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日銀緩和の行方~産経のグッジョブとブルームバーグのミスリード=E氏

先月の苦し紛れとも思える日銀ETF買い入れ倍増で、当面の追加緩和は出尽くしたと思われ円急伸を招きました。この件に関して、黒田日銀総裁が産経新聞との単独インタビューで答えています。Bloombergや日経新聞も産経の引用記事を載せたくらいにタイムリーな内容なので、産経グッジョブです。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

プロフィール:E氏
国内大手生保、ゴールドマン・サックス、当時日本最大のヘッジファンドだったジャパン・アドバイザリーでのファンドマネージャー経験を経て、2006年に自らのヘッジファンドであるINDRA Investmentsを設立し国内外の年金基金や富裕層への投資助言を開始。2006年10月からのファンド開始後はリーマンショックや東日本大震災で、期間中TOPIXは5割程度下落した中で、6年連続のプラス(累積30%)のリターンを達成。運用歴25年超。

黒田日銀は「効果なし」と判断した手段を即時に止める可能性も高い

日本株の「買い方有利」根拠は心理面のみ

超過準備に対するマイナス金利で弊害を受けている民間銀行から猛反発を受けているせいか、このところの日銀政策決定会合はノーアクション続きでした。ですが、7月日銀政策決定会合にて、日銀は半年ぶりとなる緩和策として「ETF買い入れ額」をこれまでの3.3兆円のほぼ倍増となる6兆円にすることを決定しました。

物価目標は再度下ブレ傾向が続いていたので、追加緩和はいつあってもおかしくない状況でした。このため、先週開催された7月日銀政策決定会合でなんらかの追加緩和が決定されるという見方をしたエコノミストは8割にのぼっていたのです。

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ただ、事前の期待が高いと何が出ても失望される可能性があります。そもそもこれまでの黒田日銀総裁はサプライズ狙いなので、期待が高いとノーアクションをしがちでした。しかし、黒田日銀総裁は期待通りに緩和を決定しました。しかも、事前予想通りの「ETF買い入れ増額」です。

通常、事前予想通りの場合は出尽くしになることが多く、実際円相場は出尽くしと捉えました。しかし、日本株はETFによる実弾買いの期待だけで、日銀政策決定会合以降堅調な動きになっています。

円は失望で急上昇したのに、日本株が非連動になって値持ちが良いのは、今回の緩和が日本株ETFをひたすら買うという決定だったからです。しかし、何度も書いたように、350億が700億になっただけなので、実質的な指数買い支え効果はほとんど変わりません。しがたって、心理的なインパクトだけで買い方有利になっているのです。

効かなくなってきた日銀期待の裏に不明瞭なETF購入ルール

とはいえ、このところ日銀期待が効かなくなってきました。

それは、需給的なインパクトは思ったほどではないと気付いたのもあるでしょうが、それ以上に日銀のETF購入のルールが不明瞭だからです。

ほとんど下がっていないのに700億買ったかと思ったら、2%以上下がった日はノーアクションという具合なので、日銀が日本株を買い支えてくれると期待して買っていた国内勢が拍子抜けをしてしまったのです。

担当者が夏季休暇だったので証券会社に注文を出せなかったという噂もありましたので、その真偽は今週には判るでしょう。ただ、ルールが明確でない以上、市場参加者が買い支え安心感を感じるはずもありません。なので、7月日銀政策決定会合以降の過度に日銀ETFに対して期待していた動きはそろそろ消失し、今後の日本株は従来どおり円相場との連動性を高めていくと思われます。

Next: 黒田日銀総裁「サプライズやーめた」の真意とは?



黒田日銀総裁、産経単独インタビューのポイント

一方、先月の苦し紛れとも思える日銀ETF買い入れ倍増で、当面の追加緩和は出尽くしたと思われ円急伸を招きましたが、産経新聞との単独インタビューでこの件に関して黒田日銀総裁が答えています。Bloombergや日経新聞も産経の引用記事を載せたくらいにタイムリーな内容なので、産経グッジョブです。

いろいろ書いてありますが、ポイントは以下の通りです。

この会見を踏まえ、Bloombergなどは「追加緩和の可能性は十分ある」というタイトルで記事を配信していますが、これは多分にミスリードです。
日銀総裁:追加的緩和の可能性十分ある、総括的検証踏まえ-産経 – Bloomberg

上の記事では、検証結果後に直ぐに追加緩和しそうな勢いで書かれていますが、事実は「総括的な検証を踏まえて、必要ならば今後も緩和を継続します」という言い方なので、ニュアンスが全く異なります。

検証した結果、効果がないと判断された手段は即時に止める可能性も高いのですから、追加緩和だけが行われるのではありません。反対も十分にありえます。

また、一番上の「サプライズは止めた」という発言は、今年1月のダボス会議以降、私はずっと「黒田日銀総裁の発表スタンスが変わった」と書き続けていましたので、私の読みどおりです。

そして、注目される次回にありうる緩和ですが、これは一番最後のポイントのように金融機関が嫌うマイナス金利の可能性が高そうです。このインタビューでマイナス金利はまだ限界ではないと書いていますが、重要なのは国債買い入れ増額やETF買い入れ増額は限界ではないという言い方を一切していないことです。

マイナス金利だけ「限界ではない」と発言していることを踏まえると、マーケットは「では、国債買い入れやETFは打ち止めの可能性が高いということか」と考えるのが自然です。

今年1月の日銀政策決定会合でマイナス金利導入の決定をしてからの円相場を見ると判るように、マイナス金利はパワー的には国債買い入れより劣る手段なので、今更これを出さなければいけないという「持ち駒の無さ」を露呈させてしまったことで円高になったのです。

しがたって、今回の「マイナス金利はまだ限界じゃありません」という発言は、追加緩和の可能性を示唆するものの、材料出尽くしに近いので円高に振れやすいといえます。

実際、国債利回りは先月末の「緩和手段の効果を検証する」報道で大きく下落したままです。

しがたって、週末の産経報道で追加緩和観測が出るかもしれませんが、マネーを増やす緩和ではなく、金融機関の収益力を削ぐマイナス金利拡大の可能性が高く、他の手段は打ち止めの可能性が高いととられると見ています。

これは、日銀発のマネーがピークアウトすることを意味しますので、円高株安、そして世界的にリスクオフに繋がりやすいニュースと言えます。

8月は日銀政策決定会合が開催されないので、当面今回の産経単独インタビューの解釈がマーケットに織り込まれていくだけと思われます。

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元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年8月22日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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