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安倍マリオ「東京オリンピックへの危険なBダッシュ」3つの落とし穴=斎藤満

リオ五輪閉会式で、任天堂の人気キャラクター「マリオ」に扮して会場を沸かせた安倍総理。次回開催地の東京を強くアピールするとともに、2020年五輪にもぜひ「総理」として参加したい、との強い意志がにじみ出たパフォーマンスでした。

しかし、参院選大勝という「スター」をとって、一見、無敵状態の安倍マリオをもってしても、待ち受ける数々の落とし穴を飛び越え「2020年のゴール」にたどり着くのは容易でありません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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一見、無敵状態の「安倍マリオ」を待ち構える即死トラップとは?

リオ閉会式で東京を存分にアピール

無事に開催できるのか不安視されたブラジル・リオでのオリンピックが、現地時間の21日、大過なく幕を閉じました。日本は41個のメダルを獲得し、多くの感動ドラマを作り出すとともに、競技を通じた友情、チームワークの良さで日本を大いにアピールしました。

そして閉会式では、次回開催の東京をアピールするプロモーションビデオが紹介された後、「スーパーマリオ」に扮した安倍晋三総理が地球の裏側から現れ、万雷の拍手で迎えられました。次の開催地東京を強く印象付け、各国メディアもこれを大きく取り上げました。

オリンピック旗の受け渡しに登場した小池百合子東京都知事の着物姿よりも、安倍総理のプレゼンスがより強く印象付けられる形となりましたが、それだけ次の東京大会に賭ける安倍総理の思いが強く表れていました。

つまり、総裁任期を延長してでも、2020年の東京大会には「総理」として参加したい、との意志がにじみ出たものでした。

「安倍降ろし」に発展しかねない米国リスク

リオでは4年後を担う若手の活躍が目立ち、彼らはすでに4年後の東京を目指して準備を始めています。

安倍政権としても、リオでの盛り上がりをエネルギーに、東京大会に向けて邁進したいところですが、安倍総理にとっては今後の4年間はまさに「いばらの道」で、いくつもの難関を乗り越えねばなりません。

中でも最大の難関は、(1)米国との関係です。

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安倍政権は米国の新保守派(ネオコン)に支えられ、外交から経済戦略に至るまで米国に120%依存(従属)する政権です。その米国が大統領選挙を機に、大きく変わる可能性があり、これに日本がうまくついていけるのかが問われます。

米大統領選挙で、CFR(外交問題評議会)が後ろ盾となるドナルド・トランプ氏が勝利し大統領になると、日本には様々な軋轢が予想されます。

そもそもCFRは2013年の終わりから14年にかけて、安倍政権を「右傾化した戦争好きの危険な政権」と位置づけ、主要メディアを通じて「安倍降ろし」を展開した経緯があります。

仮に「トランプ大統領」が実現すれば、そのCFRが大きな影響力を行使する可能性が強くなります。トランプ氏は、米国が日本の防衛費を負担し過ぎているとして、日本が独自の防衛体制をとるか、米国に支払う防衛コスト分を倍増しろと言っています。

日本は、米国の核の傘に入った防衛戦略がとれなくなる可能性があるのです。

Next: トランプでもヒラリーでも突入不可避の「超円高」ステージ



トランプでもヒラリーでも「超円高」は不可避

米国は経済戦略においても、日本は円安で米国企業の市場を奪っているとして為替操作を批判しているだけに、少なくとも当初は円高が大きく進む可能性があります。

しかも、米国が内向きになり、保護貿易に傾くと、日本はダブルで貿易による利益を圧迫されることになります。

また、米国が中東をロシアの支配に任せて手を引くと、中東原油に多くを依存する日本のエネルギー事情が不安定になります。

トランプの米国が保護主義に走れば、欧州や中国なども報復的な保護主義に出て、世界貿易が大きく縮小し、世界経済に大きなダメージを与え、日本の輸出産業は大きく市場を失う懸念が高まります。

安倍政権はその分まで国内需要の拡大で穴埋めを余儀なくされますが、これは当然財政を圧迫し、財政均衡を困難にします。

トランプ大統領の米国は内向きながら、中国とは敵対色を強め、逆にロシアやイスラエルとは融和の姿勢を見せるはずで、対米従属の日本の外交がこのバランス変化に対応できるかどうか。

