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東京市場を覆い尽くす異常な日常。「日銀ETF買い」の傾向と対策=矢口新

量的緩和の目的は市場への資金供給だが、金融商品購入による対象商品の値上がりは十分に想定内だ。つまり株式ETFを買えば株価の値上がりが期待できるわけだが、本稿では運用者の立場になって、その実務や影響度合いを考えてみよう。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

※本記事は『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年8月16日号)の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

金融緩和によるETF購入(年間6兆円)、株式市場への影響度は?

進む日銀の「筆頭株主化」

金融緩和によるETF購入(年間6兆円)で、日本銀行が、日本株市場への影響力を強めている。日銀は、4日と10日に既存のETFを707億円ずつ購入した。ブルームバーグの集計によると、8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち75%で日銀が大株主上位10位以内に入っており、楽器音響のヤマハに至っては既に事実上の筆頭株主状態にある。

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年内にはセコムやカシオ計算機でも筆頭株主化し、2017年末には55銘柄まで増加する見通しとなった。

ブルームバーグの試算では、日銀は6月末時点で日本のETF全体の59.5%、8兆9000億円を保有する。日経平均の指数寄与度が大きいファーストリテイリングの浮動株比率は25%だが、野村證券の試算ではそのうち半分を日銀が保有し、年末までには63%まで上昇する見込みという。

日銀の保有株推計に際しては、日銀が公表しているETF購入額を6月末の時点でいったん時価評価し、投資信託協会のETFの60%を保有していると試算。投信協会のETFが個別銘柄をどれだけ保有しているかをそれぞれ1銘柄ずつ算出し、その60%を日銀が保有していると推定した。その上で8月初旬時点で再度時価評価し、日銀が年間6兆円のペースでETFを購入すればその比率がどう変化するかを予想した。

出典:大株主「日銀」、17年末に日経平均4分の1で筆頭-ETF増功罪

量的緩和の目的は市場への資金供給だが、金融商品を購入するので、対象となった商品が値上がりすることは、十分に想定内だ。つまり、国債を買えば、国債価格の上昇、利回りの低下が期待できる。株式ETFを買えば、株価の値上がりが期待できることになる。

基本的な注意点

ここで、ETFとは何かを復習しておこう。ETF(Exchange Trade Fund)とは、取引所に上場され、株式と同じように売買される投資信託だ。いつでも購入でき、いつでも売却できるオープン型なので、信託期間も通常は設定されていない。通常と異なるのは、まったく人気がなく資産残高が運用コストに見合わなければ、閉鎖される可能性があるからだ。

上記記事の日経平均型とは、日経平均に連動するように動くETF、TOPIX型とは東証株価指数に連動するように動くETFだ。これらETFが買われれば、運用投信会社が市場で個別株を買うことで、株価指数も上昇することになる。

ここで注意を要するのは、日経平均やTOPIXは指数だが、ETFは投資信託だと言うことだ。つまり、ETFは投信会社が運用することで、指数に連動させている。

Next: ここで、いったん運用者の立場になって、実務を考えてみよう



運用者の立場になって実務を考えると分かること

ここで、いったん運用者の立場になって実務を考えてみよう。図は、JPX日経400株指数に連動するETFの板だ。運用者は野村投信だ。日銀はこのETFも量的緩和の購入対象としている。

JPX日経400株指数連動型ETFの板(SBI証券提供)

8月16日は14時25分までの時点で、売買代金が30億6626万円だ。今なら1万1790円あれば買える。9660万7260円あれば、11790は全部買え、次の売り値は11800だ。この金額を日銀の1日当たりETF購入額707億円と比較して頂きたい。

このETFの価格は、この板に見る実際の売買だけで動く。一方、指数は個別400銘柄の実際の売買、他投信会社運用の同種ETFの売買、日経平均型ETFの売買、同先物、オプションの売買、TOPIX型ETFの売買、同先物、オプションの売買などなど、構成銘柄に関するすべての売買で多少なりとも動くことになる。

このETFが買われれば、400銘柄と連動させるために、市場で株式を買わねばならない。しかし、現実問題として、上記のような売買代金で、400銘柄の単位株が買えるだろうか?加えて、即座に希望の価格で買うことは望めない。そこで、ETFの運用とは、できるだけ少数で指数と連動し、尚且つ、指数を歪めない銘柄を選ぶ必要があることが分かる。

前掲記事が「投信協会のETFが個別銘柄をどれだけ保有しているか」を調べるのはそのためだ。これが各社が運用する各種ETFの中身に当たる個別銘柄と見なされるからだ。

しかし一方で、「年間6兆円のペースでETFを購入すればその比率がどう変化するかを予想」することは難しい。少なくとも、「日経平均の指数寄与度が大きいファーストリテイリングの浮動株比率は25%だが、野村證券の試算ではそのうち半分を日銀が保有し、年末までには63%まで上昇する見込みという」ように、現状の日銀保有比率がそのまま維持されることは考えにくい。

なぜなら、買い占めによる浮動株の減少割高感から、この銘柄がこれまで通りに、指数を代表して連動することが難しくなるからだ。

上記の個々の銘柄における日銀の実質保有比率が正しいのか、また先行きの変化がどうなるかは分からないが、8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、75%で日銀が大株主上位10位以内というのは、その通りなのだろう。

「年間6兆円」の意味

ETFを通しての株主なので、「物言わぬ大株主」だ。相当期間にわたる保有なのだろうから、バブル期以前の「株式の持合い」構造に近いかも知れない。資金供給と合わせて、相当な株高要因だ。

では、年間6兆円という規模が大きいのか小さいのかは、過去の主体別売買動向を参照して頂きたい。

JPX主体別売買動向(出典:日本取引所グループ)

ちなみに、投資信託の残高には、日銀のETF購入が反映されているとは思えない。カストディ業務を行う信託銀行の保有として示されていると思われる。


※本記事は『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年8月16日号)の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年8月16日号)より一部抜粋
※太字・図版はMONEY VOICE編集部による

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