146,900,265
10年前の発行済み株数 1,055,862,978
過去10年間に減少した株数 -91037287.00
減少した割合 -7.94
わずかに増加していますが、2015年には株式買戻しも行っていますし、EPSは安定した成長をしていますので、問題なしと言えそうです。
Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか
上回っているわけではありません。携帯各社は、常に価格競争をしています。しかし、ブランドは確立されており、急激な収入源の低下は引き起こしづらい会社です。
Next: ソフトバンクの株価は割高?割安?10年後の株価はどうなる?
Q10:その企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか
PER 10.9倍(日経新聞予想)
高くはありませんね。これなら買いに出ても悪くなさそうです。
Q11:株式の益利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ
まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。以下は計算です。
【1.予想成長率を求める】
(必要な値)
・10年平均ROE:22.3%
・配当性向:25%
(式)
・株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)
(答え)
株主資本の予想成長率:16.8%
【2.予想BPSを求める】
さらに、今求めた株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。
(必要な値)
・直近のBPS:1,567.25
・株主資本の予想成長率:16.8%
(式)
・10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10
(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 7,375.8
【3.予想EPSを求める】
この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。
(必要な値)
・10年後の予想BPS:7,375.8
・10年平均ROE:22.3%
(式)
・10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE
(答え)
10年後の予想EPS:1,647.53
【4.10年後予想株価を求める】
さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。
(必要な値)
10年平均PER:17.6
10年後の予想EPS:1,647.53
(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS
(答え)
10年後予想株価:28,947.17
【5.年間期待収益率を求める】
10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。
(必要な値)
・10年後の予想株価:28,947.17
・現在の株価:5,703
(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
年間期待収益率:17.6%
【結果】
悪くありません。ARM社からの利益も成長していくと考えると、素晴らしいものになりそうです。
Next: 投資家垂涎?超高水準の期待収益率を叩き出すソフトバンク
Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ
【1.10年後BPSを求める】
まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して、10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。
(必要な値)
・年平均EPS成長率:30.9%
・現在BPS:1567.25
(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS
(答え)
*10年後BPS(円/株) 23097.9
【2.10年後EPSを求める】
今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。
(必要な値)
・過去10年平均ROE:22%
・10年後BPS(円/株):23097.9
(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE
(答え)
*10年後EPS(円/株):5159.4
【3.10年後予想株価を求める】
さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。
(必要な値)
・過去10年平均PER(倍):17.6
・10年後EPS(円/株):5159.4
(式)
10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)
(答え)
*10年後予想株価:90,650.1
【4.年間期待収益率】
この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。
(必要な値)
・10年後予想株価(円/株):90,650.1
(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
*期待収益率(%/年) 31.9%
【結果】
コチラも文句なし。超高水準です。事業も悪くありませんし、今後の業績も安定度は高いです。さらに新規事業へも積極的。私には、この会社を買わない理由がないように思えてきます。
Next: 結論:ソフトバンクグループへの投資はあり?なし?
結論:ソフトバンクグループへの投資はあり?なし?
実は私は、日銀の追加金融緩和決定前のタイミングで買わせていただきました。タイミング的にものすごくよかったわけですが、今でも買いだと思っています。個人的には、ここで株を売るという選択肢は、まったくありません。
それにしても面白い会社ですよね。これからも注目し続けたいと思います。
※本記事は、『バフェットの眼(有料版)』2016年8月1日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です。
『バフェットの眼(有料版)』2016年8月1日号より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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