つまり、かたや米国、かたやロシア・イラン・トルコのグループと、バランスよく外交戦略を進める必要があり、かつ米国が敵視する中国と対峙しなければなりません。

この「トランプ大統領」の米国が安倍政権にとっての最大の壁になりますが、ネオコン支援のヒラリー・クリントン氏が勝っても、これまで通りとはいきません。

現在の米国政治に対する国民の強い批判を受け、ある程度「トランプ現象」を取り入れた米国第一主義の色合いを出してくる可能性があるからです。

具体的には、為替では円高に傾斜し、自衛隊が米軍支援などで利用され、安保体制で米国の支配が強まります。

ネオコンは中国、ロシアに強硬姿勢をとり、両国との関係が日本としても厳しくなります。軍事予算の拡大が進み、財政、金融面からの経済対策強化が求められ、日本の財政再建はとん挫します。

今後4年間の米国は、日本にとって経済的にも外交面でも「コスト高」の難物となるでしょう。

Next: 日本がスケープゴートに!? 「中国人民解放軍の暴走」ステージ



「中国人民解放軍の暴走」リスクに現実味

それと関連して(2)中国リスクも、これまでになく高まってきます。

米国の次期大統領がどちらに転んでも「反中国」の色合いが強くなる一方、中国はと言えば、習近平体制が揺らぎつつあり、焦りの色が伺えます。政権が追い込まれると、予想外の「暴発」が起こるリスクが高まります。中国が国際的に孤立化すれば、余計その面が強まるのです。

中国は南シナ海での埋め立て、軍事基地化を強行して国際世論の反発を強め、すでにハーグの国際仲裁裁判所から、中国の南シナ海での権利を否定されています。

中国はこの判決を無力化するために、フィリピンなどと個別交渉に入り、より有利な展開を模索するとともに、ハーグ判決に同調する日本を、東シナ海での公船侵入などでけん制しています。

国内が安定しているときはさほど心配はいらないのですが、現在は中国経済の不良債権、過剰債務、過剰設備の調整が困難を極め、失業の不安が高まる中で、来年の共産党大会を控えています。

習近平国家主席は、反対勢力の追い落としで体制強化を進めたいのですが、これに対する反発が北京の共青団上海の江沢民派からも出ているようです。

経済的にも政治的にも不安定で国内の緊張が高まる中国が、国際的にも孤立化し、米国がより強硬な姿勢に出ると、習近平体制はより窮地に追いやられます。

国民の不満を吸収するために、日本がスケープゴートとして利用されるリスクもあり、日本がその対応を誤ると、中国軍の暴発リスクも高まります。米国の睨みがきかなくなれば、なおさらです。

アベノミクスの行き詰まり

そして国内の難関は、(3)アベノミクスの行き詰まりが露呈しつつあることです。無理をすれば、それだけコストがかかるばかりか、矛盾、副作用が大きくなって国民の反発を高めます。その前兆がすでに金融政策に表れています。

黒田日銀総裁は、7月29日の政策決定会合で、ETF(上場投信)の買い入れを倍増する追加策を打ち出すとともに、次回会合で政策の「総括的検証」をすると言いました。

これは、これまで異次元緩和やマイナス金利といった大規模な金融政策を打ってきたのに、なぜ物価目標が達成できないのかを検証し、新たな対応策を導き出そうというものです。

言い換えれば、これまでの緩和策は、インフレ率の2%への引き上げや、これを可能にするだけの経済の拡大に効果がなかったことを認めたようなもので、なぜ効果が出なかったのか、何が悪かったのかを検証し、より早い時期に物価目標を達成できる方策を打ち出したい、と言っています。

そもそも、誰も望んでいない2%のインフレを実現すること自体の是非が問われるべきですが、これは政府との決め事でもあり、否定するわけにいかないので、何が何でもこれを可能にする策を導き出したいはず。

ところが、これだけの規模で、およそ考えられるすべての手を尽くしたのに効果が出ないということは、これをさらに強化してもダメということになります。

まじめに、真摯に分析すれば、金融政策だけでは限界があるという結論になると思いますが、日銀としては自ら「効果がない」とは認められません。日銀を背後で操る国際金融資本も許してくれないでしょう。

そうなると、危険ドラッグともいうべき「禁じ手」、財政ファイナンスによる「ヘリコプター・マネー」に走らざるを得なくなります。

もちろん、これが禁じ手であり、法的にも認められないことは知られているだけに、黒田総裁も、表向きは「財政と一体化するという意味でのヘリ・マネは禁じられている」と言っています。

しかし、日銀による国債の直接引き受けに抵触しない範囲で、限りなくこれに近いやり方をしてくる「知恵」を働かせる可能性があるのです。

Next: 出口なしの片道特攻「ヘリコプター・マネー断行」ステージ



「ヘリコプター・マネー」が日本にもたらす悲劇

一例として、市中銀行からの買い入れの形をとりながら、その売却など「出口策」を封印し、政府の返済負担を軽減する形で財政資金を供給することはできます。

例えば、40年満期の国債を発行するようですが、日銀がこれを買い取り、途中で売却しなければ、政府はほとんど返済負担なしに資金調達してお金を使えます。これは事実上のヘリ・マネと言わざるを得ません。

ヘリ・マネは、2つのルートからインフレを引き起こします。

1つは、商品券や各種給付金などの形でお金をばら撒く一方で、それらが支出に回らないと、需要を超えたお金の余剰散布となり、お金の価値がそれだけ低下します。つまり、1万円の価値が8千円になれば、企業は1万円をそのまま受け取れず、1万2千円に値上げして目減り分をカバーし、それだけインフレになります。

もう1つのルートは、供給力が限られる中でオリンピック需要や新幹線工事を前倒しで進めると、供給力不足でボトルネックが発生し、資材や一部の人件費が暴騰して、ボトルネック・インフレが起こります。

多くの労働者の賃金は上がらないまま、インフレが進むので、個人はインフレで購買力や金融資産の価値が低下し、強制的な増税と同じ負担が生じます。当然政府に対する国民の反発が高まります。

金融政策の限界に気づいた政府は、すでに財政にシフトしています。先に28兆円余りの経済対策を打ち出しました。しかし、ロイター通信が大手企業400社を対象に行った調査によると、その効果について「かなりある」とする企業は3%にすぎず、「少しはある」が63%、「あまりない」が31%もありました。消費の喚起や潜在成長率押し上げ効果については、半分以上が否定的でした。

個別意見としても、サービス業からは「インフレは年金生活者だけでなく、誰も望んでいない」、不動産業からは「不動産市場はすでに異常な状況で、経験値からは考えられないほど価格が上昇していて怖い」との意見が出ています。

ブラジル・リオで、五輪に巨費を投じるくらいなら、国民の給与支払いに回せと、政府への批判が強まりましたが、日本でも、さらなる大規模な財政支出をすることに懸念の声が上がっているのです。

人口が減少し、国内需要が減少することが見えている中で、企業は国内投資には慎重です。

供給力が限られているところに、将来の需要を先取りして使ってしまうと、オリンピック前にはインフレに、オリンピック後には反動の不況、デフレとなり、経済の振幅が無用に拡大し、経済を不安定にします。

前回、1965年東京五輪の後も「昭和40年不況」を招き、大手証券の経営危機を招きました。

この財政支出の拡大に対して、その財政資金手当てで国民の資金を吸い上げたくないとすれば、結局は日銀にお金を刷らせることになり、政府も暗黙のうちに「ヘリ・マネ」に期待することになると見られます。

その日銀はインフレで金利が上昇すると、大量に保有する国債の値下がりで損失が拡大し、債務超過になる懸念があります。

Next: 無敵状態の安倍マリオも、穴に落ちれば即死・ゲームオーバー



安倍マリオは新国立競技場の開会式にたどり着けるか?

2018年には黒田総裁の任期が切れますが、「ヘリ・マネ」を避ければ物価目標を果たせないまま大量の国債を抱え、流動性を大量に供給したままの退任となります。

一方「ヘリ・マネ」でインフレにすれば金利上昇で市場は混乱し、日銀や民間銀行は経営危機に陥ります。

どちらに転んでも、次の日銀総裁のなり手はいなくなります。これも安倍総理には大問題です。

リオ五輪の余韻に浸り、「スーパーマリオ」よろしく、気を良くして2020年東京五輪を目指す安倍総理を待ち受けるこれからの4年間は、実際には、国内外を問わず前例のない困難な時期で、引っ掛けトラップ満載のまさに「超高難度ステージ」です。

参院選大勝という「スター」をとって、一見、無敵状態の安倍マリオをもってしても、待ち受ける数々の落とし穴を飛び越え「2020年のゴール」にたどり着くのは容易でありません。

難病も抱える安倍総理は、はたして新国立競技場の開会式にたどり着けるでしょうか。日本のみならず世界が、固唾を吞んで見守っています。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年8月25日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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